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Jim O’Rourke “Insignificance” / ジム・オルーク『インシグニフィカンス』


Jim O’Rourke “Insignificance”

ジム・オルーク 『インシグニフィカンス』
発売: 2001年11月19日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク), Jeremy Lemos, Konrad Strauss

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる3枚目のアルバム。アルバム作品以外では、前作『Eureka』と本作『Insignificance』の間に、4曲入りのEP『Halfway To A Threeway』を発売しています。

 ドラッグ・シティ過去2作のアルバムは、全体の耳ざわりとしてはフォークやカントリーを感じさせる、アメリカーナな音像を持っていましたが、本作はロックな方向へ舵を切った1作と言えます。

 と言っても、現代的なラウドなディストーション・ギターを全面に押し出したアルバムという意味ではなく、50~60年代のオールドロックを、現代的に再解釈したアルバムと言った方が適切です。そういう意味では、素材としてピックアップした音楽は異なりますが、過去2作と方法論は近いとも言えます。

 1曲目「All Downhill From Here」から、パワフルで臨場感あふれるサウンドのドラムと、中音域の豊かなほどよく歪んだギターが、グルーヴしていきます。ジムの暖かみのある声は、ロックには不向きと思えますが、この曲では感情を抑えたクールな歌唱が、古き良きロックンロールの香り立つ演奏と、絶妙にマッチしています。

 2曲目「Insignificance」は、ギターとヴィブラフォンが、1枚の織物のようにアンサンブルを編み込んでいく1曲。随所の聴こえる不思議な電子音のようなサウンドもアクセントになっています。再生時間0:56あたりから入ってくるエレキ・ギターのフレーズも、音の運びが裏返ったようなサイケデリックな空気をふりまきながら、曲のなかにぴったりと馴染んでいます。いくつもの違和感が、すべて音楽のフックへと転化していく、ジム・オルークらしい展開。

 3曲目の「Therefore, I Am」は、イントロからハード・ロック的に歪んだギターが響きます。しかし、そのままロックのサウンドや形式を借りるだけでは終わらないのがジム・オルーク。再生時間1:45あたりからの様々な楽器が重層的に連なるアレンジなどに、彼のねじれたポップ感覚が垣間見えます。

 7曲目「Life Goes Off」は、イントロからアコースティック。ギターを中心に、オーガニックなサウンドが響きます。そこから、再生時間1:29あたりからの細かくリズムを刻むドラムなど、変幻自在のサウンドやフレーズが、次々と顔を出す1曲です。

 アルバム全体を通して聴くと、ラウドなギターが響く前半、ドラッグ・シティでの前2作に通ずるアコースティックな後半、という流れになっています。

 前2作に比べて、ディストーション・ギターのサウンドが加わったことにより、サウンド・プロダクションの印象は大きく変わっています。しかし、様々なサウンドやジャンルの要素を組み合わせ、全く新しいポップ・ミュージックを作り上げる、ジムのセンスは変わっていません。

 本作も、ラウドな音をルーツ・ミュージックや電子音楽と溶け合わせた、極上のポップ・ミュージックが響くアルバムであると言えます。





Jim O’Rourke “Eureka” / ジム・オルーク『ユリイカ』


Jim O’Rourke “Eureka”

ジム・オルーク 『ユリイカ』
発売: 1999年2月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる2枚目のアルバム。

 フリー・インプロヴィゼーションや音響的な作品、ノイズや現代音楽など、実に多種多様な音楽を生み出すジム・オルーク。とっつきにくい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、シカゴの名門インディペンデント・レーベル、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップです。

 しかし、耳にやさしく聴きやすい音楽であるのと同時に、ジム・オルークの音楽的教養の深さ、知識の豊富さが感じられる、広大な世界観を持った作品でもあります。

 本作『Eureka』は、カントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、古き良きアメリカン・ポップス、さらに電子音を使った音響的なアプローチやフレンチ・ポップまで、多種多様な音楽が、現代的な手法で再構築した1枚です。

 言語化すると、なんだか小難しそうですが、できあがった音楽はどこまでも優しく、音楽の心地いい部分だけを素材として使い、凝縮したようにポップです。

 アルバム1曲目の「Prelude To 110 Or 220 / Women Of The World」では、イントロからフィンガー・ピッキングによる、ナチュラルなアコースティック・ギターの音が響きます。しかし、ギターが鳴っているのは主に右チャンネル。左チャンネルからは、電子音のような響きが近づいてきます。両者は絶妙に溶け合い、全体として、とても心地よい響きを生み出すから不思議。

 さらに再生時間0:20あたりで、視界が大きく開けるように、楽器の数が増え、カラフルで開放的なアンサンブルとサウンドを構成します。このあとも、ジムの優しい歌声が加わったり、1:48あたりからギターと電子音が絡み合うように旋律を紡いだりと、次々と風景が変わるように、展開していく1曲です。8分を超える曲ですが、全く冗長な印象はありません。

 3曲目「Movie On The Way Down」は、音数が少なく、レコード針のノイズのような音が持続する、アンビエントなイントロから、徐々に音楽が姿をあらわしていきます。様々な音が重なり合い、幻想的な音世界を作り上げていく1曲。

