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Sam Prekop “Who’s Your New Professor” / サム・プレコップ『フーズ・ユワ・ニュー・プロフェッサー』


Sam Prekop “Who’s Your New Professor”

サム・プレコップ 『フーズ・ユワ・ニュー・プロフェッサー』
発売: 2005年3月8日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ザ・シー・アンド・ケイクのギター・ボーカル、サム・プレコップの2枚目のソロ・アルバムです。

 穏やかな歌ものアルバムでもあり、同時にカラフルで奥深いアンサンブルが展開される、スリル・ジョッキーの作品らしいアルバムと言えます。

 1曲目「Something」は、歌とギターを中心にした、穏やかなギター・ポップのような聴感。多種多様な楽器の音が控えめに入ってきて、サウンドも鮮やか、アンサンブルにも奥行きがあります。アルバム全体を通して言えることですが、全てのサウンドが有機的に絡み合う、カラフルでポップな1曲です。

 2曲目「Magic Step」。独特のハネたリズムのパーカッションから、ボサノバのような雰囲気も漂うイントロ。各楽器が折り重なり、緩やかにグルーヴしていきます。再生時間0:26あたりからのジャズを感じさせる、細かくリズムを刻むドラムも加速感を演出しています。いわゆるポリリズムとは少し違う感覚で、各楽器のリズムがレイヤーのように重なる1曲。

 6曲目の「Little Bridges」は、鼻声のようにワウのかかったギターが耳に引っかかる、かわいらしい雰囲気の1曲。

 10曲目「Density」は、ジャズやボサノバを感じさせる…というより、ロックを感じさせないアンサンブルが心地よい1曲。ドラムのタイム感が絶妙です。

 非常にポップなのに、音楽の情報量が多く、聴きごたえのある1作だと思います。ワウを使ったギターや、ウッドベースと思われるふくよかなサウンドのベース、ミュートを使用したコルネットなど、全体のサウンドはキュートで穏やか。

 しかし展開される音楽には、多種多様なジャンルやアプローチが含まれ、長く付き合えるアルバムだと思います。

 





The Promise Ring “Nothing Feels Good” / ザ・プロミス・リング『ナッシング・フィールズ・グッド』


The Promise Ring “Nothing Feels Good”

ザ・プロミス・リング 『ナッシング・フィールズ・グッド』
発売: 1997年10月11日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のエモ・バンド、ザ・プロミス・リングの2ndアルバムです。

 疾走感とエモーションの溢れる、若さはじける1枚。なのですが、単にスピード重視で加速していくだけでなく、ギターのフレーズやアンサンブルに、効果的に曲を加速し、前進させていく技巧がいくつも見つかります。

 エモいボーカルと、疾走感あふれるリズムにのるだけでも十分に楽しめるアルバムですが、アンサンブルにも工夫が見られるところが本作の、そしてこのバンドの魅力です。

 1曲目は「Is This Thing On?」。感情が吹き出したかのような、疾走感のあるイントロ。ボーカルが入ってきてからのドラムの絶妙なタメ、再生時間0:26あたりからの両チャンネルに振り分けられた2本のギターなど、段階的にスピード感を増していくアレンジが、随所に仕掛けられています。

 4曲目の「Why Did Ever We Meet」は、バンド全体がぴったりと縦を揃えたイントロから、曲が進むにつれて、各楽器がはみ出したり、またピタリと合わせたり、コントラストが鮮やかな1曲。

 7曲目「A Broken Tenor」。立体的に響くドラム、高音が耳に刺さるギター、硬質なサウンドのベース。まず各楽器のサウンドがかっこよく、それら全てが有機的に絡み合うアンサンブルも秀逸な1曲。

 前述したように、感情そのままに突っ走る部分と、機能的なアンサンブルが両立したアルバムです。若さ溢れるエモーショナルなボーカルと疾走感、緻密さを感じるアレンジがバランスよく共存しています。

 まずは彼らのエモさに身を任せ、それからアレンジをじっくり堪能しましょう。

 





Songs: Ohia “The Magnolia Electric Co.” / ソングス・オハイア『ザ・マグノリア・エレクトリック・カンパニー』


Songs: Ohia “The Magnolia Electric Co.”

ソングス・オハイア 『ザ・マグノリア・エレクトリック・カンパニー』
発売: 2003年3月3日
レーベル: Secretly Canadian (シークレットリー・カナディアン)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 オハイオ州オバーリン出身のシンガーソングライター、ジェイソン・モリーナのソロ・プロジェクトである、ソングス・オハイアの7枚目のアルバムであり、最後のアルバムです。レコーディング・エンジニアは、スティーヴ・アルビニ。

 このあとジェイソン・モリーナは、ソロ名義と並行し、本作のアルバム・タイトルにもなっているマグノリア・エレクトリック・カンパニー(Magnolia Electric Co.)というバンドを結成し、作品を発表していきます。

 カントリーやブルースの要素も感じさせながら、バンドのサウンドとアンサンブルはルーツ・ミュージックの焼き直しではなく色彩豊か。バンドのカラフルでいきいきとしたグルーヴの感じられる1作です。

 1曲目「Farewell Transmission」は、ゆったりとしたテンポで始まり、緩やかにグルーヴ感が生まれていく1曲。牧歌的な雰囲気の、穏やかなカントリー風の曲ですが、エレキ・ギターのフレーズとサウンドが、彩りを加えています。

 3曲目「Just Be Simple」。にじむような柔らかなギターとキーボードの音が、空間に染み渡っていくイントロ。再生時間0:28あたりでボーカルとフルバンドが入ってきても、イントロで聞こえたギターとキーボードは、ヴェールのように優しく全体を包んでいます。

