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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”/ ニュートラル・ミルク・ホテル『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』


Neutral Milk Hotel “In The Aeroplane Over The Sea”

ニュートラル・ミルク・ホテル 『イン・ザ・エアロプレーン・オーバー・ザ・シー』
発売: 1998年2月10日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Robert Schneider (ロバート・シュナイダー)

 フロントマンのジェフ・マンガム(Jeff Mangum)を中心に、ルイジアナ州ラストンで結成されたバンド、ニュートラル・ミルク・ホテルの2ndアルバムです。プロデューサーは前作に引き続き、ロバート・シュナイダー。

 前作『On Avery Island』は、エフェクトを深くかけたギターを多用し、ガレージやサイケデリックの香りを振りまきつつ、全体としてカラフルなインディー・ロックに仕上げたアルバムでした。

 2作目となる本作では、アコースティック・ギターの使用が増え、サウンド・プロダクションは格段にフォーキーに。バンジョーやアコーディオンも導入され、鳴らされる音楽もカントリーや民族音楽の要素が色濃くなったアルバムと言えます。

 そして、アヴァンギャルドな要素をポップに仕立てあげるセンスも健在。アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、ところどころアヴァンギャルドな音やアレンジが差し挟まれる1作です。ホーンも入って、スケールの大きさを感じさせるアルバムでもあります。

 2曲目の「The King Of Carrot Flowers Pts. Two & Three」は、牧歌的な雰囲気のイントロから始まり、再生時間0:48あたりから激しく歪んだエレキ・ギターが入ってくると、そこからガレージ風のロックへ。コントラストが鮮烈な1曲です。

 5曲目「The Fool」は、ホーンやアコーディオンな音色が多層的に重なる、民謡的な雰囲気を持った1曲。ボーカル無し、インストの曲ですが、インタールード的な役割で聞き流すのには、もったいないぐらいクオリティの高い曲だと思います。ジャンクな雰囲気と、民謡的な生楽器のサウンドが溶け合い「インディー民族音楽」とでも呼びたくようなバランス。

 6曲目「Holland, 1945」は、アコースティック・ギターと毛羽立った歪んだのエレキ・ギターが共に響く、疾走感のある1曲。アコギのオーガニックな響きと、エレキのガレージ的な歪みが溶け合い、このアルバムを象徴するようなサウンド・プロダクション。

 9曲目は「Ghost」。この曲もアコースティック・ギターのみずみずしいサウンドと、野太く歪んだファズ・サウンドのギターが、有機的にアンサンブルを構成。間奏ではホーンも効果的に使用されます。

 10曲目「Untitled」は、電子音から生楽器まで、ノイズ的なサウンドも含め、多種多様な音が飛び交う1曲。タイトル無しなのがもったいないほど、良い曲だと思います。

 フォークやカントリー、さらには民族音楽の要素を多分に含みながら、随所に激しく歪んだギターや、アヴァンギャルドなアレンジが散りばめられた1枚です。

 しかし、敷居が高い印象は全くなく、むしろルーツ・ミュージック色をいい意味で薄めて、モダンなインディー・ロックに仕上がっています。ニュートラル・ミルク・ホテルは、本当にこのセンスが抜群。

 ジャンクでローファイでサイケデリックな香りのする民族音楽、といった趣のアルバムです。

 





Lee Ranaldo “Between The Times And The Tides” / リー・ラナルド『ビトウィーン・ザ・タイムズ・アンド・ザ・タイズ』


Lee Ranaldo “Between The Times And The Tides”

リー・ラナルド 『ビトウィーン・ザ・タイムズ・アンド・ザ・タイズ』
発売: 2012年3月20日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ソニック・ユースでの活動でも知られるギタリスト、リー・ラナルドの9枚目のソロ・アルバム。ドラムはソニック・ユースで活動を共にしたスティーヴ・シェリーが務めています。

