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Father John Misty “God’s Favorite Customer” / ファーザー・ジョン・ミスティ『ゴッズ・フェイヴァリット・カスタマー』


Father John Misty “God’s Favorite Customer”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『ゴッズ・フェイヴァリット・カスタマー』
発売: 2018年6月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Rado (ジョナサン・ラドー), Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン), Dave Cerminara (デイヴ・サーミナラ), Trevor Spencer (トレヴァー・スペンサー)

 メリーランド州ロックヴィル出身のシンガーソングライターであり、マルチ・インストゥルメンタリスト、ジョシュ・ティルマン。彼がファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースする、4作目のアルバム。

 ティルマン自身に加え、インディー・ロック・デュオ、フォクシジェン(Foxygen)のジョナサン・ラドーなど、数名のプロデューサーを招いて、制作されています。

 ファーザー・ジョン・ミスティという人も、魅力を言語化して伝えるのが、なかなか難しい人です。しばしば言及されるのが、彼のソング・ライティング、つまり作曲能力について。

 本作も、メロディーと言葉が中心に据えられ、歌が中心にあるアルバムと言っていいでしょう。多様な音楽ジャンルが顔を出す、カラフルなアンサンブルの中で、メロディーの魅力が前景化された作品となっています。

 伴奏があって歌がある、という主従関係のハッキリした構造の音楽は、個人的にあまり好きではありません。しかし、本作は別。というより、メロディーを際立たせるような伴奏ではあるのですが、単純に従っているわけではなく、歌のメロディーとバンドのアンサンブルが、溶け合うように機能しているのが、本作の魅力のひとつです。

 1曲目の「Hangout At The Gallows」では、ゆったりとしたテンポに乗って、ボーカルとバンドが同じリズムで揺れるように、躍動的なアンサンブルが展開します。アコースティック・ギターとドラム、パーカッションのみの隙間の多いアンサンブルからスタート。その後、徐々に楽器と音数が増えていきますが、ボーカルがエモーショナルに歌い上げると、バンドも同じように盛り上がり、一体の生き物のような、有機的な演奏となっています。

 2曲目「Mr. Tillman」では、イントロから、ボーカルも文字どおりバンドの一部となり、立体的でカラフルなアンサンブルを構成するのに貢献。その後も、メインのメロディーと並行して、厚みのあるコーラスワークが、全体を包み込んでいきます。

 3曲目「Just Dumb Enough To Try」は、ピアノとボーカルが中心に据えられたバラード。ピアノとボーカルが対等に向き合う冒頭から、続いてギターのアルペジオと、リズム隊が加わり、穏やかに動く古時計のような演奏が展開します。

 4曲目「Date Night」は、サイケデリックな空気が充満したバンド・アンサンブルに合わせて、エフェクトのかかったボーカルが、酩酊的にフレーズを重ねていきます。どこか不安点なアコースティック・ギターや、ドタバタした立体的なドラムなど、実験的でありながら、同時にカラフルでポップな楽曲。

 7曲目「Disappointing Diamonds Are The Rarest Of Them All」は、ベースが全体を鼓舞するようにフレーズを弾き、バンドも揺らぎを伴って躍動していく、ミドルテンポの1曲。

 8曲目「God’s Favorite Customer」は、音数を絞ったミニマルな演奏ながら、ゆるやかなグルーヴ感がある、牧歌的で心地よい1曲。カントリー風のポップスのようでもあるし、フォーク・ミュージックのようにも響きます。

 10曲目「We’re Only People (And There’s Not Much Anyone Can Do About That)」は、アコーディオンの伸びやかな音に導かれ、ゆったりとその場に浸透していくような、柔らかなサウンドを持った1曲。次々と音が折り重なり、音符の数は詰め込まれていないものの、ロングトーンを活かした伸びやかなサウンドが充満していきます。

