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Joan Of Arc “A Portable Model Of…” / ジョーン・オブ・アーク『ア・ポータブル・モデル・オブ』


Joan Of Arc “A Portable Model Of…”

ジョーン・オブ・アーク 『ア・ポータブル・モデル・オブ』
発売: 1997年6月10日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 シカゴのエモ・バンド、キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)解散後に、その元メンバーを中心に結成されたジョーン・オブ・アーク。本作『A Portable Model Of…』は、1997年にリリースされた、彼らの1stアルバムです。

 電子音とアコースティック・ギター、絞り出すようにエモーショナルで時に不安定な音程のボーカル。楽曲にはフリーな形式や、ポストロック的なアンサンブル重視の展開も見られ、エモい歌が中心でありながら、それだけにとどまらない奥行きを持ったアルバムです。

 1曲目の「I Love A Woman (Who Loves Me)」は、アコースティック・ギターと歌を中心に据えながら、時おり聞こえる電子音がアクセントになった1曲。

 2曲目「The Hands」でも、1曲目と同じく、イントロからファニーな電子音が耳に残ります。オモチャのような、かわいらしいそのサウンドが、感情的なボーカルと激しく歪んだギターとコントラストをなし、独特のポップ感を演出。

 3曲目は「Anne Aviary」。こちらも鳥の鳴き声のような、トレモロで揺れる電子音のような音が使われています。ゆったりと余裕を持ってアンサンブルを構成するバンドと、エモみの強いボーカルのテンションと、違和感なく溶け合うのが不思議。

 6曲目の「Post Coitus Rock」は、絡み合うような2本のギターを中心に、緩やかにグルーヴしながら前進していく1曲。

 7曲目「Count To A Thousand」は、8分を超える曲。明確なフォームを持たず、前半はアンビエントな雰囲気。中盤からギターが入ってくると、ポストロック的なサウンドスケープが展開されます。

 9曲目「In Pompeii」は、ざらついた音質の低音のビートが鳴り響く、1分40秒弱のアンビエントな1曲。

 アコースティック・ギターを主軸に、エモーショナルな歌ものアルバムでありながら、随所にエレクトロニカ的な音響、ポストロック的なアプローチが垣間見える1作です。

 実験的と思われるサウンドや、全く歌ものではないアンビエントな楽曲も含みながら、アルバム全体としては整合性が感じられる絶妙なバランス。

 個人的には、様々な方法論で初期衝動を切り取っているから、そのような絶妙なバランスが成り立っているのかな、と思います。

 





The Sea And Cake “The Fawn” / ザ・シー・アンド・ケイク『ザ・フォーン』


The Sea And Cake “The Fawn”

ザ・シー・アンド・ケイク 『ザ・フォーン』
発売: 1997年4月1日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 カクテルズ、シュリンプ・ボード、バストロのメンバーによって、イリノイ州シカゴで結成されたバンド、ザ・シー・アンド・ケイクの4枚目のアルバムです。

 ザ・シー・アンド・ケイクの音楽の特徴として、ジャズからの影響と、ポストロック的なアプローチの2点が、たびたび言及されます。彼らの音楽の魅力と特異性は、ジャズやポストロックをはじめとした、音楽的語彙の豊富さを感じさせながら、非常にポップな歌モノの音楽としても、成立しているところにあると思います。

 本作『The Fawn』も、流れるようなメロディーを持つ、爽やかなギター・ポップでありながら、ポストロックやジャズなど多種多様なジャンルのエッセンスを含むアルバムです。

 1曲目「Sporting Life」は、オーガニックな響きの生楽器と、やわらかな電子音が溶け合い、多層的なサウンドを生み出しています。ソリッドな音色のベースもアクセント。再生時間1:14あたりからの加速と減速を繰り返すようなアレンジも、アンサンブルの躍動感を演出します。

