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Animal Collective “Campfire Songs” / アニマル・コレクティヴ『キャンプファイア・ソングス』


Animal Collective “Campfire Songs”

アニマル・コレクティヴ 『キャンプファイア・ソングス』
発売: 2003年3月
レーベル: Catsup Plate (ケチャップ・プレート), Paw Tracks (ポウ・トラックス)

 一般的に、アニマル・コレクティヴの作品と見なされていますが、実際はアルバム・タイトルと同じ「Campfire Songs」というバンド名で発表された作品です。

 2003年にCatsup Plateというレーベルからリリースされ、その後2010年にPaw Tracksから再発されています。

 「Campfire Songs」という示唆的なアルバム・タイトルのとおり、フィールド・レコーディングされた音源と、アコースティック・ギターを中心に据えた、ミニマルなアンサンブルが溶け合う1作。本当に「溶け合う」という表現がぴったりだと思います。

 電子的なドローンと小刻みなビートが溶け合う、あるいはエレクトリックなサウンドと生楽器のサウンドが溶け合う、という音楽もありますが、本作はフィールド・レコーディングされた自然の音と、演奏される人工的な音楽が、共存した作品です。川や風の音、動物の鳴き声が、人工的な音と混じり合い、共に音楽を作り上げています。

 奏でられる音楽が、フィールド・レコーディングをかき消すことのない音量バランスで、重ねられています。そのため、楽器の音が小さいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

 1曲目の「Queen In My Pictures」では、フィールド・レコーディングされた風と虫の音に、さらにそよ風が吹き抜けるようにアコースティック・ギターが響きます。徐々にギターの音量が上がってくると、アコギとまわりの音が完全に一体化。自然の音なのか、それとも後から重ねられたパーカッションの音なのか、わからなくなってきます。

 「音」と「音楽」の境界が曖昧になり、音楽とは何かを考えさせられる1曲…と書くと敷居が高そうですが、人工音と自然音を公平にあつかい、耳に心地よいサウンドの詰まった1曲です。アンディ・ウォーホルがアートにおいて示したように、ある音に意識を向けさせることで、音を音楽に転化させている面もある曲だと思います。

 2曲目の「Doggy」は、イントロからアコギのコード・ストロークが響きわたる、いきいきとしたリズムを持つ1曲。フィールド・レコーディングの音は、かき消されてしまったかのように感じますが、後景化しただけで奥の方で鳴り続け、サウンドに奥行きをもたらしています。

 4曲目「Moo Rah Rah Rain」は、自然の音と、アコースティック・ギターと歌が、有機的にアンサンブルを形成しているように感じられる1曲。音響を前景化させた曲にも聞こえます。

 5曲目「De Soto De Son」は、自然の音がリズムの一部になり、アンサンブルに参加するかのように、アコースティック・ギターの奏でる音と絡み合う1曲。

 実験的でありながら、同時にポップであることは可能だと示した1作だと思います。「フィールド・レコーディングと演奏の融合」というと敷居が高い、少なくとも、いわゆるポップ・ミュージックとは異なる楽曲である印象を受けます。

 確かに、本作に収録された楽曲は、一般的なポップスとは異なった質を持っています。しかし、全く楽しめない、難解な音楽かというとそうではなく、穏やかな自然の音の延長線上に音楽が鳴っていて、聴いていて非常に心地いいサウンドに仕上がっています。

 正直、僕は初めてこのアルバムを聴いたとき、ピンと来なかったのですが、しばらく時間が経って、ふとしたときに聴いてみたら、ものすごく美しい音楽に聴こえてきたのです。

 実験的な作品であるのは事実で、誰にでも自信を持ってオススメできるかと問われると、そうではないのですが、気になった方には、ぜひとも聴いてほしい作品です。

 





Animal Collective “Here Comes The Indian” / アニマル・コレクティヴ『ヒア・カムズ・ジ・インディアン』


Animal Collective “Here Comes The Indian”

アニマル・コレクティヴ 『ヒア・カムズ・ジ・インディアン』
発売: 2003年6月17日
レーベル: Paw Tracks (ポウ・トラックス)

 メリーランド州ボルティモアで結成されたバンド、アニマル・コレクティヴの1stアルバム。これ以前にも、別名義で3枚のアルバムを発表しているため、実質的に4枚目と数えることもあります。

 また、メンバーのエイヴィ・テア(Avey Tare)が設立したレーベル、Paw Tracksの記念すべきカタログ・ナンバー1番(PAW1)の作品でもあります。

 実験的なサウンドとアレンジを多分に含みながら、カラフルでポップな作品を作り上げるアニマル・コレクティヴ。前述したとおり、本作『Here Comes The Indian』は、アニマル・コレクティヴ名義としては1枚目のアルバムです。

 ノイズとしか思えない音や、アヴァンギャルドな展開も含みながら、全体としてはポップな作品に仕立て上げる、抜群のセンスとバランス感覚を持ったバンドです。本作も、アヴァンギャルドな香りを振りまきながら、騒がしくも楽しい、いきいきとした音楽を鳴らしています。

