「1998年」タグアーカイブ

Of Montreal “The Bedside Drama: A Petite Tragedy” / オブ・モントリオール『ベットサイドの小さな悲劇』


Of Montreal “The Bedside Drama: A Petite Tragedy”

オブ・モントリオール 『ベットサイドの小さな悲劇』
発売: 1998年
レーベル: Kindercore (キンダーコア)

 音楽コミュニティ「エレファント6」の一員でもある、ジョージア州アセンズ出身のバンド、オブ・モントリオールの2ndアルバム。デビュー・アルバムとなった前作『Cherry Peel』は、ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneからのリリースでしたが、2作目となる本作は、地元アセンズのレーベル、Kindercoreからリリース。

 ローファイなサウンドで、純粋無垢なギターポップを奏でていた前作から比較すると、本作はサウンド面でも音楽性の面でも、より洗練された音を鳴らしています。チープでローファイな音質は薄まり、よりカラフルでポップ、同時にアヴァンギャルドな空気も漂う音楽が展開されるアルバムです。

 1曲目「One Of A Very Few Other Kind」は、ゆるやかにグルーヴしながら走り抜けていく、カントリー風味のあるギターポップ。再生時間0:48あたりからの間奏で響き渡るファニーなサウンドが、楽曲をより一層カラフルに彩っています。

 2曲目「Happy Yellow Bumblebee」は、各楽器が絡み合い、立体的なアンサンブルが展開される1曲。ドラムのリズムが複雑で、楽曲の中心であると言ってもよいぐらい目立っています。

 3曲目「Little Viola Hidden In The Orchestra」は、アコースティック・ギターのコード・ストロークによる、意外性のあるコード進行が魅力の1曲。基本的には弾き語りに近いアレンジですが、再生時間0:44あたり、1:50あたりからなど、随所に差し込まれるファニーな音がサイケデリックな香りを振りまきます。

 4曲目「The Couple’s First Kiss」は、イントロから多様な音が飛び交い、おもちゃ箱のような楽しさとカラフルさに溢れた1曲。

 5曲目「Sing You A Love Song」は、ギター、ベース、ドラムが緩やかにグルーヴしていく、牧歌的な雰囲気のギターポップ。

 6曲目「Honeymoon In San Francisco」は、アコースティック・ギターによるアルペジオとボーカルを中心にした、メローな曲ながら、アコーディオンのような音、フィールド・レコーディングされた水の音などが重なり、多層的でサイケデリックな音世界を作り上げます。

 9曲目「Panda Bear」は、各楽器の音とボーカルが、波のようにゆったりと流れ、ゆるやかに合わさる1曲。

 12曲目「My Darling, I’ve Forgotten」は、流れるようなギターから、どことなくハワイアンな空気が漂う1曲。

 14曲目「Just Recently Lost Something Of Importance」は、イントロからトランペットがフィーチャーされ、生楽器のオーガニックな響きが心地よい1曲。ブリッジ部分に顔を出すバイオリンらしき音、アコースティック・ギターの濁りにあるコードの響きもフックとなり、楽曲に深みを与えています。再生時間2:07あたりからのアレンジにも、アヴァンギャルドな空気が溢れ、実にオブ・モントリオールらしい。

 16曲目「It’s Easy To Sleep When You’re Dead」は、疾走感のあるコンパクトなロック・チューン。再生時間2:15あたりから始まるサイケデリックな展開もクセになります。

 おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルなアルバムですが、アヴァンギャルドな音やアレンジを散りばめているところも、このアルバムの魅力です。言い換えれば、実験性がポップな形に昇華されて、溶け込んでいるということ。結果として、実験性がフックとなり、音楽に奥行きを与えると思います。

 ちなみに『ベットサイドの小さな悲劇』という邦題がつけられておりますが、こちらは「ベット」の「ト」が濁らない表記になっています。

 





Silkworm “Blueblood” / シルクワーム『ブルーブラッド』


Silkworm “Blueblood”

