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Ty Segall “Ty Segall” / タイ・セガール『タイ・セガール』


Ty Segall “Ty Segall”

タイ・セガール 『タイ・セガール』
発売: 2017年1月27日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 カリフォルニア州ラグナ・ビーチ出身のミュージシャン、タイ・セガールの9枚目のソロ・アルバム。今作は、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを担当。『Ty Segall』というセルフ・タイトルのアルバムは、1stアルバムに続いて2作目です。

 ファズ・ギターが響き渡るガレージ色の濃い1作。ギターのサウンドはジャンクで下品なものが多く、ドラムも立体感のあるドタバタしたプレイを展開するのに、全体としては上品とは言わないまでも、モダンな空気を持ったインディーロックを響かせます。

 このアルバムに限らず、ローファイ感と現代性のバランスが、タイ・セガールの魅力だと思います。

 1曲目「Break A Guitar」は、アルバムの幕開けにふさわしく、激しく歪んだギターが唸りをあげる1曲。

 2曲目「Freedom」は、立体的でドタバタしたアンサンブルが展開される1曲。アコースティック・ギターと歪んだエレキ・ギターが共に使用されていますが、使い分けが効果的で、楽曲に奥行きを与えています。

 3曲目の「Warm Hands (Freedom Returned)」は、10分を超える大曲。アコースティック・ギターを中心にしたアンサンブルと、コーラスワークによってサイケデリックな空気も漂いますが、再生時間1:17あたりから歪んだギターが押し寄せるところなど、展開が多彩で冗長には感じません。ジャム・バンドのような演奏が展開される一幕もあります。

 4曲目「Talkin’」は、ゆったりしたリズムに、アコースティック・ギターを中心に据えたアンサンブルが展開される、牧歌的な雰囲気の1曲。

 6曲目「Thank You Mr. K」は、イントロから激しく歪んだギターがノイジーに鳴り響く、疾走感のあるガレージロック。複数のギターが絡み合い、加速感を演出しています。

 9曲目「Take Care (To Comb Your Hair)」は、アコースティック・ギターのアルペジオから始まる、メロウな1曲。タイ・セガールの声も優しい。しかし、メロウな歌モノに終始するわけではなく、再生時間1:58あたりから「Come on!」という声をトリガーにして、複雑なアンサンブルが展開。

 ガレージ色の濃い音楽性とサウンドを持ちながら、それだけにとどまらない多彩な音楽が響くアルバムです。カントリー風のアコースティック・ギターや、メタル風のギター・リフが顔を出しても、タイ・セガールの個性がすべてを上回り前面に出てきます。

 なかなか言語化が難しいのですが、彼が選び取る音楽ジャンルが、すべて彼のなかで消化され、地に足が着いているからこそ、一貫性のある作品に仕上がっているのだと思います。

 





Alex Lahey “I Love You Like A Brother” / アレックス・レイヒー『アイ・ラヴ・ユー・ライク・ア・ブラザー』


Alex Lahey “I Love You Like A Brother”

アレックス・レイヒー 『アイ・ラヴ・ユー・ライク・ア・ブラザー』
発売: 2017年10月6日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 オーストラリア、メルボルン出身のシンガーソングライター、アレックス・レイヒーの1stアルバムです。

 彼女は2016年に地元オーストラリアで『B-Grade University』というEPを発売、その後2017年にデッド・オーシャンズと契約し、前述の『B-Grade University』を再発、本作『I Love You Like A Brother』をリリースしています。

 清潔感のある白を基調としたジャケットから、アコギ片手に伸びやかな女性ボーカルの声が響きわたる作品を想像していましたが、それとはちょっとイメージの異なる、ガレージの香りもほのかに漂うインディーロック、といった感じのアルバムです。

 力強いロックな声質と、伸びやかな女性シンガーソングライター系の声質のちょうど中間のような、絶妙なボーカルの声。その声の魅力を全面に出しながら、地に足の着いたインディーロック然とした音楽が展開されます。

 アルバム1曲目の「Every Day’s A Weekend」。やや歪んだギターとドラムによるシンプルな、本当にシンプルなイントロ。その上に開放的で伸びやかなボーカルが乗り、少しずつ楽器が増えて加速していく、ロックな曲。

 若干のガレージ風味もありつつ、ボーカルの声とコーラスワークには爽やかな雰囲気もあり、アンサンブルも加速感の演出がうまく機能的。

 「機能的」と書くと味気ない印象を与えてしまうかもしれませんが、シンプルな演奏なのに、ひとつひとつの音符やフレーズが最大限の効果を生むよう、アレンジされているということです。

 若干のラフさを持っているところも、ロック的な疾走感とダイナミズムを増幅させています。

 2曲目の「I Love You Like A Brother」は、パワフルで立体的なドラムが響きわたり、ギターのフィードバックが緊張感と期待感を煽るイントロ。やや奥の方から聞こえるボーカルのカウントもエモーショナルで、1曲目に続いてこちらもロックな1曲。ギターが厚みのあるパワーコードを響かせます。

