「ポストロック」カテゴリーアーカイブ

Japancakes “If I Could See Dallas” / ジャパンケイクス『イフ・アイ・クドゥ・シー・ダラス』


Japancakes “If I Could See Dallas”

ジャパンケイクス 『イフ・アイ・クドゥ・シー・ダラス』
発売: 1999年10月13日
レーベル: Kindercore (キンダーコア), Darla (ダーラ)
プロデュース: Andy Baker (アンディ・ベイカー)

 ギタリストのエリック・バーグ(Eric Berg)を中心に、ジョージア州アセンズで結成されたバンド、ジャパンケイクスの1stアルバム。

 1999年に彼らの地元アセンズのレーベル、キンダーコアからリリースされ、その後2008年2月にダーラ・レコーズより再発されています。

 エリック・バーグは、リハーサル無しでDコード上で45分間演奏を続ける(!)、というアイデアを実行するためにバンドを組んだとのことで、結成のコンセプトからしてぶっ飛んでいます。

 しかし、本作で展開されるのは、アヴァンギャルドな要素もほのかに含みつつ、緩やかに風景を描き出すようなインスト・ポストロック。ハードルが高い、難解な音楽ではありません。

 当時のジャパンケイクスは、ペダルスチールギター奏者とチェリストをメンバーに含む6人編成。スチールギターとチェロの音色が、楽曲に奥行きと柔らかさを与え、ギターを中心にしたポストロック・バンドとは一線を画したサウンドを獲得する要因になっています。

 1曲目「Now Wait For Last Year」は、全ての楽器の輪郭が丸みを帯びていて柔らかく、全体としても穏やかな空気が充満した1曲。

 2曲目「Elevator Headphone」は、チェロがフィーチャーされ、電子音と生楽器が重なり、立体的なアンサンブルが構成されていきます。

 3曲目「Vocode-Inn」では、柔らかな電子音が幻想的な雰囲気を作り出し、ストリングスが荘厳な雰囲気をプラス。ロック的ではない、レイヤー状に折り重なる音の壁が、立ち上がります。

 6曲目「Pole Tricks」は、日本語の交通情報がサンプリングされたイントロから、チェロを中心に据えた、シンフォニックなアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 前述したとおり、チェロ奏者とペダルスチールギター奏者を正式メンバーに擁するバンドで、生楽器のナチュラルな響きと、電子的なサウンドが、穏やかに溶け合うアルバムです。

 音響が心地よい、穏やかなサウンドを持ちながら、ゆるやかに躍動するアンサンブルも共存。全編インストですし、ヴァース=コーラスのわかりやすい構造がある楽曲群ではありませんが、間延びして退屈という印象は持ちませんでした。

 このアルバムを聴くと、45分間同じコード上で演奏を続ける、というアイデアさえも、いかにも実行しそうだな、と感じさせるバンド。

 アセンズというと、エレファント6が思い浮かびますが、エレファント6にも繋がる、自由なポップ・センスを持っているとも思います。

 





Shipping News “Save Everything” / シッピング・ニュース『セイヴ・エヴリシング』


Shipping News “Save Everything”

シッピング・ニュース 『セイヴ・エヴリシング』
発売: 1997年9月23日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Bob Weston (Robert Weston) (ボブ・ウェストン)

 ケンタッキー州ルイヴィル出身のバンド、ロダン(Rodan)の元メンバー、ジェイソン・ノーブル(Jason Noble)とジェフ・ミューラー(Jeff Mueller)を中心に結成されたシッピング・ニュースの1stアルバム。

 音楽性としては、ロダンの延長線上にあると言っていい、ポストロックあるいはポスト・ハードコアと呼べるもの。硬質なサウンドによって、ムダを削ぎ落とした、タイトなアンサンブルが展開されるアルバムです。

 レコーディング・エンジニアをボブ・ウェストンが務めており、アルビニ直系の生々しく、臨場感あふれるサウンド・プロダクションも魅力です。

 1曲目「Books On Trains」は、ベースとドラムの小気味よいリズムに、ルーズなギターと、ダークな空気を持ったボーカルが乗る1曲。前述したとおり、各楽器の音が生々しく響き、非常に繊細かつパワフルな音でレコーディングされています。

