「インディー・ロック」カテゴリーアーカイブ

Death Cab For Cutie “Narrow Stairs” / デス・キャブ・フォー・キューティー『ナロー・ステアーズ』


Death Cab For Cutie “Narrow Stairs”

デス・キャブ・フォー・キューティー 『ナロー・ステアーズ』
発売: 2008年5月12日
レーベル: Barsuk (バースーク)

 ワシントン州ベリンハムで結成されたバンド、デス・キャブ・フォー・キューティーの6枚目のアルバム。シアトルのインディペンデント・レーベルBarsukと、メジャー・レーベルのAtlanticより発売。

 「インディーロック」という、具体的な音楽性を示すわけではない言葉。しかし、その言葉が持つ共通のイメージ、ぼんやりとした傾向は、確かに存在します。僕がインディーロックといってまず思い浮かぶのが、デス・キャブ・フォー・キューティーであり、特にこのアルバムです。

 すなわち、ポップでカラフルなサウンドと、美しく流れるようなメロディーを持ちながら、アンサンブルには若干ねじれたオルタナティヴな要素を含む。そのバランス感覚に、インディーロック感が強くにじみ出ていると思います。

 本作も、極上の歌ものアルバムでありながら、サウンドやアンサンブルには随所にメジャー的でない、実験的なアプローチが聴かれます。

 1曲目「Bixby Canyon Bridge」は、イントロから開放感のある、伸びやかなボーカルがメロディーを歌い、耳に心地よい1曲。そのボーカルを引き立てるように、透明感あふれるクリーントーンのギターが響きます。しかし、再生時間1:38あたりでフル・バンドになると、途端にパワフルで躍動感のあるアンサンブルへ。1曲の中でのコントラストが鮮烈。

 3曲目の「No Sunlight」は、「ノリノリな曲」「ロックな」というわけではないのに、躍動感に溢れ、グルーヴのある1曲。随所に挟まれるギターとピアノのフレーズが、楽曲をさらに多彩にしています。個人的には、本作のベスト・トラック。

 7曲目「Grapevine Fires」は、立体的なドラムに、各楽器が絡み合うアンサンブルを持つ1曲。各楽器が、生々しく臨場感あふれるサウンドでレコーディングされています。

 9曲目「Long Division」は、タイトなリズム隊が曲を先導し、その上に羽が生えたようなギターのフレーズ、激しく歪んだディストーション・ギターが乗る、多層的なアンサンブルの1曲。

 10曲目「Pity And Fear」は、イントロからドラムのリズムが、トライバルな雰囲気を醸し出す1曲。しかし、民族音楽的な空気が充満した曲かというとそうではなく、全体としてはポップなインディーロック然としてサウンドにまとまっています。

 多種多様な音楽ジャンルが顔を出しながら、全体としては一貫性のあるポップなサウンド・プロダクション。収録されている楽曲群もカラフルで、これは名盤だと思います。

 





Alex Lahey “I Love You Like A Brother” / アレックス・レイヒー『アイ・ラヴ・ユー・ライク・ア・ブラザー』


Alex Lahey “I Love You Like A Brother”

アレックス・レイヒー 『アイ・ラヴ・ユー・ライク・ア・ブラザー』
発売: 2017年10月6日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 オーストラリア、メルボルン出身のシンガーソングライター、アレックス・レイヒーの1stアルバムです。

 彼女は2016年に地元オーストラリアで『B-Grade University』というEPを発売、その後2017年にデッド・オーシャンズと契約し、前述の『B-Grade University』を再発、本作『I Love You Like A Brother』をリリースしています。

 清潔感のある白を基調としたジャケットから、アコギ片手に伸びやかな女性ボーカルの声が響きわたる作品を想像していましたが、それとはちょっとイメージの異なる、ガレージの香りもほのかに漂うインディーロック、といった感じのアルバムです。

 力強いロックな声質と、伸びやかな女性シンガーソングライター系の声質のちょうど中間のような、絶妙なボーカルの声。その声の魅力を全面に出しながら、地に足の着いたインディーロック然とした音楽が展開されます。

 アルバム1曲目の「Every Day’s A Weekend」。やや歪んだギターとドラムによるシンプルな、本当にシンプルなイントロ。その上に開放的で伸びやかなボーカルが乗り、少しずつ楽器が増えて加速していく、ロックな曲。

 若干のガレージ風味もありつつ、ボーカルの声とコーラスワークには爽やかな雰囲気もあり、アンサンブルも加速感の演出がうまく機能的。

 「機能的」と書くと味気ない印象を与えてしまうかもしれませんが、シンプルな演奏なのに、ひとつひとつの音符やフレーズが最大限の効果を生むよう、アレンジされているということです。

 若干のラフさを持っているところも、ロック的な疾走感とダイナミズムを増幅させています。

 2曲目の「I Love You Like A Brother」は、パワフルで立体的なドラムが響きわたり、ギターのフィードバックが緊張感と期待感を煽るイントロ。やや奥の方から聞こえるボーカルのカウントもエモーショナルで、1曲目に続いてこちらもロックな1曲。ギターが厚みのあるパワーコードを響かせます。

