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 子供のころから音楽が大好きです! いろいろな音楽を聴いていくうちに、いつのまにやらUSインディーズの深い森へ。  主にアメリカのインディーズ・レーベルに所属するバンドのディスク・レビュー、レーベル・ガイドなどをマイペースに書いています。インディーズの奥の深さ、楽しみ方、おすすめのバンドなど、自分なりにお伝えできればと思っています。お気に入りのバンド、作品、レーベルを探すうえで、少しでも参考になれば幸いです。

0, イントロダクション


USインディーロックをより深く楽しむために

 当サイトは「USインディーロックの深い森」という名称のとおり、アメリカ合衆国のインディーロックの紹介を、目的としています。

 デジタルで流通している音楽というのは、再生すれば音が流れるものですから、予備知識なく音を聴いて楽しむ、ということが可能です。先入観がない方が楽しめる、という場合もあろうかと思います。

 しかし、音楽は人が作るものであり、文化には流れがあります。その曲を作った人がどこの出身で、どういう価値観を持っているのか。どのようなジャンルに影響を受け、どのような流れで生み出された音楽なのか。

 あるバンドの1枚のアルバム作品を聴いて、そのアルバムの成り立ちや背景、音楽シーンのなかでの位置づけ、時代との関係、他のバンドとの影響関係…などなど、知識が助けとなり、より深くそのアルバムを楽しむことができる、ということもあるのではないでしょうか。

 僕がこのサイトで目指すのは、USインディーロックをより深く広く楽しむための、知識とヒントをご提供することです。

 例えば、どこかに旅行するときのことを思い浮かべてください。なんの知識も持たずに姫路城を見ても、なんて美しいんだろうと感動することはできます。でも、姫路城の築城された背景を知ることで、築城当時に思いを馳せ、より深い視点で城を眺められるようになる、ということもあるでしょう。

 あるいは、ご当地キャラ。今では、日本中のいたるところに、当地のキャラクターがいます。ご当地キャラの目的は、基本的にはその土地のことを知ってもらう、宣伝することですから、往往にして当地の特産物や、歴史上の人物をモチーフにしているものです。

 そんな由来を知らなくとも、ご当地キャラを見て「このキャラはかわいいなぁ」「なんかこいつキモいじゃん笑」という感想を持つことはできます。しかし、もう一歩踏み込んで、そのキャラの由来を知り、さらに当地の歴史や文化に少しでも興味を持てば、キャラクターをもっと身近に感じ、その土地に想いを馳せることができるのではないでしょうか。

 各地の名物料理や銘菓も、同じことです。それぞれの由来は知らなくとも、当然ながら食べることはできるし、美味しいと感じることはできます。しかし、歴史的背景や由来、レシピを知ることで、より味わいも深くなるというものです。それが文化というものだと思います。

 最後に食べ物の例を出したのは、音楽と食べ物には共通点があると思うからです。その共通点とは、知識がなくとも味わうことができるために、知識は不要である、むしろ知識なしで楽しむべきだ、と考える人もいる、というところです。しかし、知識があった方がより楽しみ方が広がる、ということを僕は訴えたいのです。

 ただ、矛盾するようですが、必ずしも「知識が無いと音楽は楽しめない!」という教養主義的な主張がしたいわけではありません。なんの予備知識を持たずとも、音楽に感動することはあり得ますし、すばらしい音楽体験というのは、概してそういうものだと思います。

 当サイトでご紹介するのは、日本から遠く離れた、文化も異なる国の音楽です。音楽は予備知識なしでも、楽しむことはできます。しかしながら、いくつか例を出したように、そのバンドを育んだ土地の歴史を知り、そのジャンルが生まれた背景を知ることで、音楽がより豊かに響くこともあるはずです。

 ひいては、あるバンドに対する興味が別のバンドへの興味に繋がり、アメリカという国自体への興味や理解へと繋がっていく、というのも十分にあり得ることです。

 まずは興味を持っていただいた方に、様々な音楽を実際に聴いていただくため、良い音楽の宣伝をする。さらに、USインディーズの奥深くまで足を踏み入れるための、情報とヒントをご提供する。そして、最終的には日本にUSインディーヲタクが増え、受け入れられるジャンルの幅が広がり、日本の音楽シーンも活性化する!…というところまで、このサイトで持っていけたら最高です。

 ですので、今は邦楽しか聴かないけど洋楽を聴いてみたい、アメリカのインディーズに興味があるけど何から聴けばいいのか分からない、という方へ向けての入門・ガイド的な情報もご提供できれば、と考えています。

 実現可能性は置いといて、僕自身はそんな高い理想とモチベーションを持って、このサイトを運営しています。当サイトが、あなたの音楽ライフを広げるきっかけとなれば、これ以上に嬉しいことはありません。

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ポストロック -ジャンル紹介とオススメ作品5選-


ポストロックってなに?