シルクワーム 『ブルーブラッド』
発売: 1998年7月21日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: James Hale (ジェームス・ヘイル)

 モンタナ州ミズーラで結成されたバンド、シルクワームの6枚目のアルバム。4枚目と5枚目のアルバムは、ニューヨークに居を構えるレーベル、マタドール(Matador)からのリリースでしたが、今作からシカゴのタッチ・アンド・ゴーに移籍しています。

 また、2枚目から5枚目のアルバムまで、一貫してレコーディング・エンジニアを担当してきたスティーヴ・アルビニは、今作ではミキシングのみ担当。レコーディングはジェームス・ヘイル(James Hale)が手がけています。7作目となる次作『Lifestyle』からは、再びアルビニが担当に戻ります。

 3rdアルバム『Libertine』リリース後に、ギタリストのジョエル・R・L・フェルプス(Joel R.L. Phelps)が脱退してから、3ピースで活動してきたシルクワーム。今作には、ブレット・グロスマン(Brett Grossman)がキーボードで参加しています。

 レーベル移籍、エンジニアの変更、サボート・メンバーの参加と、前作からいくつかの変更点があるアルバムですが、音楽性とサウンドの差異はそこまで感じません。あくまで、これまでのシルクワームの音楽の延長線上にあると言えます。すなわち、オルタナティヴ・ロックの範疇におさまるハードなサウンドを持ちながら、3者の絡み合うようなアンサンブルが展開される作品です。

 しかし、音楽性の幅は確実に広がっていて、本作からは牧歌的でカントリーのような香りが漂います。これは、今までのシルクワームからは、あまり感じられなかった要素です。激しく歪んだギターは随所に顔を出しますが、これまでの作品と比較すれば控えめで、テンポも抑えた曲が多いアルバムと言えます。

 1曲目「Eff」は、ゆったりとしたテンポに乗って、バンドが緩やかにグルーヴしていく1曲。音数は少なく、各楽器の音も、歪みは抑えめ。その代わりに、ややざらついたソウルフルなボーカルが前面に出てきます。

 2曲目「I Must Prepare (Tablecloth Tint)」も、サウンド的にもテンポ的にも抑え気味で、緩やかに進行していく1曲。各楽器ともシンプルな演奏ですが、リズムにフックがあり、耳を掴んでいきます。この曲では、ボーカルも感情を抑えたような、物憂げな歌い方。ピアノの音も、今までのシルクワームにはあまり感じなかった牧歌的な雰囲気を加えています。

5曲目「Empty Elevator Shaft」では、ドラムのマイケル・ダルクイスト(Michael Dahlquist)もボーカルを担当。クランチ気味のギターと、揺れるようなリズム隊が、心地よくスウィングする曲です。

 前述したように、スティーヴ・アルビニは録音を担当していませんが、音質の違いはそこまで感じません。しいて言えば、前作の方が残響音まで伝わるような臨場感が、より強かったかなと思います。

 また、激しく歪んだディストーション・サウンドよりも、各楽器ともシンプルな音が多用され、アンサンブル志向の強いアルバムであるとも言えます。本人たちがどの程度、影響を受けているのかはわかりませんが、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックからの影響を感じる部分もあります。

 いずれにしても、直線的な8ビートで走るわけでも、予定調和の轟音で押し流すわけでもない、このバンドが持つ音楽の奥行きを感じさせる1枚です。
 
 





Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”/ ニュートラル・ミルク・ホテル『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』


Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”

ニュートラル・ミルク・ホテル 『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』
発売: 1998年2月10日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Robert Schneider (ロバート・シュナイダー)

 フロントマンのジェフ・マンガム(Jeff Mangum)を中心に、ルイジアナ州ラストンで結成されたバンド、ニュートラル・ミルク・ホテルの2ndアルバムです。プロデューサーは前作に引き続き、ロバート・シュナイダー。

 前作『On Avery Island』は、エフェクトを深くかけたギターを多用し、ガレージやサイケデリックの香りを振りまきつつ、全体としてカラフルなインディー・ロックに仕上げたアルバムでした。

