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Big Black “Songs About Fucking” / ビッグ・ブラック『ソングス・アバウト・ファッキング』


Big Black “Songs About Fucking”

ビッグ・ブラック 『ソングス・アバウト・ファッキング』
発売: 1987年9月10日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 現在はプロデューサー(レコーディング・エンジニア)として有名なスティーヴ・アルビニ(Steve Albini)が、1981年に結成したバンド、ビッグ・ブラック。本作はビッグ・ブラックの2ndアルバムです。

 ビッグ・ブラックにはドラマーがおらず、代わりに「E-mu Drumulator」というドラム・マシーンを使用しています。ドラム・マシーンがリズムを刻み、ベースが下を支え、その上を2本のギターが暴れまわるというのが、このバンドの基本構成。本作『Songs About Fucking』でも、画一的なドラムのビートの上を、金属的なサウンドの歪んだギターが、存分に暴れます。

 前述したように、現在ではプロデューサーとして有名なスティーヴ・アルビニ。彼がレコーディングするサウンドは、「スタジオの空気まで録音する」と評されることがありますが、本作のサウンドも無駄をそぎ落とし、ナイフのような鋭さがあります。

 1曲目「The Power Of Independent Trucking」から、フルスロットルの演奏が展開します。激しく歪みながら、無駄な倍音はそぎ落としたような、耳障りなギター。金属的なキーンとした響きが、耳に突き刺さります。

 2曲目「The Model」は、ややテンポを落とすことで、下品に歪んだ(褒め言葉です)ギターのサウンドをじっくりと堪能できます。本当に耳障りで、いわゆるハードロック的な重厚な歪みとは、一線を画したサウンド。

 4曲目「L Dopa」は、アップテンポの1曲。2本のギターが、溶け合いながら疾走します。6曲目「Colombian Necktie」も、なにがなんだかわからないぐらい歪んだギターのサウンドが、脳を揺さぶるような1曲。

 8曲目「Ergot」は、イントロから高音が耳障りに響く1曲。静と動を無理やりに行き来するような展開も素晴らしい。

 14曲目に収録されている「He’s A Whore」は、チープ・トリック(Cheap Trick)のカバー曲。レコード時代には未収録でしたが、CD化に際して追加収録されています。

 21世紀を迎えた現在のサウンドから比較すると、ドラム・マシーンのサウンドはチープに響きます。しかし、チープなサウンドの上をジャンクでノイジーなギターが暴れまわるバランスが、一度ハマると抜け出せなくなります。ジャンクで高カロリーなラーメンにハマる感覚と、近いかもしれません。

 僕自身は、ビッグ・ブラックは全くリアルタイムな世代じゃないのですが、それでもハマったので、時代を超えた普遍的魅力を、このアルバムは持っていると思います。ただ、誰にでもオススメできるかって言うと、そうでもないのが事実。

 一部に人には必ず刺さりますし、潜在的にはこの種の音楽を気にいる人って、もっといると思いますので、少しでも気になったら、ぜひとも聴いてみてください!

 





Edith Frost “Wonder Wonder” / イーディス・フロスト『ワンダー・ワンダー』


Edith Frost “Wonder Wonder”

イーディス・フロスト 『ワンダー・ワンダー』
発売: 2001年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)
エンジニア: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの3rdアルバムです。

 シカゴの名門ドラッグ・シティ(Drag City)からのリリース、さらにレコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当していることからも、悪いはずがないと聴く前から期待が高まってしまう1枚。結論から言うと期待どおり、いやいや期待以上で、多くの人にオススメしたい1枚です。

 ビブラートなどの無駄な装飾なく、雰囲気たっぷりのイーディスの声。実験性やジャンクさも内包する多彩なアレンジメントとサウンド・プロダクションも、楽曲の魅力を増幅させています。その音楽性から、オルタナ・カントリー(オルタナティヴ・カントリー)の文脈で扱われることもある作品です。

 「オーガニック」という言葉がありますが、今作もまさにオーガニックなアルバムであると評したいです。すなわち、混じり気なしの音素材によって、丁寧に作り上げられた音楽、と言える1枚です。

