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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

9, シカゴの音楽史


 ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ全米第3の都市シカゴ。1980年代以降は有名インディペンデント・レーベルが多数設立され、USインディーロックの最重要都市と言っても過言ではありません。このページでは、シカゴの音楽の歴史を振り返ります。

シカゴの音楽史

 シカゴといえば、まずはアーバン・ブルースの街として有名です。ミシシッピ・デルタで生まれたブルースは、徐々に北上を続け、1940年代にはマディ・ウォーターズとハウリン・ウルフがシカゴにやってきます。

 彼らはサウス・サイドのバーで演奏することになりますが、騒々しいバーの中では音量を増幅する必要がありました。そこで、アコースティック・ギターがエレキ・ギターに取って代わります。1950年に設立されたチェス・レコード(Chess Records)は、多くの電化されたブルースのレコーディングをおこないます。

 やがて、ロックンロールのチャック・ベリーやボー・ディドリーもチェスに加わり、今日まで続くギター、ベース、ドラムというロックバンドの基本編成が確立されます。

 シカゴはゴスペル・シーンにおいても重要な都市で、ゴスペルの女王(The Queen of Gospel)と呼ばれたマヘリア・ジャクソンは、1911年にルイジアナ州ニューオーリンズで生まれ、1927年にシカゴに移りました。

 1960年代前半から、マヘリア・ジャクソンの他にも、フォンテラ・バスやジーン・チャンドラーなどがヒットを飛ばし、シカゴは後のソウル・ミュージックの台頭に大きな役割を果たします。

 1960年代半ばになると、ガレージ・ロックのザ・シャドウズ・オブ・ナイト(The Shadows Of Knight)、サンシャイン・ポップのザ・バッキンガムズ(The Buckinghams)などのバンドが登場。さらに1969年には、AORの代表的バンド、その名もシカゴがデビューします。

 1980年代に入ると、ポスト・パンクの流れと共に、シカゴのシーンも変質していき、より多彩な音楽がアンダーグラウンドで発展していきます。1980年代には、ハウス・ミュージックもこの地で確立します。

インディペンデント・レーベルの隆盛

 1980年代に入ると、多くのインディペンデント・レーベルが設立され、シカゴはUSインディーの中心地と言っても良いぐらい、多彩なレーベルとバンドを生みます。

 1980年に、インダストリアルを得意とするレーベル、ワックス・トラックス(Wax Trax!)が設立。ミニストリー(Ministry)や、ベルギーのフロント242(Front 242)、ドイツのKMFDMなどの作品をリリースします。音楽性に強いこだわりを持ち、海外のバンドのリリースや交流に積極的なところも、シカゴのインディー・レーベルの特徴です。

 1981年には、USインディーを代表する名門レーベル、タッチ・アンド・ゴー(Touch And Go)が設立。スティーヴ・アルビニがレコーディングを手がけた作品をはじめ、多くの名盤を残します。

 僕の趣味も込みで代表バンドをいくつか挙げるなら、ジーザス・リザード(The Jesus Lizard)、ドン・キャバレロ(Don Caballero)、前述のアルビニが率いるビッグ・ブラック(Big Black)やシェラック(Shellac)など。

 1990年にはドラッグ・シティ(Drag City)、1992年にはスリル・ジョッキー(Thrill Jockey Records)が設立され、ともに個性豊かなインディーズらしい作品をリリースし続けています。

 ドラッグ・シティは、ジム・オルークの一連の作品をはじめ、実験的ながらポップなセンスも感じさせる作品を数多くリリース。スリル・ジョッキーは、トータス周辺の人脈を中心にポスト・ロックや電子音楽を得意としています。

 その他にも、オルタナ・カントリー系のバンドを中心に扱うブラッドショット(Bloodshot)、メタルコアを得意とするビクトリー・レコード(Victory Records)など、個性豊かなレーベルが揃い、分厚いインディー・シーンを形成しているのがシカゴです。

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Calexico “Carried To Dust” / キャレキシコ『キャリード・トゥ・ダスト』


Calexico “Carried To Dust”

キャレキシコ 『キャリード・トゥ・ダスト』
発売: 2008年9月9日
レーベル: Quarterstick (クォータースティック)
プロデュース: Craig Schumacher (クレイグ・シューマッハ)