 前述したとおり、歌が中心に据えられたアルバムです。歌の世界観に合わせて、バンドのサウンドも、多種多様な音楽ジャンルを飲み込んでいて、カラフル。

 歌のメロディーとバンドのアンサンブルが有機的に結合した、一体感のある音楽が、アルバムを通して、次々とくり広げられます。

 また、随所でルーツ・ミュージックの面影は感じるのに、元ネタをハッキリとは特定しにくく、ジャンルレスな雰囲気を持っています。このあたりのバランス感覚が、モダンな空気を併せ持つことに、繋がっているのでしょう。

 ファーザー・ジョン・ミスティのソング・ライターとしての能力と共に、プロューサーとしての能力も、存分に感じられる1作です。

 





Germs “(GI)” / ジャームス『ジー・アイ』


Germs “(GI)”

ジャームス 『ジー・アイ』
発売: 1979年10月
レーベル: Slash (スラッシュ)
プロデュース: Joan Jett (ジョーン・ジェット)

 1976年に結成された、ロサンゼルス最初期のパンク・バンド、ジャームスの1stアルバムであり、唯一のスタジオ・アルバム。アルバム・タイトルの『(GI)』は、「Germs Incognito」の略語で、彼らが用いていた別名です。

 プロデューサーを務めるのは、女性ロック・バンド、ザ・ランナウェイズ(The Runaways)のメンバーだったジョーン・ジェット。

 LAパンク・シーンの出発点とも言えるバンドですが、前述のとおり本作が、彼らが残した唯一のスタジオ・アルバム。ボーカルのダービー・クラッシュ(Darby Crash)が、1980年12月7日に自ら命を絶ってしまうためです。その日は奇しくも、ジョン・レノンが射殺される前日。

 また、ギターのパット・スメア(Pat Smear)は、のちにニルヴァーナのツアー・メンバーや、フー・ファイターズ(Foo Fighters)のメンバーとして、活躍しています。

 この時代のパンク・バンドらしく、シンプルなロックンロールを下敷きにした部分もありますが、そこをハミ出す要素も大きいのが、ジャームスの魅力。スピード重視のハードコアを思わせる楽曲があったり、アンサンブル重視のポスト・ハードコアを思わせるアプローチがあったりと、初期パンクの枠組みに収まらない音楽を展開しています。

 1曲目「What We Do Is Secret」は、前のめりに疾走していく、アルバムのスタートにふさわしい1曲。再生時間は、わずか44秒。

 4曲目「Richie Dagger’s Crime」は、イントロの立体的なギター・アレンジが印象的な、直線的ではない、複雑なアンサンブルを持った1曲。ハードコアも飛び越えて、ポスト・ハードコアを彷彿とさせる演奏が展開します。

 5曲目「Strange Notes」は、パワフルにドタバタと疾走するリズム隊に、ギターのねじれたフレーズが絡みつく、ハイテンポの1曲。足がもつれるのも気にせず走り抜けるような、疾走感に溢れた演奏。

 9曲目「Our Way」では、ざらついたジャンクな歪みのギターに、立体的なベースとドラムが重なり、すき間が多いながら、各楽器が絡み合うように、アンサンブルが構成されます。

 12曲目「The Other Newest One」は、イントロからギターとドラムが鼓動のようにリズムを刻み、その下を縫うようにベースが動き回る1曲。立体的なアンサンブルと対応するように、ボーカルのメロディーも、なめらかに動き回ります。

 ライヴ・レコーディングによる16曲目の「Shut Down (Annihilation Man)」は、10分近くに及ぶスローテンポのブルース。淡々と刻んでいくリズム隊に、音を染み渡らせるようなディストーション・ギター、ダークでアングラ臭満載のボーカルが絡みます。中盤以降は、ギターが自由にアヴァギャルドなフレーズを弾き始め、よりアングラ感が増加。

