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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

The Higher “On Fire” / ザ・ハイヤー『オン・ファイア』


The Higher “On Fire”

ザ・ハイヤー 『オン・ファイア』
発売: 2007年3月6日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデューサー: Mike Green (マイク・グリーン)

 ネヴァダ州ラスベガス出身のエモ・バンド、ザ・ハイヤーの2ndアルバム。

 結成当初は、セプテンバー・スター(September Star)を名乗っていましたが、その後ザ・ハイヤーへと改称しています。

 ポスト・パンク勢に通ずるダンサブルな要素を持ちながら、ソウルやファンク、R&Bなどブラック・ミュージックの香りもあわせ持つのが、このバンドのユニークなところ。

 シングアロングが沸き起こるのが容易に想像できる流麗なメロディーに、粘り気のあるバンドのグルーヴ感が共存。

 4曲目「Weapons Wired」のイントロ部分では、西部劇のBGMのような雰囲気もあり、思った以上にバラエティ豊かなジャンルを参照しています。

 7曲目の「Can Anyone Really Love Young」では、アコースティック・ギターをサンプリングによって再構築。ほのかに揺らぎと粘り気があり、ブラック・コンテンポラリーに通ずるリズムとサウンドを持っています。

 メロディーとサウンド・プロダクションは、極めて現代的であるんですけど、往年のブラック・ミュージックを彷彿とさせるアレンジが、ところどころに散りばめられ、エモ一辺倒でないところが特異。

 前述のとおり、いわゆるブラック・コンテンポラリーや最近のヒップホップを連想させるところもあり、エモなメロディーと歌唱、ほのかにファンキーなアンサンブルが溶け合っています。

 過去の音楽や他ジャンルを取りこみ、現代的にアップデートするという意味では、前述のポストパンク、ロックンロール・リヴァイヴァル勢にも共通するアプローチとも言えますね。

 ポスト・ファンクとでもいったところでしょうか。




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そもそもロックとは? ロックの歴史と特徴


目次
イントロダクション
起源
アメリカ大陸で生まれた音楽
特徴
他ジャンルを取りこむロック
多様なサブジャンル

イントロダクション

 当サイトでは、音楽をあまり聴かない方への、入門的な情報も提供したいと思っております。

 なので、このページでは「そもそもロックとは?」と題して、ロックの簡単な歴史をご紹介します。

 「USインディーロックの深い森」なんてサイト名を掲げていますから、ロックが誕生してから、USインディーロックと呼ばれる音楽まで、なるべく繋がりがわかるように意識して書きました。

 わかりやすさを重視したので、かなり大味な議論であることは、ご容赦ください。

起源

 ロックの前身と言えるジャンル、ロックンロールが生まれたのはアメリカ合衆国。だいたい1950年代ぐらいから、ひとつのジャンルとして、認識されるようになったと言われています。

 その後、1960年代半ばあたりから、ロックンロールではなく、単にロックと呼ばれる方が一般的になり、様々なサブジャンルが派生。現代に至ります。

 ロックンロール誕生のきっかけとなったのは、ヨーロッパからやってきた白人と、アフリカから連れてこられた黒人の音楽の融合。異なる文化が融合して生まれたというのが、重要なところです。
 
 なぜこのような融合が起こったのか。その理由は、アメリカ合衆国の成り立ちに関係します。ここから、アメリカの歴史を簡単にふり返ります。

 歴史に興味がない方は「ヨーロッパとアフリカが融合してできた音楽」ってところだけ抑えてもらって、次の小見出し(アメリカ大陸で生まれた音楽)まで、飛んでいただいて大丈夫です!

 アメリカ合衆国があるアメリカ大陸は、コロンブスによって1492年に「発見」されたことになっています。

 もともとアメリカ大陸には、多くの原住民が住んでいたにもかかわらず「新大陸」と称され、多くのヨーロッパ人が移民としてアメリカ大陸へ渡りました。

 のちにアメリカ合衆国が建国される北アメリカにも、イギリス人を中心に多数が移民。そして、南部では広大な土地をいかした農業が発展。ヨーロッパからの移民だけでは労働力が足りず、アフリカから奴隷を輸入するようになります。

