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The Evens “Get Evens” / イーヴンス『ゲット・イーヴンス』


The Evens “Get Evens”

イーヴンス 『ゲット・イーヴンス』
発売: 2006年11月6日
レーベル: Dischord (ディスコード)

 フガジやマイナー・スレットでの活動で知られるイアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、元ウォーマーズ(The Warmers)のエイミー・ファリーナ(Amy Farina)からなる2ピース・バンド、イーヴンスの2ndアルバム。前作に引き続き、イアン・マッケイが設立した、ワシントンD.C.を代表するレーベル、ディスコードからのリリース。

 ハードコアのイメージが強いディスコードですが、1stアルバムである前作『The Evens』は、歪みや音圧に頼らないシンプルな音作りで、音数も絞り、ストイックにアンサンブルを作り上げた作品でした。2枚目となる本作でも、基本的な方向性は変わっていません。

 異なっている点を挙げるなら、サウンド的にもアンサンブルの面でも穏やかだった前作と比較すると、音数が増え、サウンドもソリッドになったことでしょうか。しかし、エフェクターには頼らず、シンプルな音作りであることには変わりありません。

 1曲目「Cut From The Cloth」は、細かくリズムを刻むドラムと、アンプ直結と思われるギターが、共にシンプルな音作りながら、パワフルに響き渡る1曲。シンプルで飾り気のないサウンドだからこそ、パワフルで臨場感を持って響くと言うべきかもしれません。再生時間2:35あたりからのギターのみのパートも、風景を変えます。

 2曲目「Everybody Knows」は、ギターとドラムが絡み合いながら、小気味よいリズムを刻んでいく1曲。ややテンポが速めの曲ですが、疾走感よりも縦のリズムの立体感の方が際立つアレンジです。

 3曲目「Cache Is Empty」は、音数が少なめですが、奥行きのあるアンサンブルが展開される1曲。ドラムにもギターにも、無駄な音が無く、機能的に奥行きのある演奏が展開します。流れるように自然で、ドタバタしたサウンドのドラムが心地よいです。

 4曲目「You Fell Down」は、ギターのコード・ストロークが空間を埋め、重心を低くしたドラムがリズムを刻む1曲。役割がはっきりしており、楽器は2つしか使用されていないのに、厚みのあるアンサンブルを展開します。

 6曲目「No Money」は、ギターもドラムもせわしなくリズムを刻む1曲。ドラムはタイトかつメリハリがあり、楽曲をひときわ立体的にしています。

 9曲目「Get Even」は、コード弾きと単音弾きを織り交ぜた疾走感のあるギターと、シンプルにリズムを刻みながら、随所にフックを作るドラムが、グルーヴ感あふれる演奏をくり広げる1曲。

 10曲目「Dinner With The President」は、タイトルからも想像できるように、シニカルな歌詞を持った1曲。「私と彼らの世界観には存在しないようだ」という一節が象徴的ですが、自分と大統領の価値観の違いを、軽快なテンポに乗せて歌っていきます。ゆるやかにグルーヴしながら疾走していく演奏にも、聴きごたえがあります。

 本作と比較すると、前作のサウンド・プロダクションは柔らかく、ローファイの要素が強かったことがわかります。本作のサウンドの方がパワフルで、ヘッドホンで聴くと音が近いところで鳴っています。

 空間の広さという点では、前作の方が広々と空間を感じられるサウンドでしたが、本作の方がスタジオで彼らの音を聴いているような臨場感があります。

 演奏の面では、2人の作り上げるグルーヴ感と躍動感、そしてコーラスワークは非常に完成度が高く、一般的なバンドと比べれば音数は少ないのに、聴くべき情報量は多い作品であると思います。歌詞にも演奏にも深みがあり、とても聴きごたえのあるアルバムです。

 





The Evens “The Evens”/ イーヴンス『イーヴンス』


The Evens “The Evens”

