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TAD “8-Way Santa” / タッド『エイト・ウェイ・サンタ』


TAD “8-Way Santa”

タッド 『8-ウェイ・サンタ』
発売: 1991年1月30日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Butch Vig (ブッチ・ヴィグ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、タッドの2ndアルバム。前作『God’s Balls』に引き続き、サブ・ポップからのリリース。プロデューサーは、ジャック・エンディーノから、ブッチ・ヴィグに代わっています。

 ちなみに、1stアルバムのプロデュースがジャック・エンディーノ、2ndがブッチ・ヴィグというのは、ニルヴァーナと同じですね。さらに余談ですが、ニルヴァーナは3rdアルバム『In Utero』では、スティーヴ・アルビニ、タッドは3rdアルバム『Inhaler』では、ダイナソーJr.のJ・マスシスが、それぞれプロデュースを務めています。

 上記のような共通点もさることながら、ニルヴァーナとほぼ同時期に結成、デビューしたグランジ第一世代と言えるタッド。金属的に歪んだギターによる、うねるようなフレーズを中心にしたアンサンブルと、生々しくアングラ感のあるサウンド・プロダクションは、グランジのステレオタイプにも完全に一致しています。

 ニルヴァーナを筆頭とする初期のグランジ・オルタナ勢は、ダメージ・ジーンズやヨレヨレのTシャツなどラフな格好でステージに立ち、音楽面だけでなくルックスの面でも、80年代に全盛を迎えたMTV向きの華やかな(一部では「商業ロック」とも呼ばれた)バンドに対する強烈なカウンターとなっていました。

 タッドのフロントマンを務めるタッド・ドイル(Tad Doyle)は巨漢を誇り、失礼ですがとてもスタイリッシュとは言えないルックス。巨体を揺らしながら、ギターをかきむしり、シャウト気味に声を絞り出す様は、まさにグランジ的と言えるでしょう。

 1曲目の「Jinx」から、疾走感と捻れの同居する、地下間のある演奏が展開。複数のギターが波のように折り重なりながら、疾走感を生んでいきます。

 2曲目「Giant Killer」は、タイトなアンサンブルと、ジャンクでアングラ臭の漂うボーカルとギター・サウンドが溶け合う、当時の地下のライブハウス(実際に地下室にあるという意味ではなく)の空気がそのままパッケージされたかのような1曲。

 3曲目「Wired God」は、金属的なサウンドのギターと、タイトなリズム隊が、立体的にアンサンブルを構成していく1曲。タイトなアンサンブルから、はみ出すようにフレーズを弾くギターと、シャウト気味のざらついたボーカルが、グランジな空気を演出しています。

 7曲目「Trash Truck」は、はっきりとしたビートを持ち、ギターが捻れながらも疾走していく1曲。ドラムはタイトかつ立体的で、グルーヴ感と疾走感の強化に貢献。

 8曲目「Stumblin’ Man」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、各楽器が回転しながら絡み合うようなアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 10曲目「Candi」は、テンポを落とし、音数も絞り込むことで、沈み込むような重さが表現されています。ボーカルも感情を持たないかのように、淡々とメロディーを紡いでいきます。

 前作『God’s Balls』と比較すると、やや地下感は薄れ、よりソング・ライティングに重きを置いた印象を受けます。その理由は、全体のサウンドはややおとなしく、各楽器の音数も絞り込まれ、歌のメロディーが聞き取りやすいバランスとなっているため。

 とは言え、聴き比べてみても、そこまで音楽性やサウンドが大きく変わっているわけではなく、アンサンブルと作曲がより洗練された、純粋進化と言って良いかと思います。

 グランジ旋風が吹き荒れる当時の時代性も関係しているのでしょうが、この後の3rdアルバム『Inhaler』では、ワーナー・ブラザース傘下のジャイアント・レコード(Giant Records)へ移籍。メジャー・デビューを、果たしています。

 1991年のリリース当初は13曲収録。2016年にリリースされたDeluxe Editionでは、デモ音源など7曲が追加収録され、リマスターも施されています。現在はデジタル配信でも、こちらのDeluxe Editionが入手可能です。

 





TAD “God’s Balls” / タッド『ゴッズ・ボールズ』


TAD “God’s Balls”

