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They Might Be Giants “They Might Be Giants” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』


They Might Be Giants “They Might Be Giants”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』
発売: 1986年11月4日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 マサチューセッツ州リンカーンで出会い、10代の頃から仲が良かったジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)とジョン・リネル(John Linnell)により結成された2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ。本作は彼らの1stアルバムで、通称「ピンク・アルバム」(The Pink Album)とも呼ばれます。

 また、ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneが契約した2つ目のバンドであり、同レーベル2枚目のアルバムでもあります。(1枚目は、レイジ・トゥ・リブ(Rage To Live)の1stアルバム『Rage To Live』)

 前述したとおり、2人組のバンドであり、レコーディングやライブではサポート・メンバーを迎えることもあるものの、本作ではほとんど全ての楽器を2人で演奏しています。例外は、13曲目の「Boat Of Car」で、マーガレット・セイラー(Margaret Seiler)がリード・ボーカルを、14曲目の「Absolutely Bill’s Mood」では、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーン(Eugene Chadbourne)
がギターを務めています。

 それ以外は、メンバー2人で全ての楽器を担当。本作での主な担当楽器は、フランズバーグが、ギター、ベース、ハーモニカ。リネルが、アコーディオン、キーボード、シンセベース、サックス。作曲とボーカルは2人とも担当し、ドラムとベースは打ち込みも使用されています。

 そんな2人が鳴らすのは、様々な音が散りばめられた、カラフルでポップな音楽。アコーディオンや電子音など、ギター以外の音色が重用され、ややローファイ風味の親しみやすいサウンド・プロダクションも欠点ではなく、魅力に転化してします。

 1曲目「Everything Right Is Wrong Again」から、歪んだギターと、チェンバロのような倍音たっぷりの音色のキーボードが、軽快に疾走する1曲。再生時間0:58あたりからはテンポを落とし、空間系エフェクターのかかったギターがサイケデリックな空気を振りまきます。さらに、再生時間1:40あたりから元のテンポに戻ると、ピコピコ系の電子音が加わって、おもちゃのようなサウンドになり、色鮮やかな展開。

 2曲目「Put Your Hand Inside The Puppet Head」は、ドラムマシーンが刻むタイトなリズムに、テクノポップ的な電子音が絡み合う1曲。軽さを持ったボーカルも、バックのサウンドとマッチしていて、ポップな世界観を作り上げます。

 3曲目「Number Three」は、厚みのあるコーラスワークと、アコースティック・ギターのリズムから、カントリーが感じられる1曲。しかし、良い意味でカントリー色が薄く、ポップ色が色濃く出ています。

 5曲目「Hide Away Folk Family」は、イントロからクリーントーンのギターと、口笛のようなサウンドが響き、ボーカルも穏やかで、牧歌的な雰囲気の1曲。ですが、歌詞をじっくり聞いてみると、「隠れて! さもないと捕まっちゃうよ!」というようなことを歌っていて、ちょっとホラーな内容です。再生時間1:58あたりからハードに歪んだギターが入ってくる部分も象徴的ですが、サウンド的にも歌詞的にも、ちょっとねじれたところがあるのが、このバンドの魅力だと思います。

 8曲目「Rabid Child」は、揺らぎのあるキーボードと、シンセベースと思われる野太いサウンドが、独特の浮遊感あるアンサンブルを構成する1曲。ドラムはイントロからしばらくはシンプルですが、再生時間0:52あたりから立体的にリズムを刻み、アクセントになっています。

 9曲目「Nothing’s Gonna Change My Clothes」は、小刻みにリズムを刻むドラムに、キーボードやギター、ボーカルが立体的に重なり、アンサンブルを作り上げていきます。随所で聞こえるファニーなサウンドも、曲をカラフルに彩っています。

 13曲目「Boat Of Car」には、マーガレット・セイラーがゲスト・ボーカルとして参加。1分ちょっとの短い曲ですが、やや倍音多めのチープなキーボードの音色と、彼女のシリアスなボーカルが、絶妙なバランスで溶け合った1曲です。

 14曲目「Absolutely Bill’s Mood」には、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーンが参加。演劇じみたボーカルに、チャドボーンのフリーなギターが絡み合い、ノー・ウェーブなど、ニューヨークのアンダーグラウンドを思わせる1曲です。

 打ち込みと多重録音を駆使した、2ピースの手作り感あふれる作品です。限られた機材で、一般的な3ピースや4ピース・バンドとは一線を画した、独自のポップな世界観を構築しています。彼らの溢れるクリエイティヴィティが感じられる1作。

