「シカゴ」タグアーカイブ

Town & Country “Decoration Day” / タウン・アンド・カントリー『デコレーション・デイ』


Town & Country (Town And Country) “Decoration Day”

タウン・アンド・カントリー 『デコレーション・デイ』
発売: 2000年5月2日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 1998年に結成された、シカゴを拠点にするバンド、タウン・アンド・カントリーの3曲収録のEP作品。1998年にリリースされた1stアルバム『Town & Country』は、ボックスメディア(BOXmedia)というレーベルからのリリースでしたが、2000年にリリースされた本作以降は、スリル・ジョッキーからリリースされています。

 メンバーは4人で、各担当楽器は次のとおり。ベン・ヴァイダ(Ben Vida):ギター&トランペット、ジョシュ・エイブラムス(Josh Abrams):コントラバス&ピアノ、リズ・ペイン(Liz Payne):コントラバス、ジム・ドーリング(Jim Dorling):ハーモニウム(リード・オルガン)。ドラムレス、ボーカルレスで、生楽器のサウンドを活かしたアコースティックなポストロックを奏でるバンドです。

 前述したとおり、1stアルバムは、シカゴのボックスメディア(BOXmedia)というインディー・レーベルからリリースされますが、本作から2006年のバンドの活動停止まで、以降は全ての作品がスリル・ジョッキーからリリースされています。スリル・ジョッキーというと、トータスとその周辺グループが数多く所属していることもあり、ポストロックのイメージが強いレーベルですが、タウン・アンド・カントリーも、アコースティック楽器を用いた暖かみのあるサウンドで、ミニマルで音響的な音楽を作り上げています。

 1曲目「Give Your Baby A Standing Ovation」は、各楽器のポツリポツリと音を置き、それらが絡み合うような、合わないような、ミニマルなアンサンブルが9分弱にわたって展開される1曲。音の動きとハーモニーには、どこか不穏な雰囲気も漂います。コードが循環するポップ・ミュージックの枠組みを持った音楽ではないため、その手の音楽を聴かない方には、やや敷居が高いかもしれませんが、全くのミニマル・ミュージックというわけではなく、ところどころ展開があります。

 2曲目「Spicer」は、アコースティック・ギターを軸に、音数を絞った、隙間の多いアンサンブルが展開されます。1曲目以上に音数が少なく、アンビエントな雰囲気も漂う1曲。

 3曲目「Off Season」は、ハーモニウムのロングトーンを中心に、ピアノやギターも音を重ね、隙間なく音が広がるような1曲。音響が前景化され、耳に心地よい1曲です。音程やフレーズを変えながら進行するため、目の前の風景が次々に変わっていくような感覚があり、約8分の曲ですが、間延びせずに聴けます。穏やかで、美しい音楽。

 一般的な感覚からすれば、ミニマルな作品であるのは確かですが、生楽器を用いたウォームなサウンドと、人力による各楽器の肉体的な音の躍動感のせいか、独特の暖かみを感じるアルバムです。ゆるやかにグルーヴする部分もあり、音響が前面に出る部分もあり、音数が少なく、ゆったりとした時間が流れる作品ながら、展開と表情は豊富です。

 スリル・ジョッキーから発売されている盤は3曲収録ですが、徳間ジャパンから発売された日本盤にはボーナス・トラックが2曲追加され、計5曲収録となっています。

 





Town & Country “C’Mon” / タウン・アンド・カントリー『カモン』


Town & Country (Town And Country) “C’Mon”

タウン・アンド・カントリー 『カモン』
発売: 2002年2月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していたバンド、タウン・アンド・カントリーの3rdアルバム。生楽器を用いて、ミニマルかつフリーなアンサンブルを展開するのが特徴の4人組です。シカゴの名門インディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 前作『It All Has To Do With It』と比較すると、ミニマルで音響を重視したアプローチであるのは共通していますが、本作の方がコードの響きの部分で、やや不安的で実験的な色が濃くなっています。また、ハーモニウム(リード・オルガン)の持続音や、コントラバスの単音が目立っていた前作に比べ、流れるようなアコースティック・ギターの粒だった音が前面に出ています。

 2000年代以降、シンセサイザーをはじめ、電子楽器を用いたアンビエントなポストロックやエレクトロニカも数多くある中で、タウン・アンド・カントリーは生楽器で独特の温もりのあるサウンドを作り上げています。

 1曲目「Going To Kamakura」は、イントロからギターとコントラバスが、音数が少なくミニマルなアンサンブルを展開。徐々に音の動きが多くなっていき、ハーモニウムの持続音も加わります。全体のハーモニーと、各楽器の音の動きには、どこか不穏な空気が漂う1曲。

