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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

The Murder City Devils “Empty Bottles, Broken Hearts” / ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ『エンプティ・ボトルズ・ブロークン・ ハーツ』


The Murder City Devils “Empty Bottles, Broken Hearts”

ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ 『エンプティ・ボトルズ・ブロークン・ ハーツ』
発売: 1998年9月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: Jack Endino (ジャック・エンディーノ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、ザ・マーダー・シティ・デヴィルズの2ndアルバム。

 1997年にリリースされたデビュー・アルバム『The Murder City Devils』は、ダイ・ヤング・ステイ・プリティー(Die Young Stay Pretty Records)というサブ・ポップのサブレーベルから発売。この2ndアルバムより、サブ・ポップ本体からのリリースとなっています。

 ダイ・ヤング・ステイ・プリティーというレーベルは全く知らなかったのですが、他にはネビューラ(Nebula)や、アフガン・ウィッグス(Afghan Whigs)の作品を、リリースしたことがあるようです。

 グランジ・ブームが過ぎ去り、ロックンロール・リヴァイヴァルも夜明け前の90年代後半。グランジのお膝元シアトルで、当時としては異彩を放つほどシンプルなロックンロールを鳴らしていた、ザ・マーダー・シティ・デヴィルスの2ndアルバム。

 古のガレージロックを彷彿とさせる音像に、グランジのざらつきが加わり、若干のモダンさもプラス。ただ、根底にあるのは、古き良きロックンロールやガレージロックであるのは間違いありません。

 3曲目「18 Wheels」や5曲目「Ready For More」におけるオルガンの音色、4曲目「Left Hand Right Hand」のトレモロで揺れるギターサウンド、9曲目「Johnny Thunders」のうねるギターのフレーズなど、サイケな空気も共存。

 1960年代のロックンロールやガレージロック、サイケデリック・ロックに、グランジ的な音圧をプラスしたバンドとも言えるでしょう。

 ただ、グランジ・ブームが去ったとはいえシアトルのバンド。さらにレーベルはサブ・ポップ、プロデューサーを務めるのは、グランジ界隈の多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノ。

 そのわりにはグランジ色が薄く、前述のとおり懐古趣味の強い音楽性を持っています。これもブームの強さゆえなのか、この時代は逆にグランジ的なアプローチを、みんな避けていたのかな、とも思いますね。

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音楽の聴き方入門 -音楽をあまり聴かない人のために-


目次
イントロダクション
音楽のどこを聴く?
サウンドの魅力
グルーヴ感
実際に聴いてみる

イントロダクション

 当サイトの目的は、USインディーロックの魅力を伝え、情報を提供すること。

 ただ、日本におけるUSインディーロックって、洋楽をそれなりに聴きこんでいる人が手を出す、マニアックな側面が少なからずあります。

 あまり音楽をマニアックに聴かない人にも、音楽の魅力を知ってもらいたいな。できればUSインディーロックの深い世界にも、足を踏み入れてもらいたいな。との思いから、入門的な内容の記事を執筆することにしました。

 この記事は、入門用記事のひとつめ。「音楽の聴き方」と題して、僕が考える聴き方のコツとか、ツボのようなものを書いたつもりです。

 いろいろなジャンルを聴く足がかりとなる、0を1にするような内容を目指して、執筆しました。

音楽のどこを聴く?

 突然ですが皆さんは、音楽のどこを聴いているでしょうか?

 いきなりそんなこと聞かれても困る。全体的に聴いてるから、どこもクソもない。というリアクションの方もいるでしょう。

 僕が伝えたいのは、音楽のどこに注目して聴くかによって、楽しみ方が広がるよ、ということなんです。

 音楽を作るのは、次の3要素だと言われます。リズム、メロディー、ハーモニー。

 音楽によっては、どこか一つの要素が強調されていたり、あるいはどれか一つの要素に注目して聴くことで、聴こえ方が変わってくることがあるんです。

 例えば、ゴスペラーズのようなコーラス・グループの楽曲は、ハモリが気持ちいいですよね。これはハーモニーが強調された音楽と言えます。

 また、テクノなどのダンス・ミュージックには、そもそも歌が入っていない、わかりやすいメロディーの無い楽曲が数多くあります。これはリズムが強調された音楽だということです。