 アリゾナ州ツーソンを拠点に活動するバンド、キャレキシコの6枚目のスタジオ・アルバムです。

 生楽器を用い、フォークやカントリーなどのルーツ・ミュージックを多分に感じさせるサウンド・プロダクション。ですが、アンサンブルにはルーツの焼き直しには留まらない、モダンな要素も併せ持ったアルバムです。

 5曲目の「Writer’s Minor Holiday」は、音数がギチギチに詰め込まれているわけではないですが、各楽器が有機的に絡み合い、緩やかにグルーヴしていく1曲。アコースティック・ギターの音が中心に据えられていますが、コーラス・ワークや随所に挟まれるエレキ・ギターのフレーズが、カントリー色を薄め、モダンな雰囲気をプラスしています。

 6曲目の「Man Made Lake」は、生楽器を中心としていますが、イントロでのエフェクト処理など、実験的な要素もあります。各楽器が絡み合う一体感のあるアンサンブルが展開されます。再生時間1:06あたりからの鉄琴のような音がアクセント。

 7曲目「Inspiracion」は、民謡のような、民族音楽のような雰囲気の1曲。しかし、ところどころノイズ的な音やファニーな音を散りばめ、バランスを取るところが彼ららしい。

 8曲目「House Of Valparaiso」は、アコースティック・ギターとドラムが中心の、楽器の数が絞られた1曲ですが、手数が少ないながらも立体的にリズムを刻むドラムが、楽曲全体にも奥行きを与えています。

 12曲目「Fractured Air (Tornado Watch)」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、一聴するとフォーキーな耳ざわりの曲ですが、エレキ・ギターのカッティングや全体のやや複雑なアンサンブルが、フォーク色を薄めカラフルな印象をプラス。再生時間2:05あたりからの展開など、ポストロックを感じさせる現代的な空気も共存しています。

 フォーク、カントリー、民族音楽など多種多様なルーツ・ミュージックを感じさせながら、モダンな空気も併せ持ったアルバムです。

 一聴するとフォークやカントリーを彷彿とさせる楽曲群ですが、ちょっとしたサウンドやアレンジを足すことで、全体のルーツくささを抑え、モダンな雰囲気に仕上がっていると思います。

 ウィルコ(Wilco)等のいわゆるオルタナ・カントリーよりも、一聴するとルーツ色の濃いサウンドですが、ちょっとした音やアレンジのエッセンスでオルタナ感を演出しており、こちらのバランス感覚も好きです。

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No Joy “Wait To Pleasure”/ ノー・ジョイ『ウェイト・トゥ・プレジャー』


No Joy “Wait To Pleasure”

ノー・ジョイ 『ウェイト・トゥ・プレジャー』
発売: 2013年4月23日
レーベル: Mexican Summer (メキシカン・サマー)
プロデュース: Jorge Elbrecht (ホルヘ・エルブレヒト)

 カナダのモントリオール出身のシューゲイザー・バンド、ノー・ジョイの2ndアルバムです。

 深くエフェクトのかかったギターを中心にしたアンサンブルに、耽美なボーカルが溶け合う、これぞシューゲイザー!というサウンドの1作。しかし、音響が前景化した作品かというとそうでもなくて、アンサンブルにも聴き応えのある作品です。

 1曲目「E」は、ギターのフィードバックが響きわたるイントロから、低音の効いた立体的なドラムと、分厚いサウンドのギターが層になって加わり、音の壁を作り上げます。音で満たされた空間を、ボーカルが自由に羽ばたくようにメロディーを紡いでいきます。

 全体にファズのかかったような塊感のあるサウンドなのですが、再生時間1:53あたりから開放的かつ立体的なサウンド・プロダクションへ。このようなコントラストを効果的に用いるのも、このバンドの特徴です。

 3曲目の「Prodigy」は、ドラムのリズムと音色がくっきりとしていて、ノリの良い疾走感のある1曲。

 8曲目「Wrack Attack」は、緩やかなグルーヴ感と浮遊感が共存する1曲。タイトでシンプルなリズム隊と、エフェクターを控えめに各弦の音まで認識しやすいギターのコード・ストローク、ドリーミーなボーカルが溶け合います。

 9曲目「Ignored Pets」は、イントロから複数のギターが重なってきますが、それぞれ音色が違っていて、多層的に響きます。ドラムのリズムもはっきりしていて、疾走感のある1曲。

 前述したとおり、いわゆるシューゲイザー的なサウンド・プロダクションを持った1枚です。空間を埋め尽くすような分厚いギター・サウンドが随所に聴かれますが、それだけには留まらない多彩なサウンドも響かせています。

