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Evangelicals “The Evening Descends” / エヴァンゲリカルズ『ジ・イヴニング・ディセンズ』


Evangelicals “The Evening Descends”

エヴァンゲリカルズ (エヴァンジェリカルズ) 『ジ・イヴニング・ディセンズ』
発売: 2008年1月22日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 オクラホマ州ノーマン出身のバンド、エヴァンゲリカルズの2ndアルバムです。

 おどろおどろしい、ホラー映画のようなジャケットにまず目を奪われてしまいますが、実際の音はというとジャケットのイメージどおり(笑)、ゴシックな香りも僅かに漂いつつ、よくまとまった良質なインディーロックだと思います。

 1曲目「The Evening Descends」のイントロから、やや不穏な空気が漂いますが、サイケデリックな空気とポップな空気のバランスが絶妙な1曲です。3分ちょっとの短い曲ですが、多種多様なサウンドと展開が詰め込まれていて、全体の耳ざわりはカラフル。

 ジャケットからは、もっとゴシック色強め、実験性強めのアルバムを予想していましたが、思いのほかポップ・センスの高さを感じさせる曲からアルバムがスタートします。

 2曲目「Midnight Vignette」は、バンドのアンサンブルとコーラスワークが多層的で、塊感のある1曲。音の出し入れが面白く、この曲も実験的なアレンジを、見事な手さばきで、コンパクトなポップ・ソングにまとめていると思います。

 4曲目「Stoned Again」は、イントロから、立体的なドラムと、ややメタルを感じさせるギターのような音が重なり、厚みのあるアンサンブル。よく聴くといろいろな音が鳴っています。

 5曲目の「Party Crashin’」。個人的には、この曲が最もジャケットのイメージに近いです。イントロから、シンセらしきうねる音がサイケデリックな香りを振りまき、その後も様々な音が飛んできます。しかし曲自体は、音で壁を作るような厚みのあるアンサンブルに、流れるようなボーカルが乗る、疾走感のある1曲。

 アルバムを通して聴いてみて、意外と言ったら失礼かもしれませんが、ポップ・センスに非常に優れたバンドであると思いました。

 ほどよくサイケデリックでアングラな空気も持ちつつ、ポップでカラフルなインディーロックにまとめあげています。何度か「ポップ」という言葉を使いましたが、音楽的にはメタルやゴシックの要素を持ったインディーロック、といった感じです。

 こういうバンドに不意に出会えるのも、USインディーズの楽しみのひとつ。しかし、残念ながら本作は、今のところデジタル配信はされていないようです。





Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String” / ビショップ・アレン『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』


Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String”

ビショップ・アレン 『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』
発売: 2007年7月24日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの2ndアルバムです。

 個人的に大好きなバンド、ビショップ・アレン。彼らの魅力は、楽曲もサウンドもポップで親しみやすいのに、アンサンブルは立体的でグルーヴ感も抜群なところ。

 本作も曲によってキュートだったり、ローファイ風だったり、カラフルなサウンドと共に躍動感あふれるバンド・サウンドを響かせています。

 2曲目「Rain」は、テンポも速めで、疾走感のある1曲。ドラムのドタバタ感が絶妙にローファイの香りを漂わせていて良い。各楽器のリズムの組み合わせで、加速感を出していて、本当に素晴らしいアンサンブル。エレキ・ギターは、音作りもフレーズもシンプルなのに、いちいち耳に残ってしまう。

 3曲目「Click, Click, Click, Click」は、アコースティック・ギターのアルペジオから始まり、徐々に音が増えていく展開。再生時間1:05あたりからフルバンドになり、いきいきと躍動を始めるところのコントラストも秀逸。

 このバンドは、本当にムダな音を使わず、鮮やかにコントラストや疾走感、躍動感を演出できるバンドだと思います。言い換えれば、引き算のできるバンド。再生時間1:51あたりから、もう一段シフトが上がるところも、カッコ良すぎて泣ける。

 6曲目「Like Castanets」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、音色的にはカントリーに近いのですが、パーカッションやトランペットが曲に色彩を足し、彼ら特有のポップスに仕上がっています。この曲もアンサンブルが素晴らしい。

 10曲目「Middle Management」は、歪んだエレキ・ギターとパワフルなドラムが、ハイテンポで駆け抜けていく、ガレージ風味のロックな1曲。とはいえ、このバンドが持つポップでカラフルな魅力は、全く損なわれていません。

 今作も本当に素晴らしいアルバムです。カントリーやガレージを感じさせる要素もありながら、決して特定のジャンルに染まることはなく、オリジナリティを保ったまま、カラフルなサウンドと、躍動感あふれるアンサンブルを響かせます。

 このアルバムを含めて、ビショップ・アレンの作品は全て高いクオリティを保っていると思います。個人的に、心からオススメしたいバンド。

 





Bishop Allen “Grrr…” / ビショップ・アレン『Grrr…』


Bishop Allen “Grrr…”

ビショップ・アレン 『Grrr…』
発売: 2009年3月10日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの3rdアルバムです。