 ヨーロッパからの白人移民と、アフリカからの黒人奴隷。両者の音楽がアメリカ大陸で混じり合い、ロックをはじめ多くの音楽が生まれたのです。

アメリカ大陸で生まれた音楽

 そんなわけで、ヨーロッパの白人とアフリカの黒人。両者の音楽が融合してロックが生まれたのですが、他にも多くの音楽がアメリカ大陸では生まれました。

 アメリカ合衆国が建国された北アメリカだけでなく、カリブ海諸島や南米もヨーロッパ各国によって植民地化。これらの地域にも、アフリカから奴隷が輸入されましたから、各地でロックの兄弟姉妹のような音楽が誕生したわけです。

 いくつか例を挙げていくと、アメリカ合衆国のジャズ、ブルース、ゴスペル、ブラジルのサンバ、ボサノヴァ、アルゼンチンのタンゴ、キューバのルンバなどなど。

 ロックが誕生したのは、前述のとおり1950年代。ブルースやカントリーなどが、さらに混じり合ってできた音楽だと言われています。

 いわば融合によって生まれた音楽が、さらに融合して生まれた音楽。生まれた時期的にも、アメリカ大陸の音楽の中で、末っ子に近い存在と言えます。

 後述しますが、ロックが数々のサブジャンルを生み出し、20世紀のポピュラー・ミュージックの主流となったのも、ジャンルとしての若さが関係していると、僕は考えています。

特徴

 では、ロックとは具体的にどんな音楽で、どのような特徴があるのか。

 ロックは「黒人のリズムと白人のメロディーが融合した音楽」だと、言われることもあります。

 アフリカのダイナミックな太鼓のリズム。ヨーロッパのメロディー志向のフォーク・ミュージック。両者の魅力を、併せ持った音楽だということです。

 「ロック」と聞くと、激しく歪んだエレキ・ギターのサウンドを想像する方も多いでしょう。エレキギターのダイナミックな音色をはじめとして、アグレッシヴなサウンドを持つところも、ロックの特徴のひとつ。

 また、精神性も特徴のひとつとして、挙げておくべきでしょう。

 例えば1960年代、多くのロック・ミュージシャンがベトナム戦争にたいして、反戦の立場を表明。反戦運動において、多大な影響力を持ちました。

 なぜ、このような精神性を持つようになったのか。その理由を一言であらわせば、ロックは当初から「若者の音楽」であったためです。

 ロックンロールが誕生した1950年代。アフリカ音楽を起源に持つロックの強いビートは、いかがわしいものとされていました。エルヴィス・プレスリーの腰の動きが、卑猥だと言われたのもこの時期。

 大人は新しい価値観を否定するのに対し、若者はロックという新しい音楽に熱狂。世代間による音楽の違いが、生まれていったのです。

 この若者文化、カウンターカルチャーとしてのロックの特徴が、その後のパンク・ロックやオルタナティヴ・ロックへも、引き継がれていくことになります。

他ジャンルを取りこむロック

 ロックが特殊だったのは、他のジャンルを取り込みながら、次々とサブジャンルが誕生し、拡散していったところ。

 もちろん、他のジャンルにも多かれ少なかれそういう部分はありますが、ロックはそのスピードが格段に速かったんです。

 この柔軟性とスピード感が、ロックを20世紀におけるポピュラーミュージックの王にしたと言っても、過言ではないでしょう。

 なぜ、ロックは柔軟に他ジャンルをとりこみ、拡散していったのか。理由としては、先述したとおりアメリカ音楽のなかでも、かなり新しいジャンルであったこと。

 ロックの元となったジャンルとして、ブルースやリズム・アンド・ブルースが挙げられます。

 しかし、それらは既にアフリカとヨーロッパの融合した音楽であり、いわばロックは融合音楽がさらに融合してできた音楽だったのです。

 言い換えれば、他のジャンルよりも当初から折衷的であり、強度の弱いジャンルだということ。

 「強度が弱い」というとネガティヴな要素のようですが、逆に他ジャンルを取り込みやすい長所とも言えます。

 そして、結果としてロックは、この長所を存分に生かし、その影響力を拡大。20世紀のポピュラーミュージックの主流となったのです。

多様なサブジャンル

 そんなわけで、ロックンロールが単に「ロック」と呼ばれるようになった1960年代以降、「○○ロック」の名を持つサブジャンルが次々と誕生。

 代表的なものをご紹介しましょう。各ジャンルの紹介が目的ではないので、サラっと飛ばし気味に書きます!