 複数のギターが重ねられていますが、それぞれのギターの音作りが違うものが多く、丁寧にギター・オリエンテッドな音楽を組み上げていることがうかがえます。

 曲によっては、音響よりもアンサンブル重視と思われるもの、リズム重視でドラムが前景化される楽曲もあり、一本調子な印象にはならず、バラエティ豊かな1枚になっていると思います。

 1st『Ghost Blonde』と、3rd『More Faithful』は配信されているのに、なぜだか現時点では、この2ndアルバムのデジタル配信はおこなわれていないようです(>_<)





Eleanor Friedberger “Last Summer” / エレナー・フリードバーガー『ラスト・サマー』


Eleanor Friedberger “Last Summer”

エレナー・フリードバーガー 『ラスト・サマー』
発売: 2011年7月12日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Eric Broucek (エリック・ブロウチェック)

 ザ・ファイアリー・ ファーナセス(The Fiery Furnaces)のボーカリスト、エレナー・フリードバーガーの初のソロ・アルバムです。

 各楽器ともシンプルなサウンドを鳴らし、全体としてもオーガニックな響きを持った1枚。音の数も絞り込まれているのですが、シンプルかつ躍動感のあるアンサンブルが展開され、隙間が多いという印象はありません。

 むしろ、音が絞り込まれていることで、それぞれの音の情報量が多く感じられます。用いられる音色の種類も決して多くはないものの、アレンジの妙によってカラフルなイメージを与えるアルバムになっています。

 1曲目「My Mistakes」は、アコースティック・ギターとドラム、ボーカルによるシンプルなイントロから幕を開けます。アコギ主体のサウンドですが、楽曲からは古き良きロックンロールの香りが漂います。キーボードと思われる電子音がアクセント。

 2曲目の「Inn Of The Seventh Ray」は、ゆったりとしたテンポで、ギター、キーボード、ドラムが立体的に絡み合う1曲。各楽器とも基本的にはナチュラルな音色ですが、アンサンブルとエフェクトからほのかにサイケデリックな空気が漂います。

 5曲目の「Roosevelt Island」は、シンセサイザーの音色と、ラップ的というのとは違う、早口言葉のようなボーカルが印象的な1曲。

 9曲目「Owl’s Head Park」は、アコーディオンのような音色も聞こえますが、ベースの音を筆頭に電子的なサウンド・プロダクションを持った1曲。しかし、冷たいという印象ではなく、歌が前景化された暖かみのある曲です。

 アコースティック・ギターを中心にしたナチュラルなサウンドを基本としながらも、随所にエフェクターやシンセサイザーによってアクセントをつけ、全体としてはカラフルなサウンド・プロダクションに仕上がっています。

 ややハスキーなボーカルは、それだけでも十分に魅力的なのですが、ところどころエフェクトがかけられ、オーバーダビングも効果的に用いられています。

 音作りもアンサンブルも基本的にはシンプルなのですが、オルタナティヴな空気も同居し、いきいきとした躍動感も感じられる1作。

 





8, ロサンゼルスの音楽史


 ニューヨークと並ぶアメリカの大都市、ロサンゼルスの歴史と音楽シーンの変遷を、簡単に振り返ります。

ロサンゼルスの歴史

 16世紀前半にメキシコを征服したスペインは、その後も領土を北に伸ばし、1781年に現在のロサンゼルスがある場所に小さな村落を建設します。

 その後、1848年にカリフォルニアがアメリカ領となり、1850年にはロサンゼルスに市制が敷かれますが、当時の人口はわずかに1600人程度。しかし、1900年を迎える頃には10万人、1960年にはおよそ248万人へと増加するなど、急速な発展を遂げます。

 まず、1848年にサクラメント近くで金が発見され、ゴールドラッシュが起き、一攫千金を夢見る人々がカリフォルニアに殺到します。「カリフォルニア・ゴールドラッシュ」と呼ばれるこの現象は、1855年頃には終息。

 1865年には、南北戦争が終結。カリフォルニアはもともと奴隷制を持たない「自由州」でしたが、南北戦争終結によって「奴隷州」に住む奴隷が解放されると、多くの移住者が押し寄せます。

 1865年は、サンフランシスコとサンディエゴを鉄道で結ぶため、サザン・パシフィック鉄道が設立された年でもあります。(ロサンゼルスは、サンフランシスコとサンディエゴの間にあります。) この鉄道建設には、ゴールドラッシュに伴いカリフォルニアに移住してきた、中国系移民が多く従事します。

