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Joanna Newsom “The Milk-Eyed Mender” / ジョアンナ・ニューサム『ザ・ミルク・アイド・メンダー』


Joanna Newsom “The Milk-Eyed Mender”

ジョアンナ・ニューサム 『ザ・ミルク・アイド・メンダー』
発売: 2004年3月23日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Noah Georgeson (ノア・ジョージソン)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムのデビュー・アルバムです。

 シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティから発売。この作品のリリース前にも、2枚のEPを自主リリースしています。

 一部の曲で、ピアノとハープシコードも弾いていますが、ほぼ全編にわたってハープの弾き語りによるアルバムです。

 チャイルディッシュかつ独特のクセのある声を持つジョアンナ・ニューサム。ハープの穏やかなサウンドにのせて、彼女の声の魅力を堪能できる1作です。

 また、ハープの弾き語りを基本としているため、サウンドの種類は少ないアルバムですが、思いのほか多彩な世界が表現されていて、彼女の表現者としてのポテンシャルを感じさせます。

 1曲目の「Bridges And Balloons」は、ハープのリズミカルな演奏にのせて、ジョアンナの無邪気な声が、いたずらっぽくメロディーを紡いでいく1曲。

 2曲目「Sprout And The Bean」は、アクセントが移動したリズムに、どこかボサノバの香りも漂う、リラクシングな1曲。

 5曲目「Inflammatory Writ」は、ピアノを使った、躍動感あふれる1曲。ハープと比較すると、ソリッドな音質のピアノに合わせているのか、ジョアンナの声にもハリがあり、力強い。声色の巧みなコントロールも、彼女の武器のひとつ。

 8曲目「Cassiopeia」は、ギターのハーモニクスのような高音のハープと、ベース(キーボードで出しているのかもしれない)の低音によるアンサンブルが、心地よく響く1曲。流れるようにアルペジオを奏でる高音と、ロングトーンを繰り返す低音のコントラストも鮮やか。

 9曲目「Peach, Plum, Pear」では、ハープシコード(チェンバロ)が使用され、ここまでのアルバムと耳ざわりが異なります。ハープシコードのメタリックで倍音を豊富に含んだ音に対抗するように、ジョアンナも絞り出すように高音を響かせます。

 再生時間1:35あたりからの、本人の声を何重にもオーバーダビングしたコーラスも圧巻。シューゲイザーで、エフェクトを深くかけたギター・サウンドを「音の壁」と表現することがありますが、ここでは人の声が音の壁のように立ち現れます。

 アルバム全体を通して聴くと、あらためてジョアンナの表現力の豊かさを実感します。同時に、ハープという楽器も、様々な音色を出せる奥の深い楽器なのだな、とも思います。

 ジョアンナ・ニューサムは、2作目の『Ys』をとてもオススメしたいのですが、デビューアルバムである本作『The Milk-Eyed Mender』もなかなかの良盤です。

 





The Good Life “Album Of The Year” / ザ・グッド・ライフ『アルバム・オブ・ザ・イヤー』


The Good Life “Album Of The Year”

ザ・グッド・ライフ 『アルバム・オブ・ザ・イヤー』
発売: 2004年8月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 カーシヴ(Cursive)などの活動でも知られる、ティム・カッシャー(ケイシャー)が率いるバンドの3枚目のアルバム。

 ラウドなサウンドと、エモーショナルなボーカルが全面に出たカーシヴとは異質の、アコースティック・ギターを中心とした、穏やかで暖かいサウンドを持ったバンドです。

 1曲目「Album Of The Year」は、アコースティック・ギターとメロディーが、穏やかな空気と共にみずみずしく流れ出る1曲。感情を抑えつつ、奥には熱いエモーションを予感させるボーカルが、淡々とメロディーを紡いでいきますが、再生時間2:23あたりからドラムとパーカッションがトライバルなリズムを刻み始めると、途端に立体的な雰囲気に。

 3曲目「Under A Honeymoon」は、ゆったりとしたテンポの、牧歌的な空気が漂う1曲。ですが、再生時間1:02あたりからの開放的でグルーヴィーな展開、ストリングスの導入など、徐々に心地よくテンションを上げていきます。

 7曲目の「October Leaves」は、イントロから、空間を満たすようなふくよかなベースと、スペーシーなギターが漂う、音響が前景化した1曲。そこから少しずつ音数が増え、ビート感とバンドの躍動感も比例して増していきます。

 8曲目「Lovers Need Lawyers」は、電子的なキーボードのサウンドと、ソリッドで立体的なドラム。アルバムの中では、音像のはっきりした、ロック色の濃い1曲。

 アコースティック・ギターを中心に、カントリーやフォークを感じさせる耳ざわりでありながら、適度にオルタナ性も忍ばせる1曲。予定調和的に、安易に轟音ギターや実験的アプローチを用いない、バランス感覚に優れたアルバムだと思います。

 





David Grubbs “A Guess At The Riddle” / デイヴィッド・グラブス『ア・ゲス・アット・ザ・リドル』


David Grubbs “A Guess At The Riddle”

デイヴィッド・グラブス 『ア・ゲス・アット・ザ・リドル』
発売: 2004年6月22日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスのソロ・アルバムです。この方は実に多作で、多くのレーベルから様々な作品をリリースしているので、もはやソロ何作目と数えるべきなのか分かりません…笑

 本作『A Guess At The Riddle』は、アメリカ国内ではドラッグ・シティ、イギリスではファットキャット(FatCat Records)からリリースされています。

