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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

Black Eyes “Cough” / ブラック・アイズ『コフ』


Black Eyes “Cough”

ブラック・アイズ 『コフ』
発売: 2004年6月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)

 ワシントンD.C.出身のバンド、ブラック・アイズの2ndアルバム。本作がリリースされる前にバンドは解散し、結果的に本作がブラック・アイズの最後のアルバムとなります。

 アヴァンギャルドでジャンクなサウンドを持ちつつ、ロック的なダイナミズムと疾走感も併せ持った1stに続く今作は、前作の実験性を引き継ぎ、さらに音楽性を広げた1作と言えます。ノイジーで飛び道具的なサウンドを多分に含んでいますが、テンションで突っ切るのではなく、前作と比較してアレンジの多様性が増しているのが今作です。

 単純化を承知で言語化するなら、ハイテンションでジャンクなロックを展開していた前作に対して、アヴァンギャルドでアート・ロック色の濃い今作、といったところでしょうか。また、サックスが多用され、音楽の構造の面でも、サウンドの面でも、ジャズ色も強まっています。

 1曲目「Cough, Cough」は、音数を絞り、テンポもゆったり。ノイジーなギターからはジャンクな香りが漂いつつ、音響系ポストロックのようなサウンドの1曲。

 2曲目「Eternal Life」は、イントロからフリーでアヴァンギャルドな空気が充満した、疾走感あふれる1曲。サックスが用いられていることで、ノーウェイヴのようなアングラ臭も漂います。

 3曲目「False Positive」は、前のめり気味のリズムと、たたみかけるようなボーカルが疾走する、ジャンクでガレージなロック・チューン。ドラムのリズムからは、トライバルな雰囲気も漂います。

 4曲目「Drums」は、様々な音が、時に飛び交うように、時に浮遊するように、場を埋め尽くしていく1曲。ドラムには深くエコーがかけられ、ダブのような音像。

 5曲目「Scrapes And Scratches」は、イントロから縦を揃えた小刻みなリズムに乗って、タイトなアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Fathers Of Daughters」は、無理やり押しつぶしたような歪みのギターと、フリーキーなサックスが暴れまわり、立体的なリズム隊が全体を引き締める、実験性とロック的なかっこよさが高次に同居した1曲。

 7曲目「Holy Of Holies」は、四方八方から音が飛んでくる、フリージャズのような雰囲気のイントロから始まり、騒がしくも立体的なアンサンブルが繰り広げられる1曲。ジャンクでノイジーですが、同時にフリーなかっこよさも備えています。

 8曲目「Commencement」は、サックスとギターが不協和に重なるイントロから、多層的に音が重なっていく1曲。アヴァンギャルドな空気を多分に持った曲ですが、この曲に関しては縦のリズムは比較的合っており、リズムやサウンドよりもハーモニーの点でアヴァンギャルドな1曲です。

 9曲目「Spring Into Winter」は、バウンドするように軽快に進行していく、コンパクトにまとまったジャンク・ロック。ボーカルと絡み合うように旋律を紡ぎ出すサックスがアクセント。

 10曲目「Another Country」は、2分ほどの短い1曲ですが、実験性と疾走感、グルーヴ感が凝縮されて詰め込まれた1曲。

 11曲目「A Meditation」は、タイトルのとおり瞑想的で、音響が前景化したイントロから始まる1曲。アンビエントなサウンドと、立体的なドラムが溶け合う前半から、ボーカルが入り、アングラ臭あふれるノイズ・ロックが展開される後半へ。

 前作から引き続き、ジャンクでアヴァンギャルドな要素を多分に持ちながら、ポップ・ソングとしてもギリギリ成立している音楽を構築するブラック・アイズ。2作目となる本作では、前作の音楽性を引き継ぎつつ、サックスの大々的な導入により、よりアート性の増したアヴァンギャルドなポップを奏でています。

