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Woods “Songs Of Shame” / ウッズ『ソングス・オブ・シェイム』


Woods “Songs Of Shame”

ウッズ 『ソングス・オブ・シェイム』
発売: 2009年4月9日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ギターをはじめ多くの楽器を操るジェレミー・アール(Jeremy Earl)と、ギターのクリスチャン・デロエック(Christian DeRoeck)により、ニューヨーク市ブルックリンで結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの4thアルバム。

 前述のとおり2ピース・バンドとして、スタートしたウッズ。ウッズ・ファミリー・クリープス(Woods Family Creeps)名義でリリースされた、3rdアルバム『Woods Family Creeps』では、クリスチャン・デロエックが脱退、ギターとベースのジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)と、キーボードのG・ルーカス・クレイン(G Lucas Crane)が加入し、3人編成へ。

 本作では、G・ルーカス・クレインが脱退。サポート・メンバーとして、ギターのピート・ノーラン(Pete Nolan)を加えた3人でレコーディングされています。

 ローファイな音質を持っていた2nd『At Rear House』と比較すると、音質は少しだけ向上。フリーク・フォークの文脈で語られることの多いウッズですが、本作でもアコースティックな楽器の響きを用いながら、サイケデリックな世界観を作り上げています。

 そのサイケデリアの要因は、コーラスワークとアンサンブルに聞かれる絶妙な隙。ファルセットを駆使した高音のコーラスワークと、生楽器を基本としたアンサンブルには、どちらにも不安定な部分があり、ローファイ気味のサウンド・プロダクションとも相まって、フォークの枠をはみ出した聴感を生んでいます。

 1曲目の「To Clean」から、ファルセットを用いたコーラスワークと、各楽器ともシンプルな音作りによるアンサンブルが展開。ぴったりとタイトに合わせるのではなく、音程にもリズムにも遊びがあり、ローファイかつサイケデリックな空気を演出しています。

 2曲目「The Hold」は、立体的でトライバルな雰囲気のドラムと、ゆるいギター・サウンド、高音ボーカルが絡み合い、ドラッギーな空気を醸し出す1曲。

 4曲目「September With Pete」。ワウのかかったギターと、このアルバムの中ではソリッドな音質のドラムが、60年代のサイケデリアを思わせる音像を作り上げていきます。しかし、アンサンブルには隙間も多く、いい意味でチープで敷居が低いところも、このバンドらしいバランス感覚。

 5曲目「Down This Road」は、シタールのような艶のあるギターと、金属的なジャラついた耳ざわりのギター、異なるサウンドが混じり合い、非ロック的な空気を持った1曲。土着感と非ロック感が相まって、架空の国の民族音楽のようにも聞こえます。

 6曲目の「Military Madness」は、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(Crosby, Stills, Nash & Young)での活動でも知られる、イングランド出身のシンガー・ソングライター、グラハム・ナッシュ(Graham Nash)の曲のカバー。カバー曲だから、というわけでもないのでしょうが、このアルバムの中では、ビートもメロディーも輪郭がはっきりしており、最もカントリー色の濃い1曲です。

 8曲目「Echo Lake」は、エフェクターやポスト・プロダクションを駆使しているわけではなく、各楽器の音作りはシンプルですが、奇妙な音が飛び交う、アヴァンギャルドな音像を持った曲。ワウのかかったギターが、サウンド面では唯一わかりやすく奇妙ですが、アンサンブルによって、サウンド以上にサイケデリックな空気を生み出しています。

 10曲目「Gypsy Hand」は、ギターとボーカルが流れるように音を刻んでいく、ゆるやかな疾走感に溢れた1曲。高音も駆使したボーカル、単音弾きのギターともに、線の細さを感じる音質ですが、それがちょっとした違和感と親しみやすさとなって、魅力に転化しています。

 「ローファイ・サイケデリック・フォーク」とでも呼びたくなる音楽が、繰り広げられる本作。現代的な輪郭のくっきりしたサウンドと比較すれば、音も細く、音圧も低く、はっきり言って安っぽい音質なのですが、それ心地よくサイケデリックな空気を生み出し、なんとも言えない魅力となっています。