 また、ポップなだけではなく、実験性も随所に隠し味のように含まれていて、音楽に深みがあるところも、彼らの魅力だと思います。





Here We Go Magic “Here We Go Magic” / ヒア・ウィ・ゴー・マジック『ヒア・ウィ・ゴー・マジック』


Here We Go Magic “Here We Go Magic”

ヒア・ウィ・ゴー・マジック 『ヒア・ウィ・ゴー・マジック』
発売: 2009年2月17日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 マサチューセッツ州セイラム出身のルーク・テンプル(Luke Temple)を中心に、ニューヨーク市ブルックリンで結成されたバンド、ヒア・ウィ・ゴー・マジックの1stアルバム。今作は、ほとんどルーク自身によって彼の自宅でレコーディングされており、実質的には彼のソロ・アルバムと言うべき内容です。

 ルーク・テンプルのソロ・プロジェクト色の強いバンドであることは事実ですが、9曲目の「Everything’s Big」には、バンドのギタリストであるマイケル・ブロック(Michael Bloch)と、3人のサポート・メンバーが参加しています。

 サウンド・プロダクションの面では、電子的なサウンドと、生楽器のオーガニックなサウンドを組み合わせ、音楽性の面では民族音楽やルーツ・ミュージックを感じさせながら、地に足の着いたコンパクトなインディーロックを響かせています。前述したとおり、ほとんどルーク・テンプル個人による宅録ではありますが、あまり箱庭感や閉塞感はなく、確かに言われてみれば、誰かの頭の中のアイデアを覗いている感覚があるかも、といった印象。

 ちなみに使用した機材は、4トラックのレコーダー、マイク、シンセサイザー、アコースティック・ギター、タム。マイクは1本、タムは1台のみで、ベースはシンセを使用して補ったとのこと。実際に聴いていただくのが一番早いのですが、こんな限られた機材でも、十分に音楽が作れるんだと、感じさせてくれるアルバムでもあります。

 1曲目「Only Pieces」は、電子的な音色のビートが刻まれますが、リズム構造にはトライバルな雰囲気。途中から導入されるアコースティック・ギターが、曲にウォームな雰囲気を加えています。

 2曲目「Fangela」は、奥まった音質のアコースティック・ギターと、トライバルなリズム、浮遊感のあるボーカルが合わさる1曲。ギターとシンセを追いかけるようにタムがリズムが刻み、その上を漂うようにボーカルがメロディーを紡ぐ、立体感のあるサウンド。

 3曲目「Ahab」は、立体的に響くギターとドラムに、エレクトロニックな持続音と、ドリーミーなボーカルが重なる1曲。ギターはかなり耳に近い位置で鳴り、ドラムは低音が効いていて、下から響きます。

 4曲目「Tunnelvision」は、軽やかでノリがいいリズムを持つ1曲。爽やかなギターが前面に出たサウンド・プロダクションですが、ギターポップ的というよりも、ギターもパーツとして組み上げられたような、ポスト・プロダクションを感じさせるバランス。

 5曲目「Ghost List」は、はっきりとしたビートやメロディーが無く、アンビエントな1曲。シンセサイザーの音が、波のように空間に広がっていきます。

 6曲目「I Just Want To See You Underwater」は、イントロから細かい電子音が鳴り響き、徐々に音が増殖していく1曲。それに比例して、ミニマルなサウンドから、バンド的な躍動感も増していきます。

 8曲目「Nat’s Alien」は、ノイズ的な電子音が響く、アンビエントな音像を持った曲。しかし、いくつかの音が重なり、アンサンブルのようなものが見え隠れして、音楽的に聞こえてくるから不思議。これは、僕がわかりやすい音楽的な要素を探りながら聴いているせいかもしれませんが。

 9曲目「Everything’s Big」は、前述したとおりルーク・テンプル1人ではなく、バンドによる演奏。その予備知識が持たずに聴いたとしても、ここまでとの耳ざわりの差異にすぐ気づくと思います。シンセサイザーによる電子音がヴェールのように全体を包むのではなく、5人が奏でる楽器と声によって、隙間も目立つ演奏。

 これまでの楽曲が冷たいというわけではありませんが、アコースティック・ギターとピアノの音色が、とてもウォームに感じられます。ボーカルも牧歌的に響く、カントリー色の強い1曲。