イーヴンス 『イーヴンス』
発売: 2005年3月7日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 イアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、元ウォーマーズ(The Warmers)のエイミー・ファリーナ(Amy Farina)による2ピース・バンド、イーヴンスの1stアルバム。担当楽器はイアンがギター、エイミーがドラム。イアン・マッケイが設立した、ワシントンD.C.の名門レーベル、ディスコードからのリリース。

 ギターとドラムのみのミニマル編成のバンドですが、揺らぎとグルーヴのある立体的なアンサンブルが構成されるアルバムです。楽器の数が絞られることで、2人の穏やかな歌唱が前景化し、ひとつひとつの音と言葉が非常にソリッドに感じられます。このように音楽が濃密に感じられるのが、2ピースの魅力的なところ。

 ディスコードの創始者の1人であり、ワシントンD.C.のハードコア・シーンの中心的人物のイアン・マッケイですが、本作ではギターもボーカルも、サウンド的には穏やか。

 1曲目「Shelter Two」は、ギターのみのシンプルなイントロから、ドラムと共に徐々に躍動感を増していく1曲。速度や音圧に頼らず、シンプルな音作りで、手数と演奏の強弱だけで、盛り上がりを演出しています。立体的なアンサンブルと、2人のコーラスワークも息がぴったりで、魅力的。

 2曲目「Around The Corner」は、左右から交互にはずむように響くギターと、ゆったりとタメを作ったドラムが、奥行きのある立体的なサウンドを作り上げる1曲。音数が少ないのに、いや少ないからこそ、空間の広がりが感じられるサウンド・プロダクションです。

 3曲目「All These Governors」は、シニカルの歌詞が印象的。「うまくいくはずの時にも、うまくいかない。それがこいつら(these governors)のやり方さ。」と、ワシントンD.C.の各種長官を皮肉るような歌詞です。演奏も、シンプルで飾りかのない音作りながら、疾走感があり、そのむき出しのサウンドが、より一層シニカルな態度を浮き彫りにしています。

 4曲目「Crude Bomb」は、手数が多く、回転するような立体的なドラムに、やや歪んだ流れるようなギターが絡む1曲。歌が入ってきてからの、ドラムのキックも加速感を演出しており、躍動感がある曲です。

 8曲目「If It’s Water」は、繰り返されるギターのフレーズと、手数を絞ったシンプルなドラムが重なる1曲。ぴったりと合わさるわけではなく、適度にラフな部分があり、グルーヴと躍動感を生み出しています。

 11曲目「Minding Ones Business」は、ギターもドラムも低音域を用いた、重心の低いサウンド・プロダクション。2人のボーカルも、メロディーを歌うというよりも、呪術的な雰囲気で言葉を発しており、サイケデリックかつアンダーグラウンドな空気が漂います。

 激しく歪んだギターや、音圧の高いドラムには頼らず、シンプルな音作りながら、立体的なアンサンブルが展開され、非常に情報量の多さを感じるアルバムです。個人的には、こういう作品は大好き!

 ローファイというわけではありませんが、ギターもドラムも飾り気のないむき出しの音色で、アンサンブルの面でも音数を絞った、ミニマルでストイックな音楽が展開されます。

 また、歌詞もシニカルなものが多く、フガジやマイナー・スレットとは音楽的には異質ですが、こちらもパンク精神を多分に持ったバンドだと思います。





Nation Of Ulysses “Plays Pretty For Baby” / ネイション・オブ・ユリシーズ『プレイズ・プリティ・フォー・ベイビー』


Nation Of Ulysses “Plays Pretty For Baby”

ネイション・オブ・ユリシーズ 『プレイズ・プリティ・フォー・ベイビー』
発売: 1992年10月6日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 ネイション・オブ・ユリシーズの2ndアルバムであり、解散前にリリースされた最後のスタジオ・アルバム。本作『Plays Pretty For Baby』が発売された1992年にバンドは解散しますが、当時3rdアルバムを製作中であり、解散から8年後の2000年に、3rdアルバム用に完成していた6曲にライブ・トラックを加え、『The Embassy Tapes』として発売されます。