 楽器の種類、音色の多彩さが増し、バンド感溢れる1作に仕上がっています。ナチュラルなサウンドを持った生楽器を主軸にしながら、全体のアンサンブルとサウンド・プロダクションは、非常に色鮮やか。

 デイヴィッド・グラブスの作品のなかでも、最もソリッドなバンド・サウンドを持ち、ロック色の強いアルバムだと思います。

 マイス・パレードのアダム・ピアースや、ギリシャ出身のチェリストのニコス・ヴェリオティス、サンフランシスコ出身の電子音楽デュオ、マトモスなどがゲスト参加しています。

 1曲目「Knight Errant」は、イントロからほどよく歪んだクランチ気味のギター、タイトなドラムが緩やかにグルーヴしていく1曲。デイヴィッドのボーカルも、いつになく感情的でメロディアス。

 2曲目「A Cold Apple」は、流れるようなギターのフレーズに、「カツカツカツ…」と小気味よくリズムを刻むドラムが絡むイントロから、緩やかに疾走感のあるアンサンブルが展開されます。

 4曲目「Magnificence As Such」は、ギター、ドラム、チェロ、オルガンが溶け合うアンサンブルが心地いい1曲。再生時間1:07あたりからの歌が前景化されるアレンジも、穏やかで耳に残ります。

 7曲目「You’ll Never Tame Me」は、アルバム全体のオーガニックな雰囲気とは異なり、アンビエントやエレクトロニカを感じさせる音響を持った1曲。

 8曲目「Your Neck In The Woods」は、音数を絞ったピアノとドラムが、緊張感を演出する1曲。どこか殺伐とした雰囲気を持ちながら、同時にノスタルジックな空気も漂います。

 11曲目「Hurricane Season」は、8分を超える大曲です。波のように揺れるピアノに、シンバルを多用し細かくリズムを刻むドラムが、グルーヴ感を出しながら加速していきます。

 生楽器を中心にカントリー的なサウンドを持ちながら、現代的な雰囲気も色濃い作品です。また、前述したとおりバンド感が強く、グルーヴに溢れた1作でもあります。

 デイヴィッド・グラブスの作品は、時に実験的で敷居が高いと思われるものもありますが、本作は彼の作品の中でもロックでポップで、単純にかっこよく、個人的にもオススメしたいアルバムです。

 





Aloha “Here Comes Everyone” / アロハ『ヒア・カムズ・エブリワン』


Aloha “Here Comes Everyone”

アロハ 『ヒア・カムズ・エブリワン』
発売: 2004年10月26日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 オハイオ州出身のバンド、アロハの2004年発売の3rdアルバムです。アロハの音楽は、みずみずしく疾走感あふれるエモい要素と、ただ直線的に突っ走るだけではない実験性が、バランスよく融合しているところが魅力。

 今作『Here Comes Everyone』も、エモコアらしい若々しい疾走感と、ポストロックと呼べる実験的なアプローチが、絶妙なバランスで共存しています。

 アルバムの始まりを告げる1曲目「All The Wars」は、1曲目らしく、前のめりになった硬質なサウンドのドラムと、そのドラムに絡まるように入ってくるギターが推進力となった、ロックな曲。ボーカルの声とギターのサウンドがみずみずしく、サウンド的にはエモコア色が濃いのですが、前述したようにドラムのリズムがやや複雑で、非常に聴きごたえがあります。

 2曲目の「You’ve Escaped」は、エモさ全開の1曲目「All The Wars」とは打って変わって、アコースティック・ギターとベースのみのイントロ。さらにピアノが入ってきて、1曲目とのサウンドの違いが、ますます際立ちます。再生時間1:18あたりからはヴィブラフォンらしき音が入ってきて、グルーヴ感が増していく展開。最初の2曲だけ聴いても、アロハの音楽性の懐の深さが分かると思います。

 3曲目「Summer Away」でも、大体的にヴィブラフォンを使用。しかも、隠し味程度に使う、というレベルではなくアンサンブルの中核を担っています。ヴィブラフォンが入っていなかったら、もっとシンプルなパンク色の濃い曲になっていたはず。ヴィブラフォンの柔らかで、独特の倍音を持つサウンドのおかげで、音楽の奥行きが格段に広がっています。

 9曲目の「Thermostat」は、多くの楽器が有機的に絡み合う、壮大なアンサンブルの1曲。しかし、地に足がついた感覚で、無理にスケールを広げた印象は全くありません。

 12曲目の「Goodbye To The Factory」は、巨大な動物が行進するような、地響きまで聞こえてきそうな塊感のあるアレンジ。本当にイントロが、あり得ないほどかっこいいです。

 独特の若さとツヤのあるボーカルの声と、エモーショナルなメロディーが、純粋なエモ・バンドとしても十分な魅力を持っています。しかし、それだけではなく、独特のグルーヴを生むドラムのリズム、柔らかなサウンドのヴィブラフォンの活躍、丁寧に組み上げたアンサンブルなど、直線的にエモーションを表出するだけではない、奥深さを持ったアルバムです。

 トータスなど、インスト主体のバンドがヴィブラフォンを導入することは多いですが、アロハのように歌を中心にしたバンドがヴィブラフォンを導入し、しかも曲によっては主導的なパートを担うというのは、珍しいと思います。珍しいだけじゃなく、それがちゃんと音楽の魅力を高めているところも凄い!