 ロックというジャンルの多様性を、つかんでいただけたら。

 酩酊的なサウンドが特徴のサイケデリック・ロック。荒削りなサウンドが特徴のガレージロック。

 その名のとおりハードなサウンドを持ち、テクニカルなハードロック。

 妖艶な衣装とメイクのグラムロック。革新性を追求し、ときに難解なプログレッシヴ・ロック。

 カウンターカルチャーとしてのロックを復活させたパンク・ロック。

 「ロック」とは名がつかないものの、ヘヴィメタルやニューウェイヴといったジャンルも誕生。

 さらにはパンク・ロックから派生したハードコア・パンク、そこからさらに派生したポスト・ハードコアなど、ロックは無数に枝分かれしていきました。

 USインディーロックの魅力のひとつも、その多様性にあり、ここで挙げたジャンルの遺伝子を受け継いだ、様々な「ロック」が、今も鳴り響いているんです。

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「アルバム」というフォーマットの魅力


目次
イントロダクション
ひとつの作品としてのアルバム
コンセプト・アルバム
 ーThe Beatles 『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』
 ーDavid Bowie 『Ziggy Stardust』
 ーQueen 『A Night at the Opera』
 ーASIAN KUNG-FU GENERATION 『サーフ ブンガク カマクラ』
まとめ

イントロダクション

 音楽をコアに好きな人と、そうでもない人との温度差の違いのひとつに、アルバムの捉え方があります。

 「アルバムって曲が十数曲まとまってるだけじゃないの?」という方もいらっしゃるかもしれませんが、それだけじゃないんです。

 アルバムはひとつの作品であり、流れやコンセプトを意識すると、より深く楽しめるもの。

 この記事では、アルバム単位で音楽を聴く楽しさを、ご紹介します。

ひとつの作品としてのアルバム

 アルバムの魅力は、なんといっても作品としての情報量の多さ。

 単純にシングルよりも曲数が多いだけではなく、ジャケット、曲順、コンセプトなど、ひとつの作品として多角的に楽しめる内容になっているんです。

 もちろん、そんな思考を持たず「曲が貯まってきたからアルバムにしよう」って感じで、ただ曲数を揃えただけのアルバムを作るバンドやシンガーもいます。

 ただ、多くの人気バンド、特に歴史に名を残すようなバンドは、優れたアルバムを送り出していることも事実。

 有名バンドの名盤と呼ばれるアルバムは、アルバム単位で聴くべき作品であると言っていいでしょう。

 例えば10曲入りのアルバムがあるとして、1曲目がイントロ的な役割、2曲目がスピード感ある楽曲、3曲目から5曲目まではしっとりとしたミドル・テンポというように、流れや役割を意識して聴くと、1曲単位にはない奥行きが感じられるんです。

 それと、CDやデジタル配信が生まれる以前の、レコード時代のアルバムを聴く際の注意。レコードはA面とB面があり、A面の再生が終わると、レコードを裏返してB面を再生します。

 すなわち、A面とB面の間には自ずとインターバルが生まれるわけで、当時の作品はこの切り替え時間を、考慮した構成になっているんです。

 なので、A面の最後の曲でやや落ちつき、B面の最初の曲がリード・トラック。というような構成のアルバムが少なくありません。

 もともとはレコードで発売されていた70年代の名盤でも、CDやストリーミングをとおして聴くならば、A面とB面の切れ目は存在しません。

 そのため、アルバムによっては繋がりに違和感があるかもしれませんが、そんな時にはレコードのA面とB面を思い出してみてください。

 面の切れ目を意識することで、アルバムをより深く楽しむヒントとなるかもしれません。

コンセプト・アルバム

 アルバム作品の魅力を伝える、わかりやすい例として、「コンセプト・アルバム」を挙げておきましょう。

 「コンセプト・アルバム」あるいは「トータル・アルバム」とは、その名のとおり、確固としたコンセプトを持ったアルバムのこと。

 …と言っだだけでは、ほとんど説明になっていませんから、具体的に何枚かのアルバムをご紹介します。

The Beatles 『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』
 まずはビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』。

 

 この作品は、1967年にリリースされたビートルズの8thアルバム。「世界初のコンセプト・アルバム」とも呼ばれ、ロックを代表する名盤の1枚と言っても、過言ではありません。

 内容は、アルバム・タイトルにもなっている「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という架空のバンドのライブを収めたというもの。