 しかし、ボーカルが激し過ぎず、伸びやかな声を持っているので、いい意味でのポップさも併せ持っています。ロック過ぎず、甘すぎない、絶妙のバランス。ギターソロの音色も良い。

 5曲目の「Backpack」は、ギターも抑え目に、ミドルテンポでじっくり聴かせる1曲。ここまでのアルバムの楽曲と比較すると、ソフトなサウンド・プロダクションに仕上げ、緩やかにグルーヴしていくアンサンブルが心地よいです。

 シンプルなロックを下敷きに、アレンジにもサウンドにも、手の届く範囲でのバラエティを取り入れた、一貫性のあるアルバムです。この、ゴージャスになりすぎず、ゴテゴテに感じさせないバランス感覚というのは、特にインディー系の音楽には大事だと思います。背伸びしていたり、消化不調で折衷的な音楽というのは、やっぱりあまり魅力的には響かない。

 冒頭にも書きましたが、ボーカルの声と表現力も、このアルバムの大きな魅力です。力強くもあり、伸びやかでもあり、僅かにかすれた声が、非常にエモーショナルに響きます。

 オーストラリア出身のシンガーソングライターということで、もっとオーガニックな耳ざわりの音を想像していましたが、いい意味で期待を裏切る、インディーロック感のあるアルバムです。

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Dent May “Across The Multiverse” / デント・メイ『アクロス・ザ・マルチヴァース』


Dent May “Across The Multiverse”

デント・メイ 『アクロス・ザ・マルチヴァース』
発売: 2017年8月18日
レーベル: Carpark (カーパーク)

 ミシシッピ州ジャクソン出身のシンガーソングライター、デント・メイの4枚目のアルバム。前作まではPaw Tracksからのリリースでしたが、今作は親レーベルのCarparkからのリリース。

 ピコピコ系の電子音が効果的に用いられた、シンセ・ポップ風味のインディーロックが響きます。カラフルな印象のサウンドながら、僅かにひねくれたアレンジがフックになった1作。

 電子音と楽器の音のバランスが絶妙で、お互いに邪魔をせず、異物感なく溶け合い、ポップなテクスチャーを作り上げています。高度なポップ・センスを感じるアルバム。

 2曲目の「Picture On A Screen」は、イントロから奇妙でポップな空気が充満。非常にカラフルでポップなサウンド・プロダクションであるのに、随所に耳に引っかかる変な音が入っていて、それが音楽のフックになっています。

 6曲目「90210」。ピアノの音と、シンセらしくファニーな音が重なるイントロ。シンセサイザーを除けば、アコースティック・ギターも入っていて、ボーカルもメローな1曲。ですが、随所に顔を出す奇妙なサウンドがかわいらしく、楽曲に彩りを加えています。

 再生時間2:03あたりからのギターソロの音作り、それに続いて2:16あたりから始まるシンセのソロの音色が、共におもちゃのようなキュートで奇妙なサウンドで、これもカラフルな印象を強めています。曲の後半にはストリングスも導入されて、展開が多くカラフルでポップな1曲。

 10曲目の「I’m Gonna Live Forever Until I’m Dead」は、不安定なとぼけた雰囲気のギターが耳に残る1曲。緩やかにグルーヴするアンサンブルも心地よく、ヴォコーダーによる声がアクセントになっています。

 ポップで、カラフルで、楽しいアルバムです。実験的と呼ぶにはポップ過ぎる、しかし僅かに違和感を生む音やアレンジが散りばめられていて、ポップ・センスの高さを感じさせる1枚。

 シンセ・ポップと呼ぶほどには、シンセサイザーが前景化されている印象はなく、効果的にシンセがアクセントを加えているアレンジです。

 ストリングスの使い方も絶妙。クラシカルな雰囲気や、壮大さを出さずに、曲に奥行きをプラスしていると思います。





Evangelicals “The Evening Descends” / エヴァンゲリカルズ『ジ・イヴニング・ディセンズ』


Evangelicals “The Evening Descends”

エヴァンゲリカルズ (エヴァンジェリカルズ) 『ジ・イヴニング・ディセンズ』
発売: 2008年1月22日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 オクラホマ州ノーマン出身のバンド、エヴァンゲリカルズの2ndアルバムです。

 おどろおどろしい、ホラー映画のようなジャケットにまず目を奪われてしまいますが、実際の音はというとジャケットのイメージどおり(笑)、ゴシックな香りも僅かに漂いつつ、よくまとまった良質なインディーロックだと思います。

 1曲目「The Evening Descends」のイントロから、やや不穏な空気が漂いますが、サイケデリックな空気とポップな空気のバランスが絶妙な1曲です。3分ちょっとの短い曲ですが、多種多様なサウンドと展開が詰め込まれていて、全体の耳ざわりはカラフル。

