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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

Pavement “Brighten The Corners” / ペイヴメント『ブライトン・ザ・コーナーズ』


Pavement “Brighten The Corners”

ペイヴメント 『ブライトン・ザ・コーナーズ』
発売: 1997年2月11日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Mitch Easter (ミッチ・イースター), Bryce Goggin (ブライス・ゴギン)

 カリフォルニア州ストックトンで結成されたインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの4thアルバム。

 ローファイを代表するバンドの一つに数えられるペイヴメント。ローファイというジャンルを大まかに定義するなら、チープな音質と不安定な演奏によって、メロディーやアンサンブルが前景化した音楽、といったところでしょうか。

 1stアルバム『Slanted And Enchanted』では、ローファイ感の溢れる緩い演奏とサウンドを展開していたペイヴメントですが、2ndから3rdへとアルバムを追うごとに、音質は一般的な意味では向上。

 演奏においても、不安定なチューニングや、アヴァンギャルドなアレンジは散在するものの、実験性とポップさが共存した、良質なオルタナティヴ・ロックとでも呼ぶべき音楽が鳴らされていました。

 しかし、4作目となる本作は、ゆるやかなリズムに乗せて、弦が伸びきったような脱力ポップが展開する、ローファイ感の強い1作となっています。

 1曲目「Stereo」は、シンプルなドラム、ポツポツと音を刻むベース、壊れたバネのように意外性のあるギター、物憂げなボーカルが重なる、脱力ポップ。ギターが激しく歪み唸りをあげ、ボーカルはエモーショナルにシャウトする部分もあり、1曲の中でのコントラストも鮮烈。

 2曲目「Shady Lane / J Vs. S」は、各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構成し、ゆるやかなグルーヴ感を伴って進行するミドルテンポの1曲。

 3曲目「Transport Is Arranged」。シンセサイザーで出しているのでしょうが、メロトロンのフルートのようなサウンドが、全体を包み込む、柔らかな音像の1曲。

 4曲目「Date With IKEA」は、ゆったりとしたテンポながら、ギターの音を中心に、ドライヴ感があり、前への推進力を感じる演奏。「イケアとのデート」というタイトルも示唆的ですが、物質主義への皮肉とも、単なる個人的な出来事とも取れる歌詞も秀逸。

 8曲目「Blue Hawaiian」は、音質を絞ったミニマルなアンサンブルに、バンドの演奏に流される脱力系のボーカルが乗る、ゆるゆるのポップ。

 10曲目「Passat Dream」は、タイトなリズム隊に、ギターやコーラスワークが多層的に合わさり、バウンドするような躍動感と共に進行する1曲。時折、挟まれるキーボードやギターによるものと思われる、奇妙なサウンドもアクセントになっています。

 アルバムを通して、随所で奇妙な音が飛び交い、チューニングやハーモニーにも怪しいところが多い演奏。ボーカルとギターは、物憂げでやる気が無さそう。しかし、全体としてはポップな耳ざわりを持った1作です。

 不協和音や、ジャンクなサウンドを用いながら、カラフルでポップなサウンドに仕上げる手法は、ペイヴメントの一貫した特徴であり、魅力であると言えるでしょう。

 前述したとおり、2ndや3rdのハッキリしたアレンジと比較すると、脱力感が前面に出たアルバムとなっています。

 





Pavement “Wowee Zowee” / ペイヴメント『ワーウィー・ゾーウィー』


Pavement “Wowee Zowee”

ペイヴメント 『ワーウィー・ゾーウィー』
発売: 1995年4月11日
レーベル: Matador (マタドール)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの3rdアルバム。

 アルバム・タイトルの「Wowee Zowee」とは、2ndアルバム前に脱退した元ドラマーのギャリー・ヤング(Gary Young)が、興奮したときに口にしていた言葉。

 ローファイを代表するバンドのひとつに挙げられるペイヴメント。ローファイとは、チープな音質と、それに比例した不安定な演奏が特徴のジャンル。

 1stアルバム『Slanted And Enchanted』では、まさにローファイ的な音楽を鳴らしていたペイヴメントですが、3作目となる本作では音質は向上。

 演奏面には意外性が多分にありますが、ヘロヘロのキュートなアンサンブルというより、より実験性が強調された「真面目なエクスペリメンタル・ロック」といった作風になっています。