 個人的には、ただ音質を悪くすることを目的としたようなローファイは苦手なのですが、このアルバムのようにチープさが魅力となっているローファイは大好き。「音質が良いって何だろう?」と感じさせてくれる、ローファイのお手本のようなアルバムだと思います。

 





Woods “At Rear House” / ウッズ『アット・リア・ハウス』


Woods “At Rear House”

ウッズ 『アット・リア・ハウス』
発売: 2007年1月16日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)

 ニューヨーク市ブルックリンで2005年に結成されたフォーク・ロック・バンド、ウッズの2ndアルバム。メンバーのジェレミー・アール(Jeremy Earl)が設立したレーベル、ウッドシストからのリリース。

 2018年6月現在、5人編成で活動するウッズですが、元々はジェレミー・アールとクリスチャン・デロエック(Christian DeRoeck)の2ピースから始まったバンドであり、本作リリース時も2人体制です。

 アルバムのタイトルにある「Rear House」とは、後にウッズに正式加入するドラマー、ジャービス・タベニエール(Jarvis Taveniere)が設立した、ブルックリンにあるスタジオの名称。『At Rear House』というタイトルのとおり、本作はこのスタジオでレコーディングされています。

 アコースティック・ギターを中心にしたフォーキーなサウンドを基本にしながら、やや濁りのある音像と、ファルセットを多用したコーラスワークからは、サイケデリックな空気が漂う本作。また、チープでローファイ風のサウンドも、このアルバムの特徴です。

 「フリーク・フォーク」に、カテゴライズされることの多いウッズ。フリーク・フォークとは、サイケデリック・フォークのサブジャンル、あるいは同意語とされるジャンルですが、このアルバムもまさにフリークフォークと呼びたくなる1作です。

 前述したとおり、アコースティック・ギターを中心に据えた、フォークやカントリーに近いサウンドを持った本作ですが、やや奥まったローファイ色のある音質のボーカル、どこか濁りのあるギター、ドラッギーなコーラスワークなど、サイケデリックな要素が満載。

 しかし、わかりやすく不協和音やエフェクターを用いるのではなく、隠し味のように、ほのかにサイケデリックな香りを振りまくところが、このアルバムの魅力となっています。言い換えれば、フォークに近い音像を持ちながら、違和感を忍び込ませ、その違和感が楽曲の奥行きとフックになり、魅力を増しているということ。

 1曲目の「Don’t Pass On Me」から、ドラムとギターによるミニマルかつ立体的なアンサンブルに、裏声を用いたドラッギーなコーラスワークが重なり、サイケデリックな音像を作りあげます。

 2曲目「Hunover」は、流れるように音を紡ぎ出すアコースティック・ギターと、耳元で歌っているかのような音の近いボーカルが絡み合う1曲。ギターはみずみずしく、弾むような音色ですが、ボーカルは前述したとおり、不自然なほど音が近く、濁りの揺らぎのある音質。ローファイな空気を演出します。

 3曲目「Keep It On」は、なにかの儀式で使われるような、酩酊的でトライバルな空気の充満した1曲。高音を用いたコーラスワークが、ますますサイケデリック感を増加させます。

 5曲目「Woods Children, Pt. 2」は、トライバルなドラムと、サンプリングされた声が重なる、アヴァンギャルドな1曲。

 8曲目「Walk The Dogs」は、ローファイでざらついたサウンド・プロダクションと、独り言のようにブツブツと歌う低音域のボーカルからは、アングラ臭が充満。フォーク色は薄く、かなり実験性の強い1曲と言えます。

 9曲目「Love Song For Pigeons」は、不安定な音程のギターのフレーズと、やはり不安定に揺れるボーカルのロングトーン、トライバルなドラムが溶け合う、サイケデリックな1曲。

 10曲目「Bone Tapper」は、先2曲と比較すると、歌のメロディーが前面に出ており、コーラスワークもギターポップを思わせるほどに爽やか。穏やかでポップな耳ざわりの曲ですが、やや揺らぎのあるボーカルからは、ほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 11曲目「Picking Up The Pieces」は、音数を絞ったミニマルなアンサンブルと、鼻歌の延長線上のような、やや不安定なボーカルが合わさり、奇妙な世界観を演出。音は少なく、各楽器のサウンドもシンプルですが、不穏でアヴァンギャルドな空気に溢れています。