 2曲目「The Argument」。この曲は個人的に大好きな曲なので、本当に聴いていただきたい。イントロのドラムがとにかくかっこいい!微妙にリズムと叩く太鼓を切り替え、立体的なサウンドを単独で構築しています。ややチープでジャンクな音色と、右チャンネルと左チャンネルへの音の振り分けもいい。

 本当にこのイントロのドラム好きです。まずはここを聴いてください! その上に載るミニマルなギターとベース、電子音も素敵。このままインストの曲かと思いきや、2分過ぎにボーカルが入ってきます。

 3曲目「The Fawn」は、イントロから電子音と生楽器が溶け合い、ヴェールのように全体を包みます。柔らかな音像のなかを、ふくよかなサウンドのベースが心地よく泳ぐところも良い。濃密で分厚い、音の壁のようなサウンド・プロダクション。

 4曲目「The Ravine」は、3曲目からシームレスにつながっています。細かい音が重なり合う、ポリリズミックで複雑なアンサンブルが構成される1曲。難しい曲というわけではなく、カラフルで楽しく、いきいきとした躍動感のある曲です。

 6曲目「There You Are」は、イントロからエフェクターによって揺らめくギターが響きます。再生時間1:07あたりから入ってくる柔らかい電子音のような音も、雰囲気を変えるアクセント。展開が素晴らしすぎて聴き入っていると、再生時間1:43あたりからボーカルが入ってきます。

 7曲目「Civilise」は、このアルバムの中では、最もソリッドなサウンド・プロダクションの1曲。

 10曲目「Do Now Fairly Well」は、シンプルなギターと、エレクトロニカのような柔らかいサウンドの電子音、穏やかなボーカルが溶け合う1曲。再生時間2:38からの、風景が一変するような展開もスリリング。

 本作の収録曲は10曲ですが、徳間から発売されていた日本盤CDには、ボーナス・トラックが5曲追加されています。この5曲も良曲揃いなので、何曲かご紹介させていただきます。

 11曲目の「The Parlor」は、ジャンクでサイケな香りもする、不思議な音響の1曲。各楽器だけでなく、全体にエフェクトがかかったようなサウンド・プロダクション。

 13曲目「Studios Music」は、ミニマルテクノのような小刻みなビートが鳴り響く前半と、音の響き自体が前景化した、エレクトロニカのような後半とのコントラストが鮮やか。リズムの前半と、音響の後半。

 インストのポストロック・バンドとしても通用する、複雑で緻密なアンサンブルを持ちながら、流れるような美しいメロディーも備え、全体としてカラフルでポップな作品に仕上がったアルバムです。このバランス感覚が秀逸。

 極上の歌もの作品でありながら、実に多彩なサウンドとジャンルが顔を出し、深い意味でポップな1枚だと思います。これは、心からオススメしたい1作です!

 





David Grubbs “The Spectrum Between” / デイヴィッド・グラブス『ザ・スペクトラム・ビットウィーン』


David Grubbs “The Spectrum Between”

デイヴィッド・グラブス 『ザ・スペクトラム・ビットウィーン』
発売: 2000年7月10日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、デイヴィッド・グラブスの4枚目のソロ・アルバムです。レコーディングには、トータスのジョン・マッケンタイアも参加。

 時期や作品によって、作風の異なるデイヴィッド・グラブスですが、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップスの形式をそなえていて、聴きやすいと思います。本作も、アコースティック・ギターを中心に、オーガニックな楽器のサウンドが響く1作。

 ルーツ・ミュージックからの影響も感じさせ、基本的にはフォーキーなサウンドの作品です。しかし、生楽器を使いながら、ポストロックのような音響的なアプローチや、ルーツ・ミュージックの枠におさまらないアンサンブルなど、随所にデイヴィッド・グラブスの音楽的教養の高さをうかがわせるアルバムでもあります。

 1曲目「Seagull And Eagull」は、アコースティック・ギターの弾き語りのような曲ながら、エレキ・ギターのフレーズと響きが、モダンな雰囲気をプラスしています。