 音質のしょぼさが強調され、メロディーやむき出しのアンサンブルが前景化された初期の作品に比べると、より計算された実験性を持ったアルバムと言えます。

 1曲目の「We Dance」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークと、ピアノの単音弾きを中心に据えた伴奏に、メロウなボーカルのメロディーが乗る、スローテンポの1曲。水が流れる音がサンプリングされ、過去2作と比較して、凝ったサウンド・プロダクションを感じさせます。

 2曲目「Rattled By The Rush」では、チクタクチクタクと、歯車が噛み合って機械が動くように、有機的でタイトなアンサンブルが展開します。再生時間0:45あたりからの多様な音が飛び交う間奏など、アヴァンギャルドな空気も持った1曲。

 4曲目「Brinx Job」は、おどけた裏声のボーカルに、ワウ・ギターを筆頭にした、多彩なサウンドが絡み合う、オモチャ箱をぶちまけたような、ジャンクでキュートな1曲。

 8曲目「Father To A Sister Of Thought」は、クリーントーンのギターを中心に組み上げられたバンド・アンサンブルに、やや物憂げなボーカルが重なる、ミドルテンポの1曲。ペダル・スティール・ギターの伸びやかなサウンドも加わり、穏やかで、流れるような演奏が展開します。

 10曲目「Best Friends Arm」は、奇妙な音がたくさん入った、アヴァンギャルドでポップなロック・チューン。チューニングに不安を感じるギターや、多種多様な音が飛び交い、立体的でドタバタした、にぎやかな演奏が繰り広げられます。

 14曲目「Fight This Generation」は、エフェクターの多用されたギターと、チェロの音が融合する1曲。ですが、意外性のあるフレーズが散りばめられ、どこか不安定でアヴァンギャルドな空気を持っています。中盤以降は、さらに実験性が増したサウンドへ。

 17曲目「Half A Canyon」は、ざらついた歪みのギターがフィーチャーされた、ジャンクなサウンドを持った1曲。前半は、引きずるようなリズムで進行し、再生時間2:50あたりからは、シンプルなビートで、疾走感のある演奏が繰り広げられます。ただ、電子音や奇声のようなボーカルなど、意外性のあるアレンジも共存。

 18曲目「Western Homes」は、電子的なサウンドと、エフェクト処理されたボーカルが耳に残る、コンパクトにまとまったロック。サウンドはエレポップ風味ですが、演奏はペイブメントらしい、ドタバタ感があります。

 過去2作と比較して、格段に楽曲の多彩さが増した3作目。前述したとおり、音質は向上していますが、演奏は不安定なチューニングや、ノイジーでジャンクなサウンドなど、色彩を増した実験性が溢れるアルバムになっています。

 音質や演奏のしょぼさを強調したローファイ云々というより、実験性とポップさが高い次元で両立された、一種のオルタナティヴ・ロックとして、非常に上質。

 2006年には、ボーナス・トラックを多数収録した2枚組の「Sordid Sentinels Edition」がリリース。現在は、各種サブスクリプション・サービスでも視聴できます。

 





Pavement “Crooked Rain, Crooked Rain” / ペイヴメント『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』


Pavement “Crooked Rain, Crooked Rain”

ペイヴメント 『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』
発売: 1994年2月14日
レーベル: Matador (マタドール)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの前作から約2年ぶりとなる2ndアルバム。

 ローファイを代表するバンドと目されるペイヴメント。しかし、前作から比較すると、音質はクッキリ。各楽器の分離もわかりやすくなり、音圧も増加。音質面でのローファイ感は、薄れています。

 ただ、時に不安定でカオティックな演奏は健在。音質よりも、チューニングやアンサンブルでの意外性が、前景化したアルバムとなっています。

 1曲目「Silence Kit」には、複数のギターが用いられていますが、それぞれの音作りが巧妙で、楽曲全体をカラフルに彩っています。ワウの効いたギターや、ざらついた歪みのギターなどが使い分けられ、各楽器がだらしなく絡み合うように、だらっと間延びしたアンサンブルが展開します。

 2曲目「Elevate Me Later」は、リズムにタメがあり、前のめりではなく、後ろのめりに引きずるような躍動感のある1曲。タメと言っても、グルーヴを生み出すための高度なタイミングを感じるものではなく、ただ単にもたっているような演奏。ですが、その独特なリズムがフックとなり、耳をつかんでいきます。