 2作目となる本作では、アコースティック・ギターの使用が増え、サウンド・プロダクションは格段にフォーキーに。バンジョーやアコーディオンも導入され、鳴らされる音楽もカントリーや民族音楽の要素が色濃くなったアルバムと言えます。

 そして、アヴァンギャルドな要素をポップに仕立てあげるセンスも健在。アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、ところどころアヴァンギャルドな音やアレンジが差し挟まれる1作です。ホーンも入って、スケールの大きさを感じさせるアルバムでもあります。

 2曲目の「The King Of Carrot Flowers Pts. Two & Three」は、牧歌的な雰囲気のイントロから始まり、再生時間0:48あたりから激しく歪んだエレキ・ギターが入ってくると、そこからガレージ風のロックへ。コントラストが鮮烈な1曲です。

 5曲目「The Fool」は、ホーンやアコーディオンな音色が多層的に重なる、民謡的な雰囲気を持った1曲。ボーカル無し、インストの曲ですが、インタールード的な役割で聞き流すのには、もったいないぐらいクオリティの高い曲だと思います。ジャンクな雰囲気と、民謡的な生楽器のサウンドが溶け合い「インディー民族音楽」とでも呼びたくようなバランス。

 6曲目「Holland, 1945」は、アコースティック・ギターと毛羽立った歪んだのエレキ・ギターが共に響く、疾走感のある1曲。アコギのオーガニックな響きと、エレキのガレージ的な歪みが溶け合い、このアルバムを象徴するようなサウンド・プロダクション。

 9曲目は「Ghost」。この曲もアコースティック・ギターのみずみずしいサウンドと、野太く歪んだファズ・サウンドのギターが、有機的にアンサンブルを構成。間奏ではホーンも効果的に使用されます。

 10曲目「Untitled」は、電子音から生楽器まで、ノイズ的なサウンドも含め、多種多様な音が飛び交う1曲。タイトル無しなのがもったいないほど、良い曲だと思います。

 フォークやカントリー、さらには民族音楽の要素を多分に含みながら、随所に激しく歪んだギターや、アヴァンギャルドなアレンジが散りばめられた1枚です。

 しかし、敷居が高い印象は全くなく、むしろルーツ・ミュージック色をいい意味で薄めて、モダンなインディー・ロックに仕上がっています。ニュートラル・ミルク・ホテルは、本当にこのセンスが抜群。

 ジャンクでローファイでサイケデリックな香りのする民族音楽、といった趣のアルバムです。

 





The Faint “Media” / ザ・フェイント『メディア』


The Faint “Media”

ザ・フェイント 『メディア』
発売: 1998年3月24日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス(モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの1stアルバム。このバンドは、1995年にノーマン・ベイラー(Norman Bailer)という名前で結成され、最初期のごく短い期間ではありますが、ブライト・アイズのコナー・オバーストが参加していました。

 2ndアルバム以降は、シンセをフィーチャーし、ダンス・パンク色が濃くなっていくザ・フェイント。1stアルバムである本作『Media』にもシンセサイザーは使用されており、ダンス・パンクやポストパンク・リバイバルの雰囲気もわずかに持っているものの、ディストーション・ギターが前面に出たソリッドなサウンドを響かせています。

 ドラムも立体感のあるドラムらしい音色。この作品以降は、ドラムも打ち込み的な無機質なビートを用いることが増加します。3rdアルバムの『Danse Macabre』と比較すると、サウンド・プロダクションの違いがよくわかると思います。本作にダンス・パンク色は、ほぼ感じられないと言ってもいいぐらいです。

 本作『Media』で聴かれるのは、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴに影響を受けたポスト・ハードコア、といったバランスのサウンド。スピード重視のハードコアではなく、キーボードも用いて、立体的なアンサンブルを構築したアルバムです。

 2曲目「Some Incrininating Photographs」は、ドラムとギターが立体的に絡み合い、シンセも効果的にアンサンブルに参加する、ミドル・テンポの1曲。ギターとドラムが、特に臨場感あふれる生々しい音で響きます。