 1stアルバム『13-Point Program To Destroy America』で、トランペットの音色をアクセントに、ハードコアとフリージャズが融合したアヴァンギャルドな音楽を展開していたネイション・オブ・ユリシーズ。2ndアルバムとなる本作では、アート性と実験性がさらに色濃くなった、オリジナリティ溢れる音楽を展開しています。

 本作はLP盤では13曲収録ですが、CD盤では7インチEPとして発売されていた『The Birth Of The Ulysses Aesthetic』収録の3曲を追加し、計16曲が収録されています。

 1曲目の「N-Sub Ulysses」は、ドイツの哲学者・ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』(ツァラトゥストラはこう語った)の朗読から始まります。朗読に続き、多層的に音が重なる、バンドの複雑なアンサンブルがスタート。音程を細かく移動する、ギターのジグザグのフレーズが印象的。間奏に挟まれるトランペットの音色もアクセント。

 3曲目「The Hickey Underworld」は、ギターとトランペットが不穏に響くイントロから、ノイジーでアヴァンギャルドな演奏が展開される1曲。感情を吐き出すようなブチギレ気味のボーカルも、緊張感を演出します。

 4曲目「Perpetual Motion Machine」は、ノイジーで金属的な響きのギターが暴れまわり、前のめりに疾走する1曲。

 9曲目「Shakedown」は、ヴァースとコーラスの対比が鮮烈で、「Shakedown」という歌詞も耳に残る1曲。アルバム全体を通して言えることですが、ボーカルの存在感が大きいです。

 12曲目「S.S. Exploder」は、上から叩きつけるような軽快なドラムのイントロから、彼らの楽曲のなかでは比較的ストレートに疾走する1曲。各楽器が一体感を持って、アンサンブルが構成されます。

 サウンド・プロダクションの面では、ノイジーでガ60年代のレージ・ロックを感じさせる本作ですが、音楽性の面ではジャズやソウルからの影響を感じさせます。6曲目「50,000 Watts Of Goodwill」と14曲目「The Sound Of Jazz To Come」は、ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』を参照しているとのこと。「The Sound Of Jazz To Come」というタイトルからは、オーネット・コールマンの『he Shape Of Jazz To Come』も連想されます。

 トランペットを使用しているからジャズの影響を感じる、といことではなく、各楽器のリズムや全体のアンサンブルにおいて、直線的な8ビートはほぼ聞かれず、複雑で立体的な演奏を展開します。

 アヴァンギャルドで地下的な雰囲気と、ハードコア的なハイテンションが見事に融合した1枚。頭に「ポスト」がつくジャンルは、音楽性を固定化するのが困難ですが、本作はポスト・ハードコアの名盤と呼ぶにふさわしい作品だと思います。





Nation Of Ulysses “13-Point Program To Destroy America” / ネイション・オブ・ユリシーズ 『13ポイント・プログラム・トゥ・デストロイ・アメリカ』


Nation Of Ulysses “13-Point Program To Destroy America”

ネイション・オブ・ユリシーズ 『13ポイント・プログラム・トゥ・デストロイ・アメリカ』
発売: 1991年7月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 1988年にワシントンD.C.で結成されたポスト・ハードコア・バンド、ネイション・オブ・ユリシーズの1stアルバム。バンド名の表記には、定冠詞の「The」が付いていたり、いなかったりしますが、この1stアルバムのジェケットでは、付いていません。

 結成当初はユリシーズ(Ulysses)というバンド名でしたが、1989年にギタリストのティム・グリーン(Tim Green)が加入した際、ネイション・オブ・ユリシーズへ改名しています。

 本作『13-Point Program To Destroy America』された翌年の1992年に、わずか4年の活動期間で解散してしまうバンドですが、ディスコードらしいスピード感と個性に溢れ、多大なインパクトを与えたバンドです。本作は、ディスコードの創始者、イアン・マッケイがプロデュースを担当し、疾走感と独特のねじれのあるポストハードコア・サウンドが鳴らされます。

