American Football “American Football”
アメリカン・フットボール『アメリカン・フットボール』
発売: 1999年9月28日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
後続のエモおよびポストロック・バンドに多大な影響を与えた、キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ, Cap’n Jazz)。その中心メンバーが、兄ティム・キンセラ(Tim Kinsella)と弟マイク・キンセラ(Mike Kinsella)の、キンセラ兄弟です。キャップンジャズの解散後、弟のマイク・キンセラが結成したのが、このアメリカン・フットボール。
疾走感あふれる演奏とエモーショナルなボーカルを特徴とし、エモ要素の強かったキャップン・ジャズと比べると、アメリカン・フットボールは、よりポストロック色の強いバンドと言えます。
1stアルバムである今作『アメリカン・フットボール』は、流れるような美しいボーカルのメロディー・ラインを持ち、歌モノのアルバムとしても聴けるものの、歌のないインストバンドだったとしても楽しめる、緻密なアンサンブルも秀逸な1作。
ちなみにアメリカン・フットボールは、このアルバムを最後に解散。2014年に活動を再開し、2016年に1stアルバムと同じくセルフタイトルの『アメリカン・フットボール』をリリースしています。(アメリカン・フットボールだらけで、ややこしい笑)
絡み合うような複数のギターが、次々と旋律を紡いでいき、さらにベースとドラムも有機的にグルーヴするこのアルバム。曲によっては、聴きながら拍子を探してしまう複雑なリズムを持ちながら、その絶妙な違和感がフックとなり、やがて快感に変わっていきます。
また、複雑さよりもアンサンブルとメロディーの美しさが前面に出ていて、聴いていて特に複雑怪奇で難解なアルバム、という印象はありません。
1曲目の「Never Meant」は、バンドがスタジオで音出しを始めたようなリラックスした雰囲気から、音楽が立ち上がり、徐々に躍動していく進行が、たまらなく心地いい1曲。イントロ部には、メンバーの誰かが「Are you ready?」と言う声も入っています。アルバム1曲目にどういう曲が入るのかって重要で、僕はわりと1曲目の曲が好きなことが多いんですけど、この1曲目は完璧です。アルバムの音楽性を示し、イントロダクションの役目も果たし、しっかりと「つかみ」にもなっています。
3曲目「Honestly?」は、イントロを聴くと、ゆったりと加速していく曲かと思いきや、すぐにスイッチが入ってバンドがアンサンブルを形成する意外性に、まず耳を掴まれます。アルバム全体を通しても感じることですが、違和感を利用して音楽のフックにするセンスが、本当に優れていると思います。
8曲目の「Stay Home」は、複数のギターが重なり合い、展開しながら立体的なアンサンブルを構成する1曲。8分以上ある曲ですが、いつまでも聴いていたくなるぐらい、バンドのグルーヴ感と、サウンドスケープ的な心地よさを、多量に含んだ1曲です。
前述したように、歌モノのアルバムとしても高い完成度を持った作品であると同時に、歌を抜いてインスト作品だったとしても、ポストロックの名盤と呼べるクオリティを備えた1枚です。
バンドのアンサンブルの中でも、僕が特におすすめしたいのは、複数のギターが複雑に絡み合い、繊細かつ一体感のあるテクスチャーを生み出しているところです。聴いていて、本当に気持ちいい。音楽をタペストリーに例えることがありますけれども、本作はまさにギターが織物のように重なっていて、本来はバラバラのものなんだけど、ひとつの有機的な存在になっています。
ほどけそうでほどけない、まとまりそうでまとまらない、各楽器が絡み合う緻密なアンサンブルと、美しいメロディーと歌心が融合した名盤です。歌モノが好きな人も、ポストロックが好きな人も、きっとハマるはず!