 2曲目の「Whirlweek」は、イントロからアコースティック・ギターとドラムの、縦に揺れるグルーブ感が心地いい1曲。どことなくボサノバの香りも漂います。

 3曲目「Stanwell Perpetual」では、イントロからアコーディオンのような音色と、トランペット、サックス、ギターなどが、多層的にロングトーンを重ねていきます。使用されている楽器は生楽器で、音色も暖かみのあるナチュラルなものなのに、立ち現れる全体のサウンドは、エレクトロニカかポストロックのような音響になっています。

 濃密な音の壁が立ちはだかるようなサウンド・プロダクションで、いつまでも聴いていたいぐらい、耳に心地よく響く1曲。

 4曲目「Gloriette」は、音響的なアプローチの3曲目とは打って変わって、立体的ないきいきとしたアンサンブルが響き渡る1曲。鼓動のようなバスドラ、ギターの何度も繰り返されるフレーズなど、持続していく部分と、変化していく部分とのコントラストが鮮烈。

 8曲目「Preface」は、ギターとトランペットによる哀愁の漂うイントロから、後半はアヴァンギャルドな展開を見せる1曲。再生時間2:34あたりからのトランペット、それに続く耳障りな高音ノイズなど、多種多様なサウンドとジャンルが、1曲のなかにおさめられています。

 カントリーを感じさせるサウンドを持ちながら、随所にオルタナティヴで実験的なエッセンスも含んだアルバムです。ポップでありながら、違和感のあるアレンジや音が散りばめられ、その違和感がやがて音楽的なフックへ転化し、耳から離れなくなります。

 ポップさと実験性のバランスが絶妙で、聴きやすい作品ではないかと思います。

 





Jim O’Rourke “Insignificance” / ジム・オルーク『インシグニフィカンス』


Jim O’Rourke “Insignificance”

ジム・オルーク 『インシグニフィカンス』
発売: 2001年11月19日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク), Jeremy Lemos, Konrad Strauss

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる3枚目のアルバム。アルバム作品以外では、前作『Eureka』と本作『Insignificance』の間に、4曲入りのEP『Halfway To A Threeway』を発売しています。

 ドラッグ・シティ過去2作のアルバムは、全体の耳ざわりとしてはフォークやカントリーを感じさせる、アメリカーナな音像を持っていましたが、本作はロックな方向へ舵を切った1作と言えます。

 と言っても、現代的なラウドなディストーション・ギターを全面に押し出したアルバムという意味ではなく、50~60年代のオールドロックを、現代的に再解釈したアルバムと言った方が適切です。そういう意味では、素材としてピックアップした音楽は異なりますが、過去2作と方法論は近いとも言えます。

 1曲目「All Downhill From Here」から、パワフルで臨場感あふれるサウンドのドラムと、中音域の豊かなほどよく歪んだギターが、グルーヴしていきます。ジムの暖かみのある声は、ロックには不向きと思えますが、この曲では感情を抑えたクールな歌唱が、古き良きロックンロールの香り立つ演奏と、絶妙にマッチしています。

 2曲目「Insignificance」は、ギターとヴィブラフォンが、1枚の織物のようにアンサンブルを編み込んでいく1曲。随所の聴こえる不思議な電子音のようなサウンドもアクセントになっています。再生時間0:56あたりから入ってくるエレキ・ギターのフレーズも、音の運びが裏返ったようなサイケデリックな空気をふりまきながら、曲のなかにぴったりと馴染んでいます。いくつもの違和感が、すべて音楽のフックへと転化していく、ジム・オルークらしい展開。

 3曲目の「Therefore, I Am」は、イントロからハード・ロック的に歪んだギターが響きます。しかし、そのままロックのサウンドや形式を借りるだけでは終わらないのがジム・オルーク。再生時間1:45あたりからの様々な楽器が重層的に連なるアレンジなどに、彼のねじれたポップ感覚が垣間見えます。