 ポストロックとは「どういった音楽なのか」を定義するよりも、「どういった音楽ではないのか」と定義した方がいいぐらい、意味のレンジが広いジャンル名です。

 ロックに「ポスト」という接頭辞が付いた、ポストロックというジャンル名。この「ポスト」とは、ラテン語で「後の」「次の」といった意味を持つ言葉です。

 その名のとおり、ポストロックとは「ロック的な楽器を用いて、ロック的ではない音楽を実行するジャンル」程度の意味に、とりあえずは理解しておきましょう。

 ロックであれば、ディストーション・ギターを用いたリフ、力強い8ビート、メッセージ性の強い歌詞、というようにある程度のロックらしい要素を挙げることができます。しかし、ポストロックにおいては、各バンドがそれぞれの方法で、新たな音楽を追求するため、おなじポストロックというジャンルに括られるバンドでも、その音楽性には大きな開きがあります。

 そもそも、やっている当人たちには「ポストロックをやっている」という意識も、おそらくありません。共通点は、ロックバンドに近い編成である、あるいはロックで使用する楽器を使っている、というだけです。

 また、ポストロックにカテゴライズされるバンドには、ボーカル不在の場合が多いです。これは、歌のメロディーが主要な要素であるロック(および多くのポップス)とは違い、バンド全体のアンサンブルや、音響を重視する態度のあらわれと言えるでしょう。

 変拍子や複雑なアンサンブル、レコーディング後の大胆な編集(ポスト・プロダクション)も、ポストロックの特徴です。

ポストロックのオススメ作品5選

 では、実際にポストロックとは、どういう音楽が鳴っているものなのか、5枚のアルバムを紹介しながら、ポストロックの概要と魅力をお伝えしたいと思います。当サイトは、USインディーロックを紹介するサイトですので、アメリカのバンドに絞りました。

 太字になっている部分は、バンド名、アルバム・タイトル、発売された年です。

Tortoise “TNT” 1998

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの3rdアルバム。トータスは、ポストロックを代表するバンドのひとつです。

 本作『TNT』は、本格的なハード・ディスク・レコーディングを導入し、大胆なポスト・プロダクションを施したアルバムです。もっとカジュアルに言い換えると、それまではテープに録音していたのを、パソコンに録音し、さらに録音した音をパソコン上で切り貼りしたり、加工したりして、全く新しい音楽を作り上げた、ということです。

 Aメロとサビが循環するような明確な形式は持たず、ゆるやかに各楽器が絡み合い、ときにリラクシングな、ときに複雑なアンサンブルが繰り広げられるアルバムです。なにも起こっていないようで、次々と風景が変わっていくような、イマジネーションをかき立てる音楽が詰まっています。

 歌もなく、わかりやすい展開もありません。そう聞くと、ポストロックを初めて聴く人には、敷居が高く感じられるかもしれませんが、BGMかヒーリング・ミュージックだとでも思って、気軽に聴いてみてください。このアルバムの、落書き風のジャケットのように、ゆるい気持ちで(笑)

 明確な形式が無いということは、自由に楽しむことができる、次になにが起こるか分からないワクワク感がある、ということでもあります。

 前述したとおり、トータスはポストロックの代表格と言っていいバンドで、音響を重視した音楽性から「シカゴ音響派」と呼ばれる一派を代表するバンドでもあります。もし、トータスが気にいったなら、メンバーは別バンドや別プロジェクトでも活躍していますので、そちらもチェックしましょう。

 個人的には、ドラムのジョン・マッケンタイアが所属するザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)と、トータスのメンバーが3人も参加するアイソトープ217(Isotope 217)をオススメします。ざっくり一言であらわすと、ザ・シー・アンド・ケイクはポストロック風味のギターポップ、アイソトープ217はジャズ版トータスです。