 そのため、1曲目のイントロにはガヤガヤした客の声も収録され、ラストはアンコールの「A Day In The Life」で、締め括られます。

 もちろんライブ録音ではなく、スタジオ録音。前述の客席の声など、趣向を凝らした演出にも、驚かざるをえません。

 デジタル録音のない1967年に、どうしてこんなアルバムを作ることができたんだろう。

David Bowie 『Ziggy Stardust』
 2枚目に紹介するのは、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』。

 1972年にリリースされた5thアルバムで、正式タイトルは『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』と、かなり長め。

 

 資源の枯渇によって、5年後に迫る人類の滅亡。そこに救世主を名乗るジギーが、バックバンドのスパイダーズ・フロム・マーズを引き連れ、異星から舞い降りる、というストーリー。

 あと5年で世界が終わることに、絶望した人々が描かれる「Five Years」から始まり、ジギーがスーパースターとして成功、そして没落し、ラストは「Rock’N’Roll Suicide」(邦題:ロックン・ロールの自殺者)で締められる、物語性の高いアルバムです。

 実にコンセプト・アルバムらしい、コンセプト・アルバム。

Queen 『A Night at the Opera』
 3枚目は、クイーンの『A Night at the Opera』。『オペラ座の夜』という邦題がついています。

 

 1975年にリリースされた、クイーンの4thアルバム。ジャケットをプログラムに見たて、アルバム・タイトルのとおり、オペラを再現するかのような、壮大なロックを展開しています。

 ラストに収録されるのは、イギリス国歌の「God Save the Queen」。これはオペラや劇場で、終演時にその国の国歌を演奏することに由来しています。

 彼らの代表曲「Bohemian Rhapsody」(ボヘミアン・ラプソディ)も収録。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『サーフ ブンガク カマクラ』
 最後に邦楽のアルバムも、1枚ご紹介しておきましょう。

 2008年にリリースされた、ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン・カンフー・ジェネレーション)の5thアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』です。

 

 「藤沢ルーザー」「江ノ島エスカー」「由比ヶ浜カイト」など、収録曲にはすべて、江ノ島電鉄の駅名が含まれています。

 一貫したストーリーがあるわけではありませんが、江ノ電の沿線風景が目に浮かぶような統一感があり、まるで短編小説集のようなアルバム。

まとめ

 以上、僕なりに「アルバム」の魅力を記述してきました。

 今やCDよりも、サブスクリプションによるストリーミングが主流ですし、楽曲単位の視聴が増えていくのかもしれません。

 でも「アルバム」という作品が持つ魅力、アルバム単位で聴くことで広がる音楽の楽しみが、必ずあります。

 この記事で、少しでもアルバムの魅力をお伝えすることができたなら幸いです。

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Calexico “The Thread That Keeps Us” / キャレキシコ『ザ・スレッド・ザット・キープス・アス』


Calexico “The Thread That Keeps Us”

キャレキシコ 『ザ・スレッド・ザット・キープス・アス』
発売: 2018年1月26日
レーベル: ANTI- (アンタイ)
プロデュース: Craig Schumacher (クレイグ・シューマッハ)

 アリゾナ州ツーソン拠点のバンド、キャレキシコの9作目のスタジオ・アルバム。

 ちなみにカタカナ表記は「キャレキシコ」が一般的だと思うんですけど、iTunes StoreおよびApple Musicでは「キャレクシコ」という表記になっていました。

 元々は、ハウ・ゲルブ(Howe Gelb)が率いるオルタナ・カントリー・バンド、ジャイアント・サンド(Giant Sand)に参加していたジョーイ・バーンズ(Joey Burns)と、ジョン・コンバーティノ(John Convertino)によって結成されたキャレキシコ。

 メキシコに近いアリゾナ州拠点のバンドらしく、初期はテックスメックス(テキサス州でメキシコ系アメリカ人によって演奏されるルーツ・ミュージック)や、カントリー色の濃い音楽を特徴としていました。

 僕自身もキャレキシコにはそういうイメージを持っていたんですけど、通算9作目となる本作は、思いのほかルーツ色が薄く、2018年のインディーロック然とした、若々しい音を鳴らしています。

 ただ、もちろんルーツ臭が完全に消え去ったわけでは無くて、生楽器のオーガニックな響きと、電子音を取り入れたモダンなサウンド・プロダクションが融合。

 例えば1曲目の「End Of The World With You」では、いきいきとしたカントリー的な躍動感と、エレキギターのフィードバック、電子的な持続音が共存。カントリーのサウンドとグルーヴ感が根底にありながら、電子楽器の使用によって、オルタナティヴな香りもまとった1曲になっています。