 2曲目「I’m Appealing」は、アコースティック・ギターの細かく速い音の波が、イントロから押し寄せる1曲。一般的なポップ・ミュージックの感覚からすると展開に乏しくミニマルな曲ですが、音の動きには微妙に変化があり、途中から音が加わったり、音程が変わったりと、音楽の表情は刻一刻と変化を続けます。

 3曲目「Garden」は、各楽器ともゆったりとロング・トーンを奏でる、アンビエント色の濃い1曲。ドローンというほどには、音の動きが少ないわけではなく、余裕を持ったテンポのなかで、ゆるやかにアンサンブルが構成されます。

 4曲目「The Bells」は、イントロからトランペットの音が印象的な1曲。こちらも3曲目に引き続き、各楽器が奏でる音が長めで、音響が前景化された曲と言えます。生楽器が使用されているため、サウンド・プロダクションは非常に穏やか。再生時間1:48あたりからの各楽器が重なる響きなど、コード感にはやや不思議なところがあります。

 5曲目「I Am So Very Cold」は、各楽器がバウンドするような、軽やかなリズムを持った1曲。耳ざわりも非常に心地よく、グルーヴ感と呼ぶほどではありませんが、ゆるやかにスウィングしていく曲です。

 6曲目「Palms」は、音数が少なく、ミニマルで穏やかな1曲。ヴィブラフォンなのか、鉄琴のような音が、幻想的で童話の世界のような雰囲気を演出します。

 7曲目「Bookmobile」は、各楽器の音の動きが激しく、絡み合うようなアンサンブルが展開されます。フリー・ジャズのような雰囲気も漂いますが、激しくせめぎ合う圧巻のグルーヴという感じではなく、ゆるやかに絡み合いながら、ひとつの有機的な音楽を作り上げる、穏やかな曲です。そう感じるのは、生楽器のみを用いたサウンドによるところも大きいと思います。本作の中でも、わかりやすく音楽的な曲であり、徐々にバンドの熱が上がっていくような、加速感のある曲。とても、かっこいいです。

 ミニマルな作品ではありますが、リズムや音響へのストイックな拘りが感じられ、多種多層な風景を見せてくれるアルバムです。スリル・ジョッキーからリリースされているという先入観を抜きにしても、「アコースティックなトータス」といった趣のある1枚。

 ちなみにスリル・ジョッキーから発売のUS盤は7曲収録ですが、徳間ジャパンから発売された日本盤にはボーナス・トラックが3曲追加され、10曲収録となっています。僕は輸入盤しか所持していないので、ボーナス・トラックについては未聴です。

 





Town & Country “It All Has To Do With It” / タウン・アンド・カントリー 『イット・オール・ハズ・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット』


Town & Country (Town And Country) “It All Has To Do With It”

タウン・アンド・カントリー 『イット・オール・ハズ・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット』
発売: 2000年10月3日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していた4人組バンド、タウン・アンド・カントリーの2ndアルバム。1stアルバム『Town & Country』は、シカゴのボックスメディア(BOXmedia)というレーベルからの発売ですが、2ndアルバムの5ヶ月前に発売されたEP『Decoration Day』以降は、同じくシカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーからリリースされています。

 ボーカル無し、4人のメンバーがアコースティック楽器を用いて、ミニマルで暖かみのあるサウンドを構築する作品です。メンバーと主な担当楽器は、ギターとトランペットのベン・ヴァイダ(Ben Vida)、コントラバスとピアノのジョシュ・エイブラムス(Josh Abrams)、コントラバスのリズ・ペイン(Liz Payne)、ハーモニウム(リード・オルガン)のジム・ドーリング(Jim Dorling)。

 ドラム不在の編成というところも示唆的ですが、リズムよりも音響重視の音楽を奏でるバンドです。本作も、ハーモニウムの持続音を効果的に用いながら、ゆったりとしたテンポでコントラバスやギターが音を紡ぎ、目の前に風景が広がるようなアンサンブルが展開されます。

 1曲目「Hindenburg」は、音楽が様々な表情を見せるイマジナティヴな1曲。音が空間に滲んでいくような印象的なイントロから、徐々に音数が増え、タペストリーのように音楽が織り込まれていきます。再生時間2:40あたりからのテンポが切り替わる部分など、ところどころ風景が変わるような展開があります。

 2曲目「Hat Versus Hood」は、ハーモニウムの持続音が広がっていくアンビエントなイントロから、少しずつリズムが生まれ、音楽の輪郭がはっきりと現れてくるような展開の1曲。ハーモニウムの持続音の中に、コントラバスとピアノが音を置いていき、音が心地よく厚みを増していきます。