 7曲目「Life Goes Off」は、イントロからアコースティック。ギターを中心に、オーガニックなサウンドが響きます。そこから、再生時間1:29あたりからの細かくリズムを刻むドラムなど、変幻自在のサウンドやフレーズが、次々と顔を出す1曲です。

 アルバム全体を通して聴くと、ラウドなギターが響く前半、ドラッグ・シティでの前2作に通ずるアコースティックな後半、という流れになっています。

 前2作に比べて、ディストーション・ギターのサウンドが加わったことにより、サウンド・プロダクションの印象は大きく変わっています。しかし、様々なサウンドやジャンルの要素を組み合わせ、全く新しいポップ・ミュージックを作り上げる、ジムのセンスは変わっていません。

 本作も、ラウドな音をルーツ・ミュージックや電子音楽と溶け合わせた、極上のポップ・ミュージックが響くアルバムであると言えます。





Cap’n Jazz “Analphabetapolothology” / キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ)『アナルファベータポロソロジー』


Cap’n Jazz “Analphabetapolothology”

キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ) 『アナルファベータポロソロジー』
発売: 1998年1月8日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 ティムとマイクのキンセラ兄弟をはじめ、後にJoan Of ArcやThe Promise Ring、 Make Believe、American Footballといったバンドでも活動するメンバーたちが集った伝説的なバンド、キャップン・ジャズ。そんな彼らのほぼ全ての音源を網羅した2枚組のアンソロジー盤が、本作『Analphabetapolothology』です。

 発売されたのは1998年ですが、収録されている楽曲がレコーディングされたのは1993年から1995年の間。1993年というと、ティムは19歳、マイクは16歳(!)です。

 そんな情報を抜きにしても、みずみずしい感性と、若さがはじける疾走感に溢れたエモ全開の1枚。ですが、直線的なスピード感のみというわけではなく、随所にポストロック的な複雑なアプローチや技巧も垣間見えます。

 ただ、やはりこのバンドが全面に押し出しているのは、みずみずしい感性とエヴァーグリーンなメロディーであるのも事実。そして、なんといっても、ところどころ音程のあやしい部分もあるボーカルの声がエモい。

 a-haの「Take On Me」のカバー、『ビバリーヒルズ高校白書』(Beverly Hills, 90210)のテーマ曲「Theme To ‘90210’」も収録されています。

 前述したとおりアンソロジー盤であるので、通常のアルバムのように曲順通りにどうこうという作品ではないのですが、Disc1の1曲目「Little League」から、バンド全体で駆け抜けていくようなスピード感あふれる曲で始まります。

 完全に塊になって進むというより、それぞれがもつれ合いながら走るようなラフさのある1曲。再生時間1:45あたりから、一旦テンションを落として休憩するようなアレンジもコントラストを演出していて、勢いだけではないことを感じさせます。

 Disc1の2曲目「Oh Messy Life」では、絡み合うような、もつれるような2本のクリーントーン・ギターのイントロから、爆音のサビへと展開。6曲目の「Yes, I Am Talking To You」は、轟音と静寂が目まぐるしく循環する、ダイナミズムの大きさとコントラストが鮮烈な1曲。

 前述したとおり13曲目にはa-haのカバー「Take On Me」が収録。有名な曲なので、原曲との差異を認識しやすいと思いますが、80年代の空気満載のあの曲が、エモコアに昇華されています。再生時間1:45あたりから入ってくるピアノもアクセント。

 2枚組で34曲収録というボリュームですが、通しで聴いてみると、リズムには直線的なだけではないフックがあり、サウンド面でも、暴力的な歪みのギターと、はずむようなクリーントーンのギターを適材適所で使いわけるなど、音楽的なアイデアの豊富さと柔軟さを感じさせます。

 だけど、やっぱりこのバンドの一番の聴きどころは、若さが弾けるみずみずしい演奏と、ボーカリゼーションです。極上のエモ作品としても、その後のシカゴ・シーンの源流のひとつとしても、価値ある作品だと思います。

 ただ、このアルバム2018年3月現在の時点では、残念ながらデジタル配信はされていないようです。