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Electro Group “A New Pacifica” / エレクトロ・グループ『ア・ニュー・パシフィカ』


Electro Group “A New Pacifica”

エレクトロ・グループ 『ア・ニュー・パシフィカ』
発売: 2003年1月1日
レーベル: Omnibus (オムニバス)

 1998年に、カリフォルニア州サクラメントで結成されたバンド、エレクトロ・グループの1stアルバム。

 2ndアルバム『Good Technology』は、シューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからリリースするエレクトロ・グループですが、本作は彼らの地元サクラメントのオムニバスからのリリース。

 エフェクトの深くかかったギターが、厚みのあるサウンドを構築し、浮遊感のある中性的なボーカルがメロディーを紡いでいくバランスは、正しくシューゲイザー的なサウンド・デザインを持ったアルバムです。

 特にギターのサウンドに注目して聴いてみると、毛羽立ったファズ風の歪みから、ギターポップでもおかしくない爽やかなクリーン・トーンまで、曲によって幅広い音作り。

 しかし、アルバムとしての統一感は失わず、コンパクトにまとまったサイケデリックなポップが、詰め込まれています。

 壮大さとキュートさが共存する、30秒ほどのイントロダクション的な「Trigger/Repeat/Hold」からアルバムがスタート。

 2曲目の「La Ballena Alegria」では、異なる音色を持つギターと、ファットなベース、シンプルでタイトなドラムが、サイケデリックなギターポップを展開します。ギターはキラキラした音から、ざらついた耳ざわりの歪みまで、多様なサウンドが用いられ、カラフルな1曲。

 3曲目「If You Could See」でも、イントロから図太いサウンドのベースが、楽曲を先導していきます。冒頭はクリーン・トーンのギターのみ、そこから倍音豊かなディストーション・ギターが加わり、段階的にサウンドが厚みを増していく展開。

 4曲目「Line Of Sight」は、ざらついた質感のギターがアンサンブルを構成するなか、浮遊感のあるささやき系のボーカルが漂います。過度にエフェクターのかかったサウンドの中を、流れるように美しいメロディーが泳いでいくバランスが秀逸。音響を前景化しながら、歌モノのポップスの魅力をそこに同化させていますのが、シューゲイザーの特徴のひとつだと思いますが、そういう意味ではまさにこの曲はシューゲイザー。

 7曲目「Continental」は、オーバーダビングもされているのだと思いますが、ギターが音の壁と呼びたくなる、分厚いサウンドを立ち上げる1曲。硬質かつファットなベースも、楽曲にメリハリをつけ、コントロールする上で大活躍。

 9曲目「Can’t Remember」は、ギターと電子音、ボーカルが穏やかに溶け合う1曲。全ての楽器が柔らかなサウンドを持っており、サックスとオルガンらしき音色が、オーガニックな雰囲気をプラス。しかし、ただ穏やかなだけではなく、コード進行とハーモニーには奇妙な部分もあり、このあたりがシューゲイザー・バンドらしい。

 時にキラキラしていたり、過激なほど歪んでいたりと、派手なギターのサウンドに耳を奪われてしまいがちですが、ベースも楽曲の構造を支える上で、非常に活躍している作品だと思います。

 もし、ベースの音量がもっと控えめであったなら、よりギターのサウンドが前面に出た、音響的なアルバムになっていたはず。ベースがタイトにアンサンブルを引き締め、楽曲の立体感を演出していて、それがこの作品の魅力をひとつ上の段階へ押し上げているんじゃないかと思います。

 





Mates Of State “My Solo Project” / メイツ・オブ・ステイト『マイ・ソロ・プロジェクト』


Mates Of State “My Solo Project”

メイツ・オブ・ステイト 『マイ・ソロ・プロジェクト』
発売: 2000年6月15日
レーベル: Omnibus (オムニバス), Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カンザス州ローレンス出身の夫婦デュオ、メイツ・オブ・ステイトの1stアルバム。2000年にOmnibusというレーベルから発売され、その後2003年にPolyvinylから再発されました。メンバーは、ボーカルとキーボード担当のコリ・ガードナー(コリ・ハメル)と、ボーカルとドラム担当のジェイソン・ハメルの2人。

 ポップだけど、サウンドにはジャンクな雰囲気も併せ持ち、多彩なアンサンブルが展開されるアルバムです。いい意味でラフな部分を残したコーラスワークと、キーボードの音色が印象的。楽曲によって鍵盤を、ピアノであったり、シンセサイザーであったりと、巧みに音色を使い分け、作品に彩りをプラスしています。

 非常にポップなアルバムでもあるのですが、ロック的なグルーヴ感とラフな魅力も同居する、良作だと思います。

 2曲目の「Proofs」は、イントロから空間に滲んでいくようなキーボードの音色と、立体的で臨場感あふれるドラムのバランスが絶妙。その後のラフな雰囲気のコーラスワークも良い。その裏でフリーな雰囲気で弾いているキーボードも良いです。

 この曲は、徳島出身の日本のロックバンド、チャットモンチーがライブのオープニングSEに使用し、「夢みたいだ」というタイトルで日本語詞をつけカバーしたこともあります。(シングル『ハテナ/夢みたいだ』に収録)

 3曲目「What I Could Stand For」。この曲も、キーボードの暖かみのある音色が良いです。リズム隊とキーボードが機能的に絡み合うアンサンブルを構成し、その上にコーラスワークが乗ります。再生時間0:58あたりからのキーボードのフレーズと音色もアクセントになり、楽曲を多彩にしています。

 5曲目「Nice Things That Look Good」は、イントロから、どこかノスタルジックなサウンド・プロダクション。どこまでが生楽器で、どこまでが電子楽器なのか分かりませが、サウンドに統一感があります。歌が入ってきてから、奥の方で小刻みにリズムを刻むドラムも、邪魔をせず控えめにアンサンブルを引き締めています。

 6曲目「A Control Group」は、キーボードの音色がジャンクで、ドラムもパワフル。少し前のめりになるようなグルーヴ感もあり、ロック的なノリの良さがある1曲です。めちゃくちゃかっこいい!

 7曲目「Throw Down」。臨場感のあるドラムのサウンドと、高音域のキーボードのバランスが良く、印象的なイントロ。歌が入ってきてからは、随所にキーボードがフレーズを差し込んでくるのですが、それが全てフックになっています。

 8曲目「I Have Space」は、バンド全体が緩やかに躍動していく1曲。それぞれの楽器が少しずつ推進力を持ち寄るような、有機的で心地よいアンサンブル。再生時間1:17あたりからピアノだけになる部分など、1曲の中でのコントラストもあります。

 9曲目「Everyone Needs An Editor」は、倍音たっぷりのキーボードと、立体的に響くドラムが絡み合い、加速と減速を繰り返す緩急が鮮やかな1曲。

 10曲目「Tan/Black」。この曲もキーボードの音が太めで、倍音たっぷり。再生時間2:10あたりからのキーボードの、音程が狂ったようなアレンジも、アクセントになっていてかっこいいです。

 アルバム全体を通して、キーボードの音が曲によって効果的に選択されていて、楽器の数は少ないのに、多彩な印象を与えるアルバムです。

 少し隙があるというか、ラフな魅力を持ったボーカルとコーラスワークも、楽曲に奥行きをもたらしていると思います。ジャンクな雰囲気や実験性を、違和感なく溶け込ませるセンスも抜群。

 2ピース・バンドってたまにいますけど、このメイツ・オブ・ステイトも大好きです! 同じく2ピースのドードースや、2人体制のチャットモンチーも好きなので、僕は2ピースが好きなのかも。