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Don Caballero “Singles Breaking Up (Vol. 1)” / ドン・キャバレロ『シングルス・ブレイキング・アップ (Vol. 1)』


Don Caballero “Singles Breaking Up (Vol. 1)”

ドン・キャバレロ 『シングルス・ブレイキング・アップ (Vol. 1)』
発売: 1999年1月12日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のマスロック・バンド、ドン・キャバレロのシングル収録曲を集めた、コンピレーション・アルバムです。1992年から1998年の間に発売されたシングルから12曲を収録、未発表曲を1曲加え、計13曲が収録されています。

 シングル盤に入っていた曲を集めたコンピレーション作品、なおかつ6年間にわたる時期の作品を収録しているので、曲順やアルバムのコンセプトがどうこうという作品ではありませんが、彼らの音楽性に共通するエッセンスが、確認できる作品であると思います。

 1992年から1998年というと、1stアルバム『For Respect』が発売される前年から、3rdアルバム『What Burns Never Returns』が発売される年まで、にあたります。そのため本作は、彼らの音楽性の変遷を確認するサブテキストとしても、楽しめると思います。

 1枚目のアルバム『For Respect』では、轟音ギターをはじめとしたパワフルなサウンドで押しまくっていた彼らが、2枚目、3枚目と作品を重ねるごとに、より緻密で繊細なサウンド・プロダクションとアンサンブルを構成していきます。

 本作の1曲目から5曲目に収録されているのは、1992年にリリースされた音源。『For Respect』が発売される前年です。この時期の音源は、激しく歪んだファットな音質のギターが全面に出ていて、メタルやハードコアの影響が色濃く出ています。『For Respect』以上に、ラフでラウドな耳ざわりの曲が続きます。

 もちろん、彼ら得意の変拍子や変態的なフレーズを取り入れた、複雑なアンサンブルも聴かれるのですが、まだまだ粗削りで、初期衝動を暴発させるようなパワーに満ち溢れています。この時期のドン・キャバレロの方が、音がパワフルで好きという人もいらっしゃるかもしれません。

 6曲目と7曲目は、1993年にタッチ・アンド・ゴーからリリースされたシングル『Our Caballero / My Ten Year Old Lady Is Giving It Away』からの収録。タッチ・アンド・ゴー契約後ということもあり、アンサンブルもサウンド・プロダクションも、かなり洗練された印象。

 8曲目と9曲目は、同じく1993年にリリースされたシングル『And And And And And And And And And And』からの収録。こちらは、デトロイトのThird Gear Recordsというレーベルから発売されています。この2曲もタイトなアンサンブルで構成され、なかなかの良曲。

 10曲目の「No More Peace And Quiet For The Warlike」は、未発表曲です。レコーディングされた時期など、詳細は調べがつきませんでしたが、イントロから鐘のような音が響き、ギターのサウンドも時空を切り裂くように鋭く歪んでいて、音響が前景化された1曲という印象を持ちました。再生時間1分過ぎから、徐々に音数が増え、音楽が姿を現し始めます。

 11曲目の「If You’ve Read Dr. Adder Then You Know What I Want」は、1995年リリースの『Sixty Second Compilation』というコンピレーションに収録されていた楽曲。このコンピ盤は、その名の通り60秒の曲を集めた作品だったようです。各楽器がそれぞれリズムを刻み、それらがかみ合うわけでもない、本作の中で最もアヴァンギャルドな1曲。

 12曲目と13曲目は、1997年にタッチ・アンド・ゴーからリリースされたシングル『Trey Dog’s Acid』から収録。12曲目「Trey Dog’s Acid」は、ゆったりとしたテンポのなか、徐々に各楽器がかみ合っていく、ドン・キャバレロらしい展開。音質も良いです。

 13曲目「Room Temperature Lounge」は、シンプルなフレーズを繰り返すギター、淡々とリズムを刻むベース、独特のタイム感で複雑なリズムを生み出していくドラムが、有機的に絡み合う、緻密なアンサンブル。

 前述したようにコンピレーション・アルバムですから、アルバムとしての色やコンセプトがあるわけではありません。しかし、通しで聴いてみると、基本的には年代順に曲が並んでいるということもありますが、不思議とアルバム作品にある流れが感じられました。

 こういった作品は、一部の熱心なファンやコレクター以外は手を出しにくいと思いますが、粒ぞろいの曲が揃っていて、彼らの裏ベストとしておすすめできます。(とはいえ、ドン・キャバレロを未聴の方が、最初に聴くべき作品ではなく、まずはオリジナル・アルバムの方を優先しておすすめしたい…)

 





Jim O’Rourke “Eureka” / ジム・オルーク『ユリイカ』


Jim O’Rourke “Eureka”

ジム・オルーク 『ユリイカ』
発売: 1999年2月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる2枚目のアルバム。

 フリー・インプロヴィゼーションや音響的な作品、ノイズや現代音楽など、実に多種多様な音楽を生み出すジム・オルーク。とっつきにくい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、シカゴの名門インディペンデント・レーベル、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップです。

 しかし、耳にやさしく聴きやすい音楽であるのと同時に、ジム・オルークの音楽的教養の深さ、知識の豊富さが感じられる、広大な世界観を持った作品でもあります。

 本作『Eureka』は、カントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、古き良きアメリカン・ポップス、さらに電子音を使った音響的なアプローチやフレンチ・ポップまで、多種多様な音楽が、現代的な手法で再構築した1枚です。