 ヒットチャートの上位をしめる楽曲は、メロディー志向の音楽がほとんど。そのため多くの人が、普通はメロディーに耳を傾けて、音楽を聴いているんじゃないかと思います。

 もちろん、メロディーを中心にした聴き方が、間違っているわけじゃありませんよ。

 でも、メロディーありきで音楽を聴いていると、いわゆる歌メロとは違うヒップホップや、ボーカルの入らないジャズやテクノは「よくわからない難しい音楽」とも、なりかねません。

 また、歌の入ったロックやポップスを聴く場合にも、メロディーだけでなく、リズムの切り替えや、コード進行に注目することで、同じ楽曲なのに、それまでとは全く違って聴こえることがあります。

 パッと聴いて「よくわかんないから嫌い!」と拒絶するのではなく、どこか引っかかる部分を探し、自分の耳をチューニングする感覚で、音楽を聴いてみてください。

 きっと、少しずつ音楽の魅力が広がっていくはずです。

サウンドの魅力

 さて、ここまで取り上げてきたリズム、メロディー、ハーモニーの3要素。これらは、楽譜に書きあらわすことのできる情報です。音韻情報とも呼びます。

 しかし、音楽には五線譜というフォーマットに書くことが難しい情報もあります。それが音響情報。

 「音響情報」と、あらたまった言い方をすると、なんだか難しそうですが、簡単に言えばサウンド自体のこと。どのような音質、音色で鳴っているのか、ということです。

 例えばボーカルの声は、まさに音響情報。「エレカシの宮本さんの声が最高!」とか、「ももクロのあーりんの声が好き!」とか、そういう理由で特定の音楽が好きなことも、あるかと思います。

 3要素に並んで、サウンド自体も音楽の魅力のひとつということです。

 また、メロディー志向の音楽や、リズム志向の音楽があるように、音響を重視した音楽というものも存在します。

 ジャンルで言うと、ドローンメタルやエレクトロニカ、一部のポストロックなど。例えばドローンメタルでは、リズムやメロディーが存在せず、ただひたすらにギターの重厚な持続音が響きわたるアルバムがあります。

 こういう音楽も、心の準備ができていないと、まず楽しめないと思うんですよね。

 でも、僕自身もそうだったのですが、いろいろな音楽を聴いているうちに「この中音域が濃いギターの音かっこいいな」とか、「このシンセの柔らかな持続音きもちいい」とか、音響の気持ちよさや、自分好みのサウンドに気づくはず。

 そして、前述したドローンメタルやエレクトロニカなどを、サウンドに圧倒される音楽として、楽しめるようになっていきます。(そもそも好みじゃない、楽しめない人もいるとは思います…)

 なにもムリして聴くジャンルを広げる必要はないし、ノイズやアンビエントみたいな音楽を、全ての人が好むとも思わないんですけど、ひとつの参考になれば幸いです。

グルーヴ感

 続いて、グルーヴ感について。似たような言葉で、主にジャズの世界で使う「スウィング感」というのもあります。

 言葉で説明するのは難しいんですが、これは演奏の一体感のようなもの。

 「一体感」と書くと、楽譜どおりにピッタリ演奏することのようですが、そうではありません。各楽器がお互いに絡み合い、バンドがひとつの生き物のように、躍動することを言います。

 バンド全体のリズムの立体感とでも、言ったらいいでしょうか。個別のメロディーやリズムではなく、演奏を主体に聴く感覚です。

 同じテンポで演奏をしているのに、徐々に加速するように感じたり、楽器同士のリズムが重なり合うことで、バンドにしか生み出せない躍動感が生まれるんです。

 僕がグルーヴと聞いて、まず思い浮かぶのはレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)。1968年から1980年まで活動した、イギリス出身のロックバンドで、ギター、ベース、ドラムが絶妙なタイミングで組みあいます。興味を持ったら、ぜひライブ盤を聴いてみてください。