 しかし、ボーカルが激し過ぎず、伸びやかな声を持っているので、いい意味でのポップさも併せ持っています。ロック過ぎず、甘すぎない、絶妙のバランス。ギターソロの音色も良い。

 5曲目の「Backpack」は、ギターも抑え目に、ミドルテンポでじっくり聴かせる1曲。ここまでのアルバムの楽曲と比較すると、ソフトなサウンド・プロダクションに仕上げ、緩やかにグルーヴしていくアンサンブルが心地よいです。

 シンプルなロックを下敷きに、アレンジにもサウンドにも、手の届く範囲でのバラエティを取り入れた、一貫性のあるアルバムです。この、ゴージャスになりすぎず、ゴテゴテに感じさせないバランス感覚というのは、特にインディー系の音楽には大事だと思います。背伸びしていたり、消化不調で折衷的な音楽というのは、やっぱりあまり魅力的には響かない。

 冒頭にも書きましたが、ボーカルの声と表現力も、このアルバムの大きな魅力です。力強くもあり、伸びやかでもあり、僅かにかすれた声が、非常にエモーショナルに響きます。

 オーストラリア出身のシンガーソングライターということで、もっとオーガニックな耳ざわりの音を想像していましたが、いい意味で期待を裏切る、インディーロック感のあるアルバムです。

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Dent May “Across The Multiverse” / デント・メイ『アクロス・ザ・マルチヴァース』


Dent May “Across The Multiverse”

デント・メイ 『アクロス・ザ・マルチヴァース』
発売: 2017年8月18日
レーベル: Carpark (カーパーク)

 ミシシッピ州ジャクソン出身のシンガーソングライター、デント・メイの4枚目のアルバム。前作まではPaw Tracksからのリリースでしたが、今作は親レーベルのCarparkからのリリース。

 ピコピコ系の電子音が効果的に用いられた、シンセ・ポップ風味のインディーロックが響きます。カラフルな印象のサウンドながら、僅かにひねくれたアレンジがフックになった1作。

 電子音と楽器の音のバランスが絶妙で、お互いに邪魔をせず、異物感なく溶け合い、ポップなテクスチャーを作り上げています。高度なポップ・センスを感じるアルバム。

 2曲目の「Picture On A Screen」は、イントロから奇妙でポップな空気が充満。非常にカラフルでポップなサウンド・プロダクションであるのに、随所に耳に引っかかる変な音が入っていて、それが音楽のフックになっています。

 6曲目「90210」。ピアノの音と、シンセらしくファニーな音が重なるイントロ。シンセサイザーを除けば、アコースティック・ギターも入っていて、ボーカルもメローな1曲。ですが、随所に顔を出す奇妙なサウンドがかわいらしく、楽曲に彩りを加えています。

 再生時間2:03あたりからのギターソロの音作り、それに続いて2:16あたりから始まるシンセのソロの音色が、共におもちゃのようなキュートで奇妙なサウンドで、これもカラフルな印象を強めています。曲の後半にはストリングスも導入されて、展開が多くカラフルでポップな1曲。

 10曲目の「I’m Gonna Live Forever Until I’m Dead」は、不安定なとぼけた雰囲気のギターが耳に残る1曲。緩やかにグルーヴするアンサンブルも心地よく、ヴォコーダーによる声がアクセントになっています。

 ポップで、カラフルで、楽しいアルバムです。実験的と呼ぶにはポップ過ぎる、しかし僅かに違和感を生む音やアレンジが散りばめられていて、ポップ・センスの高さを感じさせる1枚。

 シンセ・ポップと呼ぶほどには、シンセサイザーが前景化されている印象はなく、効果的にシンセがアクセントを加えているアレンジです。

 ストリングスの使い方も絶妙。クラシカルな雰囲気や、壮大さを出さずに、曲に奥行きをプラスしていると思います。





Father John Misty “Pure Comedy” / ファーザー・ジョン・ミスティ『ピュア・コメディ』


Father John Misty “Pure Comedy”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『ピュア・コメディ』
発売: 2017年4月7日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン)

 ジョシュ・ティルマンが、Father John Misty名義でリリースする3枚目のアルバムです。

 収録曲の大半は、ピアノかアコースティック・ギターを中心に据えたバラードですが、曲ごとに丁寧にアレンジが施されており、深い意味でポップな1枚だと思います。見た目も含めて、現代の吟遊詩人といった趣のあるジョシュ・ティルマンですが、彼の歌心とクリエイティヴィティが随所に感じられる作品。

