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Wilco “Star Wars” / ウィルコ『スター・ウォーズ』


Wilco “Star Wars”

ウィルコ 『スター・ウォーズ』
発売: 2015年7月16日
レーベル: ANTI- (アンタイ), dBpm

 イリノイ州シカゴを拠点に活動するバンド、ウィルコの9枚目のスタジオ・アルバムです。彼ら自身が設立したレーベルdBpmと、エピタフの姉妹レーベルANTI-より発売。

 オルタナ・カントリーを代表するバンド、ウィルコ。本作『Star Wars』は、随所にディストーション・ギターが響きわたる、オルタナ色の濃い1枚です。しかし、カントリーへのリスペクト溢れる、緩やかなグルーヴ感や、親しみやすいメロディーも健在。このバランス感覚が抜群で、さすがウィルコ!と思わせる1枚です。

 1曲目の「EKG」は、複数のノイジーなエレキ・ギターが絡み合い、実験的な空気から始まります。1分あまりの長さで、ボーカル無しのイントロダクション的な曲ですが、めちゃくちゃかっこいいです、これ。

 2曲目「More…」は、アコースティック・ギターのゆったりしたコード・ストロークに、エレキ・ギターが絡み合うようなイントロ。カントリーとオルタナ性が溶け合った、ウィルコらしい1曲。

 3曲目「Random Name Generator」は、野太く歪んだギターに、パワフルなドラム。ギターのフレーズはカントリーの香りを振りまき、全体のアンサンブルには古き良きロックンロールの香り立つ1曲。しかし、ルーツくさくなり過ぎず、現代的でオルタナティヴな雰囲気にまとめるのが、彼らの魅力。再生時間2:13あたりからのアレンジなど、オルタナティヴなアレンジがアクセント。

 4曲目「The Joke Explained」。こちらもカントリーな雰囲気と、オルタナティヴな空気が共存する1曲。ギターの音色とフレーズが、実験的な雰囲気をプラスし、全体の立体的なアンサンブルも鮮やか。

 9曲目の「Cold Slope」は、複数のギターが絡み合う、ジャンクな耳ざわりのイントロから、タイトなアンサンブルが始まる1曲。テンポ抑え目、ボーカルも感情を排したような淡々とした歌い方。だけど、再生時間0:36からのエレキ・ギターの登場とコードの響きなど、ほのかに違和感があるところがウィルコらしい。再生時間1:00あたりからは、ギターが増え、緩やかにオルタナティヴな雰囲気へ。

 カントリーを下敷きに、激しく歪んだギターや、実験的なアレンジが融合した1枚です。オルタナ・カントリーというと、折衷的な音楽であるかのようなイメージもありますが、ウィルコの音楽はカントリー、オルタナティヴ、どちらの要素も地に足が着いていて、両面において理解度の高さをうかがわせます。

 相反すると思われるふたつのジャンルを、違和感や借り物感なくまとめあげるセンスは、やっぱり抜群!

 





Pit Er Pat “Shakey” / ピット・アー・パット『シェイキー』


Pit Er Pat “Shakey”

ピット・アー・パット 『シェイキー』
発売: 2005年3月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 イリノイ州シカゴ出身のバンド、ピット・アー・パットの1stアルバムです。シカゴの名門レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 ピット・アー・パットは大好きなバンドで、特にこの1stは多くの人におすすめしたい1枚です。簡単にこのバンドの紹介をさせていただくと、ボーカル兼キーボードのフェイ・デイビス・ジェファーズ、ベースのロブ・ドラン、ドラムのブッチー・フエゴの3人組。

 のちにベースが脱退して2人組へ。ドラムのブッチーは、77人のドラマーが77台のドラムを一斉に打ち鳴らす、ボアダムスの『77 BOA DRUM』という作品に参加しています。

 本作『Shakey』は、1枚目のアルバムながら、非常に高い完成度を誇っています。複雑かつ躍動感あふれるアンサンブルが、全編にわたって展開されます。ギターレスの編成で、キーボードはオルガンのような暖かみのある音色が使用されているため、全体のサウンドはオーガニックな印象。

 サウンドにはルーツ・ミュージックを感じさせつつ、アレンジには実験的な要素を含みながら、立体的でグルーヴィーな演奏を繰り広げていきます。日本のバンドに例えると「アメリカーナな雰囲気を持ったクラムボン」といった感じです。

 1曲目の「Bird」から、早速のキラー・チューンです。イントロから、音数は詰め込まれていないのに、三者が複雑に絡み合うアンサンブル。複雑と言っても難解な印象ではなく、気持ちよくパワフルにグルーヴしていく演奏です。

 再生時間0:41あたりから、1:28あたりからと、段階的にシフトが上がっていく展開も、加速感を演出します。テンポが速い、音量が大きい、というわけではないのに、有機的で生命力を感じる素晴らしいアンサンブルです。