 ジャズにも「スウィング感」という言葉があると書きましたが、ジャズはまさしく演奏が前景化した音楽と言えます。

 もちろん人や作品によって異なりますけど、ゴリゴリに躍動していく演奏が、なにより楽しい音楽だと思います。

実際に聴いてみる

 では最後に、実際に曲を例にして、聴取のポイントをご紹介しましょう。取り上げるのは、チャットモンチーの「シャングリラ」です。

 この曲を選んだ理由は、まぁ僕がチャットモンチー大好きというのが一番なんですけど、ここまで紹介してきた要素を多く含み、情報量の多い楽曲だからです。

 バンドの公式YouTube Channelに公開されているミュージック・ビデオを、下に貼りました。

 まずメロディーを聴いてみても、ポップで親しみやすい楽曲ですよね。ただ、イントロから歌が入ってくるところで、「あれ、一拍足りない?」と思うんじゃないでしょうか。

 サビの頭を1拍分短くして、リスナーに揺さぶりをかけるようなアレンジです。

 次にリズムに注目して聴いてみましょう。イントロから「ドン、ドン、ドン、ドン…」と、バスドラが響いていますので、そのままドラムに注目して聴いていくイメージで。

 さらにベース、ギターが重なってくるので、今度は各楽器のリズムがどのように重なるか、聴いてみてください。ドラムの軽やかなリズムに、ベースが絡みつくように合わさり、その上にギターが乗ってくる。立体感や躍動感が、感じられると思います。

 それとギターのサウンド。ほどよく歪んでいるのに、「ジャーン」とコードを弾いても、各弦がちゃんと分離して聴こえる、独特の浮遊感のある音です。

 再生時間0:55あたりからは、バンドのグルーヴ感に注目して聴いてみましょう。タイトなドラムに、低音域を動きまわるベース。かろやかなギターが絶妙に絡み合い、サビに向かって、加速していきます。

 再生時間1:50あたりからの間奏でも、抜群のアンサンブルが披露されます。ドラムの飛び跳ねるようなリズムに、ベースとギターが絡みつき、それぞれやっていることは別々なのに、一体感と躍動感に溢れた演奏です。

 1曲を集中して聴いてみると、なんだか音楽のいろんな面に気がつきませんか?

 この曲に限らず、自分の耳のチューニングを変えるだけで、音楽をより広く、より深く、楽しめるようになるはずです。

 少なくとも、僕はそうやって音楽の守備範囲を広げてきました。

 この記事が、皆さんの音楽の楽しみ方を広げる、ヒントやきっかけになれば幸いです。

 

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カレッジ・ラジオ (カレッジラジオ, College Radio)


目次
用語の意味
USインディーにおけるカレッジラジオ
CMJ (College Media Journal)

用語の意味

 カレッジ・ラジオ(college radio)とは、大学のキャンパス内や学園都市に開設される、学生運営のFMラジオ局のこと。キャンパス・ラジオ(campus radio)とも呼ばれます。

 基本的には大学からの補助金により、非営利で運営。したがって、広告主の顔色をうかがう必要なく、自由な放送が可能なわけです。

 また、運営者も大学生なら、リスナーもまた大学生。言ってしまえば、両者とも学歴のある音楽好き。

 そのため、メジャーの音楽とは一線を画した、実験的であったり、知性的なインディーロックが放送されるようになります。

USインディーにおけるカレッジラジオ

 日本のおよそ25倍という、広大な国土を持つアメリカ。しかし、主要メディアに取り上げられ、全国的に知られるのは、メジャーレーベルと契約する、ひと握りのバンドのみです。

 パンク・ブームがひとつのきっかけとなって、1970年代後半から、全米各地でインディーズ・バンド、およびインディペンデント・レーベルが増加。

 メジャーレーベルのような広告手段を持たない彼らにとって、カレッジ・ラジオやファンジンは主要な広告手段だったのです。

 また、カレッジラジオを運営する学生側も、「メジャーな音楽はクソ!」と考えるような、コアな音楽マニアだったわけで、インディーズ・バンドとカレッジラジオが手を取り合い、各地でインディーロック・シーンが形成されていきます。

CMJ (College Media Journal)

 カレッジ・ラジオを語るうえで外せないのが、1978年に創刊された雑誌『カレッジ・メディア・ジャーナル』(College Media Journal)。1982年には『CMJニュー・ミュージック・レポート』(CMJ New Music Report)と改称する、通称CMJです。

