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Papa M “Whatever, Mortal” / パパ・M『ホワットエヴァー・モータル』


Papa M “Whatever, Mortal”

パパ・M 『ホワットエヴァー・モータル』
発売: 2001年11月5日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 スリント(Slint)やトータス(Tortoise)への参加でも知られる、ケンタッキー州ルイヴィル出身のギタリスト、デイヴィッド・パホ(David Pajo)がパパ・M名義でリリースする2作目のアルバム。

 パパ・M名義1作目となった前作『Live From A Shark Cage』は、パホが全ての楽器を担当したインスト作品でしたが、2作目となる今作には、ギターとバンジョーにタラ・ジェイン・オニール(Tara Jane O’neil)、ベースとピアノとギターにウィル・オールダム(Will Oldham)が参加した、歌モノのアルバムになっています。

 また、2人のサポート・メンバーを迎えながらも、引き続きパホ自身は、ギター、ベース、ピアノ、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)、キーボード、ハーモニカ、バンジョー、シタール、ドラム、パーカッションと、実に多種にわたる楽器を演奏。さらにレコーディング・エンジニアも自身が務めています。

 前作はアコースティックな音像を持ちつつも、ミニマルで音響を重視したアプローチが目立つポストロック色の濃い作品でしたが、本作はフォーク色がより濃く出た作品。しかし、ただフォークやカントリーのマナーをなぞるだけではなく、随所にポストなアレンジも散りばめられた1作です。

 1曲目「Over Jordan」は、ギターとバンジョーが流れるように絡み合うオーガニックなサウンドに、朴訥としたボーカルが乗る、ルーツ・ミュージックの香り立つ1曲。

 2曲目「Beloved Woman」には、スリントとザ・フォー・カーネーションでパホと活動を共にした、ドラマーのブリット・ウェルフォード(Britt Walford)が参加。ギターは激しく歪み、ドラムはタメを作って躍動感を生み出す、ロック色の濃い1曲になっています。

 3曲目「Roses In The Snow」は、ドラムと弦楽器、ボーカルがゆるやかに絡み合う、立体的なサウンドを持った1曲。

 5曲目「Krusty」は、会話をサンプリングした音と、みずみずしいアコースティック・ギターの音が溶け合う前半から、エレキ・ギターとドラムが入り、インストのポストロックのような演奏を繰り広げる後半へと展開する1曲。

 6曲目「The Lass Of Roch Royal」は、フィールド・レコーディングされた雨が降る音と、雨粒のように粒の立ったピアノとギターの音が溶け合う、メローな1曲。

 8曲目「Glad You’re Here With Me」は、穏やかなアコースティック・ギターとコーラスワークが絡み合う、フォーキーな1曲。間奏のエレキ・ギターとメロディカもアクセントにあり、オルタナティヴな空気を加えています。

 9曲目「Tamu」は、リズムが伸縮するように加速と減速を繰り返しながら、疾走していく1曲。倍音が多く、ねじれたような、ややチープでジャンクなサウンド・プロダクション。

 11曲目「Purple Eyelid」は、アコースティック・ギターと歌を中心にしながら、そのまわりの音が、時にサイケデリック、時にアヴァンギャルドな空気を振りまく1曲。フォークやカントリーをコピーするだけでなく、現代的でポストなアレンジを施すところが、このアルバムの奥行きを広げています。

 前作には無かった歌があるということもあり、音響的な前作に比べて、必然的に歌のメロディーが前面に出てくるアルバムです。しかし、前述したように随所にアヴァンギャルドな要素を忍び込ませ、デイヴィッド・パホという人の音楽的な引き出しの多さが感じられる作品になっています。

 





Circuit Des Yeux “In Plain Speech” / シルキュイ・デ・ジュー『イン・プレイン・スピーチ』


Circuit Des Yeux “In Plain Speech”

シルキュイ・デ・ジュー 『イン・プレイン・スピーチ』
発売: 2015年5月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ペンシルベニア州インディアナ出身の女性ミュージシャン、ヘイリー・フォール(Haley Fohr)のソロ・プロジェクト、シルキュイ・デ・ジューの5枚目のアルバム。彼女は、ジャッキー・リン(Jackie Lynn)の名義でも作品を発表しています。

