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Deerhunter “Weird Era Cont.” / ディアハンター『ウィアード・エラ・コンティニュード』


Deerhunter “Weird Era Cont.”

ディアハンター 『ウィアード・エラ・コンティニュード』
発売: 2008年10月28日
レーベル: Kranky (クランキー)

 ジョージア州アトランタを拠点に活動するバンド、ディアハンターの4thアルバム。なのですが、単体での発売ではなく、3rdアルバム『Microcastle』のボーナス・ディスクとして、CDでは2枚組の形でリリース。配信では、それぞれ単独のアルバム扱いとなっています。

 リリースに関しては、メンバーのブラッドフォード・コックス(Bradford Cox)が、バンドのブログにアップしたリンクを通して、事前に音源が流出してしまうという一件もありました。(原因は、コックスが謝って意図せぬリンクを貼ってしまったため。)

 ややイレギュラーな立ち位置のアルバムですが、13曲で42分収録とボリューム的にはフル・アルバムと同等であり、内容も他のアルバムと比べて劣っているということもありません。むしろ、リラックスして普段は見せない引き出しを見せてくれるような、バンドの懐ろの深さが感じられる作品です。

 ディアハンターというと、サイケデリックなサウンドが特徴ですが、本作もサイケデリックな空気は多分に含んでいるものの、オーバー・プロデュースにはならず、比較的シンプルな音作りで、ソリッドなアンサンブルが展開されます。

 1曲目「Backspace Century」は、8分音符を基本にした縦の揃ったバンドの演奏に、浮遊感のあるコーラスワークが重なる1曲。各楽器の音作りはシンプルですが、ギターがサウンド的にもリズム的にも、はみ出るところがあり、楽曲のフックとなっています。

 2曲目「Operation」は、シンプルな音色の各楽器が、立体的に絡み合い、ゆるやかなグルーヴ感が形成される1曲。ゆらめくような呪術的なボーカルと、間奏で前に出てくるオルガンのサウンドが、サイケデリックな空気を演出。

 3曲目「Ghost Outfit」は、エフェクトが深めのサウンド・プロダクションを持った、30秒ほどのインタールード的な1曲。

 4曲目「Dot Gain」は、独特のドタバタしたドラム、飾り気のない音で流れが読みにくいフレーズを弾くギター、エコーの深くかかったボーカルが絡み合う、アヴァンギャルドな雰囲気の1曲。

 5曲目「Vox Celeste」は、ドラムが小気味よくリズムを刻み、ギターはシューゲイザー的な厚みのあるサウンドを構築する、疾走感のある1曲。ボーカルも含め、全ての楽器が不可分に融合した、ぬるっとした一体感のあるサウンド・プロダクションで、最初はモヤがかかったようで違和感があるものの、聴いているうちにクセになっていきます。

 7曲目「Vox Humana」は、残響音たっぷりの幻想的なサウンドと、スポークン・ワードのような物憂げなボーカルが溶け合う1曲。

 8曲目「VHS Dream」は、イントロから2本のギターが不協和な響きで絡み合い、ボーカルはささやくように耽美なメロディーを歌う、シューゲイザー色の濃い1曲。しかし、全ての音が塊になって押し寄せるようなサウンドではなく、アンサンブルにはそれなりの隙間があり、各楽器が何をやっているのか、どのように絡み合っているのか認識できるバランス。

 9曲目「Focus Group」も、サビ部分ではエフェクトのかかったギターと、幻想的なささやき系ボーカルが溶け合う、シューゲイザー色濃い1曲。

 11曲目「Weird Era」は、ギター・ノイズや、電子ノイズ的なサウンドが、折り重なる1曲。多種多様な音が飛び交う、隙間なく押し寄せるのではなく、隙間があり、各サウンドの重なり方、サウンド自体が前景化されるような曲です。

 12曲目「Moon Witch Cartridge」は、ボーカルは無く、いわゆる歌モノのポップな楽曲ではありませんが、エコーのかかったサウンド・プロダクションから、牧歌的で穏やかな雰囲気が漂う1曲。

 13曲目「Calvary Scars II / Aux. Out」は、ギターがトリップ感を生み出しながら、波のように一定のリズムで音を流し、それに呼応するように揺れるようなボーカルが重なる、サイケデリックな1曲。ドラムのビートもはっきりしており、反復を繰り返すリズム、途中で加速していく展開など、音楽に取り込まれる要素が多分にあります。

