「Epitaph」タグアーカイブ

Dwarves “The Dwarves Are Young And Good Looking” / ドワーヴス『ドゥワーヴス・アー・ヤング&グッド・ルッキング』


Dwarves “The Dwarves Are Young And Good Looking”

ドワーヴス 『ドゥワーヴス・アー・ヤング&グッド・ルッキング』
発売: 1997年3月24日
レーベル: Epitaph (エピタフ), Recess (リセス), Theologian (シオロジアン)
プロデュース: Bradley Cook (ブラッドリー・クック), Eric Valentine (エリック・ヴァレンタイン)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ドワーヴスの5thアルバム。

 2ndアルバムから4thアルバムまでの3枚は、サブ・ポップからリリースしていたドワーヴス。5作目となる本作ではサブ・ポップを離れ、1997年3月にリセス・レコードから発売。その後、同年のうちにパンク系のレーベル、シオロジアンとエピタフからもリリース。

 レーベルの移籍が、音楽性にどの程度の影響を与えるか、という問いに対しては「場合による」としか答えられません。しかし、レーベルの変更という予備知識を抜きにしても、前作から比較して異なった部分があるのは事実です。

 ジャンクなサウンドを持ったガレージ・バンドとしてスタートしたドワーヴス。初期のアングラ臭の充満したサウンドと比較すると、サウンドは音圧が高くパワフルに、アンサンブルもタイトかつ多彩に洗練されています。

 1曲目の「Unrepentant」は、ゆったりとしたテンポで始まり、再生時間0:45あたりでの加速と同時に、音数も増え、コントラストがはっきりした展開。テンポと音数の鮮やかな切り替えによって、曲のダイナミズムを広げています。

 2曲目「We Must Have Blood」は、叩きつけるような躍動的なリズムに乗せて、歪んだギターとシャウト気味のボーカルが、マグマが噴出するようにフレーズを繰り出す1曲。

 3曲目「I Will Deny」は、ベースのメロディアスなイントロに導かれ、バンド全体が前のめりに疾走していきます。ボーカルはシングアロングが起こりそうなポップさで、メロコア色の濃い1曲。

 9曲目「One Time Only」は、サウンドもメロディーも、爽やかなポップ・パンクのような、疾走感に溢れた曲。

 12曲目「You Gotta Burn」は、アルバムの世界観とは異なる、ダンディーなボーカルと、糸を引くような余裕を持ったリズムが印象的なミドルテンポの1曲。しかし、激しく歪んだギターの音色と、フリーなフレーズからはアングラ臭も漂い、初期のドワーヴスらしさも感じられます。

 エピタフからのリリースという先入観を抜きにしても、メロコア色の濃い、疾走感あふれる曲が多いアルバムです。サウンド面でも、前作から比較しても音圧が高まり、現代的なパンクらしい音になったと言えるでしょう。

 個人的には初期の下品なサウンドの方が好みですが、一般的にはアレンジの面でもサウンドの面でも、洗練され、向上した1作です。

 





I Am Ghost “Those We Leave Behind” / アイ・アム・ゴースト『ゾーズ・ウィ・リーヴ・ビハインド』


I Am Ghost “Those We Leave Behind”

アイ・アム・ゴースト 『ゾーズ・ウィ・リーヴ・ビハインド』
発売: 2008年10月7日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Paul Leavitt (ポール・リーヴィット)

 ボーカルのスティーブン・ジュリアーノ(Steven Juliano)が、音楽系SNSのMyspace上でメンバーを募り、2004年にカリフォルニア州ロングビーチで結成されたバンド、アイ・アム・ゴーストの2ndアルバム。

 結成時および1stアルバム製作時は6人編成で、女性バイオリニストを擁する事でも話題になりましたが、2007年6月に健康上の問題を理由に、バイオリンのケリス・テレスタイ(Kerith Telestai)が脱退。さらに、ケリスの夫でベースを担当していたブライアン・テレスタイ(Brian Telestai)も脱退します。

 さらに、ギター、ベース、ドラムにもメンバー交代があり、1stアルバム時のメンバーは、ボーカルのスティーブン・ジュリアーノ(Steven Juliano)と、リードギターのティモテオ・ロサレス3世(Timoteo Rosales III)の2名のみ。5人編成で、今作のレコーディングに臨んでいます。