 前述したとおり、本作を含め2枚のアルバムを残して解散してしまうブラック・アイズですが、両作ともに実験性とポップさのバランスが絶妙な、アヴァンギャルド・ポップとでも言うべき音楽を奏でています。他に似ているバンドも少なく、完成度の高い音楽を作っていたバンドなので、気になった方には是非とも聴いていただきたいです。

 





Black Eyes “Black Eyes” / ブラック・アイズ『ブラック・アイズ』


Black Eyes “Black Eyes”

ブラック・アイズ 『ブラック・アイズ』
発売: 2003年4月15日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 ワシントンD.C.出身のバンド、ブラック・アイズの1stアルバム。地元ワシントンD.C.を代表するレーベル、ディスコードからのリリースで、レコーディング・エンジニアをドン・ジエンターラ(Don Zientara)、プロデューサーをイアン・マッケイ(Ian MacKaye)が担当。

 変則的な5人編成のバンドで、ツイン・ドラム、ツイン・ベース、ギターを基本としながら、メンバーは曲によって別の楽器もこなしていきます。そんな変則的な編成の5人組によって、ジャンクでアヴァンギャルドな音楽が繰り広げられるアルバム。

 ノイジーなギターを中心に据えたジャンク・ロックあり、フリージャズを彷彿とさせるニューヨーク的なアングラ臭もあり、ハードコア直系の絶叫ボーカルありと、アヴァンギャルドであるのは事実ですが、非常に多彩な音楽性を持った作品です。

 また、実験性が高い音楽を志向しているのに、同時にコンパクトなロック・チューンとしても成り立つポップさを併せ持っているのが、このバンドの音楽性の優れた点です。

 1曲目「Someone Has His Fingers Broken」は、2台のドラムがポリリズミックに絡み合い、ギターはフリーで耳障りなフレーズを繰り出す、アヴァンギャルドな1曲。ですが、敷居が高い難しい音楽というわけではなく、ボーカルも入り、歌モノとしても成立しているのが凄い。

 2曲目「A Pack Of Wolves」は、ギターの奇妙な音色とフレーズに導かれ、各楽器が複雑に絡み合い、ブチギレ気味のボーカルも相まって、アングラ色の濃い1曲。

 3曲目「Yes, I Confess」は、イントロからメタリックな音色のドラムが鳴り響く、ジャンクな1曲。ノイジーなサウンドが絡み合う、実験性の高いアレンジですが、ベースとドラムのリズム隊はダイナミックで、ロック的なかっこよさに溢れています。

 4曲目「On The Sacred Side」は、手数を絞り、立体的かつパワフルなアンサンブルが展開される1曲。

 5曲目「Nine」は、ビートがはっきりしており、疾走感のある曲。ジャンクでノイジーなロック。

 6曲目「Speaking In Tongues」は、ボーカルも含め、各楽器が有機的に絡まり、立体的なアンサンブルが構成される1曲。サウンドにも臨場感があり、一般的なロックが持つかっこよさを多分に持っています。とはいえ、メロディアスとは言えないボーカルや、飛び道具のようなファニーな音色など、アヴァンギャルドな空気も共存。

 7曲目「Deformative」は、乾いたドラムの音色と、高音域が耳障りなギターが絡み合う、グルーヴ感と疾走感あふれる曲。

 8曲目「King’s Dominion」は、タイトなリズム隊の上にフリーなボーカルが乗る、ヒップホップ的な構造を持った1曲。ボーカルはラップを意識しているのは間違いないのですが、一般的なラップ・ミュージックよりもジャンクでノイジー、アヴァンギャルドな空気を持っています。

 9曲目「Day Turns Night」は、多様なノイズが飛び交う中、絶叫系のボーカルが絡み合う、アヴァンギャルドな空気が充満した1曲。

 10曲目「Letter To Raoul Peck」は、各楽器が折り重なりながら、躍動感を持って前進していくアンサンブルが特徴の1曲。随所に散りばめられたノイズ的なサウンドもアクセントになっています。