 「エクスペリメンタル・フォーク」というジャンルにカテゴライズされることもある、シルキュイ・デ・ジュー。このアルバムも、フォーク的なオーガニックな楽器の響きと、アンビエントな電子音が共存した1作です。

 電子音を用いたエレクトロニカ的なサウンド・プロダクションと、繊細かつヴィブラートのかかった叙情的なボーカルが溶け合い、ソング・ライティングを引き立てる楽曲と、アンビエント色が濃く音響が前景化する楽曲が混在し、音楽性の幅の広いアルバムでもあります。

 2曲目の「Do The Dishes」は、回転するようなキーボードのフレーズの上に、叙情的なボーカルが乗る構造。ボーカル無しであったら、エレクトロニカのように聞こえる1曲です。再生時間1:51あたりからはストリングスが入り、曲に壮大さを加えています。再生時間2:16あたりからは、音数が絞られ、ミニマルでアンビエントな雰囲気に。

 3曲目「Ride Blind」は、2曲目からビートがシームレスに繋がり、イントロからしばらくはリズム隊とボーカルのみのシンプルなアンサンブル。その後、ストリングスが入ってくると、曲に奥行きが広がっていきます。再生時間2:15あたりからの展開も、曲に緊張感とスケール感をプラス。

 4曲目「Dream Of TV」は、イントロからフィールド・レコーディングと思しき音がバックに流れ、ミュート奏法によるアコースティック・ギターがリズムを刻む、ミニマルな展開。徐々に音が増加していき、サウンドスケープが広がっていきます。7分以上ある曲だけど、ボーカルが入っている部分はほんの僅か。しかも、いわゆる歌メロではなく「声を楽器として使った」と言った方が適切な1曲です。

 5曲目「Guitar Knife」は、はっきりとしたメロディーやビートは存在せず、音響が前景化したアンビエントな1曲。歌なしのインストで、エレクトロニカ的なアプローチです。

 6曲目「Fantasize The Scene」は、ギターのアルペジオと、高音域のボーカルが、幻想的な雰囲気を作り上げる1曲。

 7曲目「A Story Of This World」。アコースティック・ギターとストリングスの穏やかでオーガニックな響きに合わせ、ボーカルもヴィブラートをたっぷりかけ叙情的にメロディーを歌い上げます。

 アコースティック・ギターやストリングスなど生楽器の響きと、時に繊細な時にノイジーな電子音が溶け合い、幻想的でサイケデリックな雰囲気に包まれた1枚です。幽玄な空気を持ったボーカルも、サウンドと溶け合い、アルバムの世界観を作り上げています。

 実験性を色濃く持ちながら、ソング・ライティングが際立つ楽曲もあり、奥行きのある作品だと思います。

 





Cat Power “The Covers Record” / キャット・パワー『ザ・カヴァーズ』


Cat Power “The Covers Record”

キャット・パワー 『ザ・カヴァーズ』
発売: 2000年3月21日
レーベル: Matador (マタドール)

 ジョージア州アトランタ出身の女性シンガーソングライター、キャット・パワーことショーン・マーシャルの5枚目のアルバム。『The Covers Record』というタイトルのとおり、カバー曲集です。日本語では『ザ・カヴァーズ』と表記することが多いようです。

 伴奏は、アコースティック・ギターかピアノのみ。シンプルでミニマルな耳ざわりですが、その楽曲のメロディーがむき出しになり、ショーン・マーシャルの声が自ずと前面に出るアルバムです。

 カバー・アルバムというと、オリジナル・アルバムとは毛色の違う作品になるのは当然ですが、本作はむしろキャット・パワーのオリジナリティが、色濃く出た1作と言えます。

 ローリング・ストーンズやボブ・ディラン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなど、多彩なアーティストの曲を取り上げていますが、原曲がわからないほどに、大胆にアレンジが施されています。

