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The Dodos “Time To Die” / ザ・ドードース『タイム・トゥ・ダイ』


The Dodos “Time To Die”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『タイム・トゥ・ダイ』
発売: 2009年9月15日
レーベル: Frenchkiss (フレンチキス)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの3rdアルバムです。前作『Visiter』に引き続き、ニューヨークのインディペンデント・レーベルFrenchkissからのリリース。

 ドードーズは、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたオーガニックなサウンドを持ちながら、音色の少なさを感じさせないカラフルな世界観と、ロック的なダイナミズムを持ったアンサンブルを構成するところが魅力。

 3作目となる今作でも、エレキ・ギターやキーボードなど電気楽器の使用頻度が高まっているものの、独特の立体感のあるドラムとグルーヴ感は健在。

 1曲目「Small Deaths」は、イントロはギターポップのような爽やかなギターとボーカルが印象的。ですが、再生時間0:46あたりでドラムが入ってくると、途端にパワフルでいきいきとした躍動感が生まれます。

 3曲目の「Fables」は、はずむようなリズムとサウンドのアコースティック・ギターと、前のめりにアジテートするように叩きつける迫力あるドラムが、絶妙に絡みあう1曲。ドラムのサウンドが立体的なところもかっこいい。歌のメロディーとハーモニーも美しい。非の打ちどころの無い曲です。

 4曲目「The Strums」は、低音が響き渡るドラムと、重層的なクリーントーンのギターが溶け合う、こちらも美しい1曲。空間系のエフェクターを使用しているのか、ギターの音には揺らぎがあり、サイケデリックな雰囲気も漂います。

 6曲目「Two Medicines」は、タイトルを呪術的に繰り返す、わずかにサイケデリックな香りを放つイントロから、アコギとドラムが絡むこのバンド得意の展開へ。奥の方で鳴るヴィブラフォンの響きも、楽曲を彩っています。

 使用する楽器の種類が増え、サウンド・プロダクションは多彩になっています。しかし、彼らのフィジカルな躍動感は失われず、轟音ギターが唸りをあげる作品ではないのに、ダイナミズムの大きい1作になっています。

 ドラムをはじめ、立体的な音像も素晴らしく、オススメの1枚です。個人的にドードーズが大好きなので、もっと多くの人に聴いてもらいたいと、心から思います。

 





Kurt Vile “Childish Prodigy” / カート・ヴァイル『チャイルディッシュ・プロディジー』


Kurt Vile “Childish Prodigy”

カート・ヴァイル 『チャイルディッシュ・プロディジー』
発売: 2009年10月6日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Jeff Zeigler (ジェフ・ゼイグラー)

 The War On Drugsの元メンバーとしても知られる、ペンシルベニア州出身のミュージシャン、カート・ヴァイルのソロ名義としては3枚目のアルバムです。

 空間系エフェクトのかかった、揺らめくようなクリーントーンから、耳をつんざくような歪みまで、色とりどりのギター・サウンドが聴ける本作『Childish Prodigy』。ギターをはじめ、サウンド・プロダクション全体が、ジャンクでローファイな耳ざわりの1作です。

 揺らめくようなギターのサウンドにはサイケデリックな香りも漂い、サイケデリック・ジャンク・ロックとでも言うべきアンサンブルと音像を作り上げています。

 1曲目の「Hunchback」は、ピアノらしき音が淡々とリズムを刻み、満ち引きを繰り返す波のようにギターがリフを弾き続け、徐々にトリップ感が高まる1曲。けだるく感情を吐き出すようなボーカルの声も、各楽器のサウンドとマッチして、ジャンクな空気感を演出しています。

 2曲目「Dead Alive」は、透明感のあるクリーンなギターと、耳障りな高音ノイズが溶け合う絶妙なバランスの1曲。相反するサウンドがコントラストをなすのではなく、一体となって、独特のざらついた空気感を作っています。エモーショナルに感情を吐き出すようなボーカルも良いです。

 4曲目「Freak Train」では、ドラムマシンを使っているのか、均質でぶっきらぼうなリズムのドラムが響きます。その上に複数のギターが乗っかり、疾走していく1曲。サックスの音色も、アクセントになっています。

