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Eleanor Friedberger “Last Summer” / エレナー・フリードバーガー『ラスト・サマー』


Eleanor Friedberger “Last Summer”

エレナー・フリードバーガー 『ラスト・サマー』
発売: 2011年7月12日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Eric Broucek (エリック・ブロウチェック)

 ザ・ファイアリー・ ファーナセス(The Fiery Furnaces)のボーカリスト、エレナー・フリードバーガーの初のソロ・アルバムです。

 各楽器ともシンプルなサウンドを鳴らし、全体としてもオーガニックな響きを持った1枚。音の数も絞り込まれているのですが、シンプルかつ躍動感のあるアンサンブルが展開され、隙間が多いという印象はありません。

 むしろ、音が絞り込まれていることで、それぞれの音の情報量が多く感じられます。用いられる音色の種類も決して多くはないものの、アレンジの妙によってカラフルなイメージを与えるアルバムになっています。

 1曲目「My Mistakes」は、アコースティック・ギターとドラム、ボーカルによるシンプルなイントロから幕を開けます。アコギ主体のサウンドですが、楽曲からは古き良きロックンロールの香りが漂います。キーボードと思われる電子音がアクセント。

 2曲目の「Inn Of The Seventh Ray」は、ゆったりとしたテンポで、ギター、キーボード、ドラムが立体的に絡み合う1曲。各楽器とも基本的にはナチュラルな音色ですが、アンサンブルとエフェクトからほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 5曲目の「Roosevelt Island」は、シンセサイザーの音色と、ラップ的というのとは違う、早口言葉のようなボーカルが印象的な1曲。

 9曲目「Owl’s Head Park」は、アコーディオンのような音色も聞こえますが、ベースの音を筆頭に電子的なサウンド・プロダクションを持った1曲。しかし、冷たいという印象ではなく、歌が前景化された暖かみのある曲です。

 アコースティック・ギターを中心にしたナチュラルなサウンドを基本としながらも、随所にエフェクターやシンセサイザーによってアクセントをつけ、全体としてはカラフルなサウンド・プロダクションに仕上がっています。

 ややハスキーなボーカルは、それだけでも十分に魅力的なのですが、ところどころエフェクトがかけられ、オーバーダビングも効果的に用いられています。

 音作りもアンサンブルも基本的にはシンプルなのですが、オルタナティヴな空気も同居し、いきいきとした躍動感も感じられる1作。

 





Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”/ ニュートラル・ミルク・ホテル『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』


Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”

ニュートラル・ミルク・ホテル 『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』
発売: 1998年2月10日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Robert Schneider (ロバート・シュナイダー)

 フロントマンのジェフ・マンガム(Jeff Mangum)を中心に、ルイジアナ州ラストンで結成されたバンド、ニュートラル・ミルク・ホテルの2ndアルバムです。プロデューサーは前作に引き続き、ロバート・シュナイダー。

 前作『On Avery Island』は、エフェクトを深くかけたギターを多用し、ガレージやサイケデリックの香りを振りまきつつ、全体としてカラフルなインディー・ロックに仕上げたアルバムでした。

 2作目となる本作では、アコースティック・ギターの使用が増え、サウンド・プロダクションは格段にフォーキーに。バンジョーやアコーディオンも導入され、鳴らされる音楽もカントリーや民族音楽の要素が色濃くなったアルバムと言えます。

 そして、アヴァンギャルドな要素をポップに仕立てあげるセンスも健在。アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、ところどころアヴァンギャルドな音やアレンジが差し挟まれる1作です。ホーンも入って、スケールの大きさを感じさせるアルバムでもあります。

 2曲目の「The King Of Carrot Flowers Pts. Two & Three」は、牧歌的な雰囲気のイントロから始まり、再生時間0:48あたりから激しく歪んだエレキ・ギターが入ってくると、そこからガレージ風のロックへ。コントラストが鮮烈な1曲です。

 5曲目「The Fool」は、ホーンやアコーディオンな音色が多層的に重なる、民謡的な雰囲気を持った1曲。ボーカル無し、インストの曲ですが、インタールード的な役割で聞き流すのには、もったいないぐらいクオリティの高い曲だと思います。ジャンクな雰囲気と、民謡的な生楽器のサウンドが溶け合い「インディー民族音楽」とでも呼びたくようなバランス。

 6曲目「Holland, 1945」は、アコースティック・ギターと毛羽立った歪んだのエレキ・ギターが共に響く、疾走感のある1曲。アコギのオーガニックな響きと、エレキのガレージ的な歪みが溶け合い、このアルバムを象徴するようなサウンド・プロダクション。

 9曲目は「Ghost」。この曲もアコースティック・ギターのみずみずしいサウンドと、野太く歪んだファズ・サウンドのギターが、有機的にアンサンブルを構成。間奏ではホーンも効果的に使用されます。

 10曲目「Untitled」は、電子音から生楽器まで、ノイズ的なサウンドも含め、多種多様な音が飛び交う1曲。タイトル無しなのがもったいないほど、良い曲だと思います。

 フォークやカントリー、さらには民族音楽の要素を多分に含みながら、随所に激しく歪んだギターや、アヴァンギャルドなアレンジが散りばめられた1枚です。

 しかし、敷居が高い印象は全くなく、むしろルーツ・ミュージック色をいい意味で薄めて、モダンなインディー・ロックに仕上がっています。ニュートラル・ミルク・ホテルは、本当にこのセンスが抜群。