 バイオリンのケリス・テレスタイは脱退してしまいますが、今作でもバイオリンとチェロのサポート・メンバーを迎えているため、編成楽器上の差異はありません。しかし、メンバーが3人も交代していることもあり、音楽面では変化が聞き取れます。

 メタル的なテクニカルな演奏と、ゴシック・パンク的な世界観、パンク的なキャッチーなメロディーが同居しているのは、前作と共通していますが、アンサンブルはややシンプルに落ち着いた印象。前作の方が、複雑で立体的なアンサンブルが構成されていましたが、今作の方が疾走感重視の流れるような演奏になっています。

 この変化は、メンバー交代によるものなのか、主導的な立場であるスティーブン・ジュリアーノの志向の変化なのかは、わかりません。いずれにしても、前作より劣っているということでも、全く同じということでもなく、多種多様なジャンルを消化した、アイ・アム・ゴーストらしいポスト・ハードコアが展開されているのは確かです。

 前作も1曲目がイントロダクション的なトラックが収録されていましたが、今作の1曲目「Intro: We Dance With Monsters」も、女性の囁き声とピアノが重なる、40秒ほどのイントロ的トラックです。曲目にも「Intro」と付いていますね。

 1曲目からシームレスに繋がる2曲目の「Don’t Wake Up」は、アップテンポの疾走感あふれる1曲。イントロの滑らかに歌うようなギターとベースが、加速感を演出しています。

 3曲目「Those We Leave Behind」は、ボーカルのシャウトと、ギターのリズムのタメが、鬱屈した感情と、その解放をあらわしているかのような曲。

 7曲目「Smile Of A Jesus Freak」は、イントロの地を這うようなベース・ラインから始まり、タイトなリズムのギターと、流れるような歌のメロディーが、疾走していく1曲。再生時間0:39あたりからのベースなど、曲を加速させるフックが随所にあります。

 13曲目「They Always Come Back」は、演奏もボーカリゼーションも、パンク色の濃い爽やかな1曲。少なからずメタルやゴシックの要素を感じさせるバンドですが、この曲にはゴシック要素は無く、青空の下で歌い上げるような開放感のあるサウンドとメロディーです。

 1stアルバム時から、2年しか経っていないものの、多数のメンバー交代を経たあとの2ndアルバム。音楽面では、ゴシックとパンクがきちんと消化された上で融合した前作の良さは引き継ぎつつ、今作はより疾走感を重視したアルバムのように感じました。

 「ポスト・ハードコア」という言葉でくくってしまうと、あまりにも言葉の意味が広く、抜け落ちるものが多いですが、様々なジャンルを参照しつつ、自分たちオリジナルの音楽を作りあげるアイ・アム・ゴーストは、まさにポスト・ハードコア的なバンドだと言えるでしょう。

 





I Am Ghost “Lovers’ Requiem” / アイ・アム・ゴースト『ラヴァーズ・レクイエム』


I Am Ghost “Lovers’ Requiem”

アイ・アム・ゴースト 『ラヴァーズ・レクイエム』
発売: 2006年10月10日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Michael “Elvis” Baskette (マイケル・”エルヴィス”・バスケット)

 2004年にカリフォルニア州ロングビーチで結成されたバンド、アイ・アム・ゴーストの1stアルバム。ボーカルを務めるスティーブン・ジュリアーノ(Steven Juliano)が、音楽系SNSのMyspace(マイスペース)を使ってメンバーを募集したというのが、なんとも現代的。

 本作『Lovers’ Requiem』レコーディング時は6人編成で、バイオリンを担当するメンバーが在籍しているのが特徴。正規メンバーにバイオリニストがいることも示唆的ですが、ゴシックな雰囲気が漂い、メタルからの影響を感じさせるテクニカルな部分、ハードコアからの影響を感じさせる疾走感あふれる部分が、絶妙にブレンドされた音楽が展開されます。

 アメリカを代表するパンク系レーベル、エピタフ所属バンドらしいスピード感と、メタルやゴシックの壮大な世界観が、無理なく融合した1作とも言えるでしょう。

 また、前述したバイオリン担当のケリス・テレスタイ(Kerith Telestai)で、コーラスも務めており、男女混声のコーラスワークも音楽に厚みと奥行きを加えています。(ケリス・テレスタイ以外にも、サポートで女性ボーカルを加えているようですが)