 アレンジは実験性が高く、サウンド・プロダクションもジャンクでノイジー。しかし、歌モノのポップ・ミュージックとしても成立していて、アルバム全体を通してカラフルな印象すらあります。

 テンションの高い絶叫系のボーカルは、決してメロディアスとは言えないものの、ただのノイズでもなく、疾走感とハイ・テンションを演出。全体としてはアヴァンギャルドではあるのですが、ロック的なグルーヴと疾走感も併せ持っています。

 冒頭でも書きましたが、このバランス感覚が、このバンドおよびアルバムの特異な点であり、魅力であると言えるでしょう。

 





Okkervil River “Black Sheep Boy” / オッカーヴィル・リヴァー『ブラック・シープ・ボーイ』


Okkervil River “Black Sheep Boy”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ブラック・シープ・ボーイ』
発売: 2005年4月5日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの3rdアルバム。アルバムのタイトル『Black Sheep Boy』は、60年代に活躍し、1980年に亡くなったフォーク・シンガー、ティム・ハーディン(Tim Hardin)の楽曲「Black Sheep Boy」にインスパイアされたとのこと。

 1stと2ndでは、フォークやカントリーを下敷きに、オルタナティヴな音色とアレンジを散りばめたインディーロックを展開していたオッカーヴィル・リヴァー。3作目となる本作は、前2作の音楽性を基本としながら、やや実験性と疾走感が増し、サウンドもソリッドになっています。特に、比率は多くはありませんが、効果的に挿入される歪んだエレキ・ギターの響きが、アルバム全体にハードな印象をもたらしています。

 ボーカリゼーションも、ここまでの3作の中で比較すると、最も感情豊かで、アグレッシヴな面も際立っています。フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)が書く歌詞も、このバンドの大きな魅力のひとつですが、サウンド面だけでなく歌詞の面でも、今まで最もダーティーで激しい要素のあるアルバムと言えます。

 1曲目「Black Sheep Boy」は、アコースティック・ギターとボーカルのみの穏やかでミニマルな雰囲気で始まり、徐々に楽器が増え、緩やかなアンサンブルが展開される1曲。1分20秒ほどのイントロダクション的な役割の曲で、再生時間1分過ぎからは、電子的な持続音が鳴るエレクトロニカのような音像へ。カントリー色の濃い前半から、エレクトロニカ色の濃い後半へと自然に繋がり、このアルバムとバンドの音楽性を端的に示した1曲と言えます。

 2曲目「For Real」は、感情を抑えたボーカルとアコースティック・ギターを中心にした静かなイントロから始まりますが、歪んがエレキ・ギターが鋭く切り込んでくる、オルタナティヴな雰囲気の1曲。ハードなギターの音色と比例して、ボーカルも静かなささやき系の歌唱と、エモーショナルな歌唱を使い分けています。再生時間1:37あたりからの間奏の空間系エフェクターを用いたサウンドや、再生時間3:25あたりからのギターソロも、オリタナティヴな空気をさらに演出。

 3曲目「In A Radio Song」は、フィールド・レコーディングらしき音と、穏やかなボーカルとアコースティック・ギターのアレンジが溶け合う、カントリーと音響系ポストロックが融合した1曲。

 4曲目「Black」は、ビートがはっきりしていて、タイトで疾走感のある1曲。ヴァースからコーラスへの盛り上がりも鮮やかで、メリハリの効いたアンサンブルが展開されます。

 6曲目「A King And A Queen」は、アコースティック・ギターと中心にした牧歌的な1曲ながら、ストリングスとトランペットが壮大さ、キーボードの音色が多彩さを加え、カントリーの単なる焼き直しではない、モダンな雰囲気を併せ持った曲。