 また、トータスが所属するシカゴのスリル・ジョッキー(Thrill Jockey)というレーベルにも、多くの素晴らしいバンドが所属していますので、トータスにハマった方は、このあたりから世界を広げていきましょう。

Slint “Spiderland” 1991

 ケンタッキー州ルイヴィル出身のバンド、スリントの2ndアルバム。ルイヴィルは、ポストロックの源流のひとつになった街でもあります。

 1991年リリースのこのアルバムは、ポストロックの古典的名盤の1枚です。トータスよりも音はざらついていて、若干のアングラ感もあります。

 激しく歪んだギターや、複雑なアンサンブル、静寂と轟音のコントラストなど、ロックが持つかっこよさを、解体してから再構築したような1枚。ロックのパーツを使って、全く別の方法でロック的な興奮を再現するその音楽性は、まさにポストロック的と言えます。

 

Battles “Mirrored” 2007

 2002年にニューヨークで結成された4人組バンド、バトルスのデビュー・アルバム。アメリカ国内のレーベルではなく、イギリスのWarpからリリースされています。

 この1stアルバムの後に、タイヨンダイ・ブラクストンが脱退して3人組になってしまうバトルスですが、本当に凄い4人が集まったバンドです。

 本作『Mirrored』は、躍動感と立体感がすさまじく、多種多様なサウンドが入ったカラフルな1枚。2曲目「Atlas」のイントロのドラムだけでも、かっこよすぎて泣けます。ロックが持つダイナミズムや興奮が、すごい濃度に凝縮された1曲だと思います。

 ボーカルというか、声は入っていますが、いわゆる歌モノではなく、あくまで楽器の一部のような使われ方。一般的なロックやポップスとは、全く違う声の使い方も、ポストロック的と言えるかもしれません。

Gastr Del Sol “Camoufleur” 1998

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという鬼才2人が揃ったグループ、ガスター・デル・ソルのラスト・アルバム。

 先にご紹介した3枚とは、ちょっと毛色の違う1作です。アコースティック・ギターが使用され、全曲ではないですが、ボーカルも入ったこのアルバム。一言であらわすと「変なフォーク」です。

 フォークやカントリーのような音を用いて、どこかの民謡のような牧歌的な雰囲気もあるのに、とにかく違和感があふれる作品です。ただ、その違和感が嫌かというと、そういうわけでもなくて、全体はどこまでもポップ。

 やがて、違和感がクセになってきたら、あなたもいよいよポストロック的な耳を持ち始めたということだと思います。デイヴィッド・グラブスとジム・オルークは、このグループ以外にも、ソロ作品をはじめ多数のリリースがあります。

 このアルバムが気に入ったら、ドラッグ・シティ(Drag City)というシカゴのレーベルから出ている、それぞれのソロ作品がおすすめ。ものすごく実験的な作品もあるので、聴く前にリサーチした方がいいかもしれません。当サイトにも、何枚か彼らの作品のレビューを掲載しています。

 

The Album Leaf “In A Safe Place” 2004

 ポストロック・バンド、トリステザ(Tristeza)のメンバーだったジミー・ラヴェルが同バンド脱退後に始めたソロプロジェクト、アルバム・リーフの3rdアルバム。

 この作品も、ここまでの4枚とは雰囲気が違い、サウンドの響きを最優先したような、音響を全面に押し出した1枚です。

 ピアノやアコースティック・ギターのような生楽器と、電子音がともに使われていますが、双方が溶け合って、優しく響きます。部屋に染み渡っていくような、浸透力と暖かみを持ったサウンド・プロダクション。

 アルバム・リーフは、作品によって少し音楽性が変わりますが、どれも音の響きを大切にしている点では共通しています。ジミー・ラヴェルが在籍していたトリステザは、よりバンドのアンサンブルを重視している印象ですが、音自体はアルバム・リーフに近いです。

 本作には、アイスランドのポストロック・バンド、シガー・ロスのメンバーが参加しています。このアルバムが気に入ったなら、シガー・ロスも気に入るかもしれません。彼らはアルバムによって音楽性が大きく異なるので、注意してください。

 

終わりに

 自分の好きなアルバム、ぜひとも多くの方に聴いていただきたいアルバムの中から、アメリカのポストロックをある程度把握できる5枚を選んだつもりです。

 「ポストロックは敷居が高い」「ポストロックはつまらない」という先入観を持っている方も、少しでも興味をお持ちいただけたなら、聴いてみてください!