 4曲目「Cut Your Hair」は、軽快なアンサンブルとコーラスワークが心地よい1曲。きっちりとタイトに合わせるのではなく、適度にスキのあるアンサンブルからは、バウンドするような躍動感が生まれています。

 7曲目「Gold Soundz」は、ギターとボーカルが絡み合うように音を紡いでいくイントロから始まり、ゆるやかに躍動する演奏が展開します。空間系のエフェクターを用いたクリーントーンのギターが、不安定なフレーズを弾くバランス感覚は、このバンドならでは。

 9曲目「Range Life」は、爽やかなギターポップのようなアンサンブルに、不協和な音が紛れています。ポップさの中に、違和感を含ませるところが、ペイヴメントおよびローファイの魅力。

 12曲目「Fillmore Jive」は、揺れるギター・サウンドがフィーチャーされ、サイケデリックな空気と、ドリーミーな空気が共存した1曲。ギターを中心にした厚みのあるサウンドと、ボーカルの甘いメロディーが重なるバランスは、シューゲイザーのようにも響きます。

 音質が一般的な意味では向上し、ヘロヘロのローファイ感は薄まった本作。しかし、不安定なハーモニーや演奏は前作どおりで、ジャンクでガチャガチャした魅力的なアンサンブルが満載です。

 ローファイというジャンルの特徴とはいえ、音質が良くなったことを、ネガティヴなことのように扱うのも、おもしろいですね(笑) そこには「良い音とは何か?」という、問いが横たわってはいるのですが。

 





Pavement “Slanted And Enchanted” / ペイヴメント『スランティッド・アンド・エンチャンティッド』


Pavement “Slanted And Enchanted”

ペイヴメント 『スランティッド・アンド・エンチャンティッド』
発売: 1992年4月20日
レーベル: Matador (マタドール)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの1stアルバム。

 セバドー(Sebadoh)やビート・ハプニング(Beat Happening)と並んで、ローファイの代表バンドと目されるペイヴメント。元々は「録音環境が悪い音」「しょぼい音」程度の意味で使われていた、ローファイという言葉。音質を指す言葉ですから、ジャンル名に転化しても、なかなか掴みどころがなく、定義が困難です。

 そんな「ローファイ」と呼ばれるジャンルの魅力を、僕なりに簡単にご説明します。前述のとおり、ローファイの特徴は、そのチープな音質。また、ローファイにカテゴライズされるバンドは、音質に比例して、演奏もヘロヘロの場合が多いです。

 では、なぜしょぼい音質のしょぼい演奏が、1ジャンルと認識されるまでに支持されたのか。その理由には、演奏と音質がヘロヘロなためにメロディーが前景化すること。不安定な音程と音質が新たな音像を生み、サイケデリック・ロックのように機能すること。などが挙げられます。

 さて、そんなローファイを代表するバンドである、ペイヴメントのデビュー・アルバム。弦が伸びきったような緩いサウンドが、独特の心地よさを生み、耳なじみの良いメロディーがヘロヘロの演奏から浮かび上がる、ローファイの魅力が、存分に詰め込まれた1作となっています。

 1曲目の「Summer Babe (Winter Version)」から、だらしなく歪んだギターと、物憂げなボーカルが重なり、テープが伸びたようなテンションの演奏が展開。

 2曲目「Trigger Cut / Wounded Kite At :17」では、ややタイトで疾走感のあるアンサンブルに、やる気のなさそうなボーカルが、メロディーを乗せていきます。ただ、メロディーとコーラスワークには、耳にこびりつくポップさがあり、ゆるいボーカルの歌唱も、やがて魅力に転化するから不思議。

 3曲目「No Life Singed Her」は、イントロからテンションが爆発する1曲。口汚い言葉を叫ぶボーカルと、ガチャガチャしたバンドの演奏が、バランスよく融合しています。

 4曲目「In The Mouth A Desert」は、不安定なギターのイントロから始まり、バンド全体のテンションが伸びきったような、ゆるやかなアンサンブルが展開する1曲。

 5曲目「Conduit For Sale!」では、ギターを中心に、渦巻くようにドタバタ感のある演奏が繰り広げられます。

 6曲目「Zürich Is Stained」は、チューニングが不安定なのか、最初から不協和音を狙っているのか、不安になってくる1曲。しかし、聴いていると、不安定な音程が耳に馴染み、クセになっていきます。