 現代的なハイファイ・サウンドと比較してしますと、やや音圧不足に感じる方もいらっしゃると思いますが、それを上回るテンションが閉じ込められたアルバムです。特にボーカルとトランペットを担当するイアン・スベノーニアス(Ian Svenonius)の歌唱は、エモーショナルで鬼気迫るものがあります。また、アレンジメントは直線的なだけでなく、ノー・ウェーブ(No Wave)を彷彿とさせる実験性も多分に含んでいます。

 1曲目の「Spectra Sonic Sound」から、細かいリズムで、疾走感あふれる演奏が展開されます。絶叫するボーカルが、緊迫感をさらに演出。

 3曲目「Today I Met The Girl I’m Going To Marry」は、疾走感のある曲ですが、ビートが直線的ではなく、ところどころ足がもつれるように、複雑に駆け抜けていきます。自由で、投げやりな雰囲気のボーカルとのバランスも秀逸。

 4曲目「Ulythium」は、イントロからトランペットがフリーなフレーズを吹き、楽曲にアヴァンギャルドな空気を漂わせます。トランペットと、2本の歪んだギターが絡み合い、フリージャズとハードコアが融合したように疾走する1曲。

 12曲目「Target: USA」は、バンド全体が前のめりに疾走していく1曲。ボーカルも含め、波のようにバンドが躍動しながら迫ってきます。

 13曲目「Love Is A Bull Market」のタイトルは、フランク・シナトラのアルバム『Love is a Kick』にインスパイアされているとのこと。楽曲は、各楽器が回転するような、うねりのあるフレーズが絡み合う、一体感のある曲。

 あえてジャンル分けするならば、ハードコアあるいはポスト・ハードコアに入れられる音楽性を持ったバンドですが、前述したとおり本作にはアヴァンギャルドな空気も多分に漂い、フリージャズからの影響も聞こえます。

 トランペットの音もアクセントとなり、スピード感やギターの激しさのみを重視したバンドとは一線を画した音楽を鳴らすバンドです。ディスコード所属のバンドは、ハードコアを下敷きにしながら、オリジナリティ溢れる豊かな音楽性を持ったバンドが多く、非常にディグしがいがあります。





Q And Not U “No Kill No Beep Beep” / キュー・アンド・ノット・ユー『ノー・キル・ノー・ビープ・ビープ』


Q And Not U “No Kill No Beep Beep”

キュー・アンド・ノット・ユー 『ノー・キル・ノー・ビープ・ビープ』
発売: 2000年10月24日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ), Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 ワシントンD.C.出身のバンド、Q And Not U。1998年の結成から、活動停止する2005年までの間に、3枚のアルバムをリリースします。本作『No Kill No Beep Beep』は、2000年に発売された1stアルバム。ワシントンD.C.を代表するインディペンデント・レーベル、ディスコード(Dischord)からのリリースで、プロデュースも同レーベルの設立者イアン・マッケイが手がけています。

 ディスコードは、いまやワシントンD.C.の伝説的ハードコア・バンド、ティーン・アイドルズ(Teen Idles)およびマイナー・スレット(Minor Threat)のメンバーだったイアン・マッケイとジェフ・ネルソン(Jeff Nelson)によって設立されました。そのため、同レーベルの音楽性はハードコアの印象が強く、実際その種の作品のリリースも多いのですが、Q And Not Uはハードコアというよりも、よりカラフルな音楽性を持ったバンドです。と言っても、ハードコアが単調で直線的な音楽だと言いたいわけではありません。

 ジャンルとしては、Q And Not Uはポスト・ハードコアやポスト・パンクに分類されることが多く、ハードコア的な疾走感を持ちながら、マスロックを思わせるような複雑なアンサンブルも、持ち合わせたバンドです。