 最後の9曲目以外は、ルーク・テンプルが1人で作り上げた作品ですが、彼の才能と音楽性の広さを感じる1枚です。サウンドは確かに、ローファイとは言わないまでも、現代的なハイファイ・サウンドからすると、やや輪郭のぼやけた奥まった音質。しかし、それが楽曲から伝わる音楽的アイデアを曇らせているかというと、そんなことはなく、シンセの持続音やドラムのわかりやすいリズムをうまく用いて、気にならないように音楽を作り上げていると思います。

 ローファイ気味の音質を魅力に転化しているとまでは言いませんが、やや貧弱な音質を逆手にとってサイケデリックな空気を振りまいていて、このあたりにもルーク・テンプルという人の才能を感じますね。

 





Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String” / ビショップ・アレン『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』


Bishop Allen “Bishop Allen & The Broken String”

ビショップ・アレン 『ビショップ・アレン・アンド・ザ・ブロークン・ストリング』
発売: 2007年7月24日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの2ndアルバムです。

 個人的に大好きなバンド、ビショップ・アレン。彼らの魅力は、楽曲もサウンドもポップで親しみやすいのに、アンサンブルは立体的でグルーヴ感も抜群なところ。

 本作も曲によってキュートだったり、ローファイ風だったり、カラフルなサウンドと共に躍動感あふれるバンド・サウンドを響かせています。

 2曲目「Rain」は、テンポも速めで、疾走感のある1曲。ドラムのドタバタ感が絶妙にローファイの香りを漂わせていて良い。各楽器のリズムの組み合わせで、加速感を出していて、本当に素晴らしいアンサンブル。エレキ・ギターは、音作りもフレーズもシンプルなのに、いちいち耳に残ってしまう。

 3曲目「Click, Click, Click, Click」は、アコースティック・ギターのアルペジオから始まり、徐々に音が増えていく展開。再生時間1:05あたりからフルバンドになり、いきいきと躍動を始めるところのコントラストも秀逸。

 このバンドは、本当にムダな音を使わず、鮮やかにコントラストや疾走感、躍動感を演出できるバンドだと思います。言い換えれば、引き算のできるバンド。再生時間1:51あたりから、もう一段シフトが上がるところも、カッコ良すぎて泣ける。

 6曲目「Like Castanets」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、音色的にはカントリーに近いのですが、パーカッションやトランペットが曲に色彩を足し、彼ら特有のポップスに仕上がっています。この曲もアンサンブルが素晴らしい。

 10曲目「Middle Management」は、歪んだエレキ・ギターとパワフルなドラムが、ハイテンポで駆け抜けていく、ガレージ風味のロックな1曲。とはいえ、このバンドが持つポップでカラフルな魅力は、全く損なわれていません。

 今作も本当に素晴らしいアルバムです。カントリーやガレージを感じさせる要素もありながら、決して特定のジャンルに染まることはなく、オリジナリティを保ったまま、カラフルなサウンドと、躍動感あふれるアンサンブルを響かせます。

 このアルバムを含めて、ビショップ・アレンの作品は全て高いクオリティを保っていると思います。個人的に、心からオススメしたいバンド。

 





Bishop Allen “Grrr…” / ビショップ・アレン『Grrr…』


Bishop Allen “Grrr…”

ビショップ・アレン 『Grrr…』
発売: 2009年3月10日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 ニューヨーク市ブルックリン出身のバンド、ビショップ・アレンの3rdアルバムです。

 日本での知名度はいまいちですが、僕はこのバンドがめちゃくちゃ好きなんです。彼らの魅力を一言であらわすと、楽曲とサウンド・プロダクションはポップでカラフル、アンサンブルは立体的で躍動感とグルーヴ感もある、本当に聴きどころばかりの素晴らしい音楽をクリエイトし続けています。(一言で終わらなかった…)

 本作『Grrr…』も、キュートでカラフルな極上のポップスでありながら、アレンジやサウンドには実験的な要素もあり、素晴らしいバランス感覚で作られたアルバムです。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がありますが、本作はまさにおもちゃ箱をひっくり返したように、煩雑かつカラフルで、子供のおもちゃ箱だと思っていたら、ガチなモデルガンとか鉄道模型も出てきた!みたいなアルバムです。