 7曲目「Chesley’s Little Wrists」は、オモチャ箱をひっくり返したように賑やかで、ジャンクな1曲。変な音しか入っていないのに、カラフルなサウンドを持っています。

 10曲目「Two States」は、ドラムが立体的にリズムを打ち鳴らす、躍動感のある1曲。バンド全体も、前への推進力を感じる演奏を展開しています。他の曲は全て、ギター・ボーカルのスティーヴン・マルクマス (Stephen Malkmus)作ですが、この曲は本作の中で唯一、ギターのスコット・カンバーグ(Scott Kannberg)による作。

 13曲目「Jackals, False Grails: The Lonesome Era」は、ギターが毛羽立ったように歪み、ベースとドラムは回転するようにリズムを刻む、サイケデリックな1曲。

 サイケデリックな曲から、ヘロヘロのギターポップまで、多彩な曲が詰め込まれたアルバムです。音圧は不足し、演奏も不安定。まさにハイファイの真逆なのですが、サウンドや音程の不安定さが、思わぬ効果を生み、聴いているうちに魅力へと転化していきます。

 Appleでは、本作の曲目を演奏したライブ盤『Slanted and Enchanted At Minneapolis, June 11th, 1992 (Live)』は配信されていますが、本作の配信自体は2018年10月現在、無いようです。ちなみに、こちらのライブ盤もアルバムを完全再現というわけではなく、曲順が異なります。





Pinegrove “Cardinal” / パイングローヴ『カーディナル』


Pinegrove “Cardinal”

パイングローヴ 『カーディナル』
発売: 2016年2月12日
レーベル: Run For Cover (ラン・フォー・カヴァー)

 ニュージャージー州モントクレア出身のインディー・ロック・バンド、パイングローブの2ndアルバム。

 2012年にリリースされた1stアルバム『Meridian』は、レーベルを通さないセルフ・リリース。4年ぶりとなる本作は、マサチューセッツ州ボストンのインディーズ・レーベル、ラン・フォー・カヴァーからリリースされています。

 共にモントクレア生まれの幼なじみ、エヴァン・スティーブンス・ホール(Evan Stephens Hall)とザック・レヴィーン(Zack Levine)を中心に、2010年に結成されたパイングローヴ。

 松林を意味する「Pinegrove (pine grove)」というバンド名。エヴァン・スティーブンス・ホールが通っていた、オハイオ州のケニオン大学にある自然保護公園、ブラウン・ファミリー環境センター(Brown Family Environmental Center)に由来するとのことです。

 バンド名のとおりと言うべきなのか、楽器のオーガニックな鳴りを活かした、サウンド・プロダクションの1作です。クリーンな音作りの各楽器が組み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開します。

 1曲目の「Old Friends」は、バンジョーやペダル・スティール・ギターが用いられ、カントリー色の濃いサウンドの1曲。リズム隊は、ドスンドスンと縦に揺らめくようにリズムを刻み、ゆるやかな躍動感のあるアンサンブルです。

 2曲目「Cadmium」は、音数を絞った隙間の多いアンサンブルながら、徐々に音が増え、グルーヴィーな演奏へと展開。複数のギターが、それぞれシンプルなフレーズを繰り返し、織物のように音楽が構成されていきます。

 4曲目「Aphasia」。前半はギターと歌のメロディーが中心に据えられた、メロウな演奏。その後、再生時間1:20あたりでドラムが入ってくると、縦に揺れるアンサンブルへと展開します。奥の方から聞こえる、ペダル・スティール・ギターの伸びやかなサウンドがアクセント。

 5曲目「Visiting」は、段階的に楽器が加わり、加速していく、ビートのハッキリした1曲。フォークやカントリーを思わせる音色の多い本作において、最もギターロック的なサウンド。

 8曲目「New Friends」は、軽快なギターの伴奏の上を、ボーカルが高らかにメロディーを重ねていく1曲。思わず体を揺らしてしまう躍動感のある演奏です。

 フォーキーなサウンドを持った、ゆるやかなギターロック、といった佇まいのアルバム。前述のとおり、全体のサウンドは穏やかですが、いきいきとした躍動感を持ち合わせています。

 1曲目が「Old Friends」から始まり、ラストの8曲目が「New Friends」で締めくくられるところも、示唆的。ルーツ・ミュージックに敬意を示しながら、現代的な感性でコンパクトなロックに仕上げている本作を、象徴しているようにも感じられます。