jonny のすべての投稿

 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

Xiu Xiu “Dear God, I Hate Myself” / シュシュ『ディア・ゴッド、アイ・ヘイト・マイセルフ』


Xiu Xiu “Dear God, I Hate Myself”

シュシュ 『ディア・ゴッド、アイ・ヘイト・マイセルフ』
発売: 2010年2月23日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Greg Saunier (グレッグ・ソーアー)

 ジェイミー・スチュワート(Jamie Stewart)を中心に、カリフォルニア州サンノゼで結成されたバンド、シュシュの7枚目のスタジオ・アルバム。ジェイミー・スチュワート以外のメンバーは流動的で、彼のソロ・プロジェクト色の濃いバンドです。

 シンセや電子ドラムの音が前面に出たサウンド・プロダクションと、官能的で古き良きポップスターを彷彿とさせるボーカルは、キラキラとしたニューウェーヴの香りを振りまきます。しかし、時にはノイズ、時には実験的なアレンジを織り交ぜ、聴き応えも抜群。アヴァンギャルドとポップのバランスが絶妙なアルバムです。

 2曲目の「Chocolate Makes You Happy」は、イントロから電子的なノイズが飛び交い、アヴァンギャルドな空気。しかし、ボーカルは情緒的で雰囲気たっぷり。グルーヴ感もあり、実験性とポップさのバランスが抜群。

 3曲目「Apple For A Brain」はクラシックなテレビゲーム機を連想させるピコピコ系のサウンドが、壮大なアンサンブルを構成する1曲。感情を抑えつつリリカルなボーカルも、違和感なく同居。

 7曲目「Secret Motel」は、電子的なサウンドが飛び交うなかを、感傷的なボーカルがメロディーを紡ぎます。双方がぶつかりそうに思われるのに、心地よく隙間を埋め合う絶妙なバランス。再生時間1:39あたりからの電子音によるソロも、カラフルかつカオティック。

 電子音を中心に据え、アヴァンギャルドな空気も振りまきながら、上質のポップスと成り立っているアルバム。実験的になりすぎず、甘ったるくもなりすぎないバランスが絶妙。

 前作『Women as Lovers』は、もう少しソリッドな音像を持ったバンド色の強いアルバムでしたが、それと比較すると本作『Dear God, I Hate Myself』の方がシンセ・ポップ色の強いサウンド・プロダクションです。

 ただ、いずれのアルバムも実験性とポップ性のバランスが絶妙で、USインディーを聴いているとたびたび出会う、こういうポップ職人って、本当に凄いと思います。

 





Xiu Xiu “Women As Lovers” / シュシュ『ウィメン・アズ・ラヴァーズ』


Xiu Xiu “Women As Lovers”

シュシュ 『ウィメン・アズ・ラヴァーズ』
発売: 2008年1月29日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)

 カリフォルニア州サンノゼで結成されたバンド、シュシュの6枚目のスタジオ・アルバム。ジェイミー・スチュワート(Jamie Stewart)以外のメンバーは不定形で、実質的に彼のソロ・プロジェクトのようなグループです。

 シュシュの作品はどれもそうなのですが、アヴァンギャルドな実験性と、カラフルなポップ性のバランスが絶妙なアルバム。カリスマ性のあるセクシーかつ演劇じみた歌唱のボーカルも、多彩なイメージをプラスしていると思います。

 次作『Dear God, I Hate Myself』を筆頭に、シュシュの作品はエレクトロニックな響きが前面に出て、シンセポップ色が濃いものが多いのですが、それと比較すると、本作では電子音も織り交ぜながら、ソリッドなバンド・サウンドが響きわたります。

 前述したとおり、実験性とポップ性の絶妙なバランスが、このバンドおよびジェイミー・スチュワートの魅力ですが、本作も随所に奇妙なサウンドやアレンジが散りばめられつつ、ポップスとしても成立させたアルバムです。特にサックスのフリーなフレーズがアクセントになっています。