 3曲目「Bridge To Nowhere」では、立体的なアンサンブルが展開。アコースティック楽器を主体にしながら、ロック的なダイナミズムを持ち合わせています。

 8曲目「Another Space」は、イントロからキーボードが大胆に導入され、ファンキーな演奏が繰り広げられる1曲。でも、ゴリゴリにグルーヴしていくような演奏とは少し異なり、ポリリズミックなアンサンブルが徐々に加速していく展開。ホーンも導入しているため、ジャズかフュージョンのようにも聞こえます。

 10曲目「Girl In The Forest」は、アコースティック・ギターとボーカルが中心に据えられたムーディーな1曲。

 アルバム全体をとおして、ルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、電子音やエレキギター、ホーンを導入し、多彩なサウンドを作り上げています。

 通しで聴いてみると、実に多くのジャンルを参照していることが分かると思います。でも、八方美人な音楽にはならず、カントリーの軸がぶれないところが、このバンドの良さですね。

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The Murder City Devils “In Name And Blood” / ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ『イン・ネーム・アンド・ブラッド』


The Murder City Devils “In Name And Blood”

ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ 『イン・ネーム・アンド・ブラッド』
発売: 2000年6月6日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ワシントン州シアトル出身のガレージ・ロック・バンド、ザ・マーダー・シティ・デヴィルズの3rdアルバム。

 前作『Empty Bottles, Broken Hearts』と同じく、地元シアトルを代表するインディペンデント・レーベル、サブ・ポップからのリリース。

 プロデューサーを務めるのは、前作のジャック・エンディーノに代わり、ソニック・ユース(Sonic Youth)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr.)での仕事でも知られるジョン・アグネロ。

 ガレージロックが下敷きにあるのは間違いないのですが、オルガンの音色を効果的に使い、サイケデリックな空気も併せ持つのが、このバンドのユニークなところ。

 本作『In Name And Blood』では、前作以上にオルガンが大胆にフィーチャーされています。

 アルバム1曲目「Press Gang」のイントロから、オルガンの浮遊感のあるサウンドが鳴り響き、その上にざらついた歪みのギター、シャウト気味のボーカル、立体的なリズム隊が重なっていく展開。

 オルガンを除けば、ガレージ色の濃いサウンド・プロダクションとアンサンブルなんですけれども、オルガンの音が加わることによって、一気にサイケな色をまとっています。

 モノクロの画像に、カラフルなマーブル状の色づけがなされるとでも、言ったらいいでしょうか。

 2曲目「I Drink The Wine」は、イントロから前のめりに疾走するガレージロック。なのですが、猪突猛進なバンドのアンサンブルを、やわらかく中和するかのように、オルガンのロングトーンが並走します。

 5曲目「Rum To Whiskey」は、オルガンも含めて、バンドが立体的に躍動する1曲。テンポはミドルテンポで、スピード感や荒々しさを重視した演奏ではないのですが、各楽器が有機的に絡まり、アンサンブルを構成。その中で、サウンド的にもリズム的にも隙間を埋めるように、オルガンがアクセントとなっています。

 前述のとおり、アルバム全体を通して、根底にあるのはガレージロック。バンドの演奏も、まずガレージロック的なアンサンブルがあり、その完成形に被せるように、オルガンが用いられています。

 しかしながら、両者が分離しているかと言えば、まったく逆。自然なバランスで、ガレージの荒々しさと、サイケな雰囲気が共存しており、このバランス感覚こそが、マーダー・シティ・デヴィルズの最大の特徴であると言えるでしょう。

 本作のあと、2001年にEP『Thelema』をリリース。その年のツアー中に、キーボーディストのレスリー・ハーディ(Leslie Hardy)が脱退し、バンドは解散します。

 音楽的にオルガンが、重要な要素をしめていますから、ハーディの脱退によって、解散もやむなしだったのでしょう。

 しかし2006年に再結成し、2014年には本作から14年ぶりとなる4thスタジオ・アルバム『The White Ghost Has Blood on Its Hands Again』をリリースしています。

 1960年代のガレージロックとサイケデリック・ロックを、90年代のオルタナティヴ・ロックの音像を持って、蘇らせたようなサウンド。

 でも、90年代前半のグランジ・オルタナのブームにも、2000年代のロックンロール・リヴァイヴァルにも乗り切れなかった、不運なバンドという一面もあるなと、個人的には思っています。

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