 さすがリー・ラナルド!と思わせる、ギターのサウンドを有機的に組み上げ、素晴らしいアンサンブルが展開される1作です。ノイズを効果的に用いたサウンドを期待する方には、少し物足りないかもしれませんが、緩やかなグルーヴ感があり、非常に聴きやすい作品であると思います。

 1曲目の「Waiting On A Dream」では、ギターのフレーズをリズム隊が追いかけ、お互いに追い越し合うような推進力を感じるアンサンブルが展開。テンポが速いわけではないのに、自然と足が前に進むような躍動感がある1曲です。

 2曲目「Off The Wall」は、イントロから各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成。まるでバンド全体が生き物のような、一体感があります。

 6曲目「Fire Island (Phases)」は、叩きつけるようにパワフルにリズムを刻むドラムの上を、ほどよく歪んだ複数のギターが乗る1曲。

 7曲目「Lost」は、複数のクリーントーンのギターが多層的なサウンドを作り上げ、タイトなリズム隊がそれを支える1曲。

 アルバム全体を通して、ギターという楽器の特性と魅力を知り尽くしている、と思えるほどギターの響き、アンサンブルが心地よい作品です。ギターの音色の選び方、アンサンブルの構成ともに、的確に作り上げられた1枚だと思います。

 リー・ラナルドはアルバムによって、かなり作風が異なり、時には前衛性が前面に出ている作品もありますが、本作は近年のソニック・ユースに近いサウンドを持っています。

 僕はソニック・ユースが大好きで、ノイズの洪水も大歓迎なのですが、ノイズ成分は控えめに、アンサンブルに重きを置いた本作も好きです。歌モノとしても聴けるポップさを持ち合わせたアルバムなので、多くの人におすすめできます。

 





Neutral Milk Hotel “On Avery Island” / ニュートラル・ミルク・ホテル『オン・アヴェリー・アイランド』


Neutral Milk Hotel “On Avery Island”

ニュートラル・ミルク・ホテル 『オン・アヴェリー・アイランド』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Robert Schneider (ロバート・シュナイダー)

 フロントマンのジェフ・マンガム(Jeff Mangum)を中心に、ルイジアナ州ラストンで結成されたバンド、ニュートラル・ミルク・ホテルの1stアルバムです。アメリカ国内ではMerge、イギリスではFire Recordsからのリリース。

 エフェクターを深くかけたギターの音色が、アルバム全体をジャンクかつサイケデリックな雰囲気で包む1作です。ギター以外にも、耳に引っかかる奇妙なサウンドが満載。しかし、アヴァンギャルな空気が前面に出るわけではなく、歌のメロディーは親しみやすく、ポップな音楽として成立しています。

 1曲目は「Song Against Sex」。イントロから早速、電子ノイズのような音が響きわたり、その後のギターもざらついた耳ざわり。楽曲的にはガレージ風味のあるシンプルなロックですが、ボーカルの声とメロディーは垢抜けていてポップな雰囲気をプラス。

 2曲目の「You’ve Passed」も、倍音たっぷりの歪んだギターが、ゆったりと空間を埋めていく1曲。ややテンポがゆったりな分、サイケデリックな空気が強まっています。

 5曲目「Marching Theme」は、イントロから多種多様なサウンドが飛び交う、カラフルな1曲。それぞれの音はノイズ的だったり、ファニーな効果音のようだったりするのに、全体としては楽しく鮮やかな空気を作り上げています。

 ラストの12曲目「Pree-Sisters Swallowing A Donkey’s Eye」は、13分を超える大曲です。ギターのフィードバックが響き渡る前半から、アンビエントな展開へ。歌が無く、アルバム中でもポップな部類の曲ではありません。しかし、このような音響的な曲を最後に持ってくるところに、彼らの音楽的な志向が垣間見えます。