 10曲目「So Come Back, I Am Waiting」は、8分を超える大曲。アルバムのタイトルにもなっている「black sheep boy」が歌詞に登場し、スロー・テンポに乗せて、コントラストの鮮やかな、壮大なアンサンブルが展開される1曲です。

 11曲目「A Glow」は、静かなボーカル、空間系エフェクターの深くかかったギター、ストリングスがゆったりしたテンポの中で溶け合う、穏やかな音響系の1曲。

 過去2作と比較して、最もオルタナティヴ性が強く出たアルバムであると言えます。これまでどおり、フォークやカントリーの香りも漂うのですが、それ以上に激しく歪んだエレキ・ギターに代表される、オルタナティヴな要素が色濃く出ています。

 また、柔らかな電子音やフィールド・レコーディングを用いて、エレクトロニカのような音響的アプローチを見せる部分もあり、音楽性のさらなる拡大を感じるアルバムでもあります。

 





Okkervil River “Down The River Of Golden Dreams” / オッカーヴィル・リヴァー『ダウン・ザ・リヴァー・オブ・ゴールデン・ドリームズ』


Okkervil River “Down The River Of Golden Dreams”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ダウン・ザ・リヴァー・オブ・ゴールデン・ドリームズ』
発売: 2003年9月2日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの2ndアルバム。

 1stアルバム『Don’t Fall In Love With Everyone You See』に引き続き、フォーキーなサウンドを下敷きにしながら、現代的にコンパクトにまとまったインディーロックを聴かせる作品です。

 ルーツ・ミュージック色の強かった前作と比較して、2作目となる本作の方が、鍵盤やギターの使い方にアヴァンギャルドな要素が増え、インディーロック色がより濃く出た作品と言えます。

 1曲目「Down The River Of Golden Dreams」は、1分ちょっとのイントロダクション的な1曲で、浮遊感のあるピアノが幻想的な雰囲気を演出します。

 2曲目「It Ends With A Fall」は、ゆったりしたテンポの穏やかな曲ですが、オルガンの音色と使い方が、オルタナティヴな空気をプラス。

 5曲目「The War Criminal Rises And Speaks」は、ピアノを中心にした立体的な音像を持った1曲。手数は少ないながら、絶妙にタメを作ってリズムをキープするドラムも、アンサンブルに奥行きを与えています。

 6曲目「The Velocity Of Saul At The Time Of His Conversion」は、アコースティック・ギターのオーガニックな響きを中心に、多様な音が絡み合うアンサンブルが展開される1曲。奥の方で鳴る電子音のようなサウンドが、カントリーにとどまらない現代的な空気を加えています。

 9曲目「Song About A Star」は、イントロのドラムの音を筆頭に、生楽器が臨場感あふれる音質でレコーディングされた1曲。多くの楽器が多層的に重なり、生き物のように心地よく躍動します。

 11曲目「Seas Too Far To Reach」は、ピアノを中心にしたミドル・テンポの1曲。イントロからしばらくはボーカルとピアノのみの、シンプルなピアノ・バラードのようなアレンジですが、再生時間0:35あたりで他の楽器が入ってくると、カントリー色の濃い緩やかなスウィング感のあるアンサンブルが展開されます。

 アコースティック・ギターを主軸にした楽曲が多く、前作に引き続きファーキーなサウンドを持ったアルバムではありますが、随所に挿入されるオルガンやストリングスが、ファークやカントリーの範疇だけにおさまらないモダンな空気を醸し出します。

 しかし、オルタナ・カントリーと言うほどオルタナ色が濃いわけでも、予定調和的にアヴァンギャルドなアレンジを加えているわけでもなく、ルーツへのリスペクトを示しながら、自分たちのセンスでまとめ上げた音楽であるという印象を持ちました。歌を大切にしているというところも、このバンドおよびアルバムの特徴であると言えるでしょう。

 本作は、現在のところSpotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは配信されていないようです。





Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See” / オッカーヴィル・リヴァー『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』


Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』
発売: 2002年1月22日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの2002年に発売された1stアルバム。本作以前には、1998年から1999年にかけて、2枚のEPと1枚のシングルをリリースしています。

 フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)による、物語性の高い歌詞が特徴のひとつに挙げられるオッカーヴィル・リヴァー。本作でも、5曲目の「Westfall」は彼らの地元オースティンで起こった、連続殺人事件(Yogurt Shop Murders)から着想を得るなど、ストーリーテラーとしての才能をすでに示しています。

 音楽的には、フォークやカントリーを思わせるオーガニックなサウンドを基調に、4人のメンバー以外にも多数のサポート・ミュージシャンが参加。多種多様な楽器を用いた、非常に幅の広いサウンドを響かせています。オッカーヴィル・リヴァーが奏でるのが、ルーツ・ミュージックへのリスペクトと、バンドのオリジナリティが、分離することなく融合し、文学的な歌詞世界も相まって、重層的で奥深いポップ・ミュージックです。

 1曲目「Red」は、アコースティック・ギターを中心にしたカントリー風の牧歌的な曲。淡々と吟遊詩人のように言葉を紡ぐボーカルも、ゆるやかなテンポと楽曲の雰囲気にマッチしています。

 2曲目「Kansas City」は、こちらもカントリー風の穏やかな雰囲気の曲ですが、ハーモニカとストリングスが用いられ、柔らかで多層的なサウンドを作り上げます。後半はドラムを筆頭に、各楽器の音数が増え、ダイナミックなアンサンブルが展開。

 3曲目「Lady Liberty」では、2本のアコースティック・ギターによる厚みのあるコード・ストロークに、ホーンが重なり、生楽器によるオーガニックな音の壁を構成。小気味よくタイトにリズムを刻むドラムが、全体を引き締めています。

 4曲目「My Bad Days」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った、ミニマルでストイックなアンサンブルが展開される1曲。感情を抑えたように歌うボーカルと、1音の重みが相対的に増すアレンジは、スロウコアを彷彿とさせます。

 5曲目「Westfall」は、前述のとおりオースティンで起こった事件をあつかった曲。ウィル・シェフによる事件の回想に起因する歌詞とのことですが、アコースティック・ギターを中心に据えたスローテンポの曲に乗せて、犯人の視点から淡々と語られます。音楽的にはカントリー要素の方が色濃く出ていますが、語りの手法はブルースに近い1曲です。

 6曲目「Happy Hearts」には、ダニエル・ジョンストン(Daniel Dale Johnston)がゲスト・ボーカルとして参加。彼の穏やかで、どこかとぼけたボーカルに呼応するように、ドラムとアコースティック・ギターからもリラクシングな空気が漂い、途中から入ってくるキーボートと思しき電子音も、キュートでアヴァンギャルドな雰囲気をプラス。

 7曲目「Dead Dog Song」は、バンジョーが曲を先導するブルーグラス的な疾走感の溢れる1曲。

 8曲目「Listening To Otis Redding At Home During Christmas」は、アコースティック・ギターとボーカルの音数を絞った前半から、徐々に音数が増え、ストリングスも加わり、厚みのあるサウンドが立ち現れる後半へと展開する1曲。

 9曲目「Okkervil River Song」は、アコーディオンの倍音豊かな音色、バンジョーのハリのあるサウンドなどが溶け合い、立体的で躍動感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 全体として、牧歌的でカントリー色の濃いアルバムですが、意外性のあるアレンジや電子音が、随所に効果的に散りばめられ、現代的な雰囲気も併せ持っています。1stアルバムから、非常に高い完成度の作品。

 また、前述したとおり、ウィル・シェフの書く文学的な歌詞も、このバンドの魅力のひとつ。彼の詞は散文的なので、英語が苦手な方でも、単語の意味を確認しながら読めば、魅力を感じやすいのではないかと思います。

 現在のところSpotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは配信されていないようです。