 2分足らずのイントロダクション的な1曲目「Crossing The River Styx」は、荘厳なコーラスワークとストリングスが、まさにレクイエムのように響く、神聖な雰囲気の1曲。

 2曲目「Our Friend Lazarus Sleeps」は、流れるようなボーカルのメロディーと、メタル的なテクニカルなギターのアンサンブルが前面に出た、疾走感あふれる曲。再生時間1:41あたりからの、ベースとドラムのみになるところなど、展開もドラマチック。

 6曲目「Of Masques And Martyrs」は、イントロから激しく捻れるようなギターと、バイオリンが絡み合う、壮大な世界観を持った1曲。

 7曲目「Lovers’ Requiem」も、6曲目に引き続き、絡み合うギターとバイオリンが印象的。デスヴォイス的な歌唱と、エモ的な高らかに歌い上げるような歌唱が同居した1曲。

 12曲目「Beyond The Hourglass」は、クリーン・トーンのギターによるメロウなイントロから始まり、疾走感のある轟音のパートへと展開。アルバムの最後にふさわしく、リズムの切り替えなど、多様な展開がある、壮大な1曲です。

 日本盤には、13曲目にボーナス・トラックとして「The Malediction」が、収録されています。

 メタル的な様式美と、ゴシック的な世界観を持ちながら、エモやパンクを彷彿とさせる、ポップで親しみやすい歌メロが共存し、仰々しくなりすぎず、コンパクトにまとまったアルバムだと思います。

 前述したように正規メンバーとしてバイオリンがいるのですが、通しで聴いてみると、そこまで効果的にアクセントになっているわけでも、アンサンブルの中核を担っているわけでもないかな、というのが正直なところ。しかし、バンドとしては、それぞれの音楽的志向を持ち寄り、うまくまとめ上げられたバランスの良い作品であることは確かです。

 





The Offspring “Smash” / オフスプリング『スマッシュ』


The Offspring “Smash”

オフスプリング 『スマッシュ』
発売: 1994年4月8日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Thom Wilson (トム・ウィルソン)

 カリフォルニア州ガーデングローブ出身のパンク・ロックバンド、オフスプリングの3rdアルバム。1994年にロサンゼルスの名門インディペンデント・レーベル、エピタフからリリースされ、現在までに世界中で1400万枚以上を売り上げているモンスター・アルバムです。次作の『Ixnay On The Hombre』から、オフスプリングはメジャー・レーベルのコロンビアへ移籍します。

 僕はある時期まで、こうしたパンク的、メロコア的な音楽を聴いてこなかったのですが、そんな自分の価値観を壊すきっかけとなった1枚が、本作『Smash』です。一度聴いたらすぐにシング・アロングできるぐらいポップなメロディーや、疾走感のある演奏、すべての楽器がパワフルなサウンド・プロダクションなど、フックしかないぐらいのわかりやすい音楽が詰まった1作です。

 ただ、かつての僕は音楽をまともに聴く前から、その「わかりやすさ」を毛嫌いしていた部分がありました。しかし、あるときこのアルバムを聴いた時に、何にやられたかというと、デクスター・ホーランド(Dexter Holland)の声です。演奏もパワフルだし、メロディーも親しみやすいのですが、それ以上に彼の声自体が、耳に残って離れなくなりました。

 「声も楽器だ」という言い回しがありますけど、まさにデクスターの声は、バンドのサウンドの中核を担っていると思います。

 イントロダクション的な役割の1曲目「Time To Relax」に続いて、実質1曲目の「Nitro (Youth Energy)」。イントロから、これぞ90年代パンク!という疾走感あふれる演奏が展開されるんですが、デクスターの伸びやかで、倍音を豊かに含んだような、暖かみのある声が、本当に好きです。

 また、アルバムを通して聴くと、思ったよりも直線的なスピード重視の曲が続くわけではなく、バンドのアンサンブルにも随所に聴きどころがあります。

 今回は自分語りが多くなっていますが、旅行でロサンゼルスを訪れたとき、このアルバムを聴きながら散歩をしてみました。カリフォルニアはとても太陽が高く、大きいのですが、そんな風景と彼らの音楽が見事にマッチして、なるほどこういう場所ではこういう音楽が生まれるのか!と、ひとりで勝手に腑に落ちた思い出があります。