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Electro Group “Good Technology” / エレクトロ・グループ『グッド・テクノロジー』


Electro Group “Good Technology”

エレクトロ・グループ 『グッド・テクノロジー』
発売: 2007年9月6日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 カリフォルニア州サクラメント出身のシューゲイザー・バンド、エレクトロ・グループの2ndアルバム。

 1stアルバムである前作『A New Pacifica』は、彼らの地元サクラメントのオムニバスというレーベルからのリリースでしたが、本作はフロリダにオフィスを構えるシューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからのリリース。

 2007年にリリースされた作品ですが、2001年から2006年までにレコーディングされた楽曲が、収められています。そのため、楽曲と音質の幅が、良く言えばバラエティ豊か、悪く言えば統一感なくバラバラ。

 とはいえ、もちろん同じバンドの楽曲ですから、音楽的志向の大枠は共通しており、個人的にはネガティヴな要素とは思いません。

 前作『A New Pacifica』でも、エフェクターを多用したギター・サウンドを主要成分に、アルバムを作り上げたエレクトロ・グループ。時として過激とも言えるギター・サウンドと、浮遊感のある中性的ボーカルの組み合わせは、シューゲイザー的と言えます。

 シューゲイザーと言っても、轟音ギターの量感を重視するバンド、トリップするような浮遊感を目指すバンドなど、千差万別ですが、エレクトロ・グループはどちらかと言うと、サイケデリックな浮遊感よりも、ソリッドなビートとアンサンブルの方が、前面に出ているバンドです。

 前作でも、タイトな音質のベースが、アンサンブルを引き締め、躍動させる上で大活躍していましたが、2作目となる本作では、ギターの音が輪郭のはっきりしたソリッドな音質になり、バンド全体としても、アンサンブル志向がさらに強まっています。

 例えば2曲目の「The Rule」では、アコースティック・ギターも含めた複数のギターとリズム隊が、絡み合うようにアンサンブルを構成し、さらにボーカルも伴奏の上に乗るのではなく、隙間を縫うように一体感のあるサウンドを作り上げていきます。

 各楽器の音が不可分にひとつの塊になるのではなく、分離して聞き取れるサウンドを持ち、有機的なアンサンブルを展開する、このようなアプローチは前作の音楽性をさらに一歩進めたと言えるでしょう。

 しかし同時に、流れるようなボーカル、エフェクターのかかったギター・サウンドなど、シューゲイザー的要素も多分に持っています。

 シューゲイザー的なサウンド・バランスは依然として持ちつつ、各楽器のサウンドは肉体的になり、結果として躍動感やグルーヴ感が増したアルバム、と言えます。

 





Electro Group “A New Pacifica” / エレクトロ・グループ『ア・ニュー・パシフィカ』


Electro Group “A New Pacifica”

エレクトロ・グループ 『ア・ニュー・パシフィカ』
発売: 2003年1月1日
レーベル: Omnibus (オムニバス)

 1998年に、カリフォルニア州サクラメントで結成されたバンド、エレクトロ・グループの1stアルバム。

 2ndアルバム『Good Technology』は、シューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからリリースするエレクトロ・グループですが、本作は彼らの地元サクラメントのオムニバスからのリリース。

 エフェクトの深くかかったギターが、厚みのあるサウンドを構築し、浮遊感のある中性的なボーカルがメロディーを紡いでいくバランスは、正しくシューゲイザー的なサウンド・デザインを持ったアルバムです。

 特にギターのサウンドに注目して聴いてみると、毛羽立ったファズ風の歪みから、ギターポップでもおかしくない爽やかなクリーン・トーンまで、曲によって幅広い音作り。

 しかし、アルバムとしての統一感は失わず、コンパクトにまとまったサイケデリックなポップが、詰め込まれています。

 壮大さとキュートさが共存する、30秒ほどのイントロダクション的な「Trigger/Repeat/Hold」からアルバムがスタート。

 2曲目の「La Ballena Alegria」では、異なる音色を持つギターと、ファットなベース、シンプルでタイトなドラムが、サイケデリックなギターポップを展開します。ギターはキラキラした音から、ざらついた耳ざわりの歪みまで、多様なサウンドが用いられ、カラフルな1曲。