 一聴すると美しいピアノ・バラードであるのに、音楽のフックになる音やアレンジが、仕掛けのように含まれていて、いつの間にかアルバムの世界観に取り込まれてしまいます。

 アルバムの表題曲でもある1曲目の「Pure Comedy」。テレビ番組のオープニングを数秒だけサンプリングしたようなイントロから、ピアノと歌による美しいバラードが展開されます。奥の方では時折、数種類の電子音のようなサウンドが鳴っていて、それが妙に耳に残ります。そして、曲自体は再生時間2:04あたりから、王道とも言える流れで盛り上がり、いつの間にか曲に集中してしまいます。

 2曲目の「Total Entertainment Forever」は、このアルバムの中ではテンポが速く、ビートもはっきりした1曲。ピアノとギターを中心に、各楽器が折り重なるように躍動するアンサンブルも心地いい。

 6曲目の「Leaving LA」は、13分以上もある大曲ですが、アコースティック・ギターのみのイントロから、1曲を通してストリングスがアレンジを変えながら重層的に彩りを加えるため、常にいきいきとした躍動感があります。単純に音数や音量に頼らず、アンサンブルによってコントラストや彩りを演出するところも、このアルバムの魅力。

 7曲目「A Bigger Paper Bag」の、牧歌的な雰囲気を漂わせながら、立体感のあるアンサンブルも素敵。すべての楽器が、サウンド的にも演奏的にも有機的に絡み合っています。

 前述したようにアルバムを通して、リスナーの耳をつかむ仕掛けが、随所に散りばめられています。違和感がいつの間にか魅力に転化してしまう、という感じでしょうか。そのため、74分もあるアルバムですが、それほど冗長には感じません。

 ストリングスや電子音のアレンジも絶妙で、アルバムには室内楽的な雰囲気も漂います。深い意味でポップな、素晴らしい1枚です。

 





Diet Cig “Swear I’m Good At This” / ダイエット・シグ『スウェア・アイム・グッド・アット・ディス』


Diet Cig “Swear I’m Good At This”

ダイエット・シグ 『スウェア・アイム・グッド・アット・ディス』
発売: 2017年4月7日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)

 ニューヨークのインディーロック・デュオ、Diet Cigの1stアルバムです。メンバーはギターとボーカルを担当するアレックス・ルチアーノ(Alex Luciano)と、ドラムのノア・ボウマン(Noah Bowman)の2人。ちなみにアレックスは女性です。

 ニューヨークのインディペンデント・レーベル、Frenchkissからのリリース。Frenchkissは、Les Savy Favのベーシスト、シド・バトラー(Syd Butler)が設立したレーベルで、The DodosやLocal Natives、Passion Pitの作品もリリースしています。

 レコーディングには、サポートメンバーとしてバッキング・ボーカルとシンセサイザーが参加しているようですが、あくまでも2ピースバンド。人数的に複雑なアンサンブルを構成することは叶わないわけで、人数の少なさをアイデアとエモーションで満たすような、爽快感のあるアルバムに仕上がっています。ベースと複数のギターが聴こえる部分がありますが、これはオーバー・ダビングで対応しているのでしょう。

 音楽的にはパンクを下敷きにしながら、テンポの切り替えや、楽器の満ち引きでコントラストを演出し、ただ突っ走るだけではないアイデアの豊富さを感じます。時に伸びやかで、時にため息のようにアンニュイな空気を醸し出す、アレックスのボーカリゼーションも、バンドのサウンドをよりカラフルにしています。

 1曲目の「Sixteen」を例にとると、イントロからしばらくはゆったりとしたテンポで、やや濁りのある歪み方をしたギターが、ボーンと1小節ごとにコードを弾き、ボーカルが伸びやかにメロディーを歌いあげていきます。再生時間1:05あたりで1回ブレイクし、その後にパンク的な疾走感あふれる演奏に切り替わるのですが、この展開が秀逸。アレックスの「Ready?」という声も素敵。

 こういうコントラストの作り方は、散々やりつくされており、一歩間違えばダサくなってしまいますが、この曲はダサさも無理やり感も、感じません。気合が理屈を上回っている感じが、伝わってくるからなのか。

 5曲目の「Leo」は、ボーカルのキュートな歌唱と、クランチ気味の音のギターによる、オシャレなカフェで流れていそうな雰囲気で始まりますが、その後に爆音がやってきます。わずか1分30秒ほどの曲ですが、静寂と爆音が循環して、コントラストが鮮烈な1曲です。

 2ピースであることが弱点ではなく、アドヴァンテージになっていると感じさせるほど、アイデアの詰まったアルバムです。食材の種類は少なくても、組み合わせ次第でいくらでも美味しい料理はできる!と言わんばかりに、カラフルで音楽の楽しさに溢れた作品。

 僕は2ピースというと、高橋久美子さんが脱退したあとのチャットモンチーを連想してしまうんですが、2ピースだからこそできる音楽って、実はまだまだいっぱいあるんだよなぁ、と思います。