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Avi Buffalo “Avi Buffalo” / アヴィ・バッファロー『アヴィ・バッファロー』


Avi Buffalo “Avi Buffalo”

アヴィ・バッファロー 『アヴィ・バッファロー』
発売: 2010年4月27日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 カリフォルニア州ロングビーチ出身、アヴィ・バッファローことアヴィグダー・ベンヤミン・ザーナー・アイゼンバーグを中心にしたグループ、アヴィ・バッファローの1stアルバム。

 今作はセルフ・タイトルとなっており、フロントマンの名前、グループ名、アルバム・タイトルが全て「Avi Buffalo」です。

 ナチュラル・トーンのギターを中心に、丁寧にアンサンブルが組み上げられるアルバムです。サイケデリックな音色と、爽やかなギターポップ的なサウンドがバランスよく溶け合った、サウンド・プロダクション。コーラスワークも、バンドのアンサンブルと有機的に対応していて秀逸です。

 非常に完成度の高い音楽性とアンサンブルを持つアルバムなので、フロントマンのアヴィがこの当時まだ19歳というのは本当に驚きです。早熟の天才というのは、こういう人を言うんですね。また、彼のハイトーンのボーカルも、このバンドの大きな魅力になっています。

 1曲目「Truth Sets In」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークに続いて、ハーモニクスを用いたギターが重なり、アンサンブルを形成していきます。ハーモニクスの使い方が、非常に効果的で、楽曲をカラフルかつ幻想的にしています。

 2曲目「What’s In It For?」は、イントロから開放的なボーカルが響き渡る1曲。かなり高音域を用いたメロディーですが、耳に刺さらない程度に絞り出すようなボーカルが、エモさを演出しています。

 4曲目「Five Little Sluts」は、ミニマルなイントロのアンサンブルから、徐々にシフトが上がりグルーヴ感が増していく展開。

 6曲目「Summer Cum」は、各楽器が立体的に響くサウンド・プロダクションが心地よい1曲。2本の絡み合うアコースティック・ギターが、特に有機的なアンサンブルを構成。

 7曲目「One Last」は、ドラムとパーカッションがいきいきと響き、音数は少ないながら躍動感あるアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 アルバムを通して聴いてみると、楽曲の多彩さ、サウンド・プロダクションの鮮やかさが、より強く感じられます。各楽器のオーガニックな音色、立体的で緩やかなグルーヴ、ハイトーンのボーカルとコーラスワークなどなど、フックとなる要素も満載で、聴いていて本当に耳の心地よいアルバムです。

 前述したとおり、フロントマンのアヴィはこのアルバムのリリース当時19歳。10代にして、この完成度のアルバムを作り上げるとは末恐ろしいです。しかし、Avi Buffaloというプロジェクトは、2014年に2ndアルバム『At Best Cuckold』をリリース後、翌2015年に活動終了となってしまいました。

 フロントマンのアヴィ君は、本当に天才だと思うので、今後の活躍にも期待したいです。

 





Ty Segall “Ty Segall” / タイ・セガール『タイ・セガール』


Ty Segall “Ty Segall”

タイ・セガール 『タイ・セガール』
発売: 2017年1月27日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 カリフォルニア州ラグナ・ビーチ出身のミュージシャン、タイ・セガールの9枚目のソロ・アルバム。今作は、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを担当。『Ty Segall』というセルフ・タイトルのアルバムは、1stアルバムに続いて2作目です。

 ファズ・ギターが響き渡るガレージ色の濃い1作。ギターのサウンドはジャンクで下品なものが多く、ドラムも立体感のあるドタバタしたプレイを展開するのに、全体としては上品とは言わないまでも、モダンな空気を持ったインディーロックを響かせます。

 このアルバムに限らず、ローファイ感と現代性のバランスが、タイ・セガールの魅力だと思います。

 1曲目「Break A Guitar」は、アルバムの幕開けにふさわしく、激しく歪んだギターが唸りをあげる1曲。

 2曲目「Freedom」は、立体的でドタバタしたアンサンブルが展開される1曲。アコースティック・ギターと歪んだエレキ・ギターが共に使用されていますが、使い分けが効果的で、楽曲に奥行きを与えています。

 3曲目の「Warm Hands (Freedom Returned)」は、10分を超える大曲。アコースティック・ギターを中心にしたアンサンブルと、コーラスワークによってサイケデリックな空気も漂いますが、再生時間1:17あたりから歪んだギターが押し寄せるところなど、展開が多彩で冗長には感じません。ジャム・バンドのような演奏が展開される一幕もあります。

 4曲目「Talkin’」は、ゆったりしたリズムに、アコースティック・ギターを中心に据えたアンサンブルが展開される、牧歌的な雰囲気の1曲。

 6曲目「Thank You Mr. K」は、イントロから激しく歪んだギターがノイジーに鳴り響く、疾走感のあるガレージロック。複数のギターが絡み合い、加速感を演出しています。