 3曲目「F.T.W.」は、前半はアコースティック・ギターを使用したポップなサウンド・プロダクションながら、再生時間1:25あたりからは電子ノイズが飛び交い、その後は穏やかな空気が戻ってくるコントラストが鮮烈な1曲。

 6曲目「Under Pressure」には、スワンズのマイケル・ジラがゲスト・ボーカルとして参加。この曲ではサックスも活躍し、後半はフリージャズのような雰囲気です。

 シンセの音や、電子ノイズ、フリーなサックスを効果的に使いながら、バンドのグルーヴ感や躍動感にも溢れたアルバムです。

 違和感をフックに転化させながら、極上のポップスを響かせるジェイミー・スチュワートのバランス感覚は、本当に優れていると思います。ボーカリストとしても、どこか古き良きポップ・スターを彷彿とさせる雰囲気。

 「ポップ職人」と呼ぶと軽すぎる、しかし「鬼才」と呼ぶほど近づきがたい雰囲気でもない、ジェイミー・スチュワートはそんなバランスの人だと思います。

 





Erase Errata “Night Life” / エラス・エラッタ『ナイト・ライフ』


Erase Errata “Night Life”

エラス・エラッタ (イレース・イラータ) 『ナイト・ライフ』
発売: 2006年7月25日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Chris Woodhouse (クリス・ウッドハウス), Eli Crews (イーライ・クルーズ)

 カリフォルニア州サンフランシスコで結成されたバンド、エラス・エラッタの3rdアルバム。タイトルは「Nightlife」と区切りなく表記されていることもありますが、各種サイトでは「Night Life」の表記が多いようです。

 ジャンル分けが非常に難しいバンドで、ポスト・パンクと言われることもあれば、ノイズ・ロックやエクスペリメンタル・ロックと言われることもあります。

 3枚目となる本作は、マスロックのような複雑なリズムとアンサンブルを持ちながら、歌のある作品としても成立しているアルバムです。全体のサウンド・プロダクションは硬質で、特にギターは鋭く、ドラムにも臨場感があります。

 そんな切れ味抜群のサウンドで、実験性のあるアンサンブルを繰り広げ、ボーカルはエモーションが噴出するように歌います。実験性とロック的なダイナミズムが、高次に融合した作品であると思います。

 1曲目の「Cruising」は、立体的なドラムに、極度に圧縮されたようなサウンドのギターと、ボーカルが絡み合う1曲。サウンド的にもアンサンブルにも、複雑で奇妙な耳ざわりを持っていますが、ボーカルはほどよい軽さを持ち、全体としてはカラフルな印象に仕上がっています。

 4曲目の「Take You」は、叩きつけるような躍動感あふれるドラムに、切れ味鋭いギター、丸みのあるベースがアンサンブルを構成する1曲。ベースの音とフレーズがかわいらしく、全体のバランスを取っています。

 実験的なアレンジと、ノイジーなサウンドを多分に含んではいるのですが、ボーカルや各楽器のちょっとしたフレーズなどで、エッジが立ちすぎず、聴きやすいバランスのアルバムだと思います。

 前述したとおり、どんなジャンルにカテゴライズすべきか難しい作品ですが、マスロックの緻密さと複雑さ、ポスト・パンク的な若干のパーティー感のある歌唱が溶け合っていて、なかなかにかっこいいアルバムです。

 





Mates Of State “My Solo Project” / メイツ・オブ・ステイト『マイ・ソロ・プロジェクト』


Mates Of State “My Solo Project”

メイツ・オブ・ステイト 『マイ・ソロ・プロジェクト』
発売: 2000年6月15日
レーベル: Omnibus (オムニバス), Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カンザス州ローレンス出身の夫婦デュオ、メイツ・オブ・ステイトの1stアルバム。2000年にOmnibusというレーベルから発売され、その後2003年にPolyvinylから再発されました。メンバーは、ボーカルとキーボード担当のコリ・ガードナー(コリ・ハメル)と、ボーカルとドラム担当のジェイソン・ハメルの2人。

