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Jeff Hanson “Jeff Hanson” / ジェフ・ハンソン『ジェフ・ハンソン』


Jeff Hanson “Jeff Hanson”

ジェフ・ハンソン 『ジェフ・ハンソン』
発売: 2005年2月22日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス (モジス, モーギス))

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のシンガーソングライター、ジェフ・ハンソンの2ndアルバムです。アルバムのタイトルも『ジェフ・ハンソン』。上の記載は、間違いではありません(笑)

 初めてジェフ・ハンソンを聴いたとき、女性ボーカルを招いているのかと思いましたが、彼自身の声です。女声と聞き間違えるほどの高音ヴォイスで、繊細にメロディーを紡いでいきます。まさに透き通るような、透明感の高い声でありながら、同時にエモーションを歌に乗せる表現力も備えたボーカリストです。

 本作も、思わず聴き惚れてしまうほど心地よい、彼のハイトーンが響きわたります。アコースティック・ギターやピアノを中心に据えたアンサンブルに、時としてラウドなサウンドも同居し、歌を前景化しながらも決して歌だけではない、幅広い音楽性を持ったアルバムでもあります。

 1曲目「Losing A Year」は、たっぷりと余裕を持ったスローテンポで、アコースティック・ギターと声が染み渡っていくような1曲。自分の部屋で聴いていても、異世界に迷いこんだかと錯覚するような、幻想的で雰囲気のある声です。再生時間3:54あたりからバンドが加わり、暖かくいきいきとした躍動感あふれるアンサンブルを形成します。

 3曲目の「Welcome Here」は、決して激しく歪んだギターを全面に押し出した曲ではないものの、アルバムの中ではラウドでソリッドな耳ざわりの1曲。しかし、うるさいということではなく、生命力に溢れたグルーヴ感のある曲です。

 7曲目「This Time It Will」は、晴れた日に森の中をスキップするような、楽しくいきいきとした空気を持った1曲。緩やかにグルーヴしながら加速するアンサンブルが心地いい。

 このアルバムの聴きどころは、なんといってもジェフ・ハンソンの繊細で表現力あふれる声であることは、間違いありません。彼の声の支配力、多彩な表現力は、それだけで音楽が成立してしまうほどのオリジナリティです。

 また、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えながら、多種多様なサウンドを効果的に用いて、いきいきとしたバンドのアンサンブルが楽しめるアルバムでもあります。

 ジェフ・ハンソンは2009年に31歳の若さで亡くなってしまうため、本作を含めて残したアルバムはたったの3枚。本当に残念です。僕たちは、彼が残した美しい音楽を、大切に聴きましょう。

 





Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning” / ブライト・アイズ『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』


Bright Eyes “I’m Wide Awake, It’s Morning”

ブライト・アイズ 『アイム・ワイド・アウェイク・イッツ・モーニング』
発売: 2005年1月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 シンガーソングライターのコナー・オバーストを中心に結成された、ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ブライト・アイズの2005年にリリースされたアルバム。本作『I’m Wide Awake, It’s Morning』と、『Digital Ash In A Digital Urn』は同日に2枚同時リリースされました。

 アコースティック・ギターを主軸に、フォークやカントリーを感じさせるサウンド。しかし、アレンジやサウンドにはインディーロックの香りも漂い、回顧主義なだけではない、現代的な雰囲気も持ち合わせたアルバムです。

 アルバム・タイトルのとおり、朝になって、自分も含め自然や動物たちが活動を始めるような、いきいきとした躍動感に溢れた作品。ボーカルの若さと渋さのバランスが絶妙な、わずかに枯れたエモーショナルな歌唱も良いです。

 1曲目「At The Bottom Of Everything」は、1分ほどのスポークン・ワード…というよりセリフに続いて、アコースティック・ギターがシャカシャカとカッティングを始め、曲がスタート。セリフに続いてからのスタートのためか、楽器の音もボーカルの声とメロディーも、非常に音楽的にいきいきと響きます。

 2曲目の「We Are Nowhere And It’s Now」は、朝の散歩のように、穏やかな1曲。優しく絞り出すようなボーカリゼーションと、緩やかにグルーヴするバンドの相性も抜群。ホーンの導入や、再生時間2:10あたりからのギターのサウンドなど、音楽の幅の広さも感じさせます。随所に挟まれるギターのフレーズがアクセント。