 言語化すると、なんだか小難しそうですが、できあがった音楽はどこまでも優しく、音楽の心地いい部分だけを素材として使い、凝縮したようにポップです。

 アルバム1曲目の「Prelude To 110 Or 220 / Women Of The World」では、イントロからフィンガー・ピッキングによる、ナチュラルなアコースティック・ギターの音が響きます。しかし、ギターが鳴っているのは主に右チャンネル。左チャンネルからは、電子音のような響きが近づいてきます。両者は絶妙に溶け合い、全体として、とても心地よい響きを生み出すから不思議。

 さらに再生時間0:20あたりで、視界が大きく開けるように、楽器の数が増え、カラフルで開放的なアンサンブルとサウンドを構成します。このあとも、ジムの優しい歌声が加わったり、1:48あたりからギターと電子音が絡み合うように旋律を紡いだりと、次々と風景が変わるように、展開していく1曲です。8分を超える曲ですが、全く冗長な印象はありません。

 3曲目「Movie On The Way Down」は、音数が少なく、レコード針のノイズのような音が持続する、アンビエントなイントロから、徐々に音楽が姿をあらわしていきます。様々な音が重なり合い、幻想的な音世界を作り上げていく1曲。

 4曲目の「Through The Night Softly」は、スティール・ドラムの響きがかわいらしい1曲。音の配置を変えれば、もっとアヴァンギャルドな印象の曲になりそうですが、一般的なヴァース-コーラス形式とは違うものの、進行感も感じられ、ポップな曲に仕上がっています。

 6曲目の「Something Big」は、ピート・バカラックのカバー。こんなところにも、ジムの過去の音楽への深いリスペクトが感じられます。

 前述したように、非常にポップで、楽しいアルバムです。しかも、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、新しさにも溢れた1作。

 様々な音楽を、再解釈し組み上げるセンスからは、ジム・オルークの音楽的語彙の豊富さと、音楽への深い愛情が伝わります。深い意味で、ポップな作品です。こういう作品が、もっと売れる世界になってほしい。(世界中で十分に売れた作品ですが…)





American Football “American Football” / アメリカン・フットボール『アメリカン・フットボール』


American Football “American Football”

アメリカン・フットボール『アメリカン・フットボール』
発売: 1999年9月28日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 後続のエモおよびポストロック・バンドに多大な影響を与えた、キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ, Cap’n Jazz)。その中心メンバーが、兄ティム・キンセラ(Tim Kinsella)と弟マイク・キンセラ(Mike Kinsella)の、キンセラ兄弟です。キャップンジャズの解散後、弟のマイク・キンセラが結成したのが、このアメリカン・フットボール。

 疾走感あふれる演奏とエモーショナルなボーカルを特徴とし、エモ要素の強かったキャップン・ジャズと比べると、アメリカン・フットボールは、よりポストロック色の強いバンドと言えます。

 1stアルバムである今作『アメリカン・フットボール』は、流れるような美しいボーカルのメロディー・ラインを持ち、歌モノのアルバムとしても聴けるものの、歌のないインストバンドだったとしても楽しめる、緻密なアンサンブルも秀逸な1作。

 ちなみにアメリカン・フットボールは、このアルバムを最後に解散。2014年に活動を再開し、2016年に1stアルバムと同じくセルフタイトルの『アメリカン・フットボール』をリリースしています。(アメリカン・フットボールだらけで、ややこしい笑)

 絡み合うような複数のギターが、次々と旋律を紡いでいき、さらにベースとドラムも有機的にグルーヴするこのアルバム。曲によっては、聴きながら拍子を探してしまう複雑なリズムを持ちながら、その絶妙な違和感がフックとなり、やがて快感に変わっていきます。

 また、複雑さよりもアンサンブルとメロディーの美しさが前面に出ていて、聴いていて特に複雑怪奇で難解なアルバム、という印象はありません。

 1曲目の「Never Meant」は、バンドがスタジオで音出しを始めたようなリラックスした雰囲気から、音楽が立ち上がり、徐々に躍動していく進行が、たまらなく心地いい1曲。イントロ部には、メンバーの誰かが「Are you ready?」と言う声も入っています。アルバム1曲目にどういう曲が入るのかって重要で、僕はわりと1曲目の曲が好きなことが多いんですけど、この1曲目は完璧です。アルバムの音楽性を示し、イントロダクションの役目も果たし、しっかりと「つかみ」にもなっています。

 3曲目「Honestly?」は、イントロを聴くと、ゆったりと加速していく曲かと思いきや、すぐにスイッチが入ってバンドがアンサンブルを形成する意外性に、まず耳を掴まれます。アルバム全体を通しても感じることですが、違和感を利用して音楽のフックにするセンスが、本当に優れていると思います。

 8曲目の「Stay Home」は、複数のギターが重なり合い、展開しながら立体的なアンサンブルを構成する1曲。8分以上ある曲ですが、いつまでも聴いていたくなるぐらい、バンドのグルーヴ感と、サウンドスケープ的な心地よさを、多量に含んだ1曲です。

 前述したように、歌モノのアルバムとしても高い完成度を持った作品であると同時に、歌を抜いてインスト作品だったとしても、ポストロックの名盤と呼べるクオリティを備えた1枚です。

 バンドのアンサンブルの中でも、僕が特におすすめしたいのは、複数のギターが複雑に絡み合い、繊細かつ一体感のあるテクスチャーを生み出しているところです。聴いていて、本当に気持ちいい。音楽をタペストリーに例えることがありますけれども、本作はまさにギターが織物のように重なっていて、本来はバラバラのものなんだけど、ひとつの有機的な存在になっています。

 ほどけそうでほどけない、まとまりそうでまとまらない、各楽器が絡み合う緻密なアンサンブルと、美しいメロディーと歌心が融合した名盤です。歌モノが好きな人も、ポストロックが好きな人も、きっとハマるはず!