 7曲目の「John Henry Split My Heart」は、イントロから立体的で生命力に溢れたアンサンブルが構成される1曲。ドラムの迫力ある響きは、大地が躍動するような印象。6分を超える曲ですが、次々と展開があり、飽きさせません。

 ルーツ・ミュージックへのリスペクトが感じられるサウンドを持った1作。ですが、アレンジとサウンド・プロダクションには、現代的な響きが感じられます。

 ルーツ・ミュージックを、オルタナティヴ・ロックやポストロックの手法で再解釈する、というのはUSインディーロックに散見される方法論ですが、本作はルーツ・ミュージックのフォームはそのままに、現代的なフレーズやサウンドを散りばめた1枚、という印象です。

 





The Good Life “Album Of The Year” / ザ・グッド・ライフ『アルバム・オブ・ザ・イヤー』


The Good Life “Album Of The Year”

ザ・グッド・ライフ 『アルバム・オブ・ザ・イヤー』
発売: 2004年8月10日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 カーシヴ(Cursive)などの活動でも知られる、ティム・カッシャー(ケイシャー)が率いるバンドの3枚目のアルバム。

 ラウドなサウンドと、エモーショナルなボーカルが全面に出たカーシヴとは異質の、アコースティック・ギターを中心とした、穏やかで暖かいサウンドを持ったバンドです。

 1曲目「Album Of The Year」は、アコースティック・ギターとメロディーが、穏やかな空気と共にみずみずしく流れ出る1曲。感情を抑えつつ、奥には熱いエモーションを予感させるボーカルが、淡々とメロディーを紡いでいきますが、再生時間2:23あたりからドラムとパーカッションがトライバルなリズムを刻み始めると、途端に立体的な雰囲気に。

 3曲目「Under A Honeymoon」は、ゆったりとしたテンポの、牧歌的な空気が漂う1曲。ですが、再生時間1:02あたりからの開放的でグルーヴィーな展開、ストリングスの導入など、徐々に心地よくテンションを上げていきます。

 7曲目の「October Leaves」は、イントロから、空間を満たすようなふくよかなベースと、スペーシーなギターが漂う、音響が前景化した1曲。そこから少しずつ音数が増え、ビート感とバンドの躍動感も比例して増していきます。

 8曲目「Lovers Need Lawyers」は、電子的なキーボードのサウンドと、ソリッドで立体的なドラム。アルバムの中では、音像のはっきりした、ロック色の濃い1曲。

 アコースティック・ギターを中心に、カントリーやフォークを感じさせる耳ざわりでありながら、適度にオルタナ性も忍ばせる1曲。予定調和的に、安易に轟音ギターや実験的アプローチを用いない、バランス感覚に優れたアルバムだと思います。

 





Cursive “The Ugly Organ” / カーシヴ『ジ・アグリー・オルガン』


Cursive “The Ugly Organ”

カーシヴ 『ジ・アグリー・オルガン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Mike Mogis (マイク・モギス (モジス, モーギス))

 現在のネブラスカ州オマハのインディーズ・シーンの源流的な人物、ティム・カッシャー(ケイシャー)(Tim Kasher)が率いるバンドの4枚目アルバム。

 エモーションが爆発するボーカルと、直線的に突っ走るだけではないアレンジとサウンドが融合した1枚。疾走感があり、エモーショナルでありつつも、ストリングスやオルガンの使用など、それだけにとどまらない音楽的なレンジの広さがあるアルバムです。

 2曲目の「Some Red Handed Sleight Of Hand」では、イントロからバンドが波のように上下しながら躍動します。バンドだけでも十分に疾走感とグルーヴがあるのに、ストリングスがさらなる厚みをプラス。歌が入ってきてからも、緊張感を煽るように迫るストリングス、不安を醸し出すようなフリーなキーボードなど、様々なサウンドが塊となって押し寄せます。

 しかし、音楽の中心はあくまでエモーショナルなボーカル。そのボーカルを、さらに後押しすよるように分厚いアンサンブルが形成されています。2分弱しかないのに、情報量が多くスケールの大きい1曲です。

 4曲目「The Recluse」は、クリーントーンのギターとバイオリンが絡み合うメローな1曲。再生時間1分過ぎからの間奏の、音数を絞り、弾きすぎないエレキ・ギターも良い。

 6曲目「Butcher The Song」。立体的に響きわたるドラムと、フレーズにもハーモニーにも、不協和な響きを持つギターによるイントロ。その後はバイオリンも入り、ポストロックやマスロックを思わせる違和感たっぷりのアンサンブルを聞かせます。個人的に、かなりお気に入りの曲。こういう違和感を魅力に転化させるような曲が好きです。

 9曲目の「Harold Weathervein」は、スリルと緊張感を演出するストリングスのフレーズと、フィールド・レコーディングされた音源、感情を抑えた陰鬱なボーカル、バンドの演奏が、レイヤー上に重なり、溶け合っていく1曲。再生時間0:50あたりからの壮大でドラマチックな展開が、めちゃくちゃかっこいいです。

 エモーショナルなボーカルを中心にした歌ものでありながら、ストリングスが大活躍、バンドのアンサンブルにはメタルやプログレ、エモ、ポストロック、カントリーやフォークの要素まで感じられる、多彩なアルバム。

 こんなバンドが大都市ではない街で、インディペンデント・レーベルと共に活動しているというのがまた、USインディーズの奥深さです。