Superchunk “Superchunk” / スーパーチャンク『スーパーチャンク』


Superchunk “Superchunk”

スーパーチャンク 『スーパーチャンク』
発売: 1990年9月25日
レーベル: Matador (マタドール)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、スーパーチャンクのデビュー・アルバムです。

 「音圧が高い」というのとはちょっと違った、しかし迫力と臨場感のあるサウンドを持ったアルバムです。特に印象的なのが、ギターのサウンド。圧倒的にパワフルなわけでも、耳をつんざくほど鋭いわけでもないのに、心地よく鼓膜を揺らし、クセになります。

 アルバム全体にみずみずしい感性が溢れ、1stアルバムらしい初期衝動を閉じ込めたような空気もあり、ロックの魅力が凝縮された1作だと思います。

 1曲目の「Sick To Move」。各楽器の音を分離して認識できるものの、やや輪郭の丸い一体感のあるイントロです。しかし、再生時間0:23あたりで輪郭のくっきりしたサウンドになり、テンポもアップ。冒頭からリスナーの耳をつかむ展開です。その後も各楽器が前のめりに突っ走る、疾走感あふれる1曲。

 2曲目「My Noise」は、音圧が高いというのとはちょっと違う、厚みのあるギターのサウンドが、空間を埋め尽くします。ドンシャリではなく、全音域が分厚く、倍音豊かなサウンド。

 6曲目の「Slack Motherfucker」は、イントロから、前のめりな疾走感に溢れた1曲。若々しく青春を感じるボーカルの声と、コーラスワークも素晴らしい。ちなみにピッチフォーク(Pitchfork)選出の1990年代のベスト・ソングで、第81位に選ばれています。すごいのか、すごくないのか、リアクションに困る順位ですが(笑)

 7曲目「Binding」は、バンド全体がバウンドするような、躍動感と一体感のある1曲。ややルーズな雰囲気を持った、コーラスのハーモニーも絶妙。

 前述したとおりギターの音色が良い、ボーカルの声とコーラスワークも良い、全体のアンサンブルの一体感も良いアルバム。

 テクニックをひけらかすのではなく、圧倒的な轟音で押し流すのでもない、しかし躍動感と迫力のあるバンド・サウンドを響かせています。ボーカルの声を筆頭に、各楽器のサウンドから、若さとみずみずしさが溢れています。

 スーパーチャンクはこのアルバムに限らず、アレンジもサウンドも、オーバー・プロデュースにならないところが魅力だと思います。デビュー・アルバムである本作も、スーパーチャンク最高!と思わせてくれる1枚。

 





Superchunk “Foolish” / スーパーチャンク『フーリッシュ』


Superchunk “Foolish”

スーパーチャンク 『フーリッシュ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、スーパーチャンクの4thアルバム。メンバーのマック・マコーンとローラ・バランスによって設立されたレーベル、Mergeからリリース。プロデュースはブライアン・ポールソン、ミックスはスティーヴ・アルビニが担当。

 デビュー当初からのスーパーチャンクの武器である、疾走感とドライヴ感はそのままに、バンドの音楽性の拡大を示す1枚です。テンポを抑えた曲が増え、アンサンブルも高度に練り上げられ、コントラストや迫力の演出が、格段に向上しています。
 
 さらに、音がいい。音圧が圧倒的に高いというわけではないのですが、無駄なプロデュースが無く、各楽器が生々しく、臨場感あふれるサウンドでレコーディングされています。

 アルバムの幕を開ける、1曲目は「Like A Fool」。ゆったりと堂々としたテンポの曲です。イントロは2本のギターが、それぞれ穏やかに単音フレーズとコードを弾いていくのですが、再生時間1:00あたりでフル・バンドになると、パワフルに躍動感を響かせます。ドラムの音が立体的にレコーディングされていて、下から響くような鳴り方。

 2曲目の「The First Part」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、ギターのフレーズや、ベースの音程の動くタイミングが推進力になって、ドライブ感が溢れる1曲です。楽曲が前に進んでいく力が、みなぎっています。

 3曲目「Water Wings」は、イントロから感情が吹き出したかのようなギターが曲を先導。ともに歪んだ2本のギターと、タイトなリズム隊、開放感のある高音ボーカルが一丸となって迫ってくる1曲。