 音響を前景化するアプローチや、ギターサウンドど歌メロが一体化するシューゲイザー的なアプローチも含んだアルバムですが、アンサンブルも重視されていて、バンドのグルーヴや躍動感も感じられる作品です。

 前述したとおり、ボーナス・ディスクとして『Microcastle』に付属された作品ではありますが、バンドの普段は見せない部分を見せてくれるような作品であり、クオリティが他のアルバムに比べて劣っているということはありません。

 





Deerhunter “Microcastle” / ディアハンター『マイクロキャッスル』


Deerhunter “Microcastle”

ディアハンター 『マイクロキャッスル』
発売: 2008年10月28日
レーベル: Kranky (クランキー)
プロデュース: Nicolas Vernhes (ニコラス・バーネス)

 鬼才ブラッドフォード・コックス(Bradford Cox)を中心に結成され、ジョージア州アトランタを拠点に活動するバンド、ディアハンターの3rdアルバム。プロデュースはフランス出身で、アニマル・コレクティヴ(Animal Collective)や、ザ・ウォー・オン・ドラッグス(The War On Drugs)を手がけたこともある、ニコラス・バーネスが担当。

 アメリカ国内では、前作に引き続きKranky、ヨーロッパではイギリスの名門インディーレーベル、4ADからリリースされています。2008年8月5日からiTunesで配信開始され、2008年10月28日にCDおよびレコードで発売。4thアルバム『Weird Era Cont.』が、ボーナス・ディスクとして付属され、実質的に2枚同時リリースの形になっています。

 前作『Cryptograms』は、エフェクターを多用したギターを中心に、ドラッギーでサイケデリックなサウンドを作り上げていました。本作にも、サイケデリックな空気は多分に漂いますが、前作と比較するとエフェクトは控えめに、よりビートと音の輪郭のはっきりしたサウンド・プロダクションを持ったアルバムです。

 また、曲によってはギターを中心に厚みのあるサウンドを構築するため、シューゲイザーおよびニューゲイザーの文脈で語られることもあるディアハンター。前作でも、そして本作でも、ギターのサウンドを前景化し、確かにシューゲイザーを彷彿とさせる要素はあります。しかし、彼らが展開する音楽は、マイブラをはじめとしたシューゲイザー第一世代に影響を受け、圧倒的な量感のサウンドで押し流すサウンドというより、60年代から70年代のサイケデリックの延長線上にあるような、よりアンサンブルを重視したものです。

 1曲目「Cover Me (Slowly)」は、1:20ほどのイントロダクション的な役割の1曲。ゆったりとしたテンポに乗せて、多様なサウンドが重なる、サイケ色とシューゲイザー色を併せ持った曲です。

 2曲目「Agoraphobia」は、透明感のある音色のギターと、内省的なボーカルが、穏やかながらサイケデリックな空気漂うサウンドを作り上げます。この曲ではプロデューサーのニコラス・バーネスが、キーボードを弾いています。

 3曲目「Never Stops」は、リズムの輪郭がはっきりとした、ゆるやかな躍動感のある1曲。揺れるギター・サウンドと、わずかに揺らいだドラムから、酩酊感のある音世界が生まれます。

 4曲目「Little Kids」は、大股で歩くような、ゆったりとした進行感と躍動感のある1曲。各楽器が絡み合うような、合わないような、絶妙ばバランスのアンサンブルが展開。

 5曲目はアルバム表題曲の「Microcastle」。音数を絞った、ゆったりとしたドラッギーな前半から、再生時間2:24あたりでフルバンドになり、ジャンクでサイケデリックなロックな展開されます。前半と後半のコントラストも鮮やか。

 6曲目「Calvary Scars」は、ささやき系のボーカルが漂う、幻想的な雰囲気の1曲。音符を詰め込みすぎず、隙間の多いアンサンブルですが、音の配置が効果的で、その場を包むヴェールのような耳ざわり。

 7曲目「Green Jacket」は、6曲目からシームレスに繋がり、こちらも音数を絞った、幻想的で美しい1曲。ギターとピアノが、ポツリポツリと音を置き、その中をボーカルが穏やかな声でメロディーを紡いでいきます。

