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Bad Brains “I Against I” / バッド・ブレインズ『アイ・アゲインスト・アイ』


Bad Brains “I Against I”

バッド・ブレインズ 『アイ・アゲインスト・アイ』
発売: 1986年11月16日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Ron Saint Germain (ロン・セイント・ジャーメイン)

 ワシントンD.C.出身のバンド、バッド・ブレインズの3枚目のアルバムです。

 レゲエやファンクやハードコアを融合し、ミクスチャー・ロックの先駆とも言われるバッド・ブレインズ。本作も、雑多なジャンルが融合し、彼らのグルーヴ感とオリジナリティ溢れるアルバムになっています。ちなみにメンバーは4人とも、アフリカン・アメリカンです。

 本作『I Against I』以前の2作では、ハイテンポのハードコア的な曲や、レゲエ色の強い曲など、ジャンルのカラーがわかりやすい楽曲が多かったのですが、3作目となる本作では、各ジャンルがより有機的に混じり合い、音楽性の成熟を感じさせるところもあります。

 2曲目「I Against I」は、イントロからやや金属的なサウンドのギターを先頭に、疾走感あふれる1曲。イントロの速弾きにはメタルを感じさせ、バンドが塊となって加速するところからはハードコアの香りがします。

 さらに歌メロは、ラップのように早口で音程が希薄な部分と、ライブではシングアロングが起こりそうなメロディアスな部分が共生。再生時間0:37あたりで、バンド全体のリズムが切り替わる部分もあり、目まぐるしく多彩な展開のある1曲です。

 5曲目の「Secret 77」は、立体的なアンサンブルが響き渡る1曲。80年代の録音なので、音に若干の古さというか、時代感がありますが、今聴いても十分に刺激的。当時のディスコやファンクに近い耳ざわりもありながら、ハードコアのストイシズムも滲み出ています。

 6曲目「Let Me Help」は、切れ味鋭いギターと、ファットなベースの音、シンプルでタイトなドラムが、グルーヴしながら疾走するハードコア色の濃い1曲。ボーカルがシャウト一辺倒ではなく、ハードコアくさくなりすぎないバランス感覚も秀逸。

 1986年リリースの本作、今聴いてもオリジナリティに溢れ、単純にかっこいい1枚です。前述したとおり、多種多様なジャンルのパーツが見え隠れするアルバムなんですけど、散漫な印象や、無理やり感が全く出てこないのが、彼らの凄いところだと思います。

 僕も世代的に全くの後追いですし、最近はバッド・ブレインズを知らない、聴いたことがない、という方も多いと思います。でも、レゲエやハードコアやファンクやメタルが融合したクールなバンドとして、いま聴いても十分にかっこいいですよ。

 





Fugazi “Red Medicine” / フガジ『レッド・メディスン』


Fugazi “Red Medicine”

フガジ 『レッド・メディスン』
発売: 1995年6月12日
レーベル: Dischord (ディスコード)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの4枚目のスタジオ・アルバムです。

 フガジのアルバムは安定してクオリティが高いのですが、本作『Red Medicine』も例外ではありません。生々しく、切れ味鋭いサウンド・プロダクションと、タイトに絞り込まれたグルーヴ感抜群のアンサンブルは、この作品にも健在。

 1曲目の「Do You Like Me」のイントロから、ノイジーでざらついた質感のギターが響き渡ります。このままノイズをかき鳴らすイントロダクション的な1曲かと思いきや、再生時間0:53あたりから、突然バンドのタイトなアンサンブルがスタート。十分にかっこいい曲ですが、バンドもボーカルも、まだ1曲目でやや抑え気味の印象。

 2曲目「Bed For The Scraping」は、イントロの硬質なサウンドのベースに、まず耳を奪われます。ドラムも臨場感あふれる音質でレコーディングされており、迫力満点。イアン・マッケイのボーカルも、聴いていて怖くなるぐらいのテンションです。

 この曲は、ギターのサウンドが特にすばらしい。音圧が特別高いというわけではないのに、独特の倍音を含んだ広がりのあるサウンドで、バンド全体の音を華やかに彩っています。再生時間0:29あたりからの短い間奏は、シンプルなフレーズを繰り返しているだけなのに、それだけで成立する説得力があります。

 4曲目の「Birthday Pony」は、アングラ臭の充満するイントロから、轟音ギターをトリガーにして、音数を絞り、緊張感とスリルを演出するようなアンサンブルが展開されます。

 8曲目「By You」は、静かなサウンドの各楽器が絡み合うアンサンブルからスタートし、轟音に切り替わるコントラストが鮮烈。ノイジーに弾きまくるギターに、グルーヴしながらタイトにリズムを刻むリズム隊、感情を抑えたボーカルのバランスも、絶妙な1曲。直線的に突っ走るだけではなく、一歩引いたアレンジで、多様なエモーションを描くところもフガジの魅力です。