 7曲目「Another Travelin’ Song」は、ノリノリにグルーヴしながら駆け抜けていく、カントリー調の1曲。リズムを下支えするベースのリズムも、気持ちよく響きます。ロック的なノリではなく、カントリー・ウェスタン風のノリ。ギターのフレーズもカントリー色が濃いのに、全体はカントリーくさくなり過ぎないのは、サウンド・プロダクションとボーカルの影響かなと思います。

 アルバムをとおして、生楽器のオーガニックなサウンドを用いた、フォーキーなサウンドが響きます。ブライト・アイズのアルバムのなかでも、カントリー色の濃い1枚。

 他のアルバムには、もっと楽器の音色やアレンジに、オルタナティヴな要素が強く出ているものもありますが、本作はオーガニックなサウンドを重視し、結果として歌が前景化された1作になっているんじゃないかと思います。

 





Edith Frost “It’s A Game” / イーディス・フロスト『イッツ・ア・ゲーム』


Edith Frost “It’s A Game”

イーディス・フロスト 『イッツ・ア・ゲーム』
発売: 2005年11月15日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの4枚目のアルバムです。これまでの3枚のアルバムと同じく、シカゴのドラッグ・シティからのリリース。

 ピアノとアコースティック・ギターを中心にした、音数を絞ったアンサンブル。フォーキーなサウンド・プロダクションながら、効果的に使用されるシンセサイザーと思われる電子音とエレキギター、イーディスのアンニュイな声によって、全体としては幻想的な雰囲気が漂います。早朝、朝靄がかかった湖畔か森の中を、散歩しているような気分になる1枚。

 2曲目「It’s A Game」は、余裕のあるゆったりとしたテンポで、各楽器もリラックスして、音を丁寧に置いていくようなアレンジ。シンセサイザーなのか、奥の方では電子音が、アンサンブル全体を優しく包みこむように鳴っています。

 4曲目の「A Mirage」は、2本のアコースティック・ギターとベースのゆったりした伴奏の上に、雰囲気たっぷりのイーディスの声が漂う1曲。途中から入ってくるボトルネック奏法のような音のギターと、柔らかな音質の電子音が、曲に彩りをプラスしています。蜃気楼を意味するMirageという曲名のとおり、揺らめくような幻想的な雰囲気の1曲。

 10曲目の「If It Weren’t For The Words」は、シンセサイザーの持続音とアコースティック・ギターが、レイヤーのように重なり、優しく広がるような音像。

 音数を絞ったリラクシングなアンサンブルが展開される1枚です。「オルタナ・カントリー」と呼ぶほど実験的でもなければ、「フリーク・フォーク」と呼ぶほどサイケデリックでもありませんが、エレキギターと電子音が、フォーキーなサウンドに彩りを加えています。

 各楽器の音もナチュラルで、まるでそこで鳴っているかのような耳ざわりをしており、サウンド・プロダクションと楽曲のバランスも秀逸だと思います。

 





Archer Prewitt “Wilderness” / アーチャー・プレヴィット『ウィルダーネス』


Archer Prewitt “Wilderness”

アーチャー・プレヴィット 『ウィルダーネス』
発売: 2005年1月25日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)のギタリストとしても知られる、アーチャー・プレヴィット4枚目のソロ作。様々な楽器を導入し、カラフルでにぎやかな音とアンサンブルで溢れていた、前作『Three』。それと比較すると、今作はより歌にフォーカスし、シンプルな音が響きます。

 前作『Three』も、各楽器がナチュラルで混じり気のないサウンドを持っていましたが、今作はアコースティック・ギターを中心に据えて楽器の数を絞った分、さらにオーガニックな印象が増しています。また、アルバム全体が帯びる雰囲気としても、フォーク色が濃くなっています。メロディーも前作より哀愁を感じるものが多く、歌が前景化されています。

 アコースティック・ギターを中心としながら、弾き語りのようなアレンジではなく、ゆるやかにバンド全体が躍動するような、グルーヴ感のある1枚でもあります。

 2曲目「Leaders」では、早速アコギ、ベース、ドラムが、わずかにスウィングする心地いいアンサンブルを展開。ドラムの絶妙なタメと、ボーカルのメロディーとの関係性も、音楽のフックになっています。