 ノイズあり、カオスあり、かなり奇妙な音も含まれているのに、全体としては非常にポップで、上質のインディー・ロックと言っていいアルバムだと思います。また、1996年という時代性もあるかもしれませんが、全体のサウンド・プロダクションにはガレージのような、ややざらついた耳ざわりもあります。

 最後に収録されている「Pree-Sisters Swallowing A Donkey’s Eye」は、かなり実験的、ポストロック的(クラウトロック的と言ってもいいかもしれない)な曲ですが、そんな楽曲も含めて、多種多様な音とアレンジが、目いっぱい詰め込まれたアルバムです。

 





7, ニューヨークの音楽史


 このページでは、アメリカを代表する国際都市であり、音楽の中心地でもあるニューヨークの音楽の歴史を、簡潔に振り返りたいと思います。

ニューヨークの歴史

 ここまで順番にお読みいただいた方には、繰り返しになる部分もありますが、まずはニューヨーク(特にマンハッタン)の歴史をざっと振り返りましょう。

 ヨーロッパ人が移住してくる前、この地域にはレナペ族(デラウェア族)が暮らしていました。この地に、最初に植民地を建設したのはオランダ。

 マンハッタン島はニューアムステルダムと名付けられ、毛皮貿易の中心地となります。やがて、イギリスがこの地を支配し「ニューヨーク」と改称。現在に至るまで、アメリカを代表する都市のひとつであり続けます。
 
 ニューヨークが国際都市として発展した理由は、もともと貿易所として始まり多種多少な人々が集まる場所だった、その後もヨーロッパからの移民の玄関口として機能していたこと、などが挙げられます。

 1892年から1954年までの間は、アッパー・ニューヨーク湾内にあるエリス島に移民局が置かれ、ヨーロッパからの移民は、まずこの地を踏むことになります。

 20世紀に入り「アフリカ系アメリカ人の大移動」が始まると、マンハッタン北部にあるハーレムへ多数のアフリカ系住民が移住。さらなる人種の多様化を生みます。

 多種多様な人々が集い、経済的にもアメリカの中心であり続ける国際都市ニューヨーク。その多様性と都会性が、メインストリームだけでなく、アンダーグラウンドな文化も育むことになったのでしょう。

ニューヨークの音楽シーン

 ビートルズを筆頭に、イギリスのバンドが猛威を振るう1960年代、ニューヨークでは1964年にヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)が結成されます。

 アヴァンギャルドかつ内省的な音楽性を持つ彼らは、商業的な成功はおさめられなかったものの、後続のバンドに多大な影響を与え、1970年代のニューヨーク・パンクやノー・ウェーブに繋がっていきます。

 アンダーグラウンドな文化も育まれていく一方で、19世紀末からは「ティン・パン・アレー」と呼ばれる音楽関係の会社が集まる一角が生まれ、その後のポップ・ミュージックを牽引するなど、ニューヨークはオーバーグラウンドでもアメリカ音楽界の中心的な役割を果たします。

 また、アフリカ系住民の多いハーレムでは、ジャズのビバップやヒップホップも発展します。

 1970年代に入ると、テレヴィジョン、トーキング・ヘッズ、ラモーンズ、パティ・スミスなどが活躍し、彼らはニューヨーク・パンクと呼ばれるようになります。彼らの間に、必ずしも音楽的な共通項が見出せるわけではありませんが、音楽面へのこだわりが強く、広い意味で前衛的、メジャーへのカウンター的である、という点では共通していると言えるかもしれません。

 さらに1970年代後半に入ると、前衛的な音楽を志向するノー・ウェーブ(No Wave)と呼ばれるシーンが盛り上がります。このシーンの中心的なバンドは、DNA、マーズ(Mars)、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ(James Chance & The Contortions)など。1978年に設立されたZEレコード(ZE Records)は、ノー・ウェーブ系のバンドの作品を数多くリリースしました。