 3曲目「If You Could See」でも、イントロから図太いサウンドのベースが、楽曲を先導していきます。冒頭はクリーン・トーンのギターのみ、そこから倍音豊かなディストーション・ギターが加わり、段階的にサウンドが厚みを増していく展開。

 4曲目「Line Of Sight」は、ざらついた質感のギターがアンサンブルを構成するなか、浮遊感のあるささやき系のボーカルが漂います。過度にエフェクターのかかったサウンドの中を、流れるように美しいメロディーが泳いでいくバランスが秀逸。音響を前景化しながら、歌モノのポップスの魅力をそこに同化させていますのが、シューゲイザーの特徴のひとつだと思いますが、そういう意味ではまさにこの曲はシューゲイザー。

 7曲目「Continental」は、オーバーダビングもされているのだと思いますが、ギターが音の壁と呼びたくなる、分厚いサウンドを立ち上げる1曲。硬質かつファットなベースも、楽曲にメリハリをつけ、コントロールする上で大活躍。

 9曲目「Can’t Remember」は、ギターと電子音、ボーカルが穏やかに溶け合う1曲。全ての楽器が柔らかなサウンドを持っており、サックスとオルガンらしき音色が、オーガニックな雰囲気をプラス。しかし、ただ穏やかなだけではなく、コード進行とハーモニーには奇妙な部分もあり、このあたりがシューゲイザー・バンドらしい。

 時にキラキラしていたり、過激なほど歪んでいたりと、派手なギターのサウンドに耳を奪われてしまいがちですが、ベースも楽曲の構造を支える上で、非常に活躍している作品だと思います。

 もし、ベースの音量がもっと控えめであったなら、よりギターのサウンドが前面に出た、音響的なアルバムになっていたはず。ベースがタイトにアンサンブルを引き締め、楽曲の立体感を演出していて、それがこの作品の魅力をひとつ上の段階へ押し上げているんじゃないかと思います。

 





Autodrone “Strike A Match” / オートドローン 『ストライク・ア・マッチ』


Autodrone “Strike A Match”

オートドローン 『ストライク・ア・マッチ』
発売: 2008年11月11日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)
プロデュース: Eric Spring (エリック・スプリング)

 2002年にニューヨークで結成されたバンド、オートドローンの1stアルバム。フロリダ州セントオーガスティンにオフィスを構える、シューゲイザーに特化したレーベル、クレアコーズからのリリース。

 クレアコーズからのリリースである事実を抜きにしても、シューゲイジングなサウンドを持ったアルバムだと言えます。冒頭からそのように書くと「じゃあシューゲイザーってなに?」という話になってしまいますので、具体的にこの作品のサウンド・デザインを、紐解いていきたいと思います。

 まず、シューゲイザーというジャンルの特徴として、空間系と歪み系を合わせたエフェクターの多用、そして、それに伴う音響が前景化したサウンドが挙げられます。

 もう少し具体的に説明すると、一般的な感覚からすれば、やりすぎなぐらいエフェクターをかけ、メロディーやアンサンブルさえも覆い尽くしてしまうようなサウンドを聴かせる、あるいはボーカルも各楽器も不可分に溶け合ったサウンドを作り上げる、そのようなアプローチのこと。

 本作も、エフェクターを用いたギター・サウンドが用いられており、バンドのアンサンブルと、浮遊感のあるボーカルが溶け合う、シューゲイザー的な音像を持っています。

 しかし、ギターだけではなく、ノイジーで尖った電子音や、立体的なリズム隊がフィーチャーされる曲もあり、ギターを主軸にした塊のようなサウンド・プロダクションだけではない、音楽性の幅を持った作品でもあります。

 1曲目に収録される「Strike A Match」では、幾重にもオーバーダビングされたギターが、分厚い壁のように空間を埋め尽くしますが、リズム隊もギターに埋もれることなく、グルーヴ感ある演奏を繰り広げています。また、再生時間1:13あたりで、テンポが上がり、音響よりもリズムが前景化され、疾走感あふれるロックが展開される部分もあり、轟音ギター頼みではないバンドであることが感じられます。

 2曲目「Final Days」では、単音弾きのギターと、ざらついた質感の電子音、リズム隊が絡み合い、アンサンブルを構成。楽器の隙間を縫うように、ボーカルがメロディーが紡ぎ、全てがひと塊りに感じられる一体感とは別種の、有機的な一体感と躍動感のある1曲です。