 同誌は、各地に点在するカレッジラジオ局の放送曲を集計し、チャートとして発表。全国の大学生が好む音楽が、顕在化されることとなります。

 当然のことながら、メジャーのチャートとは全く異なる、CMJの発表するカレッジ・チャート。全国の若者が好むリアルなデータとして、80年代をとおして影響力が増していきます。

 やがて、カレッジラジオをきっかけに、全国的な人気を得るR.E.M.のようなバンドも誕生。

 アメリカ国内のバンドだけでなく、アイルランド出身のU2、イギリス出身のザ・キュアー(The Cure)やザ・スミス(The Smiths)なども、カレッジ・チャートを足がかりにアメリカ進出を果たします。

 カレッジラジオおよびカレッジチャートで人気のロックを指す、カレッジ・ロック(college rock)という言葉も生まれました。

 前述したとおり、あまりにも広大な国土を持つアメリカ。各地のインディーシーン形成を促し、非メジャー的な音楽を紹介・定着させるうえで、CMJは多大な貢献をしたと言っていいでしょう。





ファンジン (Fanzine)


目次
用語の意味
USインディーにおけるファンジン
主要なファンジン

用語の意味

 ファンジン(fanzine)とは、「ファン(fan)」と、マガジン(magazine)の「ジン」が、くっついてできた言葉。

 その名のとおり、ファンによって執筆・運営される、特定の話題に特化した雑誌のことです。基本的には、ノンプロフェッショナルかつ非公式。

 日本でもそのまま「ファンジン」と使いますが、より馴染みのある言葉を使うなら、ファンが作る一種の同人誌と言った方が、イメージしやすいでしょうか。

 音楽にのみ使う言葉ではなく、SF小説やテレビゲームなど、様々なジャンルのファンジンが存在します。

USインディーにおけるファンジン

 アメリカのインディーロック文化において、ファンジンは非常に大きな役割を担ってきました。

 大手のレコード会社やテレビ局とは違い、販売網や広告手段に乏しいインディーズ・レーベルおよびバンド。

 そのため、現在のようにインターネットが普及する前、ファンジンはカレッジラジオと並び、主要な広告手段だったのです。

 ファンジンからスタートし、その後レーベルへと発展した例もあります。ニルヴァーナを輩出したことで知られる、サブ・ポップもそのひとつ。

 また、日本で言えば『rockin’on』(ロッキング・オン)誌のように、同人誌としてスタートしながら、大きな雑誌へと発展する例もあります。

 1970年代後半あたりから、メジャーレーベルとは契約できない、あるいはそもそもメジャーを目指さない音楽の受け皿として、各地でインディーズ・レーベルの設立が増加。

 それと比例して、各地でジャンルや地域性に特化したファンジンが誕生します。

 やがて、インターネットをはじめとした通信網の発達により、徐々にファンジンが担った役割はウェブサイトへと移行しますが、初期のインディーロック文化醸成を助けたことは間違いありません。

主要なファンジン

 時間軸に沿って、いくつかのファンジンをご紹介しましょう。

 まず、パンクのファンジンとして、共にロサンゼルスで1977年に創刊された、スラッシュ(Slash)フリップサイド(Flipside)。前者は1980年、後者は2000年まで、発行を続けました。

 のちにリサーチ(RE/Search)へと発展する、サーチ&デストロイ(Search & Destroy)がサンフランシスコで創刊したのも1977年。

 1982年に、同じくサンフランシスコで始まったマキシマムロックンロール(Maximumrocknroll)も、パンクとハードコアに特化したファンジンです。

 オハイオ州クリーヴランドを拠点にするオルタナティヴ・プレス(Alternative Press)は、1985年に創刊。

 パンクのファンジンとしてスタートした同誌ですが、90年代に入ると、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)や、サウンドガーデン(Soundgarden)を、世界的なブレイクに先駆けて表紙に起用。雑誌として大きく飛躍します。

 パンク・プラネット(Punk Planet)は、イリノイ州シカゴで1994年に創刊。その名のとおり、主に扱うのはパンクですが、時としてフェミニズムや労働問題も扱うなど、批評精神に満ちたファンジンです。