 前述したとおり、LAパンクの出発点とも言える本作。しばしば、ハードコア・パンクの最初のアルバムのひとつ、とも言及されます。

 その言葉どおり、一部の曲でのハイテンポの疾走感と、シャウトと歌の中間のようなクセのあるボーカルからは、ハードコア・パンクの香りが漂います。

 しかし、スピード重視のハードコアかと言えば、それだけではなく、のちのポスト・ハードコアやノイズ・ロックに繋がるアレンジが、随所に散りばめられています。

 ギターのパット・スメアが、ニルヴァーナやフー・ファイターズに参加したことも象徴的ですが、パンクの枠にとどまらない音楽性を有していたからこそ、パンク・バンドのみならず、オルタナティヴ・ロックを含む多くのバンドに影響を与えたのでしょう。

 あとは、ジャケットのデザインも、あまりパンクらしくありませんよね。むしろ、ニュー・ウェーヴを彷彿とさせる、コンセプチュアルなデザインです。

 





Fastbacks “New Mansions In Sound” / ファストバックス『ニュー・マンションズ・イン・サウンド』


Fastbacks “New Mansions In Sound”

ファストバックス 『ニュー・マンションズ・イン・サウンド』
発売: 1996年6月18日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの通算5枚目のスタジオ・アルバム。レコーディング・エンジニアは、前作『Answer The Phone, Dummy』に引き続き、ピート・ジェラルドが担当。

 疾走感あふれるポップなパンク・サウンドと、カート・ブラックの個性的なギタープレイ、女性ツイン・ボーカルによる多彩なコーラスワークが魅力のファストバックス。

 1stアルバムから、安定して良質の作品を作り続けてきた彼らですが、5作目となる本作でも、ハードとポップが高次に共存した音楽を繰り広げています。ポップで親しみやすいメロディーが、ノリの良い疾走感あふれるアンサンブルの上に乗り、随所にテクニカルなギターフレーズが散りばめられ、非常にカラフル。

 1曲目「Fortune’s Misery」は、ハードに歪んだギターと、女声ボーカルが交錯するコーラスワークを中心に、各楽器が絡み合う、躍動するアンサンブルが魅力の1曲。サウンド的にはハードなのに、キラキラとしたポップさを持ち合わせています。再生時間1:00過ぎからの間奏でも、ギターを主軸に据えた有機的なアンサンブルが繰り広げられます。

 2曲目「Which Has Not Been Written」は、回転するような高速ドラムのイントロに導かれ、疾走感抜群の演奏が展開する、1分ほどのパンク・チューン。

 3曲目「No Information」は、メロディアスなギターが疾走していく、メリハリのある1曲。パンキッシュな演奏ですが、前述のギターと、シンセサイザーと思しきサウンドが、楽曲をカラフルに彩っていきます。プレシデンツ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(The Presidents Of The United States Of America)や、ラヴ・バッテリー(Love Battery)での活動で知られる、ドラマーのジェイソン・フィン(Jason Finn)が参加。

 4曲目「I Know」は、ギターの立体的なフレーズのイントロに導かれ、厚みと一体感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目と7曲目は、それぞれ「5 5 5 Part One」と「5 5 5 Part Two」。いずれも高速なリズムに乗って、スピード感重視で駆け抜けるパンキッシュな楽曲。

 8曲目「Stay At Home」は、6分を超える壮大な1曲。前半はタイトなパンク・サウンドで進行し、再生時間2:15あたりからの中盤はスローテンポの子守唄のような雰囲気、再生時間3:36あたりからの後半はミドルテンポのロックへと、曲調が次々と移行します。

 14曲目「Find Your Way」は、ミドルテンポの郷愁感のある1曲。サウンド・プロダクションもアレンジも奇をてらわずにシンプルですが、キーボードの柔らかなサウンドがアクセントとなり、部分的にサイケデリックな空気も漂います。

 15曲目「Girl’s Eyes」は、イギリスのロックバンド、ザ・フー(The Who)のカバー。原曲に近いアレンジですが、こちらの方がギターの音が激しく歪み、全体のアンサンブルもドタバタした立体感があります。

 3rdアルバム『Zücker』が代表作に挙げられることの多いファストバックスですが、5thアルバムとなる本作『New Mansions In Sound』も、負けず劣らず名盤です。

 必ずしも洗練することが、音楽の魅力の向上ではありませんが、音作りの面でも、アンサンブルの面でも、多彩で間口の広いアルバムに仕上がっています。

 