 3曲目の「100,000 Years Of Revenge」は、ギザギザした耳ざわりの電子ノイズが鳴り響く、アンビエントな1曲。

 4曲目「Kerosene Dreams」は、立体的でトライバルな雰囲気のドラムを中心に、空間系エフェクターの効いたギターや、漂うような電子音が重なり、アンサンブルを構成していきます。各楽器とも、音響を重視したサウンドを持っていますが、アンサンブルはパワフルで、躍動感があります。

 5曲目「A Rose Has No Teeth」は、ギターの音と電子音が、増殖するように空間に広がっていく1曲。

 6曲目「Sometime」では、高速のタム回しのようなドラムと、細かくバウンドするようなベースの上に、エフェクトのかかったギターが広がっていきます。疾走感と浮遊感が同居するような、絶妙なバランスのサウンドと演奏。

 7曲目「Through The Backwoods」は、弾むようなドラムと、細かくリズムを刻むギターが絡み合う、軽快なグルーヴ感のある1曲。キラキラとしたギターと、柔らかな電子音、流れるようなボーカルが溶け合い、ギターポップのようにも聴こえます。

 9曲目「Can’t Keep These」は、イントロから鳴り続ける圧縮されたような歪んだギターと、電子ノイズのようなシンセサイザーの音色が、ジャンクな雰囲気を作り出す1曲。そんなサウンドと呼応するように、囁くような歌い方の多かったボーカルも、この曲では感情を吐き出すような歌い方になっています。

 10曲目「With Arms Raised」は、オーバーダビングされているのだと思いますが、ボーカルも含めて多種多様なサウンドが飛び交い、立体的なアンサンブルが構成される、賑やかな1曲。

 12曲目「Pictures.」は、ピアノと穏やかなボーカルが中心にありながら、まわりではノイジーでアンビエントな持続音が鳴り続けます。歌モノであるのに、音響的なサウンドも重ね合わせ、多層的な構造を持たせるのは、このバンドらしいセンス。

 シューゲイザーらしい、ノイジーで厚みのあるサウンドを持ったアルバムですが、アンサンブルや歌のメロディーを量感のあるサウンドに埋もれさせることなく、音響的アプローチとアンサンブル志向の音楽の間で、絶妙なバランスをとっています。

 曲によってはガレージやギターポップの香りを感じることもあり、圧倒的な音圧や音量に頼るのではなく、あくまでバンドのアンサンブルに重きを置いたバンドなのではないかと思います。

 言い換えれば、あくまでアンサンブル重視のバンドであるのに、素材としては過度なサウンドを用いている、とも言えます。ただ、そのサウンドの使い方が巧みで、決して楽曲を破綻させることなく、バランス感覚に優れたバンド。

 シューゲイザー的なサウンドを持った2000年代以降のバンドを、「ニューゲイザー」とくくることがありますが、オートドローンは独自の志向を持っており、オリジナル・シューゲイザーの単なる焼き直しではない、ニューゲイザーのバンドと言えるのではないでしょうか。

 





Highspire “Your Everything” / ハイスパイア『ユア・エヴリシング』


Highspire “Your Everything”

ハイスパイア 『ユア・エヴリシング』
発売: 2004年
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2000年にペンシルベニア州フィラデルフィアで、アレックス・ホワイト(Alex White)とEJ・ハーゲン(EJ Hagen)によって結成されたバンド、ハイスパイアの1stアルバム。

 2003年にドイツのアリソン・レコーズ(Alison Records)というレーベルから、ヨーロッパ限定でリリースされたあと、翌2004年にシューゲイザーを得意とするレーベル、クレアコーズからリリースされています。

 シューゲイザー専門レーベルと言い切っても過言ではない、クレアコーズからリリースされていることも示唆的ですが、ジャンルとしてはシューゲイザーあるいはドリームポップに属する音楽性を持ったバンドです。

 シューゲイザーと一口に言ってしまうと、あまりにもこぼれ落ちてしまう情報が多いので補足させていただきますが、圧倒的な量感の轟音ギターで押し流すようなバンドではなく、電子音やアコースティック・ギターも織り交ぜながら、サウンドの中に漂うように歌メロを溶け込ませるのが、彼らの特徴。