 1:28あたりからの間奏でのドラムは圧巻。1人でポリリズムを作り出すような、複雑なプレイをさらっとやってのけます。2:42あたりからラストに向かっていく、アヴァンギャルドなアレンジも、聴き手のテンションを上げます。

 2曲目「Scared Sorry」は、三者が肩慣らしをするように演奏が始まり、徐々に加速していく展開。この曲はアンサンブルが非常にタイト。

 3曲目「Gated Community」は、メロディアスなベース、緩やかなキーボード、正確に細かくリズムを刻むドラムが絡み合う、緻密かつグルーヴに溢れた1曲。この曲でも、三者とも素晴らしい演奏をしていますが、特にドラムがすごい。

 7曲目「Cake Peg」。こちらもイントロから、三者が複雑怪奇なアンサンブルを繰り広げます。リズムも複雑ですが、キーボードのハーモニーが奇妙で、クセになる1曲。この曲に限らず、一般的にはかなり前衛的な要素を含んでいるんですけど、難しく感じない、むしろ魅力に転化させているところが、このバンドの凄いところ。

 本当に大好きな1作です。リズムもハーモニーも展開も複雑。かなり実験的なアレンジも含まれているのですが、難解な印象は全くなく、いきいきとした躍動感が前面に出た、聴いていて本当に楽しいアルバム。

 本国でも、めちゃくちゃ人気のバンドってわけでもないのですが、こういう音楽が日本でも売れる世界になってほしいなぁ、って思います。ちなみにこのアルバムは、ボーナス・トラック入りの日本盤も出ていました。

 本当に心からオススメしたい1枚。ぜひ聴いてください!

 





Isotope 217 “Who Stole The I Walkman?” / アイソトープ217『フー・ストール・ジ・アイ・ウォークマン?』


Isotope 217 “Who Stole The I Walkman?”

アイソトープ217 『フー・ストール・ジ・アイ・ウォークマン?』
発売: 2000年8月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の3rdアルバム。

 これまでの2作で、ジャズとポストロックの融合を推し進めてきたアイソトープ217。本作『Who Stole The I Walkman?』でも、その方法論は基本的には変わっていません。

 彼らはジャズの要素をポストロック的な手法で、解体・再構築してきました。今作は、最もポストロック色の強い1作と言えます。

 ジャズのフレーズやリズムを、パーツとしてポスト・プロダクション的に組み立て直した1作目『The Unstable Molecule』。ジャズのグルーヴ感やダイナミズムと、音響的なアプローチが高度に融合した2作目『Utonian Automatic』。

 そして、3作目の本作は、もはやジャズとポストロックを、細切れに解体して再生された、全く新しい音楽を作りあげています。

 1曲目「Harm-O-Lodge」から、多種多様なサウンドとリズムが飛び交う、ジャンルレスで不思議な音楽が展開していきます。再生時間0:55あたりで、別の音源を切り貼りしたように、雰囲気が一変するところも新鮮。というより、実際にかなり大胆なポスト・プロダクションが施されているのだろうと思います。

 3曲目「Meta Bass」は、音の素材がそのまま漂うようなアンビエントな1曲。音響が前景化された曲であることは確かですが、徐々にビート感とグルーヴ感が生まれていきます。音響とアンサンブルが、不可分に融合したような感覚。

 7曲目「Moot Ang」は、ギターやトランペットのフレーズ、ドラムのリズムが、かみ合わないようでかみ合っていく展開。いわゆるポリリズムとは異なりますが、いくつものパーツから、有機的に新しい音楽が生まれていくような1曲。

 前述したとおり、アイソトープ217のアルバムの中で、最も斬新でジャンルレスな音楽が展開される1作です。前2作と比較すると、ある程度の難解さはあるかなぁ、とは思います。

 しかし、既存の音楽ジャンルを刷新する、ポストロックやポストジャズの一種として、とても刺激的な作品です。トータスが好きな方や、普段ポストロックを聴いている方には、違和感なく受け入れられる作品であると思います。

 





Isotope 217 “Utonian Automatic” / アイソトープ217『ユートニアン・オートマティック』


Isotope 217 “Utonian Automatic”

アイソトープ217 『ユートニアン・オートマティック』
発売: 1999年8月10日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の2ndアルバムです。

 前作『The Unstable Molecule』を単純化して説明するなら、ジャズのフレーズやサウンドを、ポストロック的な手法で再構築したアルバムでした。2作目となる本作は、矛盾するようですが、ジャズ色とポストロック色の両方が、より色濃くあらわれた作品です。

 どういうことかと言うと、前作ではあまり聴かれなかった、ダンス・ミュージックとしてのジャズのスウィング感が強まり、同時にポストロック的な、サウンドを切り貼りしコラージュする手法も、より強く出たアルバムということです。