 1曲目「Dimmer」では、耳元で歌っているかのような音のボーカルに、次々と楽器が加わり、立体的でグルーヴ感あふれるアンサンブルが展開されます。再生時間1:20からの、バンド全体で前進していくような、各楽器が絡み合い、追い越し合うようなリズム・デザインもたまらない。再生時間1:58あたりからの展開も、コントラストを演出していて、楽曲の世界観を著しく広げています。

 2曲目「The Lion & The Teacup」は、イントロから徐々に楽器が増加し、それに比例してリズムが立体的になっていく展開が心地よい1曲。

 5曲目「Oklahoma」は、ギターポップのようなカラフルで甘い耳ざわりのサウンド。ですが、アンサンブルはちょっと複雑で、歌メロ以外の部分にも聴きごたえがあります。このあたりのバランス感覚とポップ・センスには脱帽。

 9曲目の「Shanghaied」は、本作のベスト・トラックです。わずか2分30秒の間に、多種多様な楽器が使われ、サウンドも色彩豊かなのですが、ムダな音がひとつも無い。フックだらけの音楽。

 イントロのドタバタした感じのドラムもいいし、アコギの音とリズムもいい。そのあとに入ってくる「ラーララー…」というコーラスも、その裏で鳴っているマレット系の打楽器の音も、有機的にアンサンブルを構成していて、音楽がいきいきと躍動しています。

 この曲は、エレキ・ギターの音も最高。アンプ直で音作りしたような、シンプルなサウンドですが、ところどころに入ってくるフレーズがアクセントになっていて、耳に残ります。再生時間1;50あたりでは「ジャーン」って弾いただけなのに、この上なくテンションが上がります。

 アルバムを通して聴いても、本当にポップで、奥が深く、長く付き合える素晴らしい1枚だと思います。心からオススメしたい作品です。

 ピッチフォークのレビューでは、10点満点で3.5という低評価。ですが、僕の評価だと、9.2ぐらいはつけたい名盤です!

 残念ながら、このアルバムは今のところデジタル配信されていないようです…。ビショップ・アレンの他のアルバムは配信されてるのに…。





Dirty Projectors “Rise Above” / ダーティー・プロジェクターズ『ライズ・アバヴ』


Dirty Projectors “Rise Above”

ダーティー・プロジェクターズ 『ライズ・アバヴ』
発売: 2007年9月11日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデュース: Chris Taylor (クリス・テイラー)

 ニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動するバンド、ダーティー・プロジェクターズの5枚目のアルバムです。

 本作は、ハードコア・パンクのレジェンド、ブラック・フラッグ(Black Flag)のアルバム『Damaged』を、バンドのリーダーであるデイヴィッド・ロングストレス(David Longstreth)が再解釈する、というコンセプト・アルバム。

 デイヴィッドは15年間『Damaged』を聴いておらず、記憶だけを頼りに解釈を試みています。本作のタイトル『Rise Above』は、ブラック・フラッグ『Damaged』の1曲目のトラック・タイトルです。

 そんな情報を抜きにして音楽のみを評価しても、カラフルかつエキセントリック、実験性とポップセンスが高度に融合したアルバムになっています。

 「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容することがありますが、このアルバムはまさにそれ。次々と楽しく奇妙な音が飛び出してきます。

 1曲目「What I See」から、早速おもちゃのようなチープでかわいらしいサウンド。バンド全体の音が、トイピアノのような質感をもっています。再生時間1:35からのジャンクでノイジーな展開も最高。

 2曲目の「No More」は、ゆったりしたドラムのイントロから、隙間の多いアンサンブルのなかをボーカルが漂う1曲。ボーカルはローファイな響きもありながらエモーショナル。

 4曲目の「Six Pack」は、イントロのヴァイオリンが印象的。加速と減速を繰り返し、展開がめまぐるしい1曲。しかし難解な印象はなく、ポップでかわいい曲です。こういうセンスが抜群。

 サイケデリックと呼ぶには親しみやすい、ローファイやジャンクと呼ぶにはカラフル過ぎる、極上のポップアルバム。サウンド的には、クリーントーンのギターが多用され、ギターポップに近い耳ざわりですが、アレンジはより実験的。

 前述したとおり、ブラック・フラッグのアルバムの再現ということになっていますが、原曲と比較してどうこうというより、このアルバム単体で楽しめる作品です。

 ブラック・フラッグがきっかけや動機付けとして機能したのは事実なんでしょうが、とにかくこのバンドのポップ・センスが浮き彫りになる1枚。デイヴィッド・ロングストレスは、本当に天才!

 こちらの作品は、現在のところデジタル配信はされていないようです…。