 10曲目「Target」は、フガジにしてはポップで聴きやすい1曲。他の曲がポップではない、というわけではありませんが、この曲は切迫感や爆発的なエモーションは抑え目に、歌メロがやや前景化していると思います。とはいえ、フガジらしい機能的でグル―ヴィーなアンサンブルは健在。

 フガジのアルバム全般に言えることですが、まず各楽器のサウンドとボーカルの声が素晴らしいです。前述したようにギターの音を例にとっても、エフェクターでゴージャスに音作りしたサウンドとは一線を画す、生々しく鬼気迫るサウンドをしています。

 臨場感あふれる各楽器のサウンドが、立体感のある無駄のないバンド・アンサンブルを展開していきます。さらに、そのバンドと共に、エモーションを振る絞るイアン・マッケイのボーカル。全ての音が耳と心に突き刺さるような、切れ味鋭いアルバムだと思います。

 





El Guapo “The Phenomenon Of Renewal” / エル・グアポ『ザ・フェノミナン・オブ・リニューアル』


El Guapo “The Phenomenon Of Renewal”

エル・グアポ 『ザ・フェノミナン・オブ・リニューアル』
発売: 1998年
レーベル: Resin Records (レズン・レコード)

 ワシントンD.C.出身のバンド、エル・グアポの2ndアルバム。このバンドは、後にディスコード、さらにバンド名をスーパーシステムへ変更したのちタッチ・アンド・ゴーと契約しますが、本作はResin Recordsというレーベルから発売されています。

 音には若干のローファイ感が漂い、アンサンブルにも隙間が多いのですが、不思議とスカスカには感じないアルバム。おそらくその理由は、アンサンブルをかっちりタイトに合わせず、適度にラフさがあるからじゃないかなと思います。聴き込んでいくと、適度にやっているわけじゃなく、かなりのスキルを持ったメンバーたちだな、ということもわかります。

 しかも、そのラフさがグルーヴ感や疾走感を生み、欠点ではなく、あきらかに魅力になっています。阿吽の呼吸という言葉がありますが、演奏からバンド全体の一体感あるテンションが伝わってきて、メンバーたちは音楽を通して高度なコミュニケーションを楽しんでいるのかな、とさえ思わせます。

 2曲目「Eighteen Benedictions」は、各楽器がバラバラなようで、複雑に絡み合う1曲。どこまできっちり決めているのか分かりませんが、加速と減速を繰り返すアレンジがクール。荒削りな部分と、ピタリと合わせる部分のバランスが抜群に良いです。

 3曲目「Delia Had A Sickness」は、音数の少ないイントロから、次第に音が増えていき、加速していく展開。各楽器のサウンドは全てシンプルなのに、これしかない!というかっこよさ。

 4曲目「About Two Dreams」は、リズムがやや複雑な1曲。痙攣するように小刻みなドラムに、徐々にギターとベースが絡まり、加速していきます。

 6曲目「An Opener Of Doors: A Friend Of GM Flash」は、サウンドもアンサンブルも立体的。終盤はカオスな展開で、これもめちゃくちゃかっこいい!

 10曲目「Symbol / Object」は、タイトに複雑なリズムを刻むドラムに、ノイジーなギターと、ロングトーンをいかしたベースが重なる1曲。三者がバラバラなようで、絶妙なバランスのアンサンブルが構成されていきます。

 シンプルさと複雑さのバランスが絶妙なアルバムです。音数を絞ったミニマルな部分と、三者が絡み合い複雑なアンサンブルを構成する部分とのコントラストが鮮烈。

 また、生々しく飾り気のないサウンド・プロダクションも、単純にかっこよく、演奏を前景化させる効果もあると思います。

 このアルバムをリリースしたResin Recordsというレーベル、僕は全く知らなかったのですが、1997年から2000年ぐらいのごく短い期間だけ活動していたレーベルのようです。

 





Fugazi “In On The Kill Taker” / フガジ『イン・オン・ザ・キル・テイカー』


Fugazi “In On The Kill Taker”

フガジ 『イン・オン・ザ・キル・テイカー』
発売: 1993年6月30日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ted Niceley (テッド・ニスリー)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの3枚目のスタジオ・アルバムです。

 世代的にこのアルバムを聴いたのはリアルタイムではありません。これは僕の個人的な嗜好の話ですが、アメリカのインディーズを意識的に聴き始めたころ、ソニック・ユースやアニマル・コレクティブなど分かりやすくアート性を持ったバンドが好きで、ある時期までハードコアというジャンルに偏見があり、自分には必要ない音楽なんだろうと思い込んでいました。

 そんな意識を一変させ、「ディスコード」というレーベルのマークを、光り輝くメダルに見えるぐらいの変化をもたらしてくれたのが、フガジであり、このバンドを率いるイアン・マッケイ先生です。