 轟音ギターだけに頼ってはいないため、曲によってはシューゲイザーというより、エレクトロニカやギターポップに近い音像を持っています。それを、音楽性が広いと取るか、音楽性がブレていると取るかは、個人に判断によりますが、僕個人としては、なかなかクオリティの高い楽曲とサウンドを、安定して持っているなと、思います。

 1曲目「Until The Lights Go Down」は、電子ノイズのような高音と、打ち込みのドラムのビートに続いて、空間にゆったりと浸透していくように、ギターのサウンドが多層的に広がります。ギター以外にも、柔らかな電子音も聴こえ、厚みのある音の壁が構築。その上に、流れるように歌のメロディーが乗ります。アルバム冒頭は、正しくシューゲイザー色の濃い1曲。

 2曲目「Skies You Climb」は、意外性のあるアコースティック・ギターのコード・ストロークからスタート。シンセサイザーらしき電子音と、穏やかボーカルが加わり、陰のあるギターポップのような耳ざわり。その後、奥の方で厚みのある歪みのギターが鳴り始め、シューゲイザー色を強めていきます。アコギと電子音の柔らかなサウンドにより、歪んだギターが中和され、暖かみのあるサウンド・プロダクションになっています。

 3曲目「Fade In A Day」では、コーラスやトレモロなど空間系エフェクターをかけたギターがフィーチャーされ、前の2曲とはまた耳ざわりの異なるサウンド。浮遊感のあるボーカルと、音色の異なる複数のギターが編み上げるアンサンブルは、ほのかにサイケデリックで、ドリーミーな空気を持っています。

 4曲目「Portsmouth」は、打ち込みと思われる電子音で構成された1曲。ベースラインとドラムのビートも、タイトで無機質な音質。ボーカルも感情を排したような冷めた歌い方で、全体としてひんやりとした耳ざわりです。

 5曲目「Shattered」は、倍音豊かなギターに、流れるようにメロディアスなボーカルが溶け合う、これぞシューゲイザー!という趣の1曲。はっきりと言ってしまうと、マイブラ色、ラヴレス色が非常に濃いです。

 6曲目「See The Lines」は、ややざらついた音色のギターと、やや硬質でタイトなベース、シンプルで手数を絞ったドラム、楽器の間を漂うようなボーカルが重なる、アンサンブル重視のシューゲイザーとでも言うべき1曲。バンドが塊となって押し寄せるのではなく、各楽器が何をやっているのか、はっきりと聞き取れるバランス。

 7曲目「Sub Par Life, A Brilliant Death」は、アンビエントな雰囲気のイントロから、ベースとドラムが加わり、立体感をプラス。エレクトロニカのような音響を前景化したサウンドを持ちながら、アンサンブルも認識できる、不思議なバランスの1曲。

 10曲目「Vesperbell」は、複数のディストーション・ギターが前面に出て、曲を先導していきます。音量を抑えられたリズム隊と、流れるようなメロディーがギターと溶け合い、ややギターポップ風味のあるシューゲイザー・ナンバー。

 12曲目「Love Me Or Leave Me」は、柔らかな電子音と、打ち込みのビート、淡々とメロディーを紡ぐボーカル、深くエフェクトのかかったギターが絡み合い、アンサンブルを構成。電子音とギターが溶け合い、歌メロも聞かせる、非常に間口の広い1曲で、このアルバムの方向性を全て包括した1曲とも言えるでしょう。

 輪郭のぼやけた柔らかい電子音や、エフェクターを駆使したギター・サウンドが多用されるアルバムではあるのですが、音響が過度に前景化されるわけではなく、アンサンブルにも重きを置いているのがわかる作品です。

 突出した個性があるわけではありませんが、サウンド・プロダクションとアンサンブルの両面で、安定した質を備えたアルバムだと思います。

 





Deerhunter “Weird Era Cont.” / ディアハンター『ウィアード・エラ・コンティニュード』


Deerhunter “Weird Era Cont.”