 1曲目「Native Belle」は、冒頭から雑多な音が飛び交うなか、再生時間1:07あたりから突然バンドの演奏がスタート。ノイズやシャウトなど、ポップとは思えぬ音が四方八方から飛んできますが、そんなことは気にならないぐらいの、圧倒的な躍動感にあふれたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Hey Light」は、展開が目まぐるしい1曲。イントロから叩きつけるようなパワフルなドラムが、定期的に躍動感を響かせ、電子音やギターや声が、次々に重なっていく展開。かなり音が込み入っていますし、ノイズとしか思えないサウンドも入っていますが、それをねじ伏せるほどにアンサンブルの躍動感が圧倒的。

 再生時間3:14あたりからは、ハンドクラップと儀式で歌われるような合唱が始まり、トライバルな雰囲気へ。キャンプファイヤー…というより開拓時代の野外で、焚き火を囲んで歌う曲のようにも聞こえます。ただ、こうした展開に無理やり感が全くなく、「ちょっと変わったポップ・ソング」ぐらいのノリで聴かせてしまうのが、アニマル・コレクティヴの特異なところ。

 4曲目の「Panic」は、声と様々な持続音、打ちつけるドラムの音が重なる、音響的なアプローチの1曲。

 7曲目「Too Soon」は、打ちつける激しいドラム、エフェクトのかかった声、種々の電子音やノイズが飛びかい、絡み合う、アヴァンギャルドな1曲。再生時間1:50から始まる、激しいドラミングが鮮烈。

 アルバムを通して、かなり実験的なアプローチが目立つ作品なのですが、不思議と敷居が高い印象を与えません。それは、ノイジーなサウンドや、複雑怪奇なアレンジを上回るほどの、躍動感や全体の調和といった、音楽の魅力が前景化しているためだと思います。

 アルバムによって作風が異なり、各メンバーのソロ活動にも積極的なアニマル・コレクティヴですが、本作も彼らの音楽的語彙の豊富さ、ポップ・センスの高さを見せつけられる1作です。





Black Dice “Creature Comforts” / ブラック・ダイス『クリーチャー・コンフォーツ』


Black Dice “Creature Comforts”

ブラック・ダイス 『クリーチャー・コンフォーツ』
発売: 2004年6月22日
レーベル: DFA

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ニューヨックのブルックリンを拠点に活動するバンド、ブラック・ダイスの2ndアルバムです。

 ジャンルとしては、エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックに分類されることの多いブラック・ダイス。2枚目のアルバムとなる本作『Creature Comforts』でも、展開されるのは明確な形式を持たない、実験的で自由な音楽です。

1stアルバム『Beaches & Canyons』は、ノイズ色、アンビエント色の濃い作品でしたが、それと比較すると本作は、遥かにポップで聴きやすい音楽になっていると思います。

 前作は音響が前景化され、素材となる音もノイジーなものが多用されていましたが、本作ではビートやアンサンブル(のようなもの)が前面に出てくる曲もあり、音の種類も多彩になっています。カラフルな印象のサウンド・プロダクションを持った1作です。

 1曲目の「Cloud Pleaser」から、奇妙な音も入っていますが、多様な音がカラフルに響き、サウンドも立体的な1曲です。

 2曲目「Treetops」は、イントロからシンセの音なのか、太くうねるようなサウンドによって、ビートが形成されます。そのサウンドをベースに、ギターや人の声のような音など、雑多な音が加わっていき、徐々にカラフルに賑やかになっていく1曲。再生時間3:03あたりから入る音は、一般的な感覚からしたらノイズでしかない音色ですが、ハード・ロックのリフのようにかっこよく響くから不思議。

 6曲目の「Skeleton」は、15分を超える大曲。中盤はクリーントーンのギターと電子音が増殖していき、美しく壮大なサウンドスケープ。目まぐるしく展開があるわけではなく、エレクトロニカのように音響が前景化した曲です。

 アルバム全体を通して聴いても、前作よりも遥かにポップで聴きやすくなった1作だと思います。

 ヴァースとコーラスが循環するような形式を持った楽曲群ではなく、サウンドにもノイズ色はありますが、いきいきとした音楽的な躍動感にも溢れたアルバムです。

 ノイズ然としたノイズよりも、少しチープでジャンクな音を多用しているところも、親しみやすさを増していると思います。

 誰にでもおすすめ!という作品ではないですが、エレクトロニカやポストロックを聴く人には、受け入れられる1作ではないかと思います。

 





Black Dice “Beaches & Canyons” / ブラック・ダイス『ビーチズ・アンド・キャニオンズ』


Black Dice “Beaches & Canyons”

ブラック・ダイス 『ビーチズ・アンド・キャニオンズ』
発売: 2002年7月29日
レーベル: DFA

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身、ニューヨックのブルックリンを拠点に活動するバンド、ブラック・ダイスの1stアルバムです。

 エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックにカテゴライズされることの多いブラック・ダイス。本作も実験的で、時にノイジー、時にアンビエントなサウンドが鳴り響く1枚です。

 1曲目の「Seabird」から、鳥の鳴き声のような高音と、多種多様なノイズが重なり合い、独特の音空間を作り出します。一般的なヴァース=コーラス形式を備えた楽曲ではなく、そういう意味ではポップではありませんが、再生時間2分を過ぎるあたりから、叩きつけるようなビートが登場するなど、展開はあります。

 2曲目の「Things Will Never Be The Same」は、ノイジーで雑多な1曲目「Seabird」から一変して、アンビエントで穏やかな1曲。波の音のようなノイズが押し寄せては引き、中盤以降はビートが入ってくるなど、こちらの曲もミニマルながら展開があります。しかし、音響を重視した曲であるのも事実。

 3曲目「The Dream Is Going Down」は、イントロから多種多様な音が飛び交います。一般的にはノイズとしか言えない音の数々ですが、音の種類が多く、カラフルな印象の1曲。

 4曲目の「ndless Happiness」は、タイトルのとおり穏やかで、優しいサウンドを持った1曲。いつ耳障りなノイズが飛び出してくるのか、と身構えていると、再生時間5:30ぐらいから、躍動感あふれるいきいきとしたドラムがきます。アンビエントな音とドラムのビートが重なり、これは分かりやすくかっこいい!

 前述したとおり、エクスペリメンタル・ロックやノイズ・ロックに分類されるブラック・ダイス。本作も実験的でノイジーな音に溢れ、一般的な意味では全くポップとは言えません。

 しかし、メロディーを追う、リズムに乗る、というような楽しみ方はできませんが、音響が非常に心地いい部分であったり、行き交うノイズかかっこよかったり、と音楽のむき出しの魅力を感じられる部分があります。

 とはいえ、誰にでもすすめられる作品かというと、やはりそうではなく、ある程度リスナーを選ぶ作品であるのは事実です。ノイズやアヴァンギャルドに属する音楽にしては、ポップだと思います。(なんだか矛盾するようですが…)

 僕はけっこう好き!

 





The Faint “Media” / ザ・フェイント『メディア』


The Faint “Media”

ザ・フェイント 『メディア』
発売: 1998年3月24日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: A.J. Mogis (A.J.モギス(モジス, モーギス))

 ネブラスカ州オマハ出身のバンド、ザ・フェイントの1stアルバム。このバンドは、1995年にノーマン・ベイラー(Norman Bailer)という名前で結成され、最初期のごく短い期間ではありますが、ブライト・アイズのコナー・オバーストが参加していました。

 2ndアルバム以降は、シンセをフィーチャーし、ダンス・パンク色が濃くなっていくザ・フェイント。1stアルバムである本作『Media』にもシンセサイザーは使用されており、ダンス・パンクやポストパンク・リバイバルの雰囲気もわずかに持っているものの、ディストーション・ギターが前面に出たソリッドなサウンドを響かせています。

 ドラムも立体感のあるドラムらしい音色。この作品以降は、ドラムも打ち込み的な無機質なビートを用いることが増加します。3rdアルバムの『Danse Macabre』と比較すると、サウンド・プロダクションの違いがよくわかると思います。本作にダンス・パンク色は、ほぼ感じられないと言ってもいいぐらいです。

 本作『Media』で聴かれるのは、1980年代のポスト・パンクやニュー・ウェーヴに影響を受けたポスト・ハードコア、といったバランスのサウンド。スピード重視のハードコアではなく、キーボードも用いて、立体的なアンサンブルを構築したアルバムです。

 2曲目「Some Incrininating Photographs」は、ドラムとギターが立体的に絡み合い、シンセも効果的にアンサンブルに参加する、ミドル・テンポの1曲。ギターとドラムが、特に臨場感あふれる生々しい音で響きます。

 5曲目「Repertoire Of Uncommon Depth」は、ノイジーなギター、硬質でハリのあるベース、手数を絞ったドラムが、イントロから複雑なアンサンブルを構成。全体的に生々しく、切れ味鋭いサウンド・プロダクションです。ギターの音とフレーズからは、アヴァンギャルドな空気も漂う1曲。インディーズらしい質感のかっこよさ。

 前述したとおり、ザ・フェイントはこの作品以降はシンセが多用され、ダンス色を強めていきますが、本作はソリッドで生々しい音像を持った1枚です。

 アンサンブルも、実験的な要素もありながら、ロック的なかっこよさも備えています。リアルな音像と相まって、非常にかっこいい1枚。

 一般的には3rdアルバム『Danse Macabre』の方が、その後のダンス・パンク系バンドへの影響も含めて、代表作と目されることが多いですが、個人的にはこの1stの方が好きです。