Fastbacks “Answer The Phone, Dummy” / ファストバックス『アンサー・ザ・フォン, ダミー』


Fastbacks “Answer The Phone, Dummy”

ファストバックス 『アンサー・ザ・フォン, ダミー』
発売: 1994年10月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの4thアルバム。サブ・ポップ移籍後2作目のアルバムで、過去3作のアルバムでレコーディング・エンジニアを務めてきたコンラッド・ウノに代わり、本作ではピート・ジェラルドがレコーディングを担当。

 疾走感あふれる演奏に、女性ツイン・ボーカルによる爽やかなメロディー、ギターのカート・ブロック(Kurt Bloch)の多彩ギタープレイが重なるパワーポップが、デビュー以来一貫したファストバックスの魅力です。

 4作目となる本作でも、これまでの彼らの魅力は損なわず、ややハードロック色の濃くなった、演奏を展開。キャリアを通して、大きな音楽性の変更はおこなわなかったファストバックスですが、やはり作品ごとに色彩の違いがあり、常に真摯に音楽に向き合ってきたスタンスが窺えます。

 1曲目「Waste Of Time」は、うねるようなギターのフレーズと、パワフルなリズム隊が重なる、ハードな音像を持ったミドルテンポのロック・チューン。ギターがボーカルと等しく前景化され、アルバムの幕開けにふさわしい、ハードさとポップさを持ち合わせた1曲です。

 2曲目「On The Wall」は、タイトに疾走するパンキッシュな演奏に、中音域を用いた、粘り気のあるギターフレーズが重なる1曲。前半はパンク色が濃い演奏が続きますが、再生時間1:35あたりからリズムの切り替えがあり、楽曲が多様な表情を見せます。

 3曲目「Went For A Swim」は、バタバタとバンド全体が前のめりに疾走するパンク・ナンバー。溜め込んだパワーが噴出するような、スピード感に溢れた演奏が展開されます。

 4曲目「Old Address Of The Unknown」は、ミドルテンポのメロウな雰囲気ながら、随所でテンポを切り替え、リズムがいきいきと伸縮する躍動感のある1曲。サウンドはハードで厚みがあり、メロディーには子守唄のような親しみやすさがあります。ハードとポップを共存させる、ファストバックスらしい曲だと言えるでしょう。

 8曲目「And You」は、ハードな音質は鳴りを潜め、クリーントーンのギターとキーボードが主軸に据えられた、ギターポップ色の濃い1曲。

 12曲目「In The Observatory」は、タイトにリズムを刻むベースとドラムに、倍音豊かに歪んだギターが重なり、躍動的なアンサンブルを作り上げる1曲。ハードな音像に対して、吹き抜ける風のような美しいコーラスワークが、コントラストをなしています。

 前述したとおり、これまでの作品と比べると、やや全体のサウンド・プロダクションがハードになり、ギターのフレーズにもハードロック的なアプローチが増えた本作。しかし、青春を感じる流麗なメロディーと、バンドの疾走感あふれるアンサンブルは変わらず健在。

 ちなみに、当時発売された日本盤には『電話だよ』という、なんとも言えない邦題がついています(笑)

 





Fastbacks “Zücker” / ファストバックス『ザッカー』


Fastbacks “Zücker”

ファストバックス 『ザッカー』
発売: 1993年2月2日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの3rdアルバム。前作と前々作は、プロデューサーのコンラッド・ウノが運営する、ポップラマからのリリースでしたが、本作から同じシアトルを拠点にするレーベル、サブ・ポップへ移籍。

 サブ・ポップと言えばニルヴァーナを輩出し、グランジ・オルタナ・ブームを牽引した、シアトルの名門レーベルです。レーベルは移籍したものの、レコーディング・エンジニアは前作に引き続き、コンラッド・ウノが担当。レコーディングとミキシングも、彼が所有するエッグ・スタジオ(Egg Studios)で実施されています。