 ジャンクでローファイでサイケデリックな香りのする民族音楽、といった趣のアルバムです。

 





Neutral Milk Hotel “On Avery Island” / ニュートラル・ミルク・ホテル『オン・アヴェリー・アイランド』


Neutral Milk Hotel “On Avery Island”

ニュートラル・ミルク・ホテル 『オン・アヴェリー・アイランド』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Robert Schneider (ロバート・シュナイダー)

 フロントマンのジェフ・マンガム(Jeff Mangum)を中心に、ルイジアナ州ラストンで結成されたバンド、ニュートラル・ミルク・ホテルの1stアルバムです。アメリカ国内ではMerge、イギリスではFire Recordsからのリリース。

 エフェクターを深くかけたギターの音色が、アルバム全体をジャンクかつサイケデリックな雰囲気で包む1作です。ギター以外にも、耳に引っかかる奇妙なサウンドが満載。しかし、アヴァンギャルな空気が前面に出るわけではなく、歌のメロディーは親しみやすく、ポップな音楽として成立しています。

 1曲目は「Song Against Sex」。イントロから早速、電子ノイズのような音が響きわたり、その後のギターもざらついた耳ざわり。楽曲的にはガレージ風味のあるシンプルなロックですが、ボーカルの声とメロディーは垢抜けていてポップな雰囲気をプラス。

 2曲目の「You’ve Passed」も、倍音たっぷりの歪んだギターが、ゆったりと空間を埋めていく1曲。ややテンポがゆったりな分、サイケデリックな空気が強まっています。

 5曲目「Marching Theme」は、イントロから多種多様なサウンドが飛び交う、カラフルな1曲。それぞれの音はノイズ的だったり、ファニーな効果音のようだったりするのに、全体としては楽しく鮮やかな空気を作り上げています。

 ラストの12曲目「Pree-Sisters Swallowing A Donkey’s Eye」は、13分を超える大曲です。ギターのフィードバックが響き渡る前半から、アンビエントな展開へ。歌が無く、アルバム中でもポップな部類の曲ではありません。しかし、このような音響的な曲を最後に持ってくるところに、彼らの音楽的な志向が垣間見えます。

 ノイズあり、カオスあり、かなり奇妙な音も含まれているのに、全体としては非常にポップで、上質のインディー・ロックと言っていいアルバムだと思います。また、1996年という時代性もあるかもしれませんが、全体のサウンド・プロダクションにはガレージのような、ややざらついた耳ざわりもあります。

 最後に収録されている「Pree-Sisters Swallowing A Donkey’s Eye」は、かなり実験的、ポストロック的(クラウトロック的と言ってもいいかもしれない)な曲ですが、そんな楽曲も含めて、多種多様な音とアレンジが、目いっぱい詰め込まれたアルバムです。

 





Superchunk “Foolish” / スーパーチャンク『フーリッシュ』


Superchunk “Foolish”

スーパーチャンク 『フーリッシュ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、スーパーチャンクの4thアルバム。メンバーのマック・マコーンとローラ・バランスによって設立されたレーベル、Mergeからリリース。プロデュースはブライアン・ポールソン、ミックスはスティーヴ・アルビニが担当。

 デビュー当初からのスーパーチャンクの武器である、疾走感とドライヴ感はそのままに、バンドの音楽性の拡大を示す1枚です。テンポを抑えた曲が増え、アンサンブルも高度に練り上げられ、コントラストや迫力の演出が、格段に向上しています。
 
 さらに、音がいい。音圧が圧倒的に高いというわけではないのですが、無駄なプロデュースが無く、各楽器が生々しく、臨場感あふれるサウンドでレコーディングされています。

 アルバムの幕を開ける、1曲目は「Like A Fool」。ゆったりと堂々としたテンポの曲です。イントロは2本のギターが、それぞれ穏やかに単音フレーズとコードを弾いていくのですが、再生時間1:00あたりでフル・バンドになると、パワフルに躍動感を響かせます。ドラムの音が立体的にレコーディングされていて、下から響くような鳴り方。

 2曲目の「The First Part」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、ギターのフレーズや、ベースの音程の動くタイミングが推進力になって、ドライブ感が溢れる1曲です。楽曲が前に進んでいく力が、みなぎっています。

 3曲目「Water Wings」は、イントロから感情が吹き出したかのようなギターが曲を先導。ともに歪んだ2本のギターと、タイトなリズム隊、開放感のある高音ボーカルが一丸となって迫ってくる1曲。

 4曲目の「Driveway To Driveway」は、各楽器が絡み合うアンサンブルが心地よい、ミドルテンポの1曲です。ところどころ声が裏返りそうなギターのサウンドも、アクセントになって耳に残ります。

 10曲目「Revelations」は、嵐の前の静けさのようなイントロから、途中でテンポも音量も上がるコントラストが鮮やかな1曲。ドラムの立体的な音もかっこいい。

 サウンドもアンサンブルもオーバー・プロデュースにならず、ロックのかっこいい部分を凝縮したようなアルバムです。ここまでの3作と比べて、楽曲の幅やアレンジには洗練も感じます。しかし、前の3作が劣っているというわけでも、本作がメジャー的な作風になったというわけではありません。

 あくまで地に足が着いたかたちで、自分たちの音楽を追求する姿勢が、音にも滲み出た1作です。