 特に聴いていただきたいのは、2曲目「Cars And Parties」。バンド全体がトイピアノのような、かわいらしくカラフルな音色のイントロ。オモチャの太鼓のようなサウンドとリズムのドラム。チープかつ可愛いイントロと、コーラスに入ってからの壮大なサウンドとの対比も素晴らしく、本当に名曲。

 そんな、カラフルで楽しいサウンドと、低めのイーディスの声とのバランスも絶妙。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という、もはやクリシェ化した形容の仕方がありますけれども、この曲はまさにそれ!です。

 3曲目「Who」は、アコースティック・ギターとまわりの電子音との融合が気持ちいい1曲。リズムとアンサンブルが楽しい2曲目と比べて、サウンド自体が楽しい1曲。ときおり打ち鳴らされる「バスン」という感じのパワフルなバスドラも、アクセントになっています。

 アルバムのタイトルにもなっている4曲目「Wonder Wonder」。この曲もイントロから色とりどりのサウンドが鳴っていて、楽しい1曲。牧歌的な雰囲気というべきなのか、僕はこの曲を聴くと牛がのんびりとたくさんいる牧場の風景が浮かんできます。

 8曲目の「Further」は、臨場感あるサウンドの様々な生楽器が、流れるように有機的に絡み合うアンサンブル。ピアノもストリングスもドラムも、まず音がいいです。

 実にドラッグ・シティらしい、インディーらしい名盤。カントリーの要素もありながら、実験性もポップに昇華されていて、こういう音楽が聴けるからインディーズを掘るのは止められない!と思わせてくれる1枚。日本での知名度は高くありませんが、心からおすすめしたい1作です。

 





Slint “Tweez” / スリント『トゥイーズ』


Slint “Tweez”

スリント 『トゥイーズ』
発売: 1989年
レーベル: Jennifer Hartman (ジェニファー・ハートマン), Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 1986年にケンタッキー州ルイヴィルで結成されたスリントの1stアルバム。1989年にジェニファー・ハートマンなるレーベルから発売され、その後1993年にシカゴの名門タッチ・アンド・ゴーから再発されています。ちなみにジェニファー・ハートマンというのは彼らの友人が運営するレーベルで、今作が唯一のリリース作品。

 コンプレッサーで極度に圧縮されたような、金属的なギター・サウンド。降り注ぐノイズと変拍子。のちのポストロックやマスロックと呼ばれるバンド群の、源流のひとつとなったのがスリントです。ダークな雰囲気を持った、生々しいサウンド・プロダクションと、複雑なバンド・アンサンブル。ときおり挟まれる初期衝動の叫びのようなボーカルと、地下っぽい空気感を存分に持った1枚でもあります。

 1曲目「Ron」では、金属的な独特のギター・サウンドが解き放たれたあと、様々なノイズや音が飛び交い、やがて複雑に絡み合っていく展開。2分弱しかないのに、展開が目まぐるしく、エキサイトメント溢れる1曲です。

 4曲目の「Kent」は、ドラムの音が硬質で鋭く、臨場感のある1曲。ギター・サウンドは比較的クリーンで、アンサンブルによって静と動を使いわけながら、風景が次々に変化していくような1曲。

 5曲目「Charlotte」は、冒頭から全体を覆い尽くすような、深く歪んだギターのサウンドが押し寄せます。その後もボーカルとギターが暴発したような、パンキッシュな曲。

 8曲目「Pat」は、ドラムのせわしないリズムと切り替えが、マスロックを思わせる1曲。ギターはクリーン・トーンが選択され、轟音で押し流すのではなく、アンサンブルによってスリルや緊張感を演出しています。あらためて、1989年という時代に、ニューヨークやシカゴではなくルイビル出身のバンドが、このような音楽を志向していたことに驚きます。

 ポストロックの源流として、ハードコアが取り上げられることがありますが、正直最初の頃はピンと来ませんでした。しかし、今作のようにポストロックの源流と見なされるような作品を聴き込んでいくうちに、なるほどハードコアとポストロックは地続きだと納得できました。

 今作も実験性と攻撃性を兼ね備えており、エモーションの表出が曲の速度や歌詞ではなく、音楽的なアイデアへと方向を変えていったのがポストロックのひとつなんだろうな、というのが実感できます。めちゃくちゃおすすめ!というわけでありませんが、ポストロックの伝説的名盤として、聴いて損はない作品だと思います。