 5曲目「Repertoire Of Uncommon Depth」は、ノイジーなギター、硬質でハリのあるベース、手数を絞ったドラムが、イントロから複雑なアンサンブルを構成。全体的に生々しく、切れ味鋭いサウンド・プロダクションです。ギターの音とフレーズからは、アヴァンギャルドな空気も漂う1曲。インディーズらしい質感のかっこよさ。

 前述したとおり、ザ・フェイントはこの作品以降はシンセが多用され、ダンス色を強めていきますが、本作はソリッドで生々しい音像を持った1枚です。

 アンサンブルも、実験的な要素もありながら、ロック的なかっこよさも備えています。リアルな音像と相まって、非常にかっこいい1枚。

 一般的には3rdアルバム『Danse Macabre』の方が、その後のダンス・パンク系バンドへの影響も含めて、代表作と目されることが多いですが、個人的にはこの1stの方が好きです。

 





El Guapo “The Phenomenon Of Renewal” / エル・グアポ『ザ・フェノミナン・オブ・リニューアル』


El Guapo “The Phenomenon Of Renewal”

エル・グアポ 『ザ・フェノミナン・オブ・リニューアル』
発売: 1998年
レーベル: Resin Records (レズン・レコード)

 ワシントンD.C.出身のバンド、エル・グアポの2ndアルバム。このバンドは、後にディスコード、さらにバンド名をスーパーシステムへ変更したのちタッチ・アンド・ゴーと契約しますが、本作はResin Recordsというレーベルから発売されています。

 音には若干のローファイ感が漂い、アンサンブルにも隙間が多いのですが、不思議とスカスカには感じないアルバム。おそらくその理由は、アンサンブルをかっちりタイトに合わせず、適度にラフさがあるからじゃないかなと思います。聴き込んでいくと、適度にやっているわけじゃなく、かなりのスキルを持ったメンバーたちだな、ということもわかります。

 しかも、そのラフさがグルーヴ感や疾走感を生み、欠点ではなく、あきらかに魅力になっています。阿吽の呼吸という言葉がありますが、演奏からバンド全体の一体感あるテンションが伝わってきて、メンバーたちは音楽を通して高度なコミュニケーションを楽しんでいるのかな、とさえ思わせます。

 2曲目「Eighteen Benedictions」は、各楽器がバラバラなようで、複雑に絡み合う1曲。どこまできっちり決めているのか分かりませんが、加速と減速を繰り返すアレンジがクール。荒削りな部分と、ピタリと合わせる部分のバランスが抜群に良いです。

 3曲目「Delia Had A Sickness」は、音数の少ないイントロから、次第に音が増えていき、加速していく展開。各楽器のサウンドは全てシンプルなのに、これしかない!というかっこよさ。

 4曲目「About Two Dreams」は、リズムがやや複雑な1曲。痙攣するように小刻みなドラムに、徐々にギターとベースが絡まり、加速していきます。

 6曲目「An Opener Of Doors: A Friend Of GM Flash」は、サウンドもアンサンブルも立体的。終盤はカオスな展開で、これもめちゃくちゃかっこいい!

 10曲目「Symbol / Object」は、タイトに複雑なリズムを刻むドラムに、ノイジーなギターと、ロングトーンをいかしたベースが重なる1曲。三者がバラバラなようで、絶妙なバランスのアンサンブルが構成されていきます。

 シンプルさと複雑さのバランスが絶妙なアルバムです。音数を絞ったミニマルな部分と、三者が絡み合い複雑なアンサンブルを構成する部分とのコントラストが鮮烈。

 また、生々しく飾り気のないサウンド・プロダクションも、単純にかっこよく、演奏を前景化させる効果もあると思います。

 このアルバムをリリースしたResin Recordsというレーベル、僕は全く知らなかったのですが、1997年から2000年ぐらいのごく短い期間だけ活動していたレーベルのようです。