 3曲目「Fine Italian Hand」は、イントロからポツリポツリと音が鳴る、隙間の多いミニマルな1曲。アコースティック楽器を用いているからか、とても穏やかな音像。再生時間2:33あたりからギターが入ってくると、徐々に音が増え、緩やかに躍動感が生まれます。

 4曲目「That Old Feeling」は、イントロからシンセサイザーを使用しているのか、電子ノイズのような耳ざわりの音が響きます。その音に重なるようにコントラバスとギターが入り、絡み合うように、ゆるやかなグルーヴ感が生まれていきます。各楽器の音の運びが変わったり、再生時間8:50あたりからはトランペットが入ってきたりと、基本的にはミニマルな1曲ですが、少しずつ変化しながら進行していく曲です。

 アルバム全体を通して、ミニマルかつフリー・インプロヴィザーションの要素も感じる作品ですが、サウンド・プロダクションが非常に柔らかく穏やかで、敷居の高さはそこまで感じません。正しいかどうかは別にして、人によってはヒーリング・ミュージックとしても聴けるのではないかと思います。

 ちなみに4曲収録の作品ですが、徳間ジャパンから発売されていた日本盤には「Karaoke Part One」「Karaoke Part Two」という2曲のボーナス・トラックが収録されていました。日本用のボーナス・トラックだから「Karaoke」という言葉を使ったんでしょうかね。

 「Karaoke Part One」は、アコースティック・ギターとコントラバスがゆるやかに絡み合い、ハーモニウムが全体を包み込むような、ミニマルな1曲。「Karaoke Part Two」は、前半は高音域の鉄琴のような音と、トランペットの音が溶け合う、ハイに寄ったサウンド。後半はドラムのリムショットのような音や、スティック同士を叩くような音が、小刻みに鳴る、やや実験性の強い曲です。

 





Shrimp Boat “Cavale” / シュリンプ・ボート『カヴァル』


Shrimp Boat “Cavale”

シュリンプ・ボート 『カヴァル』
発売: 1993年4月1日
レーベル: Bar/None (バーナン)

 1987年にシカゴで結成されたバンド、シュリンプ・ボートの4thアルバムであり、ラスト・アルバム。ここまでの3枚を順番に挙げると『Speckly』『Volume One』『Duende』で、これ以前にもカセット音源をいくつかリリースしています。また2004年には、1986年から1993年までの音源を収録したコンピレーション『Something Grand』を発売。こちらは現在、配信でも購入できます。

 本作『Cavale』は、アメリカではBar/None、イギリスではラフ・トレード(Rough Trade)、日本ではジャズやラテンのリイシューを数多く手がけるボンバ・レコードからリリース。

 のちにザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)の結成に参加するサム・プレコップ(Sam Prekop)とエリック・クラリッジ(Eric Claridge)がメンバーだったシュリンプ・ボート。多種多様な音楽を飲み込みながら、耳なじみの良いギター・ロックに仕上げるセンスは、ザ・シー・アンド・ケイクに繋がると言っていいでしょう。

 最後のアルバムとなった本作では、フリージャズや現代音楽を感じさせるアヴァンギャルドな空気も振りまきながら、軽やかでカラフルな音楽を響かせます。アレンジには多分に実験的な要素も含むのですが、どこか牧歌的でカントリー色を感じさせるところも魅力。

 1曲目「Pumpkin Lover」は、バンド全体が緩やかに、軽やかにグルーヴしていく1曲。リズムには複雑なところもあるのですが、ややローファイで純粋無垢なサウンドが、牧歌的でかわいい雰囲気をかもし出します。どこか、とぼけた感じのボーカルも、良い意味での軽さをプラスしています。

 2曲目「Duende Suite」は、減速と加速をくり返しながら、駆け抜けていく1曲。小刻みで、せわしないリズムからは、カントリーの香りが漂いますが、前述したとおり速度を切り替えながら進むアレンジからは、カントリーだけにとどまらない実験性が伝わります。

 4曲目「Blue Green Misery」は、各楽器が緩やかに弾むようなリズムを刻み、バンド全体も立体的にグルーヴしていく1曲。聴いていると自然に体が動き出すような躍動感がありますが、強すぎず弱すぎず、非常に心地いい1曲です。

 5曲目「What Do You Think Of Love」は、一聴するとぶっきらぼうにも聞こえるドラムが、絶妙にタメを作りながらリズムをキープしていきます。その上にギターとサックス、ボーカルが乗り、いきいきとしたグルーヴが形成。エレキ・ギターのフレーズが、サウンドとアンサンブルの両面でアクセントになっています。