 1980年代に入ると、スワンズとソニック・ユースが実験性の高い音楽をロックバンドで鳴らし、ニューヨークのインディー・シーンを牽引します。

インディペンデント・レーベル

 1980年代後半以降になると、現在まで続く有名インディペンデント・レーベルが次々と生まれます。ニューヨークを代表する名門レーベルといえば、1989年に設立されたマタドール(Matador Records)です。ヨ・ラ・テンゴやスーパーチャンクの作品をリリースし、ニューヨークはおろかアメリカを代表するインディー・レーベルのひとつとなります。

 1990年には、スワンズのマイケル・ジラが実験的なロックを中心にリリースするレーベル、ヤング・ゴッド(Young God Records)を設立。2000年代以降では、アクロン/ファミリーやデヴェンドラ・バンハートなどの作品をリリースしています。

 1999年には、レ・サヴィ・ファヴ(Les Savy Fav)のベーシスト、シド・バトラーがフレンチキス(Frenchkiss Records)を設立。2001年には、LCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーがDFAを設立するなど、アーティスト自身によるレーベルの設立も目立ちます。

 また、全てのバンドがインディー・レーベル所属というわけではありませんが、2000年代以降はブルックリンと、マンハッタンのロウワー・イースト・サイドを中心に新たなシーンが形成。

 ストロークス、ヤー・ヤー・ヤーズ、ダーティー・プロジェクターズ、グリズリー・ベア、TV オン・ザ・レディオ、ヴァンパイア・ウィークエンドなど、ニューヨークらしく多彩なバンドが活躍しています。

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Cat Power “The Covers Record” / キャット・パワー『ザ・カヴァーズ』


Cat Power “The Covers Record”

キャット・パワー 『ザ・カヴァーズ』
発売: 2000年3月21日
レーベル: Matador (マタドール)

 ジョージア州アトランタ出身の女性シンガーソングライター、キャット・パワーことショーン・マーシャルの5枚目のアルバム。『The Covers Record』というタイトルのとおり、カバー曲集です。日本語では『ザ・カヴァーズ』と表記することが多いようです。

 伴奏は、アコースティック・ギターかピアノのみ。シンプルでミニマルな耳ざわりですが、その楽曲のメロディーがむき出しになり、ショーン・マーシャルの声が自ずと前面に出るアルバムです。

 カバー・アルバムというと、オリジナル・アルバムとは毛色の違う作品になるのは当然ですが、本作はむしろキャット・パワーのオリジナリティが、色濃く出た1作と言えます。

 ローリング・ストーンズやボブ・ディラン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなど、多彩なアーティストの曲を取り上げていますが、原曲がわからないほどに、大胆にアレンジが施されています。

 「アレンジ」と言うと、バンドのアンサンブルを再構築したような印象を与えるかもしれませんが、本作は弾き語りスタイルの演奏。原曲のアレンジメントから、とことん引き算をして音数を絞り、声とメロディーのみの内省的な世界観を作り上げています。

 1曲目に収録されたローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No) Satisfaction」を例にとっても、確かにストーンズのあの曲だということは認識できるのですが、ギターと歌のみのアンサンブルには隙間が多く、彼女の声とむき出しの楽曲が、ダイレクトに聴き手に浸透します。

 少し枯れた物憂げな声で、余裕を持ったスローテンポで進んでいくアルバムですが、冷たいという印象は無く、人の声と楽器の暖かみが感じられる1作です。

 とはいえ、前述したとおり、かなり音数が少なくミニマルで、サウンドが華やかなわけではないので、聴く人を選ぶアルバムであるのも事実だと思います。展開されるのは、とにかく無駄なものを削り、ストイックに絞り込まれ、凝縮された音楽です。

 しかし、本来は触れることのできない楽曲の核となる部分が、目の前に差し出されるようで、ハマる人はハマるアルバムであるのも確か。音数は少ない、言い換えればサウンドの情報量は少ないのに、音楽としての強度は強い、そんな作品です。