 6曲目の「Monkey」は、リチャード・ヘルやソニック・ユースのサーストン・ムーア、スティーヴ・シェリーらが組んでいたバンド、ディム・スターズ(Dim Stars)のカバー。7曲目「Heart Attack」は、弾力性のある独特のクリーンサウンドの2本のギターが絡み合う1曲。

 9曲目は「Inside Looking Out」。スケールの大きなオーケストラルなアレンジながら、各楽器のサウンドはジャンクで下品。インディー・ジャンク・オーケストラといった趣で、これは名曲だと思います。

 このアルバムを言語化しようと思考を巡らすと浮かんでくるのは…チープ、ジャンク、サイケデリック。チープだと言うのは単純に安っぽいという意味ではなく、音圧高めレンジ広めのハイファイな音とは一線を画しているという意味です。ローファイというジャンルに括られることも多い、カート・ヴァイルらしい1作と言えるでしょう。

 前述したように、僕は9曲目の「Inside Looking Out」が特にお気に入りです。未聴の方は、ぜひ聴いてみてください!

 





BLK JKS “After Robots” / ブラック・ジャックス『アフター・ロボッツ』


BLK JKS “After Robots”

ブラック・ジャックス 『アフター・ロボッツ』
発売: 2009年9月8日
レーベル: Secretly Canadian (シークレットリー・カナディアン)
プロデュース: Brandon Curtis (ブランドン・カーティス)

 南アフリカ共和国ヨハネスブルグ出身の4ピース・バンド、ブラック・ジャックスが、インディアナ州ブルーミントンのレーベルSecretly Canadianより発売したアルバムです。今作『After Robots』以外にも、2枚のEPをSecretly Canadianからリリースしています。バンド名は「BLK JKS」と書いて、「ブラック・ジャックス」と読みます。

 南アフリカの音楽事情についても、アフリカ音楽全般についても、語れるほどの知識を持ち合わせておりませんが、これは凄いアルバムです。言語化すると陳腐に響いてしまいますが、アフリカ的リズム感覚を、4ピースのロック・バンドのフォーマットに、鋳造した音楽とでも言ったらいいでしょうか。4人組のロック・バンドですが、レコーディングにはホーンも参加していて、サウンドも一般的なインディー・ロックから比べると、ちょっと異質です。

 1曲目は「Molalatladi」。いくつものリズムの型が見え隠れする、ポリリズミックなイントロ。アフリカのポリリズムを、ロックの文法で再構築したような1曲です。ロック的なダイナミズムを持ちながら、同時にアフリカ的な複雑なリズムが体を揺らします。「複雑な」というのは、西洋のポップ・ミュージック的な価値観からすると、という意味ですが。

 ある特定のリズムにノリながら聴いていると、さらに他のリズムが感じられて、そのふたつが混じり合って…という風に、複数のリズムが多層的に次々と姿をあらわします。前述したようにホーン・セクションも導入されており、トライバルで躍動感あふれるドラムのリズムと相まって、再生時間0:59あたりからのサビのような、ブリッジのような部分では、祝祭的な雰囲気すら漂います。

 現地語と思われる「Molalatladi」と何度も繰り返される歌詞も、当然ながら英語とはリズムとサウンドが異なり、非常に耳に引っかかるリズミックな響きを持っています。やっぱり言語の違いは、音楽の質も変えるな、と感じる曲でもあります。

 2曲目の「Banna Ba Modimo」は、歌のメロディーのリズムと、バックのリズムが噛み合うような、絡み合うような、絶妙なバランスで進行します。この曲は、リズムの緩急のつけ方が大きく、加速と減速を繰り返しながら、リズムがスリリングに切り替わっていく1曲です。

 5曲目「Taxidermy」は、波の満ち引きのように押し寄せるギターとベースに、細かく正確にリズムを刻み続けるドラムのグルーヴが気持ちいい1曲。再生時間1:30あたりから、リズムを見失いそうになるポイントもあります。

 1曲目の「Molalatladi」に集約されているのですが、アフリカのリズムとアメリカのポップ・ミュージックが融合した1作です。ホーンも入っていますが、ギターを中心としたロック・バンドのフォーマットで、トライバルなリズムを取り込みながら、コンパクトなポップ・ミュージックに仕立てるセンスは本当に見事!

 『After Robots』のような作品に出会うと、南アフリカに限らずアフリカ諸国のポップ・ミュージック・シーンを掘れば、多くの個性的なバンドがいるのでは、と興味がわいてきます。