 「アレンジ」と言うと、バンドのアンサンブルを再構築したような印象を与えるかもしれませんが、本作は弾き語りスタイルの演奏。原曲のアレンジメントから、とことん引き算をして音数を絞り、声とメロディーのみの内省的な世界観を作り上げています。

 1曲目に収録されたローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No) Satisfaction」を例にとっても、確かにストーンズのあの曲だということは認識できるのですが、ギターと歌のみのアンサンブルには隙間が多く、彼女の声とむき出しの楽曲が、ダイレクトに聴き手に浸透します。

 少し枯れた物憂げな声で、余裕を持ったスローテンポで進んでいくアルバムですが、冷たいという印象は無く、人の声と楽器の暖かみが感じられる1作です。

 とはいえ、前述したとおり、かなり音数が少なくミニマルで、サウンドが華やかなわけではないので、聴く人を選ぶアルバムであるのも事実だと思います。展開されるのは、とにかく無駄なものを削り、ストイックに絞り込まれ、凝縮された音楽です。

 しかし、本来は触れることのできない楽曲の核となる部分が、目の前に差し出されるようで、ハマる人はハマるアルバムであるのも確か。音数は少ない、言い換えればサウンドの情報量は少ないのに、音楽としての強度は強い、そんな作品です。

 





Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise” / スフィアン・スティーヴンス『イリノイ』


Sufjan Stevens “Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise”

スフィアン・スティーヴンス 『イリノイ』
発売: 2005年7月4日
レーベル: Asthmatic Kitty (アズマティック・キティ)

 ミシガン州デトロイト出身のシンガーソングライター、スフィアン・スティーヴンスの5枚目のスタジオ・アルバム。タイトルは『Illinois』とのみ表記されることもあります。

 アメリカ全50州それぞれのコンセプト・アルバム制作をうたった、スフィアン・スティーヴンスの「50州プロジェクト」(The Fifty States Project)。前作『Greetings From Michigan The Great Lake State』(ミシガン)に続く、プロジェクト2作目が本作『Sufjan Stevens Invites You To: Come On Feel The Illinoise』(イリノイ)です。

 しかし、50枚のアルバムを完成させることなく、プロジェクトは今作で終了。スフィアンは、このプロジェクトはジョークだったと認めています。

 ミシガンをテーマにした前作は、多種多様な楽器とジャンルを組み合わせた、スフィアン・スティーヴンスのポップセンスが光るアルバムでした。本作も、彼のポップセンスがいかんなく発揮された1作であることは間違いないです。

 前作と比較すると、より楽器の音色がカラフルに、実験性の増したアルバムと言えます。ミニマル・ミュージックや実験音楽を感じさせる要素や、前作以上にオルタナティヴなアプローチが目立つアルバムですが、できあがった音楽はどこまでもポップです。

 1曲目「Concerning The UFO Sighting Near Highland, Illinois」は、流れるような躍動感のあるピアノを、オーボエとフルートと思われる笛の音が追いかける1曲。

 2曲目「The Black Hawk War, Or, How To Demolish An Entire Civilization And Still Feel Good About Yourself In The Morning, Or, We Apologize For The Inconvenience But You’re Going To Have To Leave Now, Or, “I Have Fought The Big Knives And Will Continue To Fight Them Until They Are Off Our Lands!”」は、イントロから様々な楽器と人の声が、不思議なハーモニーを作り上げます。

 随所に違和感のあるアレンジなのに、完成された音楽は、ポップでカラフルに響きます。スフィアンのこのあたりのポップ感覚は本当に見事。あと、タイトルがとにかく長いですね…。

 3曲目は「Come On! Feel The Illinoise!」。この曲は1トラック扱いですが、クレジットでは「Part I: The World’s Columbian Exposition」と「Part II: Carl Sandburg Visits Me In A Dream」、ふたつのパートのタイトルも記載されています。

 イントロから、ピアノなのかオルガンなのか、ふくよかな音色の鍵盤が響きます。多くの楽器が参加し、有機的でノリのいいアンサンブルを展開していきますが、様々なジャンルの香りがするのに、ひとつのジャンルに特定するのは難しい、不思議な魅力にあふれたポップ・ソングです。

