Aloha “Here Comes Everyone”
アロハ 『ヒア・カムズ・エブリワン』
発売: 2004年10月26日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
オハイオ州出身のバンド、アロハの2004年発売の3rdアルバムです。アロハの音楽は、みずみずしく疾走感あふれるエモい要素と、ただ直線的に突っ走るだけではない実験性が、バランスよく融合しているところが魅力。
今作『Here Comes Everyone』も、エモコアらしい若々しい疾走感と、ポストロックと呼べる実験的なアプローチが、絶妙なバランスで共存しています。
アルバムの始まりを告げる1曲目「All The Wars」は、1曲目らしく、前のめりになった硬質なサウンドのドラムと、そのドラムに絡まるように入ってくるギターが推進力となった、ロックな曲。ボーカルの声とギターのサウンドがみずみずしく、サウンド的にはエモコア色が濃いのですが、前述したようにドラムのリズムがやや複雑で、非常に聴きごたえがあります。
2曲目の「You’ve Escaped」は、エモさ全開の1曲目「All The Wars」とは打って変わって、アコースティック・ギターとベースのみのイントロ。さらにピアノが入ってきて、1曲目とのサウンドの違いが、ますます際立ちます。再生時間1:18あたりからはヴィブラフォンらしき音が入ってきて、グルーヴ感が増していく展開。最初の2曲だけ聴いても、アロハの音楽性の懐の深さが分かると思います。
3曲目「Summer Away」でも、大体的にヴィブラフォンを使用。しかも、隠し味程度に使う、というレベルではなくアンサンブルの中核を担っています。ヴィブラフォンが入っていなかったら、もっとシンプルなパンク色の濃い曲になっていたはず。ヴィブラフォンの柔らかで、独特の倍音を持つサウンドのおかげで、音楽の奥行きが格段に広がっています。
9曲目の「Thermostat」は、多くの楽器が有機的に絡み合う、壮大なアンサンブルの1曲。しかし、地に足がついた感覚で、無理にスケールを広げた印象は全くありません。
12曲目の「Goodbye To The Factory」は、巨大な動物が行進するような、地響きまで聞こえてきそうな塊感のあるアレンジ。本当にイントロが、あり得ないほどかっこいいです。
独特の若さとツヤのあるボーカルの声と、エモーショナルなメロディーが、純粋なエモ・バンドとしても十分な魅力を持っています。しかし、それだけではなく、独特のグルーヴを生むドラムのリズム、柔らかなサウンドのヴィブラフォンの活躍、丁寧に組み上げたアンサンブルなど、直線的にエモーションを表出するだけではない、奥深さを持ったアルバムです。
トータスなど、インスト主体のバンドがヴィブラフォンを導入することは多いですが、アロハのように歌を中心にしたバンドがヴィブラフォンを導入し、しかも曲によっては主導的なパートを担うというのは、珍しいと思います。珍しいだけじゃなく、それがちゃんと音楽の魅力を高めているところも凄い!