 9曲目「Take Care (To Comb Your Hair)」は、アコースティック・ギターのアルペジオから始まる、メロウな1曲。タイ・セガールの声も優しい。しかし、メロウな歌モノに終始するわけではなく、再生時間1:58あたりから「Come on!」という声をトリガーにして、複雑なアンサンブルが展開。

 ガレージ色の濃い音楽性とサウンドを持ちながら、それだけにとどまらない多彩な音楽が響くアルバムです。カントリー風のアコースティック・ギターや、メタル風のギター・リフが顔を出しても、タイ・セガールの個性がすべてを上回り前面に出てきます。

 なかなか言語化が難しいのですが、彼が選び取る音楽ジャンルが、すべて彼のなかで消化され、地に足が着いているからこそ、一貫性のある作品に仕上がっているのだと思います。

 





Ty Segall “Freedom’s Goblin” / タイ・セガール『フリーダムズ・ゴブリン』


Ty Segall “Freedom’s Goblin”

タイ・セガール 『フリーダムズ・ゴブリン』
発売: 2018年1月26日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 カリフォルニア州ラグナ・ビーチ出身のミュージシャン、タイ・セガールの10枚目のソロ・アルバム。このアルバムが発売された時点で、タイ・セガールはまだ30歳!なのに10作目。

 さらにソロ以外にも、ファズ(Fuzz)やシック・アルプス(Sic Alps)など、バンドでの活動歴もあり、非常に多産なミュージシャンです。19曲、約75分にも及ぶボリュームも凄い。

 ガレージ的な歪みのギター、ドタバタした立体的なドラム、飛び道具的なファニーなサウンドが散りばめられた、カラフルなサウンド・プロダクションを持ったアルバム。多種多様な音楽ジャンルが顔を出しますが、アルバムとしての一体感もあります。

 折衷的な印象にならず、とっ散らかってもいないのは、彼の個性がより濃く出ているからだと言えるでしょう。ガレージを下地に、様々なジャンルの要素を吸収しながら、モダンなインディーロックを鳴らしています。

 1曲目の「Fanny Dog」のイントロから、ストライド・ピアノが軽快にリズムを刻み、ホーンが楽曲をゴージャズに彩ります。このアルバムを象徴するような、カラフルな1曲。

 3曲目「Every 1’s A Winner」は、毛羽立ったサウンドのギターと、立体的なドラムが絡み合う1。

 5曲目「When Mommy Kills You」は、ジャンクな歪みのギターが疾走するガレージ・ロック。

 6曲目「My Lady’s On Fire」は、アコースティック・ギターとボーカルのみのイントロから始まり、フルバンドになると緩やかなグルーヴが生まれる、ウォームなサウンド・プロダクションの1曲。

 8曲目「Meaning」は、立体的で奥行きのあるドラムに、ノイジーでフリーキーなギターが絡むイントロ。再生時間1:10あたりからは、隙間を全て埋め尽くすようなディストーション・ギターを中心にした、疾走感あふれるガレージロックが展開。

 13曲目「She」は、ファズ・ギターが段階的に重なっていくイントロから、コンパクトにまとまったガレージ・ロックが展開される1曲。

 17曲目「I’m Free」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた、カントリー色濃い1曲。タイ・セガールのボーカルも穏やか。ドラムが鼓動のように打ち続ける4つ打ちも、楽曲に躍動感を与えています。

 毛羽立ったサウンドのギターが多用され、ガレージ色の濃いアルバムですが、ガレージ一辺倒ではなくカラフルな印象を与える作品。

 曲によってサイケデリックな空気や、カントリーなどルーツ・ミュージックの雰囲気も織り交ぜながら、すべてタイ・セガールという人の個性に帰結していて、月並みな言い方だけど「タイ・セガールというジャンル」と呼ぶべき音楽が展開されています。

 タイ・セガールのボーカリストとしての表現力も幅を広げていて、アルバムの世界観を多彩にするのに一役買っているなと思いました。

 





Anna Burch “Quit The Curse” / アンナ・バーチ『クイット・ザ・カース』


Anna Burch “Quit The Curse”

アンナ・バーチ 『クイット・ザ・カース』
発売: 2018年2月2日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ミシガン州デトロイト出身のバンド、フロンティア・ラッカス(Frontier Ruckus)の元メンバーであり、フェイルド・フラワーズ(Failed Flowers)での活動でも知られる、アンナ・バーチの初ソロ・アルバムです。アメリカ国内ではPolyvinyl、イギリスとヨーロッパではHeavenly Recordingsからのリリース。