 クラシックの香りもするし、ジャズのようなスウィングもあり、ロック的なダイナミズムも感じる。そして、できあがっている音楽は、心地よい極上のポップス。そんな1曲だと思います。

 9曲目の「Chicago」は、ヴィブラフォンの柔らかなサウンド、壮大なストリングス、躍動感あふれるバンドのアンサンブルが融合する、生命力を感じるいきいきとした1曲。曲名は、CDでは前述のとおり「Chicago」、アナログ盤では「Go! Chicago! Go! Yeah!」という表記になっています。

 22曲、74分収録のボリュームたっぷりのアルバムですが、無駄に長いわけではなく、多種多様なジャンルを消化し、スフィアン自身のポップ・ミュージックを作り上げた、すばらしい作品です。

 雑多なサウンドやジャンルを、極上のポップ・ミュージックに仕上げるセンス。しかも、聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、彼独自のオリジナリティを持った曲に仕上げるセンスには、脱帽です。





Sufjan Stevens “Greetings From Michigan The Great Lake State” / スフィアン・スティーヴンス『ミシガン』


Sufjan Stevens “Greetings From Michigan The Great Lake State”

スフィアン・スティーヴンス 『ミシガン』
発売: 2003年7月1日
レーベル: Asthmatic Kitty (アズマティック・キティ)

 ミシガン州デトロイト出身のシンガーソングライター、スフィアン・スティーヴンスの3枚目のスタジオ・アルバム。タイトルは『Michigan』とのみ表記されることもあります。

 「50州プロジェクト」(The Fifty States Project)と称して、アメリカ50州それぞれをコンセプトにしたアルバムを制作すると宣言したスフィアン・スティーヴンス。本作『Greetings From Michigan The Great Lake State』は、50州プロジェクトの記念すべき1作目であり、彼の故郷であるミシガン州をテーマにしたアルバムです。(結果的には、2枚のアルバムのみリリースし、終了してしまうプロジェクトなのですが…)

 アコースティック・ギターを中心にした、フォーキーなサウンドを基本としながら、多種多様な楽器の音が色合いをプラスし、実験的なアレンジも忍ばせた、インディーらしい音楽が展開されます。非常に優れたポップ・センスで完成された1枚。

 また、スフィアンはマルチ・インストゥルメンタリスト(マルチプレイヤー)としても知られ、本作でもギター、ベース、ピアノ、バンジョー、オーボエ、フルートなど、実に多種におよぶ楽器を操っています。

 1曲目「Flint (For The Unemployed And Underpaid)」は、ピアノとボーカルの染み入るような1曲。間奏を彩るトランペットの音色が、曲に広がりをもたらしています。

 2曲目「All Good Naysayers, Speak Up! Or Forever Hold Your Peace!」は、音数はそこまで詰め込まれていないのに、イントロから各楽器が、折り重なるように立体的なアンサンブルを構成する1曲。ヴィブラフォンの音色が心地いい。

 3曲目「For The Widows In Paradise, For The Fatherless In Ypsilanti」は、バンジョーを使ったノスタルジックな雰囲気。しかし、カントリー1色の曲というわけではなく、再生時間2:03あたりからホーンが入ってくる部分では、多層的にロングトーンが重なる、音響的なアプローチも感じられます。

 8曲目「Detroit, Lift Up Your Weary Head! (Rebuild! Restore! Reconsider!)」は、イントロから多種多様な楽器が用いられ、カラフルでキュートなアンサンブルが繰り広げられる1曲。非常にポップで楽しい曲ですが、アンサンブルと展開には緻密さが溢れ、聴きごたえもあります。

 アルバム全体を通して、バラエティに富んだ楽曲が揃った作品です。フォークやカントリーをはじめ、クラシックやインディ-・ロックなど様々なジャンルの音楽が混じり合い、極上のポップ・ミュージックに結実しています。

 スフィアン・スティーヴンスという人のたぐいまれな才能、ポップセンスが溢れた1作。