 6曲目「Swinging Shell」は、ギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合う1曲。裏声を使ったボーカルも、やわらかな雰囲気を演出。

 7曲目「Creme Brulee」は、サックスも使用され、音数が多く、立体的なアンサンブルが展開される1曲。いくつもの歯車が複雑に、しかしきっちりと噛み合ったような心地よさのある曲です。ドラムのソリッドな音色と、立体的なリズムが全体を引き締めています。

 9曲目「Free Love Overdrive」。イントロのハーモニーが奇妙な響きを持っていますが、聴いているうちに、その不協和音のような不安定な雰囲気が、クセになっていきます。曲全体としては、実験性が強く聴きづらい印象は全くなく、カラフルでポップな1曲です。まさにアヴァン・ポップと呼ぶべき1曲。

 11曲目「Apples」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、サックスとギターがムーディーなフレーズを奏でる、ジャズの香り立つ1曲。

 12曲目「Smooth Ass」も、ゆっくりなテンポで、緩やかなグルーヴが展開される曲。音数は少ないのですが、ヴェールが空間を包むような、穏やかなサウンドと雰囲気を持った1曲です。

 15曲目「Henny Penny」は、イントロから鳴り響くドラムの音に臨場感があり、印象的な1曲。ギターとベース、ボーカルも、ゆったりと絡み合い、有機的なアンサンブルを作りあげます。

 アルバム全体を通して、ジャズやカントリーなど様々なジャンルの香りを漂わせつつ、決して難解な印象にはならず、カラフルで良い意味で軽いギター・ロックを響かせています。実験性とポップさのバランスが秀逸で、9曲目の「Free Love Overdrive」の部分でも書きましたが、アヴァン・ポップと呼びたくなる作品です。

 非常にポップでありながら、実験性も持ち合わせていて、聴くごとに味が出てくる、奥深いアルバムだと思います。

 





In Tall Buildings “Akinetic” / イン・トール・ビルディングス『アキネティック』


In Tall Buildings “Akinetic”

イン・トール・ビルディングス 『アキネティック』
発売: 2018年3月2日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 イリノイ州シカゴを拠点に活動する、エリック・ホール(Erik Hall)によるソロ・プロジェクト、In Tall Buildingsの3rdアルバムです。

 矛盾するような言い回しですが、電子音がフィーチャーされた、ギターポップとでもいうべき音楽が展開されます。全体のサウンド・プロダクションは柔らかく、生まれるグルーヴも緩やか。アンビエントかつリラクシングな音像を持ったアルバムです。

 1曲目の「Beginning To Fade」は、ギターとピアノ、リズム隊が縦に重なり、グルーヴしていく1曲。アコースティック・ギターの音色も効果的に用いられ、柔らかな音像を持った曲です。

 2曲目「Akinetic」は、電子音と思しきサウンドを使ったミニマルなイントロから、少しずつ音が広がっていく展開。再生時間1:07あたりからの電子音が静かに降り注ぐ間奏は、幻想的かつキュート。

 3曲目「Long Way Down」。こちらも音数をかなり絞った、ミニマルなアンサンブルの1曲。電子音とアコースティック・ギターが支え合うように、アンサンブルを構成します。

 4曲目「Overconscious」は、バンド全体がゆったりと歩を進めるようなグルーヴのある1曲。ここまでの3曲と比較すると、リズムの形がはっきりとしています。

 6曲目「Siren Song」は、ドラムとアコースティック・ギターが細かくリズムを刻む、疾走感のある1曲。と言っても、一般的な意味からするとかなり音数は少なく、ミニマルな部類の曲です。

 7曲目「Curtain」は、バウンドするような細かい電子音と、柔らかな持続音が空間を埋めていく、テクノ色の濃いサウンド・プロダクションの1曲。

 音数が絞られたミニマルなアンサンブルが展開されるアルバムです。電子音が多用されていますが、冷たいという印象は無く、アコースティック・ギターやピアノのオーガニックな響きが効果的に配置され、ウォームな耳ざわりの作品になっています。

 音数を絞ることで、音響が前景化する面もありますが、随所にアヴァンギャルドな音やアレンジ、バンドを感じさせるグルーヴ(このグループは実質エリック・ホールのソロ・プロジェクトですが)が散りばめられ、ロック感もにじみ出ています。

 オルタナ・カントリーやポスト・ロックとも違う、「エレクトロニカ的インディーロック」とでもいうべき音楽です。