 8曲目「Activa」は、電子ノイズ的なサウンドと、生楽器のオーガニックな響きが溶け合う、アヴァンギャルドな雰囲気の1曲。とは言え、敷居が高い音楽というわけではなく、歌も入っており、柔らかなサウンド・プロダクションを持つ曲です。

 9曲目「Nothing Ever Happened」は、ドラムの歯切れよいビートに、多様なサウンドを持った複数のギターが折り重なっていく、多層的でノリの良い1曲。ベースもリズムにフックを作りながら、加速感と疾走感を演出し、聴きどころの多いアンサンブルが展開されます。

 12曲目「Twilight At Carbon Lake」は、遅めのテンポに乗せて、音数を絞ったアンサンブルが展開する、穏やかでサイケデリックな1曲。前半は隙間が多い演奏ですが、たっぷりとタメを作り、休符にも意味があるように感じられます。再生時間2:55あたりからは、一気に音の波が押し寄せ、1曲の中でのコントラストが大きい曲です。最後はカラフルに様々な音が飛び交うサイケデリアへ。

 サイケデリックで、ニューゲイザーの文脈で語られることもあるディアハンターですが、音を詰め込みすぎず、音響的なアプローチと、グルーヴ感のあるアンサンブルを、高度に併せ持ったバンドであると思います。本作も、まさにそのようなクオリティを持った作品で、ギターを筆頭に各楽器のサウンド自体にも魅力があり、同時にメリハリある多彩なアンサンブルを聴かせてくれます。

 





Deerhunter “Cryptograms” / ディアハンター『クリプトグラムス』


Deerhunter “Cryptograms”

ディアハンター 『クリプトグラムス』
発売: 2007年1月29日
レーベル: Kranky (クランキー)
プロデュース: Chris Bishop (クリス・ビショップ)

 ジョージア州アトランタを拠点に活動するバンド、ディアハンターの2ndアルバム。2005年にリリースされた1stアルバム『Turn It Up Faggot』は、彼らの地元アトランタのスティックフィギュア(Stickfigure)というレーベルからのリリースでしたが、2作目となる本作は、シカゴのクランキーからリリースされています。

 エフェクターの深くかかったギターを中心に、音が何層にも重ねられ、シューゲイザー的なサウンドもある、サイケデリックなアルバム。しかし、多層的な音世界が構築されているのに、あくまで地に足が着いたかたちで、コンパクトにまとまっているのが、このアルバムの良いところです。

 60年代〜70年代のサイケデリック・ロックや、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス&メリーチェインなどの雰囲気も漂いつつ、しっかりとオリジナリティのある音楽が作り上げられています。

 1曲目「Intro」は、その名のとおりイントロダクション的な1曲。水が流れるフィールド・レコーディングの音から始まり、音がレイヤー状に折り重なっていきます。

 2曲目「Cryptograms」は、ビートははっきりしているものの、疾走感よりも浮遊感を強く感じる、不思議な音像の曲。再生時間1:15あたりからの空間を埋め尽くすように広がっていくサウンドからは、トリップ感が伝わります。

 3曲目「White Ink」は、音がディレイによって無限に増殖していくような、音響を前景化させた1曲。音の奥から、また別の音が聞こえ、壁のように立ちはだかります。

 4曲目「Lake Somerset」は、ボーカルにも楽器にもエフェクターがかけられ、ジャンクでアヴァンギャルドな空気が漂う1曲。

 6曲目「Octet」は、はっきりとした構造よりも音響が前面に出た、エレクトロニカ色の濃い1曲。ボーカルも入っていますが、歌メロを追う曲ではなく、声も楽器の一部としてまわりの音に溶け込んでいます。

 9曲目「Strange Lights」は、厚みのあるギター・サウンドと、リズム隊による分かりやすいビート、流麗なメロディーが溶け合った、サイケデリックなギターロック。

 10曲目「Hazel St.」は、ギターの音色とコーラスワークには幻想的な空気が漂う、ゆるやかな疾走感のある曲。この曲に限らず、ギターにかけられた空間系エフェクターのもたらす音の揺らぎや変化が、リズムに取り込まれていくところが、なんともサイケデリックで、心地よいです。