 ポップだけど、サウンドにはジャンクな雰囲気も併せ持ち、多彩なアンサンブルが展開されるアルバムです。いい意味でラフな部分を残したコーラスワークと、キーボードの音色が印象的。楽曲によって鍵盤を、ピアノであったり、シンセサイザーであったりと、巧みに音色を使い分け、作品に彩りをプラスしています。

 非常にポップなアルバムでもあるのですが、ロック的なグルーヴ感とラフな魅力も同居する、良作だと思います。

 2曲目の「Proofs」は、イントロから空間に滲んでいくようなキーボードの音色と、立体的で臨場感あふれるドラムのバランスが絶妙。その後のラフな雰囲気のコーラスワークも良い。その裏でフリーな雰囲気で弾いているキーボードも良いです。

 この曲は、徳島出身の日本のロックバンド、チャットモンチーがライブのオープニングSEに使用し、「夢みたいだ」というタイトルで日本語詞をつけカバーしたこともあります。(シングル『ハテナ/夢みたいだ』に収録)

 3曲目「What I Could Stand For」。この曲も、キーボードの暖かみのある音色が良いです。リズム隊とキーボードが機能的に絡み合うアンサンブルを構成し、その上にコーラスワークが乗ります。再生時間0:58あたりからのキーボードのフレーズと音色もアクセントになり、楽曲を多彩にしています。

 5曲目「Nice Things That Look Good」は、イントロから、どこかノスタルジックなサウンド・プロダクション。どこまでが生楽器で、どこまでが電子楽器なのか分かりませが、サウンドに統一感があります。歌が入ってきてから、奥の方で小刻みにリズムを刻むドラムも、邪魔をせず控えめにアンサンブルを引き締めています。

 6曲目「A Control Group」は、キーボードの音色がジャンクで、ドラムもパワフル。少し前のめりになるようなグルーヴ感もあり、ロック的なノリの良さがある1曲です。めちゃくちゃかっこいい!

 7曲目「Throw Down」。臨場感のあるドラムのサウンドと、高音域のキーボードのバランスが良く、印象的なイントロ。歌が入ってきてからは、随所にキーボードがフレーズを差し込んでくるのですが、それが全てフックになっています。

 8曲目「I Have Space」は、バンド全体が緩やかに躍動していく1曲。それぞれの楽器が少しずつ推進力を持ち寄るような、有機的で心地よいアンサンブル。再生時間1:17あたりからピアノだけになる部分など、1曲の中でのコントラストもあります。

 9曲目「Everyone Needs An Editor」は、倍音たっぷりのキーボードと、立体的に響くドラムが絡み合い、加速と減速を繰り返す緩急が鮮やかな1曲。

 10曲目「Tan/Black」。この曲もキーボードの音が太めで、倍音たっぷり。再生時間2:10あたりからのキーボードの、音程が狂ったようなアレンジも、アクセントになっていてかっこいいです。

 アルバム全体を通して、キーボードの音が曲によって効果的に選択されていて、楽器の数は少ないのに、多彩な印象を与えるアルバムです。

 少し隙があるというか、ラフな魅力を持ったボーカルとコーラスワークも、楽曲に奥行きをもたらしていると思います。ジャンクな雰囲気や実験性を、違和感なく溶け込ませるセンスも抜群。

 2ピース・バンドってたまにいますけど、このメイツ・オブ・ステイトも大好きです! 同じく2ピースのドードースや、2人体制のチャットモンチーも好きなので、僕は2ピースが好きなのかも。

 





6, USインディーロックの誕生


 このページでは、USインディーロックがどのように生まれたのか、おおまかな流れを把握できるよう、ご紹介したいと思います。

産業ロックとMTV

 1970年代以降、アメリカの音楽産業は拡大を続けます。しかし、レコードの価格上昇、テープ・コピーの増加、アメリカ社会全体の不況などを原因に、1978年を境にレコード生産が、マイナス成長の時期に入ります。(なんだか、最近の音楽業界の話みたいですね…)