 7曲目「Think Again」には、ヴィブラフォンが使用され、アコースティック・ギターとのサウンドの溶け合いが心地いい1曲。

 9曲目「O, Lord」は、アコギを中心にゆったりとしたイントロから始まり、再生時間0:30あたりから突然ドラムが連打で入ってきます。フォーキーなサウンドながら、静と動のコントラストが鮮烈。

 前述したように、前作『Three』はカラフルでポップなアルバムでしたが、今作『Wilderness』はそれと比較すると、よりルーツ・ミュージックの香り漂う作品です。前作が7色のアルバムだとすると、今作はジャケットのデザインに近い、アイヴォリーや薄い茶色のイメージ。

 しかし、今作は地味で退屈なアルバムかというと、そんなことは全くなく、アコースティック・ギターの響きだけでも多彩で、グルーヴ感も持った作品です。歌の強さという意味でも、今作の方が表現に深みがあると思います。あとは好みの問題ですが、僕個人は前作『Three』の方が好きですね。

 





Akron/Family “Akron/Family” / アクロン/ファミリー『アクロン/ファミリー』


Akron/Family “Akron/Family”

アクロン/ファミリー 『アクロン/ファミリー』
発売: 2005年3月22日
レーベル: Young God (ヤング・ゴッド)
プロデュース: Michael Gira (マイケル・ジラ)

 「フリーク・フォーク」の文脈で扱われることの多いアクロン/ファミリーの1stアルバムです。フリーク・フォークってなに?という方もいらっしゃるかもしれませんが、サイケデリックな要素を持ったフォーク、と言ったところでしょうか。実際、今回紹介する1stアルバムも、フォーキーなサウンドと、サイケデリックな実験性が融合した1枚です。

 このアルバムをリリースしたのは、スワンズ(Swans)のマイケル・ジラ(Michael Gira)が設立したヤング・ゴッドというレーベルですが、アルバムのプロデューサーもマイケル・ジラが務めています。

 前述したようにフォークやカントリーに近い耳触りのアルバムなのですが、どの曲も少しずつ変な部分を持っていて、聴いているうちに違和感がクセになっていくアルバム。一聴するとカントリーなのに、随所に変な音が入っているアルバムです。

 例えば1曲目「Before And Again」のイントロは、アコースティック・ギターとハミングのようなボーカルで、まさにフォークかカントリーか、という幕開け。でも、再生時間1:10あたりから入ってくる電子音のピポピポしたサウンド。さらに1:36あたりから左チャンネルに入ってくる「ピン」という感じの金属音のようなもの。それらの音が耳に残りつつ、音程的にもサウンド的にも、絶妙にアコースティック・ギターと溶け合ってくるんです。

 2曲目「Suchness」も、イントロからアコギの弾き語りのような演奏。だけど、再生時間0:30あたりから、突然こわれたオモチャみたいな、調子っぱずれのジャンクなサウンドに一変します。このコントラストがたまらない。美しさと違和感が同居したまま進行して、1:51あたりからエレキギターが入ってくると、今度は少し壮大な雰囲気へ。こういう先が読めない展開も、このアルバム及びこのバンドの魅力。

 4曲目「Italy」も、クリーンな音のエレキ・ギターとアコースティック・ギターによるアンサンブルから始まりますが、古い機械のネジを巻くようなギジギジした音も同時に鳴っているし、このままただでは終わらないんだろうなぁ、という期待感を伴って曲が進行します。

 6曲目「Running, Returning」はイントロから、各楽器と音素材をサンプリングして再構築したような奇妙な音像。ポスト・プロダクションを感じさせつつ、音には生楽器感が溢れています。この生楽器を使った臨場感と、ストレンジな編集のバランスが秀逸。再生時間2:33あたりからも、ボーカルが裏声を使ってエモーショナルに旋律を歌うなか、まわりで様々な音が飛び交っています。

 11曲目「Lumen」は、イントロから、バンド感の無い音響的なパートと、アコースティック・ギターの弾き語りによるパートが交互に訪れ、やがて溶け合う1曲。

 フォークやカントリーを基本にしながら、実験性を併せ持った1枚。言い換えれば、カントリーっぽい曲に変な音がいっぱい入った1枚です。

 しかしながら、過激とも言える実験的な音やアレンジが入っているのは事実なのに、全体としては非常に色鮮やかでポップな印象に仕上がっているのも、このアルバムの凄いところ。きっと、実験のための実験に陥るのではなく、あくまでより良い音楽を追い求めた結果だからでしょう。