Sam Beam & Jesca Hoop “Love Letter For Fire”
サム・ビーム&ジェスカ・フープ 『ラヴ・レター・フォー・ファイア』
発売: 2016年4月15日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Tucker Martine (タッカー・マーティン)
アイアン・アンド・ワイン(Iron & Wine)名義での活動で知られるシンガーソングライター、サム・ビームと、カリフォルニア州サンタローザ出身の女性シンガーソングライター、ジェスカ・フープによるコラボレーション・アルバム。
レコーディングには、ウィルコ(Wilco)のグレン・コッチェ(Glenn Kotche)や、ティン・ハット(Tin Hat)のロブ・バーガー(Rob Burger)、元ソウル・コフィング(Soul Coughing)のセバスチャン・スタインバーグ(Sebastian Steinberg)、ヴァイオリニストのエイヴィン・カン(Eyvind Kang)らが参加しています。
共にフォークを基調としながら、オルタナティヴな空気も併せ持つサム・ビームとジェスカ・フープ。さらに上記のとおり、参加ミュージシャンには、オルタナ・カントリーのウィルコ、チェンバー・ミュージックのティン・ハット、オルタナティヴ・ヒップホップのソウル・コフィング、ジャズや現代音楽のエイヴィン・カンなど、多彩な出自を持つ面々が並びます。
期待どおりと言うべきか、本作で展開されるのは、男女混声によるフォーキーな歌を中心に据えながら、多彩なジャンルの要素が散りばめられた音楽。
アコースティック・ギターを主軸にした、カントリー的なサウンドを下地に、ピアノやストリングスを用いたチェンバー・ミュージック的なアレンジ、音響を前景化したエレクトロニカ的な音像などが同居する、上質なポップ・ミュージックが鳴り響きます。
1曲目の「Welcome To Feeling」は、1分ほどのイントロダクション的な役割のトラック。イントロから、ストリングスのロングトーンがレイヤー状に重なり、続いてパーカッションとボーカルが立体感を足していく、短いながら情報量の多い1曲。
2曲目「One Way To Pray」では、アコースティック・ギターとボーカルのフォーキーな響きに、ストリングスのゆったりとしたフレーズが、絡み合うように厚みをプラスしていきます。
5曲目「Midas Tongue」は、アコースティック楽器のオーガニックな音色と、柔らかな電子音が共存しながら、立体的で躍動感あふれるアンサンブルが組み上げられる1曲。細かいフレーズが複雑に絡み合うことで、サウンドは生楽器が主体であるのに、アヴァンギャルドな空気が漂います。
7曲目「Every Songbird Says」は、アコースティック・ギターの流れるようなフレーズと、男女混声ボーカルが絡み合い、軽やかに進行する1曲。徐々に楽器が増え、立体感と躍動感が増していく展開も秀逸。
8曲目「Bright Lights And Goodbyes」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に構成されるメロウなバラード。
10曲目「Chalk It Up To Chi」は、民謡という意味でのフォーク・ミュージックを思わせる、コミカルな歌唱とメロディーを持った1曲。音はそこまで詰め込まれていませんが、多種多様な音が飛び交うアンサンブルも、カラフルで賑やか。
11曲目「Valley Clouds」は、フォーク色の濃い牧歌的な雰囲気で始まり、再生時間0:50あたりからいきいきと加速していく、ゆるやかなスウィング感のある1曲。加速と減速を繰り返し、1曲の中でのリズムの緩急も鮮やか。
13曲目「Sailor To Siren」は、音数は少なく隙間は多いのに、低音域でどっしりと響くドラムをはじめ、ゆるやかな躍動感を伴った演奏が展開する1曲。ソフトに歌いあげる、男女混声のコーラスワークが幻想的。
カントリーとクラシックの融合!などと言うと、あまりにも短絡的ですが、思わず多くのジャンルに言及したくなる多様性を持ったアルバムです。
あえてジャンル名を駆使して本作を説明するなら、カントリーとクラシックが、音響系ポストロックやオルタナティヴ・ロックの文法を通して融合した1作、とでも言ったところでしょうか。
現代におけるインディーロック、インディークラシック、ジャズが交錯する、多様な様相を持った1作。聴き方によって、次々と異なる色が見えてくる、まさに玉虫色のアルバムです。