Khruangbin “Con Todo El Mundo” / クルアンビン『コン・トード・エル・ムンド』


Khruangbin “Con Todo El Mundo”

クルアンビン 『コン・トード・エル・ムンド』
発売: 2018年1月26日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)
プロデューサー: Steve Christensen (スティーヴ・クリステンセン)

 テキサス州ヒューストン出身の3ピース・バンド、クルアンビンの2ndアルバム。

 メンバーは、アフリカ系アメリカ人のドラマー、ドナルド”DJ”ジョンソン(Donald “DJ” Johnson)、ギタリストのマーク・スピアー(Mark Speer)、そして紅一点のベーシスト、ローラ・リー(Laura Lee)。

 メンバー構成からして多様性を感じさせますけど、彼らの音楽はそれ以上に個性的。

 ジョンソンとスピアーは教会のゴスペル・バンドで出会い、スピアーとリーが友人となるきっかけになったのは、共にアフガニスタンの音楽を愛好していたこと。

 また、1960年代のタイ・ファンクからも影響を受けており、バンド名の「Khruangbin」とは、タイ語で「空飛ぶエンジン(flying engine)」の意味。

 イギリス出身のミュージシャンでありプロデューサー、ボノボ(Bonobo)に見出され、同氏が監修するコンピレーション・アルバム『Late Night Tales』に楽曲が収録。

 同コンピ・シリーズをリリースするレーベル、Night Time Storiesより、1stアルバム『The Universe Smiles Upon You』をリリースしています。

 クルアンビンの奏でる音楽は、オーガニックなサウンドを持ち、リラクシングでありながら、ゆるやかな躍動感も共存。

 前述のとおり、多様な音楽要素が内包され、エキゾチックな空気と、ゆるゆるのグルーヴ感を併せ持った演奏を展開します。

 僕はタイのファンクにも、アフガニスタンの音楽にも詳しくないので、理論的なことは語れませんが、ギターの音の動き方は、あきらかに一般的なロックとは異質。

 多様な音楽要素を取りこんだ、メロディーとリズムの構造以上に僕が魅力的だと思うのは、このバンドが持つ独特のグルーヴ感。

 世界中のさまざまな音楽が、3ピースのコンパクトなアンサンブルの中におさめられ、揺らぎのある緩やかなグルーヴが、通奏低音のようにアルバムを支配しています。

 1曲目の「Cómo Me Quieres」は、音数の少ない隙間の多いアンサンブルながら、ファンクに通ずる糸を引くようなグルーヴ感が徐々に増加。「ファンクに通ずる」と書いたのは、いわゆるファンク・ミュージックと全く同じではないからです。ゆるやかに躍動するアンサンブルの中で、ギターは滑らかにすべっていくように、フレーズを紡いでいきます。

 2曲目「Lady And Man」は、立体的かつ軽やかに揺れるアンサンブルと、ところどころで挟まれる民俗音楽的なチャントが印象的な1曲。

 3曲目「Maria También」では、ギターがはずむようなフレーズで、イントロからバンドを先導。ベースとドラムもタイトにリズムを刻み、躍動感に溢れたアンサンブルが展開。

 7曲目「Evan Finds The Third Room」は、本作のなかで最もファンク色の濃い1曲。加速感のあるタイトなアンサンブルが展開します。ただ、めちゃくちゃファンキーなディスコ調の演奏というわけではなくて、このバンド特有の緩さがあり、落ちついて聴ける演奏。

 10曲目「Friday Morning」は、スローテンポで始まりながら、随所でテンポを切り替え、メロウなパートと躍動的なパートのコントラストが鮮やか。テンポを切り替えると言っても、わかりやすく静と動を演出するというわけではなく、リズムが伸縮するように、自然な変化。

 アルバム全体をとおして、ゴリゴリにグルーヴするわけではないのですが、確かな実体感をともなった演奏が展開します。一聴すると緩やかなのですが、音楽の根底にはバンドの躍動感が感じられるのです。

 様々な音楽を取り込み、ファンクやサイケデリックな要素もあり、ゆるやかなのに確固としたグルーヴが存在する。絶妙なバランスを持った1作です。

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