 1曲目「A Line In The Sand」は、2本のギターとベース、ドラムが絡み合い、コーラス・ワークも含めて、各パートが覆い被さり合うようなアンサンブルが構成されます。再生時間1:17あたりからのギターの音色とコードの響きなど、実験性を感じる要素もあり、音楽的なアイデアの豊富さが溢れた1曲。

 2曲目の「End The Washington Monument (Blinks) Goodnight」は、イントロから高音が耳に刺さる、ノイジーなギターが印象的な1曲。2本のギターが、有機的に絡み合い、曲が進行していきます。

 3曲目「Fever Sleeves」も、2本のギターとリズム隊が絡み合い、小刻みなリズムと、ゆったりしたタメを用いた、緩急のあるアンサンブルが展開。各楽器がバラバラに別のことをやっているようにも聞こえるのに、ぴったりと全ての音がおさまるべき場所におさまるような演奏です。

 4曲目「Hooray For Humans」は、つまづくような、飛び跳ねるような、ベースとドラムのリズムが耳に引っかかる1曲。そのリズム隊の上に、2本のギターが重なり、多層的なサウンドを作りあげます。再生時間0:37からの2本のギターによるブリッジ部や、再生時間1:02あたりからのコーラス・ワークも曲を引き締め、鮮やかにしています。

 6曲目「We ♥ Our Hive」のイントロでは、ドラムの刻むリズムのアクセントの位置が移動していき、その後に入ってくるギターとベースと共に、音数は少ないながら、タイトかつ複雑な演奏を展開。歌なしのポストロックのような演奏がしばらく繰り広げられますが、ボーカルも入っています。ボーカルが入ってきてからの、2本のギターの厚みと奥行きのあるサウンドが、イントロ部とのコントラストを鮮やかに演出。

 7曲目「Little Sparkee」は、リズムが前のめりで、疾走感のある1曲。しかし、直線的な8ビートではなく、ところどころ微妙な加速と減速を挟みながら、リズムが伸縮するように進んでいきます。

 8曲目「The More I Get, The More I Want」は、ハイを強調した2本のギターが、絡み合うように自由に暴れまわる1曲。ギターの音色はノイジーですが、アンサンブルをないがしろにしているわけではなく、むしろ歌と同じぐらいギターが曲の前面に出てきて、結果としてアンサンブルが前景化されたような印象すら受けます。

 10曲目「Nine Things Everybody Knows」は、レコーディング後に音を加工したのか、回転する音に囲まれるような、奇妙なイントロからスタート。その後は、タイトで疾走感のある演奏が展開されます。この曲のリズムは、このアルバムの中では、比較的に単純でわかりやすく、他の曲との対比で新鮮に響きます。しかし、再生時間0:50あたりから小刻みに跳ねるようなリズムに切り替わるなど、ただ同じリズムを繰り返すだけではありません。

 11曲目「Sleeping The Terror Code」は、堰を切ったように音が溢れ出すイントロから始まり、音数の少ないアンサンブルが展開されます。静寂と轟音を循環するような展開を予想していましたが、そうではなく、音数を絞った静かなサウンドで、じっくりとアンサンブルが繰り広げられます。ボーカルも囁くような声で、バンドも音量や速度に頼らず、ゆったりとタメを作りながら、立体的なアンサンブルを作り上げていて、バンドの懐の深さを感じる1曲です。

 アルバム全体を通して、ハードコア的なエッジの立った部分も持ちながら、それだけにはとどまらないアンサンブル志向の演奏が繰り広げられるアルバムです。ボーカルも絶叫一辺倒ではなく、ラスト11曲目の感情を抑えたような歌い方も秀逸ですし、コーラス・ワークのクオリティも高いバンド。

 アンサンブル志向だと書きましたが、特に2本のギターの役割分担は、非常に機能的かつ刺激的です。ノイジーで耳に痛い音なのに、同時に深い音楽性と知性を感じさせます。ディスコード入門としてもオススメできる、非常に優れたアルバムです。