 2曲目は「Steerage」は、回転するような小刻みなドラムに、ベースとギターが絡みつくように合わさる、機能的でタイトなアンサンブルが展開される1曲。

 3曲目「The Photoelectric Effect」は、ギター、ベース、ドラムが絡み合う、一体感と躍動感あふれる1曲。様子を見るようなイントロから始まり、再生時間0:26あたりから緩やかに躍動するところ、再生時間0:40からのやや加速するところなど、バンドが生き物のように有機的にアンサンブルを作り上げていきます。

 4曲目「All By Electricity」は、スローテンポに乗せて、各楽器が穏やかに絡み合う1曲。

 5曲目「At A Venture」には、ジェイソン・ノーブルも参加していたバンド、レイチェルズ(Rachel’s)のレイチェル・グライムス(Rachel Grimes)がボーカルで参加。タイトで立体的なリズム隊の上に、時空が歪むようなスライド・ギターが乗り、揺らめく世界を演出します。音響系ポストロックのような複雑なリズムと、音響系ポストロックのような浮遊感のあるサウンドが共生した1曲です。

 6曲目「A True Lover’s Knot」は、ギターを中心に、各楽器がタペストリーのように編み込まれるアンサンブルが展開される1曲。緩やかなグルーヴ感もあり、イマジナティヴな音世界が表出されます。

 シッピング・ニュースとしては1枚目のアルバムですが、すでにキャリアのあるメンバーが集ったバンドであり、とてもクオリティの高い音楽を作り上げています。ロダンと比較すると、音数を絞り、サウンドもアンサンブルもよりタイトになっていると言えます。

 





Papa M “Live From A Shark Cage” / パパ・M『ライヴ・フロム・ア・シャーク・ケージ』


Papa M “Live From A Shark Cage”

パパ・M 『ライヴ・フロム・ア・シャーク・ケージ』
発売: 1999年10月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Nat Gleason (ナット・グリーソン), Steve Albini (スティーヴ・アルビニ), Tim Gane (ティム・ゲイン)

 スリント(Slint)やトータス(Tortoise)の元メンバーとしても知られるデイヴィッド・パホ(David Pajo)が、パパ・M名義でリリースした1枚目のアルバム。

 パパ・M名義以外でも、エアリアル・M(Aerial M)名義、M名義でもソロ作品をリリース。先に挙げた2つのバンド以外にも、The For Carnation(ザ・フォー・カーネーション)、ステレオラブ(Stereolab)、Zwan(ズワン)など、数多くのバンドにも参加し、非常に多彩かつ多作な活動を続けています。

 本作は、アメリカ本国ではシカゴのドラッグ・シティ、イギリス及びヨーロッパではドミノ(Domino)からリリース。パパ・M名義1作目となる本作は、アコースティック・ギターとクリーントーンのエレキ・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドで、音数を絞ったスローテンポでミニマルな音楽が展開されます。

 1曲目「Francie」。こちらの曲名は、一部のサイト及びCDの裏ジャケットでは「Arundel」と表記されていますが、パパ・MのBandcamp及びドラッグ・シティのサイト上では「Francie」と表記されています。空間に滲んでいくような、揺らめくギターのサウンドが広がっていく、ミニマルな1曲。

 2曲目「Roadrunner」は、カエルの鳴き声を思わせるファニーな電子音と、透明感のあるギターのアルペジオが溶け合う1曲。電子音と生楽器のバランスが見事で、暖かみのあるサウンドを構築します。

 3曲目「Pink Holler」は、アコースティック・ギターのナチュラルなサウンドが、穏やかに音楽を紡ぎ出す、牧歌的な雰囲気の1曲。

 4曲目「Plastic Energy Man」は、バンジョーを彷彿とさせる弾力感のあるギター(あるいは実際にバンジョーかフラットマンドリンかも)と、電子的なビートがゆったりと絡み合う1曲。

 5曲目「Drunken Spree」は、ギターとドラムが徐々に手数を増やし、じわじわと盛り上がっていく1曲。このアルバムは基本的に歌無しのインストですが、この曲ではわずかにボーカルが入っています。しかし、歌メロがあるというよりも、楽器の一部のような導入です。