 1曲目「LUH」のイントロからエンジン全開! 個人的に大好きな1曲です。1音目が鳴った瞬間から、かっこいい。エレクトリック期のマイルスの香りも漂いますが、リズム構造はよりわかりやすく、ロック的なノリでも聴ける1曲だと思います。前半は様々なサウンドとリズムが折り重なっていく、怒濤の展開。

 再生時間2:42あたりからは、嵐が過ぎ去ったあとのように、突如としてアンビエントな音像へ。そこから再び音が増えていく後半。後半はポストプロダクションを強く感じさせるサウンド。

 3曲目の「New Beyond」は、低音に重心を置いた、録音された音全体にエフェクトがかけられたような、不思議なサウンド・プロダクションを持つ1曲。

 4曲目「Rest For The Wicked」は、ワウとディレイのかかったギターらしき音が漂うイントロから、ベースとドラムがリズムを重ねていく展開。2分ちょっとの短い曲ですが、リズム隊からはジャズが香り、上モノからはエレクトロニカや音響系ポストロックが香る、このバンドらしい1曲。

 5曲目「Looking After Life On Mars」は、ノリノリで抜群のグルーヴ感。1曲目「LUH」に続いて、非常にわかりやすいかっこよさの1曲です。8分を超える曲で、再生時間5:40ぐらいまではジャズの要素が濃い、躍動感あふれる演奏が繰り広げられます。

 後半は、それまでのフレーズをサンプリングして再構築した、ミニマル・テクノのような展開。このバンドが持つ魅力と音楽性のレンジの広さが、凝縮された1曲だと思います。

 ジャズとポストロック、それぞれの要素が前作よりも色濃く、バンドとしての洗練を感じさせるアルバムです。ジャズ的なグルーヴ、音響的な心地よさなど、多面的な魅力があふれる1枚。

 これは心からオススメしたい作品です!

 





Isotope 217 “The Unstable Molecule” / アイソトープ217『ジ・アンステイブル・モルキュール』


Isotope 217 “The Unstable Molecule”

アイソトープ217 『ジ・アンステイブル・モルキュール』
発売: 1997年11月4日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータス周辺のメンバーが結成したジャズ・バンド、アイソトープ217の1stアルバムです。

 トータスとメンバーが重なっていますし、所属も同じくスリル・ジョッキー。どうしても、ジャズ版トータスという先入観を持って聴いてしまうバンドです。(少なくとも僕は)

 では、どこがトータスと共通し、どこがトータスとは違うのか、そして実際どんな音が鳴っているのか、という視点でこのアルバムの魅力をお伝えしたいと思います。

 トータスといえば1998年発表の『TNT』で、本格的なハードディスク・レコーディングを導入し、大胆なポスト・プロダクションを施した、革新的なアルバムを作り上げました。『TNT』が発売されたのは1998年、本作が発売されたのは1997年ですが、本作にもポスト・プロダクションを意識したアプローチが随所に感じられます。

 ポスト・プロダクションを意識した製作過程はトータスとアイソトープで共通している、では両者のどこが異なっているのかといえば、音楽を構成する素材、実際に演奏されるフレーズです。

 単純化が過ぎることを承知で言えば、ポストロック・バンドであるトータスはロック的でないパーツを用いて音楽を作り上げ、アイソトープはジャズ的なフレーズやリズムを用いて音楽を作り上げるということです。

 1曲目の「Kryptonite Smokes The Red Line」は、ドラム、キーボード、ホーンがレイヤーのように重なる1曲。アルバム1曲目ということで、リスナーをアルバムの世界観にチューニングするような曲だと思います。

 2曲目「Beneath The Undertow」は、イントロのホーンがトリガーとなり、多層的なアンサンブルが繰り広げられる1曲。再生時間0:40あたりからのホーンのフレーズと、ドラムとパーカッションのリズムの重なり方など、レイヤー構造のようなポリリズム。再生時間1:55あたりからのトランペットのソロも良い。ジャズ版トータスと言いたくなる1曲。

 3曲目「La Jeteé」は、メローなジャズのようにも聞こえますが、音響が前景化したエレクトロニカのようにも聞こえる1曲。

 4曲目「Phonometrics」は、立体的なリズムが印象的。サウンドも生々しくレコーディングされており、臨場感あふれる1曲。

 5曲目「Prince Namor」は、スローテンポで音響的なアプローチの1曲。電子音の代わりにホーンを使用したエレクトロニカのような印象。

 6曲目「Audio Boxing」は、図太いサウンドのベースが空間を埋め尽くし、タイトなドラムが時間を切り刻む、濃密な1曲。全体の音の密度が高いです。

 ジャズ的なフレーズとリズム、サウンドを用いて、ポスト・プロダクションを意識したポストロック的な手法、音響を重視したエレクトロニカ的な手法を実践したアルバムのように思います。

 ジャズ版トータス、裏トータスとしての楽しみ方もできれば、ジャズとポストロックが高度に融合したアルバムとしても聴けるクオリティを備えた作品と言えます。