 アコースティック・ギターを中心に、各楽器ともサウンドはチープかつシンプルですが、完成された音楽からは、アヴァンギャルドでサイケデリックな空気が漂うアルバム。サウンドではなく、音の組み合わせや揺らぎで、そうした実験的な世界観を作り上げています。

 





Akron/Family “Akron/Family” / アクロン/ファミリー『アクロン/ファミリー』


Akron/Family “Akron/Family”

アクロン/ファミリー 『アクロン/ファミリー』
発売: 2005年3月22日
レーベル: Young God (ヤング・ゴッド)
プロデュース: Michael Gira (マイケル・ジラ)

 「フリーク・フォーク」の文脈で扱われることの多いアクロン/ファミリーの1stアルバムです。フリーク・フォークってなに?という方もいらっしゃるかもしれませんが、サイケデリックな要素を持ったフォーク、と言ったところでしょうか。実際、今回紹介する1stアルバムも、フォーキーなサウンドと、サイケデリックな実験性が融合した1枚です。

 このアルバムをリリースしたのは、スワンズ(Swans)のマイケル・ジラ(Michael Gira)が設立したヤング・ゴッドというレーベルですが、アルバムのプロデューサーもマイケル・ジラが務めています。

 前述したようにフォークやカントリーに近い耳触りのアルバムなのですが、どの曲も少しずつ変な部分を持っていて、聴いているうちに違和感がクセになっていくアルバム。一聴するとカントリーなのに、随所に変な音が入っているアルバムです。

 例えば1曲目「Before And Again」のイントロは、アコースティック・ギターとハミングのようなボーカルで、まさにフォークかカントリーか、という幕開け。でも、再生時間1:10あたりから入ってくる電子音のピポピポしたサウンド。さらに1:36あたりから左チャンネルに入ってくる「ピン」という感じの金属音のようなもの。それらの音が耳に残りつつ、音程的にもサウンド的にも、絶妙にアコースティック・ギターと溶け合ってくるんです。

 2曲目「Suchness」も、イントロからアコギの弾き語りのような演奏。だけど、再生時間0:30あたりから、突然こわれたオモチャみたいな、調子っぱずれのジャンクなサウンドに一変します。このコントラストがたまらない。美しさと違和感が同居したまま進行して、1:51あたりからエレキギターが入ってくると、今度は少し壮大な雰囲気へ。こういう先が読めない展開も、このアルバム及びこのバンドの魅力。

 4曲目「Italy」も、クリーンな音のエレキ・ギターとアコースティック・ギターによるアンサンブルから始まりますが、古い機械のネジを巻くようなギジギジした音も同時に鳴っているし、このままただでは終わらないんだろうなぁ、という期待感を伴って曲が進行します。

 6曲目「Running, Returning」はイントロから、各楽器と音素材をサンプリングして再構築したような奇妙な音像。ポスト・プロダクションを感じさせつつ、音には生楽器感が溢れています。この生楽器を使った臨場感と、ストレンジな編集のバランスが秀逸。再生時間2:33あたりからも、ボーカルが裏声を使ってエモーショナルに旋律を歌うなか、まわりで様々な音が飛び交っています。

 11曲目「Lumen」は、イントロから、バンド感の無い音響的なパートと、アコースティック・ギターの弾き語りによるパートが交互に訪れ、やがて溶け合う1曲。

 フォークやカントリーを基本にしながら、実験性を併せ持った1枚。言い換えれば、カントリーっぽい曲に変な音がいっぱい入った1枚です。

 しかしながら、過激とも言える実験的な音やアレンジが入っているのは事実なのに、全体としては非常に色鮮やかでポップな印象に仕上がっているのも、このアルバムの凄いところ。きっと、実験のための実験に陥るのではなく、あくまでより良い音楽を追い求めた結果だからでしょう。