 6曲目「Bups」は、トイピアノのような、音程が不安定なピアノをメインにした、インタールード的な曲。

 8曲目「I Am Not Lonely With Cricket」は、2本のギターがミニマルなフレーズを繰り返し、音数が現象と増加をしながら展開していく1曲。

 9曲目「Knocking The Casket」は、アコースティック・ギターとバンジョーと思しきオーガニックなサウンドが絡み合う1曲。

 11曲目「Arundel」は、音が滲んで広がっていくようなアンビエント色の濃い1曲。一部のクレジットでは、1曲目と同じタイトルになっていますが、実際にフレーズとサウンド・プロダクションは共通しています。

 音数を厳選することによって、音響が前景化する面もあり、アコースティックな音像を持ったポストロック、といった趣のアルバム。自身もポストロックの源流のひとつとなったケンタッキー州ルイヴィル出身であり、トータスやスリントへの参加から、ポストロックのイメージも強いデイヴィッド・パホ。

 また、ザ・フォー・カーネーションではスロウコア的な音楽を作り上げており、彼のこれまでのキャリアを考えれば、納得の音作りと言えるでしょう。いずれにしても、非常の引き出しの多いミュージシャンだと思います。

 アコースティック・ギターとクリーンなエレキ・ギターのナチュラルな響きが主軸であるのは間違いないのですが、電子音も効果的に溶け合い、穏やかなサウンドで音響的なアプローチが試みられています。いわゆるフォークトロニカと呼ぶには、ミニマルでアンビエント色が濃く、フォークなサウンドを持った音響系ポストロックと言った方が、しっくりくる作品です。

 





Town & Country “Decoration Day” / タウン・アンド・カントリー『デコレーション・デイ』


Town & Country (Town And Country) “Decoration Day”

タウン・アンド・カントリー 『デコレーション・デイ』
発売: 2000年5月2日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 1998年に結成された、シカゴを拠点にするバンド、タウン・アンド・カントリーの3曲収録のEP作品。1998年にリリースされた1stアルバム『Town & Country』は、ボックスメディア(BOXmedia)というレーベルからのリリースでしたが、2000年にリリースされた本作以降は、スリル・ジョッキーからリリースされています。

 メンバーは4人で、各担当楽器は次のとおり。ベン・ヴァイダ(Ben Vida):ギター&トランペット、ジョシュ・エイブラムス(Josh Abrams):コントラバス&ピアノ、リズ・ペイン(Liz Payne):コントラバス、ジム・ドーリング(Jim Dorling):ハーモニウム(リード・オルガン)。ドラムレス、ボーカルレスで、生楽器のサウンドを活かしたアコースティックなポストロックを奏でるバンドです。

 前述したとおり、1stアルバムは、シカゴのボックスメディア(BOXmedia)というインディー・レーベルからリリースされますが、本作から2006年のバンドの活動停止まで、以降は全ての作品がスリル・ジョッキーからリリースされています。スリル・ジョッキーというと、トータスとその周辺グループが数多く所属していることもあり、ポストロックのイメージが強いレーベルですが、タウン・アンド・カントリーも、アコースティック楽器を用いた暖かみのあるサウンドで、ミニマルで音響的な音楽を作り上げています。

 1曲目「Give Your Baby A Standing Ovation」は、各楽器のポツリポツリと音を置き、それらが絡み合うような、合わないような、ミニマルなアンサンブルが9分弱にわたって展開される1曲。音の動きとハーモニーには、どこか不穏な雰囲気も漂います。コードが循環するポップ・ミュージックの枠組みを持った音楽ではないため、その手の音楽を聴かない方には、やや敷居が高いかもしれませんが、全くのミニマル・ミュージックというわけではなく、ところどころ展開があります。

 2曲目「Spicer」は、アコースティック・ギターを軸に、音数を絞った、隙間の多いアンサンブルが展開されます。1曲目以上に音数が少なく、アンビエントな雰囲気も漂う1曲。

 3曲目「Off Season」は、ハーモニウムのロングトーンを中心に、ピアノやギターも音を重ね、隙間なく音が広がるような1曲。音響が前景化され、耳に心地よい1曲です。音程やフレーズを変えながら進行するため、目の前の風景が次々に変わっていくような感覚があり、約8分の曲ですが、間延びせずに聴けます。穏やかで、美しい音楽。