 12曲目「Heatherwood」は、ジャンクでファニーな音色を用いて、立体的なアンサンブルが構成される1曲。空間系エフェクターで揺らめくギターや、ドタバタ感のあるドラムが絡み合い、ささやき系のボーカルも相まって、ややチープなのに神秘的な、独特のサウンドを作り上げています。

 シカゴやニューヨーク、あるいはシアトルやルイヴィル、オマハといった大きなインディーロック・シーンを持つ都市ではなく、南部アトランタ出身のディアハンター。アトランタというと、90年代以降はヒップホップをはじめとしたブラック・ミュージックが盛んなイメージがありますが、そんなアトランタから出てきて、個性的なサイケデリック・サウンドを奏でているのが、このバンドです。

 シアトルにおけるグランジ、オマハにおけるサドル・クリークのように、その街を代表するジャンルやレーベルの流れの中からではなく、個性的なバンドが全国からぽっと出てくるところも、USインディーズの魅力だと思います。

 本作『Cryptograms』も、シーンの流れに迎合せず、かといって自分たちが好む過去の音楽の焼き直しでもなく、個性あふれるサイケデリックなロックを鳴らしています。実験性とポップさのバランスも秀逸な1枚。

 





The Evens “Get Evens” / イーヴンス『ゲット・イーヴンス』


The Evens “Get Evens”

イーヴンス 『ゲット・イーヴンス』
発売: 2006年11月6日
レーベル: Dischord (ディスコード)

 フガジやマイナー・スレットでの活動で知られるイアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、元ウォーマーズ(The Warmers)のエイミー・ファリーナ(Amy Farina)からなる2ピース・バンド、イーヴンスの2ndアルバム。前作に引き続き、イアン・マッケイが設立した、ワシントンD.C.を代表するレーベル、ディスコードからのリリース。

 ハードコアのイメージが強いディスコードですが、1stアルバムである前作『The Evens』は、歪みや音圧に頼らないシンプルな音作りで、音数も絞り、ストイックにアンサンブルを作り上げた作品でした。2枚目となる本作でも、基本的な方向性は変わっていません。

 異なっている点を挙げるなら、サウンド的にもアンサンブルの面でも穏やかだった前作と比較すると、音数が増え、サウンドもソリッドになったことでしょうか。しかし、エフェクターには頼らず、シンプルな音作りであることには変わりありません。

 1曲目「Cut From The Cloth」は、細かくリズムを刻むドラムと、アンプ直結と思われるギターが、共にシンプルな音作りながら、パワフルに響き渡る1曲。シンプルで飾り気のないサウンドだからこそ、パワフルで臨場感を持って響くと言うべきかもしれません。再生時間2:35あたりからのギターのみのパートも、風景を変えます。

 2曲目「Everybody Knows」は、ギターとドラムが絡み合いながら、小気味よいリズムを刻んでいく1曲。ややテンポが速めの曲ですが、疾走感よりも縦のリズムの立体感の方が際立つアレンジです。

 3曲目「Cache Is Empty」は、音数が少なめですが、奥行きのあるアンサンブルが展開される1曲。ドラムにもギターにも、無駄な音が無く、機能的に奥行きのある演奏が展開します。流れるように自然で、ドタバタしたサウンドのドラムが心地よいです。

 4曲目「You Fell Down」は、ギターのコード・ストロークが空間を埋め、重心を低くしたドラムがリズムを刻む1曲。役割がはっきりしており、楽器は2つしか使用されていないのに、厚みのあるアンサンブルを展開します。

 6曲目「No Money」は、ギターもドラムもせわしなくリズムを刻む1曲。ドラムはタイトかつメリハリがあり、楽曲をひときわ立体的にしています。

 9曲目「Get Even」は、コード弾きと単音弾きを織り交ぜた疾走感のあるギターと、シンプルにリズムを刻みながら、随所にフックを作るドラムが、グルーヴ感あふれる演奏をくり広げる1曲。

 10曲目「Dinner With The President」は、タイトルからも想像できるように、シニカルな歌詞を持った1曲。「私と彼らの世界観には存在しないようだ」という一節が象徴的ですが、自分と大統領の価値観の違いを、軽快なテンポに乗せて歌っていきます。ゆるやかにグルーヴしながら疾走していく演奏にも、聴きごたえがあります。

