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Edith Frost “Calling Over Time” / イーディス・フロスト『コーリング・オーバー・タイム』


Edith Frost “Calling Over Time”

イーディス・フロスト 『コーリング・オーバー・タイム』
発売: 1997年4月22日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの1stアルバム。シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティからの発売で、レコーディングにはジム・オルークやデヴィッド・グラブスも参加しています。

 アコースティックギターとピアノを中心に据えたミニマルで幻想的な1枚。エレキギター、ドラム、電子音も聞こえますが、あくまで味付け程度。しかし、どれも少ない音数で効果的にアルバムを彩っています。

 音数を絞ることで、イーディスの声が自ずと前景化される作品とも言えます。感情を排したような、しかしノスタルジックな雰囲気も漂う声が、耳に染み入るような1作です。派手なサウンド・プロダクションではなく、ビート感も希薄なアルバムですが、前述したように音数が少ないだけに、無駄な音が一切なく、全ての音に意味が感じられる作品でもあります。

 1曲目「Temporary Loan」は、アコースティック・ギターの弾き語りが基本でありながら、ポツリポツリと単音を弾くピアノがアクセントになっています。再生時間1:49あたりから入ってくるバイオリンも良い。

 2曲目は「Follow」。ベースなのかシンセサイザーで鳴らしているのか、イントロから聞こえる「ボボーン」という低音。そこに音数を絞ったピアノが入ってくるミニマルなアンサンブル。歌のメロディーとイーディスの声が、空間に染み入るように響きます。

 3曲目はアルバム表題曲の「Calling Over Time」。やや意外性のあるコード進行と、イーディスのささやくような高音域のボーカルが心地よい1曲。

 4曲目「Denied」では、イントロから2種類のサウンドの異なる持続音が響き、ほんの僅かにドラムも入ってきます。一般的にはかなり音数の少ない曲ですが、このアルバムにあっては、かなり音が入っている印象。ドラムが本当にわずかしか入ってこないのに、常にフックになっています。

 6曲目「Too Happy」は、楽器の数も多く、ドラムがビートを刻み、アルバム中では賑やかな1曲。再生時間0:49あたりから入るエレキギターのボトルネック奏法のような音も、流れるような雰囲気の曲にぴったり。

 10曲目「Give Up Your Love」は、アコースティック・ギターの弾き語りを基本にした1曲ですが、コードストロークがはっきりした、リズムが掴みやすい曲です。

 前述したように非常に音が少なく、ミニマルな1枚。その代わりにひとつひとつの音に意味が感じられ、アンサンブルの精度と歌の美しさ、オーガニックな各楽器の音色に、思わずため息がもれるような作品です。

 





Edith Frost “Wonder Wonder” / イーディス・フロスト『ワンダー・ワンダー』


Edith Frost “Wonder Wonder”

イーディス・フロスト 『ワンダー・ワンダー』
発売: 2001年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)
エンジニア: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの3rdアルバムです。

 シカゴの名門ドラッグ・シティ(Drag City)からのリリース、さらにレコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当していることからも、悪いはずがないと聴く前から期待が高まってしまう1枚。結論から言うと期待どおり、いやいや期待以上で、多くの人にオススメしたい1枚です。

 ビブラートなどの無駄な装飾なく、雰囲気たっぷりのイーディスの声。実験性やジャンクさも内包する多彩なアレンジメントとサウンド・プロダクションも、楽曲の魅力を増幅させています。その音楽性から、オルタナ・カントリー(オルタナティヴ・カントリー)の文脈で扱われることもある作品です。

 「オーガニック」という言葉がありますが、今作もまさにオーガニックなアルバムであると評したいです。すなわち、混じり気なしの音素材によって、丁寧に作り上げられた音楽、と言える1枚です。

 特に聴いていただきたいのは、2曲目「Cars And Parties」。バンド全体がトイピアノのような、かわいらしくカラフルな音色のイントロ。オモチャの太鼓のようなサウンドとリズムのドラム。チープかつ可愛いイントロと、コーラスに入ってからの壮大なサウンドとの対比も素晴らしく、本当に名曲。

 そんな、カラフルで楽しいサウンドと、低めのイーディスの声とのバランスも絶妙。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という、もはやクリシェ化した形容の仕方がありますけれども、この曲はまさにそれ!です。

 3曲目「Who」は、アコースティック・ギターとまわりの電子音との融合が気持ちいい1曲。リズムとアンサンブルが楽しい2曲目と比べて、サウンド自体が楽しい1曲。ときおり打ち鳴らされる「バスン」という感じのパワフルなバスドラも、アクセントになっています。

 アルバムのタイトルにもなっている4曲目「Wonder Wonder」。この曲もイントロから色とりどりのサウンドが鳴っていて、楽しい1曲。牧歌的な雰囲気というべきなのか、僕はこの曲を聴くと牛がのんびりとたくさんいる牧場の風景が浮かんできます。

 8曲目の「Further」は、臨場感あるサウンドの様々な生楽器が、流れるように有機的に絡み合うアンサンブル。ピアノもストリングスもドラムも、まず音がいいです。

 実にドラッグ・シティらしい、インディーらしい名盤。カントリーの要素もありながら、実験性もポップに昇華されていて、こういう音楽が聴けるからインディーズを掘るのは止められない!と思わせてくれる1枚。日本での知名度は高くありませんが、心からおすすめしたい1作です。