タッド 『ゴッズ・ボールズ』
発売: 1989年3月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 ギターとボーカルを務めるタッド・ドイル(Tad Doyle)を中心に、1988年にシアトルで結成されたタッド。

 ニルヴァーナが結成されたのが1987年、1stアルバム『Bleach』が発売されたのが1989年。タッドも彼らと同時期に活動を開始し、グランジ第1世代と言えるバンドのひとつです。

 レーベルはサブ・ポップ、プロデュースを務めるのはジャック・エンディーノと、こちらもニルヴァーナの1stと共通。というより、この時期のシアトルのバンドで、サブ・ポップとジャック・エンディーノに関わっていないバンドを探す方が難しいぐらい、シアトル及びグランジ・シーンの中心だった両者です。(ちょっと言い過ぎかな?)

 世代的には間違いなく、グランジとオルタナティヴ・ロックの第1世代と言える、タッドの1stアルバム『God’s Balls』。音楽的にも、80年代のメイン・ストリームであった煌びやかなロックへの、カウンターとなる音を鳴らしています。

 歪んだギター・サウンドを用いて、リフを中心にアンサンブルを構成していく…と書くと、ハードロックやヘヴィメタルのような印象を持つでしょう。実際、タッドのメンバーも、そうしたジャンルから影響を受けているはず。

 しかし、本作で展開される音楽は、テクニックや様式に重きを置いたヘヴィメタル的な音楽ではなく、よりルーズでアングラ感のあるもの。また、多くの曲でゆったりとしたテンポを採用し、足を引きずるような、重苦しい空気を演出しています。

 『旧約聖書』の『ヨブ記』に出てくる巨獣ベヒモスをタイトルにした、1曲目「Behemoth」から、重く沈み込むようなアンサンブルが展開。テンポは速くないものの、ドラムは地面を揺るがすようにパワフルに響き、ざらついた下品な歪みのギターがリフを刻み、奥の方で鳴るギターのフィードバックは不穏な空気を醸し出します。

 2曲目「Pork Chop」では、唸りをあげるように歪んだ複数のギターが絡み合いながら、楽曲をリードし、アングラ臭を振りまいていきます。シャウト気味ながら、感情を押しつぶしたようなボーカルも、楽曲に重さをプラス。

 5曲目「Sex God Missy (Lumberjack Mix)」は、各楽器とも臨場感あふれる生々しいサウンドでレコーディングされており、ジャック・エンディーノよりもスティーヴ・アルビニ録音の作品を思わせる音像を持った1曲。

 6曲目「Cyanide Bath」は、イントロから金属的な効果音が鳴り響き、ジャンクな雰囲気を持った1曲。ワウのかかった揺れるギター・サウンドも、サイケデリックな空気を演出しており、このバンドの音楽性の奥行きを感じさせます。

 10曲目「Nipple Belt」は、ボーカルも含め、各楽器ともざらついたサウンドを持った、まさにグランジー(薄汚い)なサウンド・プロダクションの1曲。複数の楽器で、同じリズムを重ねる部分が多く、分厚くパワフルな音を響かせます。

 レコードでも発売された当時は、1〜5曲目のA面には「Judas」、6〜10曲目のB面には「Jesus」と、それぞれのサイドにもタイトルがついていました。アルバムのタイトル『God’s Balls』に関連して、それぞれのサイドで対称的なテーマを扱ったということなのでしょうが、冷静に考えると問題になりそうな凄いタイトルです。

 当初は10曲収録でしたが、2016年にはリマスターを施し、3曲を追加収録したDeluxe Editionが発売。現在はこちらのDeluxe Editionが、デジタル配信もされています。

 サブ・ポップで2枚のアルバムをリリースした後、メジャー・レーベルに進出するタッドですが、大きなセールスに恵まれることはなく、1999年に解散。

 日本での知名度も、ニルヴァーナやマッドハニーと比べるとイマイチだと言わざるを得ませんが、1stアルバムである本作『God’s Balls』をあらためて聴くと、ヘヴィメタルのパーツを用いて、飾り気のない、むき出しの音楽を作り出していて、「グランジ」という言葉にぴったりの音楽を鳴らしていたバンドではないかな、と思います。

 ジャック・エンディーノがプロデュースを手がけたサウンドには、当時のシアトルのライブハウスの空気を閉じ込めたような臨場感があり、当時のドキュメントとしても聴く価値ありです。