 日本での知名度はいまいちですが、僕はこのバンドがめちゃくちゃ好きなんです。彼らの魅力を一言であらわすと、楽曲とサウンド・プロダクションはポップでカラフル、アンサンブルは立体的で躍動感とグルーヴ感もある、本当に聴きどころばかりの素晴らしい音楽をクリエイトし続けています。(一言で終わらなかった…)

 本作『Grrr…』も、キュートでカラフルな極上のポップスでありながら、アレンジやサウンドには実験的な要素もあり、素晴らしいバランス感覚で作られたアルバムです。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がありますが、本作はまさにおもちゃ箱をひっくり返したように、煩雑かつカラフルで、子供のおもちゃ箱だと思っていたら、ガチなモデルガンとか鉄道模型も出てきた!みたいなアルバムです。

 1曲目「Dimmer」では、耳元で歌っているかのような音のボーカルに、次々と楽器が加わり、立体的でグルーヴ感あふれるアンサンブルが展開されます。再生時間1:20からの、バンド全体で前進していくような、各楽器が絡み合い、追い越し合うようなリズム・デザインもたまらない。再生時間1:58あたりからの展開も、コントラストを演出していて、楽曲の世界観を著しく広げています。

 2曲目「The Lion & The Teacup」は、イントロから徐々に楽器が増加し、それに比例してリズムが立体的になっていく展開が心地よい1曲。

 5曲目「Oklahoma」は、ギターポップのようなカラフルで甘い耳ざわりのサウンド。ですが、アンサンブルはちょっと複雑で、歌メロ以外の部分にも聴きごたえがあります。このあたりのバランス感覚とポップ・センスには脱帽。

 9曲目の「Shanghaied」は、本作のベスト・トラックです。わずか2分30秒の間に、多種多様な楽器が使われ、サウンドも色彩豊かなのですが、ムダな音がひとつも無い。フックだらけの音楽。

 イントロのドタバタした感じのドラムもいいし、アコギの音とリズムもいい。そのあとに入ってくる「ラーララー…」というコーラスも、その裏で鳴っているマレット系の打楽器の音も、有機的にアンサンブルを構成していて、音楽がいきいきと躍動しています。

 この曲は、エレキ・ギターの音も最高。アンプ直で音作りしたような、シンプルなサウンドですが、ところどころに入ってくるフレーズがアクセントになっていて、耳に残ります。再生時間1;50あたりでは「ジャーン」って弾いただけなのに、この上なくテンションが上がります。

 アルバムを通して聴いても、本当にポップで、奥が深く、長く付き合える素晴らしい1枚だと思います。心からオススメしたい作品です。

 ピッチフォークのレビューでは、10点満点で3.5という低評価。ですが、僕の評価だと、9.2ぐらいはつけたい名盤です!

 残念ながら、このアルバムは今のところデジタル配信されていないようです…。ビショップ・アレンの他のアルバムは配信されてるのに…。





Dirty Projectors “Rise Above” / ダーティー・プロジェクターズ『ライズ・アバヴ』


Dirty Projectors “Rise Above”

ダーティー・プロジェクターズ 『ライズ・アバヴ』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Chris Taylor (クリス・テイラー)

 ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するバンド、ダーティー・プロジェクターズの5枚目のアルバムです。

 本作は、ハードコア・パンクのレジェンド、ブラック・フラッグ(Black Flag)のアルバム『Damaged』を、バンドのリーダーであるデイヴィッド・ロングストレス(David Longstreth)が再解釈する、というコンセプト・アルバム。

 デイヴィッドは15年間『Damaged』を聴いておらず、記憶だけを頼りに解釈を試みています。本作のタイトル『Rise Above』は、ブラック・フラッグ『Damaged』の1曲目のトラック・タイトルです。

 そんな情報を抜きにして音楽のみを評価しても、カラフルかつエキセントリック、実験性とポップセンスが高度に融合したアルバムになっています。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容することがありますが、このアルバムはまさにそれ。次々と楽しく奇妙な音が飛び出してきます。

 1曲目「What I See」から、早速おもちゃのようなチープでかわいらしいサウンド。バンド全体の音が、トイピアノのような質感をもっています。再生時間1:35からのジャンクでノイジーな展開も最高。

 2曲目の「No More」は、ゆったりしたドラムのイントロから、隙間の多いアンサンブルのなかをボーカルが漂う1曲。ボーカルはローファイな響きもありながらエモーショナル。

 4曲目の「Six Pack」は、イントロのヴァイオリンが印象的。加速と減速を繰り返し、展開がめまぐるしい1曲。しかし難解な印象はなく、ポップでかわいい曲です。こういうセンスが抜群。

 サイケデリックと呼ぶには親しみやすい、ローファイやジャンクと呼ぶにはカラフル過ぎる、極上のポップアルバム。サウンド的には、クリーントーンのギターが多用され、ギターポップに近い耳ざわりですが、アレンジはより実験的。

 前述したとおり、ブラック・フラッグのアルバムの再現ということになっていますが、原曲と比較してどうこうというより、このアルバム単体で楽しめる作品です。

 ブラック・フラッグがきっかけや動機付けとして機能したのは事実なんでしょうが、とにかくこのバンドのポップ・センスが浮き彫りになる1枚。デイヴィッド・ロングストレスは、本当に天才!

 こちらの作品は、現在のところデジタル配信はされていないようです…。