 ジャケットからは、もっとゴシック色強め、実験性強めのアルバムを予想していましたが、思いのほかポップ・センスの高さを感じさせる曲からアルバムがスタートします。

 2曲目「Midnight Vignette」は、バンドのアンサンブルとコーラスワークが多層的で、塊感のある1曲。音の出し入れが面白く、この曲も実験的なアレンジを、見事な手さばきで、コンパクトなポップ・ソングにまとめていると思います。

 4曲目「Stoned Again」は、イントロから、立体的なドラムと、ややメタルを感じさせるギターのような音が重なり、厚みのあるアンサンブル。よく聴くといろいろな音が鳴っています。

 5曲目の「Party Crashin’」。個人的には、この曲が最もジャケットのイメージに近いです。イントロから、シンセらしきうねる音がサイケデリックな香りを振りまき、その後も様々な音が飛んできます。しかし曲自体は、音で壁を作るような厚みのあるアンサンブルに、流れるようなボーカルが乗る、疾走感のある1曲。

 アルバムを通して聴いてみて、意外と言ったら失礼かもしれませんが、ポップ・センスに非常に優れたバンドであると思いました。

 ほどよくサイケデリックでアングラな空気も持ちつつ、ポップでカラフルなインディーロックにまとめあげています。何度か「ポップ」という言葉を使いましたが、音楽的にはメタルやゴシックの要素を持ったインディーロック、といった感じです。

 こういうバンドに不意に出会えるのも、USインディーズの楽しみのひとつ。しかし、残念ながら本作は、今のところデジタル配信はされていないようです。





Animal Collective “Here Comes The Indian” / アニマル・コレクティヴ『ヒア・カムズ・ジ・インディアン』


Animal Collective “Here Comes The Indian”

アニマル・コレクティヴ 『ヒア・カムズ・ジ・インディアン』
発売: 2003年6月17日
レーベル: Paw Tracks (ポウ・トラックス)

 メリーランド州ボルティモアで結成されたバンド、アニマル・コレクティヴの1stアルバム。これ以前にも、別名義で3枚のアルバムを発表しているため、実質的に4枚目と数えることもあります。

 また、メンバーのエイヴィ・テア(Avey Tare)が設立したレーベル、Paw Tracksの記念すべきカタログ・ナンバー1番(PAW1)の作品でもあります。

 実験的なサウンドとアレンジを多分に含みながら、カラフルでポップな作品を作り上げるアニマル・コレクティヴ。前述したとおり、本作『Here Comes The Indian』は、アニマル・コレクティヴ名義としては1枚目のアルバムです。

 ノイズとしか思えない音や、アヴァンギャルドな展開も含みながら、全体としてはポップな作品に仕立て上げる、抜群のセンスとバランス感覚を持ったバンドです。本作も、アヴァンギャルドな香りを振りまきながら、騒がしくも楽しい、いきいきとした音楽を鳴らしています。

 1曲目「Native Belle」は、冒頭から雑多な音が飛び交うなか、再生時間1:07あたりから突然バンドの演奏がスタート。ノイズやシャウトなど、ポップとは思えぬ音が四方八方から飛んできますが、そんなことは気にならないぐらいの、圧倒的な躍動感にあふれたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Hey Light」は、展開が目まぐるしい1曲。イントロから叩きつけるようなパワフルなドラムが、定期的に躍動感を響かせ、電子音やギターや声が、次々に重なっていく展開。かなり音が込み入っていますし、ノイズとしか思えないサウンドも入っていますが、それをねじ伏せるほどにアンサンブルの躍動感が圧倒的。

 再生時間3:14あたりからは、ハンドクラップと儀式で歌われるような合唱が始まり、トライバルな雰囲気へ。キャンプファイヤー…というより開拓時代の野外で、焚き火を囲んで歌う曲のようにも聞こえます。ただ、こうした展開に無理やり感が全くなく、「ちょっと変わったポップ・ソング」ぐらいのノリで聴かせてしまうのが、アニマル・コレクティヴの特異なところ。

 4曲目の「Panic」は、声と様々な持続音、打ちつけるドラムの音が重なる、音響的なアプローチの1曲。

 7曲目「Too Soon」は、打ちつける激しいドラム、エフェクトのかかった声、種々の電子音やノイズが飛びかい、絡み合う、アヴァンギャルドな1曲。再生時間1:50から始まる、激しいドラミングが鮮烈。

 アルバムを通して、かなり実験的なアプローチが目立つ作品なのですが、不思議と敷居が高い印象を与えません。それは、ノイジーなサウンドや、複雑怪奇なアレンジを上回るほどの、躍動感や全体の調和といった、音楽の魅力が前景化しているためだと思います。

 アルバムによって作風が異なり、各メンバーのソロ活動にも積極的なアニマル・コレクティヴですが、本作も彼らの音楽的語彙の豊富さ、ポップ・センスの高さを見せつけられる1作です。