 一般的な感覚からすれば、ミニマルな作品であるのは確かですが、生楽器を用いたウォームなサウンドと、人力による各楽器の肉体的な音の躍動感のせいか、独特の暖かみを感じるアルバムです。ゆるやかにグルーヴする部分もあり、音響が前面に出る部分もあり、音数が少なく、ゆったりとした時間が流れる作品ながら、展開と表情は豊富です。

 スリル・ジョッキーから発売されている盤は3曲収録ですが、徳間ジャパンから発売された日本盤にはボーナス・トラックが2曲追加され、計5曲収録となっています。

 





Town & Country “C’Mon” / タウン・アンド・カントリー『カモン』


Town & Country (Town And Country) “C’Mon”

タウン・アンド・カントリー 『カモン』
発売: 2002年2月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していたバンド、タウン・アンド・カントリーの3rdアルバム。生楽器を用いて、ミニマルかつフリーなアンサンブルを展開するのが特徴の4人組です。シカゴの名門インディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 前作『It All Has To Do With It』と比較すると、ミニマルで音響を重視したアプローチであるのは共通していますが、本作の方がコードの響きの部分で、やや不安的で実験的な色が濃くなっています。また、ハーモニウム(リード・オルガン)の持続音や、コントラバスの単音が目立っていた前作に比べ、流れるようなアコースティック・ギターの粒だった音が前面に出ています。

 2000年代以降、シンセサイザーをはじめ、電子楽器を用いたアンビエントなポストロックやエレクトロニカも数多くある中で、タウン・アンド・カントリーは生楽器で独特の温もりのあるサウンドを作り上げています。

 1曲目「Going To Kamakura」は、イントロからギターとコントラバスが、音数が少なくミニマルなアンサンブルを展開。徐々に音の動きが多くなっていき、ハーモニウムの持続音も加わります。全体のハーモニーと、各楽器の音の動きには、どこか不穏な空気が漂う1曲。

 2曲目「I’m Appealing」は、アコースティック・ギターの細かく速い音の波が、イントロから押し寄せる1曲。一般的なポップ・ミュージックの感覚からすると展開に乏しくミニマルな曲ですが、音の動きには微妙に変化があり、途中から音が加わったり、音程が変わったりと、音楽の表情は刻一刻と変化を続けます。

 3曲目「Garden」は、各楽器ともゆったりとロング・トーンを奏でる、アンビエント色の濃い1曲。ドローンというほどには、音の動きが少ないわけではなく、余裕を持ったテンポのなかで、ゆるやかにアンサンブルが構成されます。

 4曲目「The Bells」は、イントロからトランペットの音が印象的な1曲。こちらも3曲目に引き続き、各楽器が奏でる音が長めで、音響が前景化された曲と言えます。生楽器が使用されているため、サウンド・プロダクションは非常に穏やか。再生時間1:48あたりからの各楽器が重なる響きなど、コード感にはやや不思議なところがあります。

 5曲目「I Am So Very Cold」は、各楽器がバウンドするような、軽やかなリズムを持った1曲。耳ざわりも非常に心地よく、グルーヴ感と呼ぶほどではありませんが、ゆるやかにスウィングしていく曲です。

 6曲目「Palms」は、音数が少なく、ミニマルで穏やかな1曲。ヴィブラフォンなのか、鉄琴のような音が、幻想的で童話の世界のような雰囲気を演出します。

 7曲目「Bookmobile」は、各楽器の音の動きが激しく、絡み合うようなアンサンブルが展開されます。フリー・ジャズのような雰囲気も漂いますが、激しくせめぎ合う圧巻のグルーヴという感じではなく、ゆるやかに絡み合いながら、ひとつの有機的な音楽を作り上げる、穏やかな曲です。そう感じるのは、生楽器のみを用いたサウンドによるところも大きいと思います。本作の中でも、わかりやすく音楽的な曲であり、徐々にバンドの熱が上がっていくような、加速感のある曲。とても、かっこいいです。

 ミニマルな作品ではありますが、リズムや音響へのストイックな拘りが感じられ、多種多層な風景を見せてくれるアルバムです。スリル・ジョッキーからリリースされているという先入観を抜きにしても、「アコースティックなトータス」といった趣のある1枚。

 ちなみにスリル・ジョッキーから発売のUS盤は7曲収録ですが、徳間ジャパンから発売された日本盤にはボーナス・トラックが3曲追加され、10曲収録となっています。僕は輸入盤しか所持していないので、ボーナス・トラックについては未聴です。