 本作と比較すると、前作のサウンド・プロダクションは柔らかく、ローファイの要素が強かったことがわかります。本作のサウンドの方がパワフルで、ヘッドホンで聴くと音が近いところで鳴っています。

 空間の広さという点では、前作の方が広々と空間を感じられるサウンドでしたが、本作の方がスタジオで彼らの音を聴いているような臨場感があります。

 演奏の面では、2人の作り上げるグルーヴ感と躍動感、そしてコーラスワークは非常に完成度が高く、一般的なバンドと比べれば音数は少ないのに、聴くべき情報量は多い作品であると思います。歌詞にも演奏にも深みがあり、とても聴きごたえのあるアルバムです。

 





The Evens “The Evens”/ イーヴンス『イーヴンス』


The Evens “The Evens”

イーヴンス 『イーヴンス』
発売: 2005年3月7日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Don Zientara (ドン・ジエンターラ)

 イアン・マッケイ(Ian MacKaye)と、元ウォーマーズ(The Warmers)のエイミー・ファリーナ(Amy Farina)による2ピース・バンド、イーヴンスの1stアルバム。担当楽器はイアンがギター、エイミーがドラム。イアン・マッケイが設立した、ワシントンD.C.の名門レーベル、ディスコードからのリリース。

 ギターとドラムのみのミニマル編成のバンドですが、揺らぎとグルーヴのある立体的なアンサンブルが構成されるアルバムです。楽器の数が絞られることで、2人の穏やかな歌唱が前景化し、ひとつひとつの音と言葉が非常にソリッドに感じられます。このように音楽が濃密に感じられるのが、2ピースの魅力的なところ。

 ディスコードの創始者の1人であり、ワシントンD.C.のハードコア・シーンの中心的人物のイアン・マッケイですが、本作ではギターもボーカルも、サウンド的には穏やか。

 1曲目「Shelter Two」は、ギターのみのシンプルなイントロから、ドラムと共に徐々に躍動感を増していく1曲。速度や音圧に頼らず、シンプルな音作りで、手数と演奏の強弱だけで、盛り上がりを演出しています。立体的なアンサンブルと、2人のコーラスワークも息がぴったりで、魅力的。

 2曲目「Around The Corner」は、左右から交互にはずむように響くギターと、ゆったりとタメを作ったドラムが、奥行きのある立体的なサウンドを作り上げる1曲。音数が少ないのに、いや少ないからこそ、空間の広がりが感じられるサウンド・プロダクションです。

 3曲目「All These Governors」は、シニカルの歌詞が印象的。「うまくいくはずの時にも、うまくいかない。それがこいつら(these governors)のやり方さ。」と、ワシントンD.C.の各種長官を皮肉るような歌詞です。演奏も、シンプルで飾りかのない音作りながら、疾走感があり、そのむき出しのサウンドが、より一層シニカルな態度を浮き彫りにしています。

 4曲目「Crude Bomb」は、手数が多く、回転するような立体的なドラムに、やや歪んだ流れるようなギターが絡む1曲。歌が入ってきてからの、ドラムのキックも加速感を演出しており、躍動感がある曲です。

 8曲目「If It’s Water」は、繰り返されるギターのフレーズと、手数を絞ったシンプルなドラムが重なる1曲。ぴったりと合わさるわけではなく、適度にラフな部分があり、グルーヴと躍動感を生み出しています。

 11曲目「Minding Ones Business」は、ギターもドラムも低音域を用いた、重心の低いサウンド・プロダクション。2人のボーカルも、メロディーを歌うというよりも、呪術的な雰囲気で言葉を発しており、サイケデリックかつアンダーグラウンドな空気が漂います。

 激しく歪んだギターや、音圧の高いドラムには頼らず、シンプルな音作りながら、立体的なアンサンブルが展開され、非常に情報量の多さを感じるアルバムです。個人的には、こういう作品は大好き!

 ローファイというわけではありませんが、ギターもドラムも飾り気のないむき出しの音色で、アンサンブルの面でも音数を絞った、ミニマルでストイックな音楽が展開されます。

 また、歌詞もシニカルなものが多く、フガジやマイナー・スレットとは音楽的には異質ですが、こちらもパンク精神を多分に持ったバンドだと思います。