 そのため、メジャー・レーベルの縮小やリストラも増加。リスクを伴う若手の発掘ではなく、手堅く売上を狙える中堅やベテランのリリースに、重きを置くようになります。

 そんな状況下で、1981年にMTVの放送が開始されます。MTVは、ミュージック・ビデオを中心に、音楽番組を24時間流し続ける、音楽専門のケーブルテレビ・チャンネルです。

 当時のテレビの影響力は今以上に絶大で、1980年代には多数のビッグ・ヒット、スーパー・スターが誕生します。マイケル・ジャクソンもその一人。1982年に発売された彼のアルバム『スリラー』は、1984年末までにアメリカ国内だけで約2000万枚を売り上げます。

 前述したようにレコード業界の不況により、1970年代後半から、ある程度の売り上げが期待できる、中堅以上のバンドに力を入れていた各メジャー・レーベル。言い換えれば、冒険をしない保守的なリリースが増加していきました。

 しかし、商業的には各レーベルの思惑通り、1970年代後半から数々のヒットを飛ばします。さらに1980年代以降は、MTVの流れに乗った、華やかでスタイリッシュなバンドも増加。ポップでキャッチー、ロック的な自意識が薄く、レコード会社の言いなりのようにも見えるこれらのバンドは、「産業ロック」(corporate rock)とも呼ばれるようになります。

インディーズ文化の特徴

 1970年代後半の不況を乗り越え、MTVや巨大なスタジアム・コンサートに例証されるように、アメリカの音楽産業は巨大化していきます。しかし、それは商業性を徹底させることにもなり、メジャー・レーベルは売れる音楽、それも中途半端なヒットではなく、メガ・ヒットを狙ったマーケティングに徹します。

 そんななか、メジャー的ではない音楽を志向するバンドが、全米各地で生まれ始めます。彼らは、音楽性と人気の面でメジャーとは契約を結べない、あるいは最初からメジャーで売れることを一義的には考えず、各地にインディペンデント・レーベルが生まれ、インディー・シーンが形成されていきます。

 アメリカでは1950年代にも、エルヴィスをデビューさせたサン・レコード、ブルースやR&Bを扱うチェス・レコードなど、各地でインディペンデント・レーベルが活躍していました。当時のインディペンデント・レーベルも、音楽的にメジャーの網にかからないアーティストのリリースが中心でした。

 また、シカゴ・ブルースを扱うチェス・レコード、ニューオーリンズのアーティストの発掘に積極的だったインペリアル・レコード、南部のブラックミュージックを好むサン・レコードといった具合に、当時からインディペンデント・レーベルは、音楽性や地域性と密接に結びついていました。

 これは、地元の音楽を紹介するために設立されることが多く、小規模なためメジャー・レーベルよりも設立者の意思を反映しやすい、インディペンデント・レーベルの特徴であり利点です。また、バンド自身が自分たちの作品をリリースするために、自らレーベルを立ち上げることもしばしばあります。

各地のインディー・シーンの誕生

 こうして、1970年代の後半から1980年代にかけて、全米各地でインディー・シーンが形成され、個性的で魅力的な音楽が多数生まれます。

 各地のインディー・シーン形成に大きく貢献したのが、音楽好きな個人やグループが発行するファンジン(ファンが作る同人誌)と、アメリカでは大学キャンパス内に開設され、学生主体で運営されるカレッジ・ラジオ局です。

 どうしてもレーベルやバンドにスポットライトが当たりがちですが、このようにコミュニティ単位で発展したのが、アメリカのインディー・シーンの特徴です。

 それぞれの街で、それぞれの文化と人々に密着したシーンが生まれる。その多様性とダイナミズムが、USインディーズの大きな魅力のひとつです。

 なぜ、この地域ではパンクが流行ったのか、なぜこの街のこのレーベルはオルタナ・カントリーに強いのか、なぜこんな小さな街から多数の魅力的なバンドが生まれるのか…そんなことを考えただけでも、ワクワクしてきませんか?

 まだまだ書きたいことは尽きず、各都市のシーンの歴史や特徴については、ここでは書き切れないので、また別記事に書きたいと思います。お読みいただきありがとうございました!

次のページ「7, ニューヨークの音楽史」へ