 サブ・ポップ移籍後の初アルバムということもあり、彼らの代表作に挙げられることも多い本作。キャリアを通して、大きく音楽性を変えることはなかったファストバックスなので、本作が他の作品に比べて、圧倒的に優れているという事ではないのですが、人におすすめできるクオリティを備えた作品であるのは事実です。

 彼らの音楽性は、青春を感じる爽やかなメロディーとコーラスワークに、ハードな音色のギターと立体的なリズム隊が重なり、突き抜けるようにポップ。パワフルな音像と、キャッチーなメロディーが溶け合い、音楽が大好きだ!という気持ちに溢れた演奏を繰り広げます。

 本作でも、1曲目の「Believe Me Never」からエンジン全開。ファットに刺々しく歪んだギターと、やや物憂げな飾り気のないボーカルが合わさり、疾走感あふれる演奏が展開されます。キム・ワーニック(Kim Warnick)と、ルル・ガルジューロ(Lulu Gargiulo)の女性2名によるコーラスワークも、楽曲に厚みと彩りをプラス。

 2曲目「Gone To The Moon」は、イントロから鳴り響く、ざらついたギターの音色が印象的な1曲。ドラムが前のめりにリズムを刻み、流れるようなバンドのアンサンブルの上を、曲芸的にボーカルが駆け抜けていきます。

 3曲目は「Hung On A Bad Peg」。この曲でも、ギターのアグレッシヴなサウンドが耳に残ります。前曲とは異なる音作りで、マグマが噴出するように、勢いよく音が飛び出してきます。タイトなリズム隊がアンサンブルを支え、疾走感あふれるポップなパンク・ナンバー。

 5曲目「Never Heard Of Him」は、各楽器が絡み合い、転がるように躍動的なアンサンブルが展開される1曲。各楽器ともファットで激しい音作りですが、キーボードと思われる柔らかな電子音がアクセントとなり、楽曲をカラフルに彩っています。

 6曲目「When I’m Old」は、ささやくようなボーカルと、ギターのアルペジオから始まる、メロウな1曲。ミドルテンポに乗せて、疾走感よりもアンサンブルの構成を重視した演奏が展開されます。一種の教会音楽を思わせる、厚みのあるコーラスワークも秀逸。

 7曲目「All About Nothing」は、前曲に続いて、穏やかな空気を持った、ミドルテンポの1曲。ボーカルも含め、全ての楽器が機能的に組み合い、一体感のあるアンサンブルを作り上げます。

 8曲目「Bill Challenger」は、ギターが唸りをあげ、ハードロック的なフレーズを繰り出していく、1分ほどのインスト曲。メロウな曲が2曲続きましたが、ここで再びパンク・モードへ回帰する、インタールードの役割を担う曲ということでしょう。

 9曲目「Parts」は、無理やり押しつぶしたように、下品に歪んだギターが疾走する、パンク・ナンバー。バンド全体が、ひとつの塊のように迫ってくる、パワフルな演奏。

 10曲目「Kind Of Game」は、乾いた音質のドラムのイントロから、各楽器が絡み合う、タイトで躍動感に溢れたアンサンブルが展開される1曲。リズムが直線的ではなく、軽快に弾むように刻まれていきます。再生時間1:22あたりからのギターソロは、音色もフレーズも、いわゆる「泣きのギター」と呼びたくなるほどにメロディアス。

 12曲目「Please Read Me」は、ビージーズ(Bee Gees)のカバー曲。ゆったりとしたテンポに乗せて、ハーモニーを前景化するオリジナル版からは違い、テンポは抑えめですが、ハードな音作りのパンク風のアレンジ。ですが、美しいメロディーとコーラスワークは引き継ぎ、むしろハードな音像の中で、浮き彫りになっています。

 ファストバックスらしい、パワーポップかくあるべし!という魅力が、存分に詰め込まれたアルバム。メロウな曲もあり、ビージーズのカバーもありと、元々カラフルで楽しい彼らの音楽に、さらなるエッセンスが追加されています。

 前述したように、彼らの代表作に挙がることの多い本作ですが、それも納得のクオリティを備えた1作です。