 4曲目の「Driveway To Driveway」は、各楽器が絡み合うアンサンブルが心地よい、ミドルテンポの1曲です。ところどころ声が裏返りそうなギターのサウンドも、アクセントになって耳に残ります。

 10曲目「Revelations」は、嵐の前の静けさのようなイントロから、途中でテンポも音量も上がるコントラストが鮮やかな1曲。ドラムの立体的な音もかっこいい。

 サウンドもアンサンブルもオーバー・プロデュースにならず、ロックのかっこいい部分を凝縮したようなアルバムです。ここまでの3作と比べて、楽曲の幅やアレンジには洗練も感じます。しかし、前の3作が劣っているというわけでも、本作がメジャー的な作風になったというわけではありません。

 あくまで地に足が着いたかたちで、自分たちの音楽を追求する姿勢が、音にも滲み出た1作です。

 





Dead Kennedys “Fresh Fruit For Rotting Vegetables” / デッド・ケネディーズ『暗殺』


Dead Kennedys “Fresh Fruit For Rotting Vegetables”

デッド・ケネディーズ 『暗殺』
発売: 1980年9月2日
レーベル: Alternative Tentacles (オルタナティヴ・テンタクルズ), Cherry Red (チェリーレッド)

 カリフォルニア州サンフランシスコのパンク・バンド、デッド・ケネディーズのデビュー・アルバムです。最初はイギリスのCherry Redレーベルから発売され、その後メンバーのジェロ・ビアフラが設立したレーベル、Alternative Tentaclesからもリリースされています。

 英語のアルバム・タイトルは『Fresh Fruit For Rotting Vegetables』ですが、日本盤には『暗殺』という邦題がつけられていました。

 現代的なハイファイ・サウンドと比較すれば、やや奥まった印象のあるサウンドですが、そんなことは気にならなくなるほど、初期衝動で突っ走るアルバムです。あまりアンサンブルがどうこうとか、サウンド・プロダクションがどうこうとか言うアルバムではなく、エモーションと疾走感が溢れた1作。

 テンポが速いことに加えて、バンド全体が塊になって迫ってくるような一体感があります。また、直線的に突っ走るだけではなく、演奏には確かな技術力も感じられるバンドです。

 1曲目は「Kill The Poor」。「ボーカルの声が唯一無二」と言われることが多いこのバンド、確かにやや演説っぽいというべきなのか、絶妙にビブラートがかかり、聴き手をアジテートするような魅力のある声です。ハイテンポではないものの、各楽器のプレイには随所に推進力となるようなフックがあり、アンサンブルも機能的にまとまった1曲だと思います。

 2曲目「Forward To Death」は、1分20秒ほどの長さの、疾走感あふれる1曲。と言っても、このアルバムに収録の14曲中6曲は2分未満です。イントロからドラムがリズムを刻み、ギターとベースが追いかけっこをするように走り抜け、聴き手をハイテンポな曲に引きずり込んでいきます。

 7曲目「Chemical Warfare」は、再生時間1:56あたりで3拍子に切り替わる部分にも意外性があります。当該部分のユーモアたっぷりのボーカルの歌い方もアクセント。曲のラストはカオスになってから、カウントを取り直してきっちり終わるなど、展開が多彩。

 8曲目の「California Über Alles」は、イントロから、立体的なドラムが響きわたり、ギターとベースも鋭くリズムを刻んでいきます。声の奥からビブラートをかけたようなボーカルも印象的。

 勢いを重視した、疾走感あふれるアンサンブルが展開される1作です。しかし、前述したとおり、全て8ビートの直線的な曲が続くわけではなく、演奏力の高さをうかがわせます。

 また、ロカビリーやカントリー、ロックンロールなど、彼らのルーツと思われる音楽の要素も隠すことなく感じられ、パンク一辺倒ではない多彩さもある作品です。ボーカルの声も魅力的。リスナーの背中を押すような、アジテートするような空気を持った声です。

 現代的な音圧高め、レンジ広め、輪郭くっきりのサウンドから比較すると、音圧不足でモヤっとしたサウンドと感じる方もいるかもしれません。しかし、そんな意識を吹き飛ばすぐらいの気合いと勢いの充満したアルバムです。