ディアハンター 『ウィアード・エラ・コンティニュード』
発売: 2008年10月28日
レーベル: Kranky (クランキー)

 ジョージア州アトランタを拠点に活動するバンド、ディアハンターの4thアルバム。なのですが、単体での発売ではなく、3rdアルバム『Microcastle』のボーナス・ディスクとして、CDでは2枚組の形でリリース。配信では、それぞれ単独のアルバム扱いとなっています。

 リリースに関しては、メンバーのブラッドフォード・コックス(Bradford Cox)が、バンドのブログにアップしたリンクを通して、事前に音源が流出してしまうという一件もありました。(原因は、コックスが謝って意図せぬリンクを貼ってしまったため。)

 ややイレギュラーな立ち位置のアルバムですが、13曲で42分収録とボリューム的にはフル・アルバムと同等であり、内容も他のアルバムと比べて劣っているということもありません。むしろ、リラックスして普段は見せない引き出しを見せてくれるような、バンドの懐ろの深さが感じられる作品です。

 ディアハンターというと、サイケデリックなサウンドが特徴ですが、本作もサイケデリックな空気は多分に含んでいるものの、オーバー・プロデュースにはならず、比較的シンプルな音作りで、ソリッドなアンサンブルが展開されます。

 1曲目「Backspace Century」は、8分音符を基本にした縦の揃ったバンドの演奏に、浮遊感のあるコーラスワークが重なる1曲。各楽器の音作りはシンプルですが、ギターがサウンド的にもリズム的にも、はみ出るところがあり、楽曲のフックとなっています。

 2曲目「Operation」は、シンプルな音色の各楽器が、立体的に絡み合い、ゆるやかなグルーヴ感が形成される1曲。ゆらめくような呪術的なボーカルと、間奏で前に出てくるオルガンのサウンドが、サイケデリックな空気を演出。

 3曲目「Ghost Outfit」は、エフェクトが深めのサウンド・プロダクションを持った、30秒ほどのインタールード的な1曲。

 4曲目「Dot Gain」は、独特のドタバタしたドラム、飾り気のない音で流れが読みにくいフレーズを弾くギター、エコーの深くかかったボーカルが絡み合う、アヴァンギャルドな雰囲気の1曲。

 5曲目「Vox Celeste」は、ドラムが小気味よくリズムを刻み、ギターはシューゲイザー的な厚みのあるサウンドを構築する、疾走感のある1曲。ボーカルも含め、全ての楽器が不可分に融合した、ぬるっとした一体感のあるサウンド・プロダクションで、最初はモヤがかかったようで違和感があるものの、聴いているうちにクセになっていきます。

 7曲目「Vox Humana」は、残響音たっぷりの幻想的なサウンドと、スポークン・ワードのような物憂げなボーカルが溶け合う1曲。

 8曲目「VHS Dream」は、イントロから2本のギターが不協和な響きで絡み合い、ボーカルはささやくように耽美なメロディーを歌う、シューゲイザー色の濃い1曲。しかし、全ての音が塊になって押し寄せるようなサウンドではなく、アンサンブルにはそれなりの隙間があり、各楽器が何をやっているのか、どのように絡み合っているのか認識できるバランス。

 9曲目「Focus Group」も、サビ部分ではエフェクトのかかったギターと、幻想的なささやき系ボーカルが溶け合う、シューゲイザー色濃い1曲。

 11曲目「Weird Era」は、ギター・ノイズや、電子ノイズ的なサウンドが、折り重なる1曲。多種多様な音が飛び交う、隙間なく押し寄せるのではなく、隙間があり、各サウンドの重なり方、サウンド自体が前景化されるような曲です。

 12曲目「Moon Witch Cartridge」は、ボーカルは無く、いわゆる歌モノのポップな楽曲ではありませんが、エコーのかかったサウンド・プロダクションから、牧歌的で穏やかな雰囲気が漂う1曲。

 13曲目「Calvary Scars II / Aux. Out」は、ギターがトリップ感を生み出しながら、波のように一定のリズムで音を流し、それに呼応するように揺れるようなボーカルが重なる、サイケデリックな1曲。ドラムのビートもはっきりしており、反復を繰り返すリズム、途中で加速していく展開など、音楽に取り込まれる要素が多分にあります。

 音響を前景化するアプローチや、ギターサウンドど歌メロが一体化するシューゲイザー的なアプローチも含んだアルバムですが、アンサンブルも重視されていて、バンドのグルーヴや躍動感も感じられる作品です。

 前述したとおり、ボーナス・ディスクとして『Microcastle』に付属された作品ではありますが、バンドの普段は見せない部分を見せてくれるような作品であり、クオリティが他のアルバムに比べて劣っているということはありません。