 前口上が長くなりましたが、フガジのアルバムはどれも好きです。今作が特に好き、というわけではないですが、自分が初めて聴いたアルバムということで、思い入れはあります。

 ハードコアというとパワーコードを多用した速さを競うようなジャンルだという先入観があったのですが、まず今作は速さを追求したアルバムではありません。代わりに、音数を絞ったタイトで機能的なアンサンブルが、残響音まで聞こえるぐらい生々しく臨場感のあるサウンドで、展開されています。

 1曲目は「Facet Squared」。一聴すると、各楽器のサウンドもフレーズもシンプルで、すぐに耳コピできそうな曲に聞こえますが、とにかく迫力とコントラストが鮮烈で、かっこいい1曲。イントロのギターは単音を弾いているだけなのに、なんでこんなにかっこいいんだろう。

 再生時間0:47あたりからの、切れ味鋭いギターのサウンドも、鳥肌ものです。もっと音圧の高い、迫力のあるギター・サウンドっていくらでもあると思うんですが、シンプルに歪ませた音でジャカジャカとコードを弾いているだけなのに、これ以上ないぐらいの迫力。ロックのエキサイトメントを凝縮して抽出したような、純度の高さを感じる1曲。イアン・マッケイ先生のボーカルにも、鬼気迫るものがあります。。

 2曲目「Public Witness Program」は、テンション高く疾走する1曲。すべての楽器の音が硬質で、全体のサウンド・プロダクションにも、独特のざらついた質感があります。

 5曲目の「Rend It」は、イントロからバンドが塊になって聴き手に迫ってくる1曲。静寂と轟音のコントラストも鮮烈です。

 6曲目「23 Beats Off」は、6分を超えるアンサンブル重視の1曲。1曲の中でのギターのサウンド、全体の音量のレンジが広く、展開も多彩。

 アルバムを通して、臨場感のある生々しいサウンドと、エモーション溢れる演奏が、充満した1枚です。ボーカルの歌唱からも、もちろんエモーションが溢れていて迫力満点ですが、この作品の優れたところは、各楽器の音にも、怒りや苛立ちといった感情があらわれ、聴き手に迫ってくるところです。

 フガジのアルバムはどれも素晴らしい完成度で、この作品も安心してオススメできる1作です。

 





Fugazi “The Argument” / フガジ『ジ・アーギュメント』


Fugazi “The Argument”

フガジ 『ジ・アーギュメント』
発売: 2001年10月16日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 ワシントンD.C.で結成されたバンド、フガジの6枚目のスタジオ・アルバムであり、現在のところ最後のアルバムです。

 フガジのアルバムからは、常にストイックな空気が漂います。サウンドとアレンジの両面において、無駄を極限まで削ぎ落とした、むき出しの音を発しているのがその理由と言えるでしょう。

 シングアロングできるメロコアが持つ爽快感や、スピード重視のハードコアが持つ疾走感とは、全く異質の魅力が本作『The Argument』、そしてフガジの音楽にはあります。(メロコアやハードコアが劣っている、という意味ではありません。念のため。)

 前述したとおり、とにかくストイック。切れ味鋭いむき出しの音が、こちらに迫ってくるアルバムです。圧倒的に音圧や音量が高いというわけではないのに、臨場感あふれる鬼気迫るサウンドが、充満したアルバムです。

 2曲目「Cashout」は、アンビエントなイントロから始まり、再生時間0:53から混じり気のない音色のドラムとギターが、響きわたります。前半は感情を抑えたように淡々と進み、再生時間2:55あたりからエモーションが爆発。3:13あたりから始まるサビでの、イアン・マッケイのボーカルは鳥肌ものです。

 3曲目「Full Disclosure」は、役割のはっきりした2本のギター、硬質なベース、臨場感あふれるドラム、感情むき出しのボーカル、その全ての音が生々しく、かっこいい1曲。

 8曲目の「Oh」は、ざらついた音色のギターとベースが、複雑に絡み合う1曲。

 9曲目「Ex-Spectator」は、イントロからドラムの立体的な音像がかっこいいです。ボーカルが入るまでのイントロが1分ぐらいありますが、いつまでも聴いていたいぐらいアンサンブルが良い。しかし、イアン・マッケイ先生のボーカルがこれまた良い!

 再生時間1:42あたりからの間奏も、立体的なアンサンブルが非常にかっこいいです。4分20秒ぐらいの曲ですので、まずは黙ってこの曲を聴いてください!と言いたくなるレベルの楽曲です。

 アルバムを通して聴いてみると、音を絞ることで緊張感を演出し、いざ音が鳴らされたときの迫力を増幅させていると感じました。

 また、フガジのアルバムの中でも、特に間を大切にしたアルバムであるとも思います。フガジのアルバムは、どれもクオリティ高く良盤揃い。この作品が、今のところラストなのが残念です。