 19世紀末になると、日本からの移民も増加。東海岸よりもアジアから近いため、その後はアジア系移民も増加します。また、もともとメキシコ領だったこともあり、古くからヒスパニック系の住民も多く、近年もメキシコからの移住者が多数います。

 ロサンゼルスの爆発的な人口の増加は、いくつかの産業の発展が主な理由です。前述したとおり、19世紀中ごろのゴールドラッシュにより、多数の人が殺到します。殺到した採掘者のビタミン源として、1840年代からオレンジの栽培がカリフォルニア全域で開始。柑橘類をはじめとした農業が、ロサンゼルスの主要産業となります。

 19世紀末には油田発見による石油化学工業が発展、さらに航空機産業も発達。20世紀以降は、ハリウッドに代表されるエンターテイメントも主要産業となります。それまではニューヨークとシカゴが映画産業の中心地でした。当時のフィルムは感度の問題で、高い光度が必要。そのため、東海岸の都市よりも、温暖な地中海性気候を持ち、太陽が輝くロサンゼルスは、撮影に最適だったのです。

 このように、夢を持った移住者が多く集まり、人種構成も多様、そして魅力的な温暖な気候を持っているのが、ロサンゼルスの特徴と言えるでしょう。

ロサンゼルスの音楽シーン

 では、次にロサンゼルスの音楽シーンの流れを確認してみましょう。

 前述したように20世紀以降、ロサンゼルスのハリウッドは映画産業の中心地となっていきます。そして、1942年に西海岸初のメジャー・レーベルであるキャピトル・レコード(Capitol Records)が、この地に設立されます。映画産業が急速に発展した、ハリウッドという土地の可能性に着目したのです。

 1946年には、映画会社のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)が、映画のサウンドトラックをリリースする目的でMGMレコードを設立。のちにロックやポップスを扱うレーベルとなります。

 1958年には、同じく映画会社のワーナー・ブラザースが、ワーナー・ブラザース・レコードを設立。このようにロサンゼルスでは、映画業界とも密接に関係したかたちで、音楽産業が発展していきます。

 また、ジャズの世界では、1940年代から「ウエストコースト・ジャズ」と呼ばれるムーヴメントが起こります。

 1960年代前半には、ディック・デイルやビーチ・ボーイズらの登場によって、サーフ・ミュージックが南カリフォルニアを中心に大流行。サーフ・ミュージックとは、簡単に説明するならば、リヴァーヴやトレモロ・ピッキングによって波の音を再現した、サーフィンに合う軽快なロックです。

 サーフィンは、ウクレレやスティール・ギターと共に、20世紀初頭にハワイから西海岸に伝わったと言われています。サーフィンを音楽で表現しようというサーフ・ミュージックは、まさにカリフォルニアおよびロサンゼルスらしい音楽であると言えるでしょう。

 1960年代中盤からは、ブルースを基盤にしながら独特の世界観を作り上げたドアーズ(The Doors)、フォークやカントリーを基調にサイケデリックなサウンドを響かせたバーズ(The Byrds)など、その後のUSインディーロックにも繋がる、ルーツ・ミュージックをオルタナティヴな感覚でアップデートするバンドが登場。

 1970年代に入ると、イーグルス(The Eagles)やTOTOなど、より作り込まれた明快なサウンドを持ったバンドが台頭し、ビッグ・ヒットを飛ばします。

インディー・シーンの形成

 ロサンゼルスの華やかな音楽シーンへのカウンターのように、1970年代後半から、ブラック・フラッグやバッド・レリジョンなどのパンク・バンドが台頭。1976年にブラック・フラッグのグレッグ・ギンによってSSTレコード、1980年にバッド・レリジョンのブレット・ガーヴィッツによってエピタフ(Epitaph)が設立され、その後のインディー・シーンを牽引します。

 1993年設立のハードコアを得意とするハイドラ・ヘッド(Hydra Head)、1998年設立のドゥームメタルやストーナーに特化したサザンロード(Southern Lord)、1999年にエピタフの姉妹レーベルとして設立されたアンタイ(ANTI-)などなど、現在に到るまでロサンゼルスにはパンクやヘヴィ・ロックを中心に、多くのレーベルが誕生し、豊かなインディー・シーンが形成されています。

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