 フォークやカントリーからの影響がわかりやすく、オルタナ・カントリー色の濃いフロンティア・ラッカスの音楽性から比較すると、アンナ・バーチのソロ作は、よりルーツを感じさせない音楽になっています。あえてジャンル名を使って表すなら、ギター・ポップ風味のあるインディーロックといったバランスの作品です。

 Polyvinylのウェブサイトでは、クリスタル・クリア・ボーカル・ハーモニー(crystal clear vocal harmonies)と表現されるアンナ・バーチの歌声は、透きとおるように繊細で、このアルバムの大きな魅力のひとつです。

 1曲目の「2 Cool 2 Care」は、透明感のあるギター・サウンドと、アンナの透き通るようなウォームな声が、空間に優しく沁みわたる1曲。再生時間2:28あたりからのギターのフレーズと、全体の有機的なアンサンブルも聴きどころ。

 2曲目「Tea-Soaked Letter」は、バンド全体が波打つように緩やかにグルーヴしていくのが心地よい1曲です。間奏での流れるようなギターのフレーズも、曲に彩りを添えています。一聴するとシンプルな耳ざわりの曲ですが、複数のギターが絡み合うアンサンブルは、なかなか複雑です。

 4曲目はアルバム表題曲の「Quit The Curse」。ゆったりとしたテンポで、バンド全体でたっぷりとタメを作った演奏を展開します。

 5曲目「Belle Isle」は、みずみずしいサウンドのギターと、柔らかなボーカルが溶け合い、ヴェールに包まれたような音像を作り上げる1曲。

 9曲目「With You Every Day」は、シンプルな伴奏に、多層的なコーラスワークが溶け合う1曲。各楽器のフレーズはシンプルですが、再生時間1:59あたりからのわずかに躍動感が生まれるようなアレンジなど、リズムの違いで楽曲の展開を多彩にしています。

 アルバム全体を通して、各楽器とも飾り気が無くナチュラルな音質が多用されていますが、耳に心地よく響くサウンドばかりです。オーバー・プロデュースにはならず、丁寧に音作りがなされているのがわかります。

 特にギターの音は、空間系のエフェクターをやり過ぎにならない程度に、効果的に使った透明感のあるサウンドが多く、そのサウンドをもって組み上げれらるアンサンブルも素晴らしいです。

 聴き始めたときは、まあなかなか良いアルバムだなぐらいに思っていましたが、通しで聴くと良さが、さらに滲み出てきました。

 





Eleanor Friedberger “Last Summer” / エレナー・フリードバーガー『ラスト・サマー』


Eleanor Friedberger “Last Summer”

エレナー・フリードバーガー 『ラスト・サマー』
発売: 2011年7月12日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Eric Broucek (エリック・ブロウチェック)

 ザ・ファイアリー・ ファーナセス(The Fiery Furnaces)のボーカリスト、エレナー・フリードバーガーの初のソロ・アルバムです。

 各楽器ともシンプルなサウンドを鳴らし、全体としてもオーガニックな響きを持った1枚。音の数も絞り込まれているのですが、シンプルかつ躍動感のあるアンサンブルが展開され、隙間が多いという印象はありません。

 むしろ、音が絞り込まれていることで、それぞれの音の情報量が多く感じられます。用いられる音色の種類も決して多くはないものの、アレンジの妙によってカラフルなイメージを与えるアルバムになっています。

 1曲目「My Mistakes」は、アコースティック・ギターとドラム、ボーカルによるシンプルなイントロから幕を開けます。アコギ主体のサウンドですが、楽曲からは古き良きロックンロールの香りが漂います。キーボードと思われる電子音がアクセント。

 2曲目の「Inn Of The Seventh Ray」は、ゆったりとしたテンポで、ギター、キーボード、ドラムが立体的に絡み合う1曲。各楽器とも基本的にはナチュラルな音色ですが、アンサンブルとエフェクトからほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 5曲目の「Roosevelt Island」は、シンセサイザーの音色と、ラップ的というのとは違う、早口言葉のようなボーカルが印象的な1曲。

 9曲目「Owl’s Head Park」は、アコーディオンのような音色も聞こえますが、ベースの音を筆頭に電子的なサウンド・プロダクションを持った1曲。しかし、冷たいという印象ではなく、歌が前景化された暖かみのある曲です。

 アコースティック・ギターを中心にしたナチュラルなサウンドを基本としながらも、随所にエフェクターやシンセサイザーによってアクセントをつけ、全体としてはカラフルなサウンド・プロダクションに仕上がっています。

 ややハスキーなボーカルは、それだけでも十分に魅力的なのですが、ところどころエフェクトがかけられ、オーバーダビングも効果的に用いられています。

 音作りもアンサンブルも基本的にはシンプルなのですが、オルタナティヴな空気も同居し、いきいきとした躍動感も感じられる1作。