 4曲目の「Through The Night Softly」は、スティール・ドラムの響きがかわいらしい1曲。音の配置を変えれば、もっとアヴァンギャルドな印象の曲になりそうですが、一般的なヴァース-コーラス形式とは違うものの、進行感も感じられ、ポップな曲に仕上がっています。

 6曲目の「Something Big」は、ピート・バカラックのカバー。こんなところにも、ジムの過去の音楽への深いリスペクトが感じられます。

 前述したように、非常にポップで、楽しいアルバムです。しかも、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、新しさにも溢れた1作。

 様々な音楽を、再解釈し組み上げるセンスからは、ジム・オルークの音楽的語彙の豊富さと、音楽への深い愛情が伝わります。深い意味で、ポップな作品です。こういう作品が、もっと売れる世界になってほしい。(世界中で十分に売れた作品ですが…)





Jim O’Rourke “Bad Timing” / ジム・オルーク『バッド・タイミング』


Jim O’Rourke “Bad Timing”

ジム・オルーク 『バッド・タイミング』
発売: 1997年8月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルーク。彼の音楽活動は非常に多岐にわたり、ジャンルを特定するのは不可能…というより、彼のような音楽家を前にすると、あらためてジャンル分けの難しさを痛感します。

 本作『Bad Timing』は、ジム・オルークがDrag Cityからリリースした1作目のアルバム。これ以前の彼は、フリー・インプロヴィゼーションやミニマル・ミュージックなど、一般的に敷居が高いと思われる音楽をクリエイトしており、本作が普段ロックやポップスを聴いているリスナーにも受け入れられるであろう初の作品です。

 それでは実際にこの作品で、どんな音が鳴っているのかと言えば、カントリーなどアメリカのルーツ・ミュージックと、インプロヴィゼーションや実験音楽が溶け合い、ポップ・ミュージックとして結実しています。

 オーガニックな音色のアコースティック・ギターを中心に据え、ジム・オルークの幅広い音楽的教養が、随所に顔を出すアルバムです。…と書くと、なにやら難しいイメージを持たれるかもしれませんが、重要なのはこの作品が、大変にポップだということ。

 1曲目の「There’s Hell In Hello But More In Goodbye」は、これもジムの代名詞のひとつであるフィンガー・ピッキングによる、アコースティック・ギターの流れるような美しい旋律から始まります。(ちなみにフィンガー・スタイルのギター・ミュージック「American primitive guitar」というジャンルが存在し、ジムはその名手です。)

 時間が伸縮するように、自由にメロディーを紡いでいくギター。そこにはインプロヴィゼーションの香りも漂います。再生時間0:45あたりから加速し、1:16あたりでまたイントロのフレーズに戻る展開など、どこまでが予定調和で、どこまでが即興なのか、そんな疑問が意味をなさないほどに自由で、いきいきと躍動する音楽が溢れでてきます。

 2曲目の「94 The Long Way」も、哀愁を漂わせるイントロのギターから、徐々に楽器が増え、目の前に次々に風景が広がる1曲。アコースティック・ギターとペダル・スティール・ギターの響きが牧歌的な空気を作りながらも、いくつもの楽器が重層的に加わっていき、ジャンルレスでポップなアンサンブルを編み込んでいきます。

 3曲目「Bad Timing」も、フィンガー・ピッキングによるギターから幕を開けます。再生時間3:13あたりから、音が拡散するように増加し広がっていく展開は、サイケデリックかつ多幸感が溢れる音世界を作り出していきます。

 4曲目の「Happy Trails」は、イントロから重層的で厚みのあるサウンドが押し寄せ、眼前に音の壁が立ちはだかるかのよう。ノイズ的な持続音と、ナチュラルなギターの音色がレイヤー状に重なり、全体としては非常に心地いい耳ざわりになっているのが不思議。

 4曲収録で、およそ44分。ヴァース-コーラス形式を持った、いわゆる歌モノのアルバムではありませんが、耳自体に直接染み入ってくるような、ポップな音が満載の1作です。前述したとおり、敷居の高いと思われるジャンルの要素も含むものの、できあがった音楽はどこまでもポップ。

 聴いていると、風景が目に浮かび、音楽と共に変化していくような、実にイマジナティヴな音楽です。美しく楽しい音楽が詰まっていますから、難しく考えず、自由な気持ちで味わっていただきたい1枚です。





Cap’n Jazz “Analphabetapolothology” / キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ)『アナルファベータポロソロジー』


Cap’n Jazz “Analphabetapolothology”

キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ) 『アナルファベータポロソロジー』
発売: 1998年1月8日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 ティムとマイクのキンセラ兄弟をはじめ、後にJoan Of ArcやThe Promise Ring、 Make Believe、American Footballといったバンドでも活動するメンバーたちが集った伝説的なバンド、キャップン・ジャズ。そんな彼らのほぼ全ての音源を網羅した2枚組のアンソロジー盤が、本作『Analphabetapolothology』です。

 発売されたのは1998年ですが、収録されている楽曲がレコーディングされたのは1993年から1995年の間。1993年というと、ティムは19歳、マイクは16歳(!)です。

 そんな情報を抜きにしても、みずみずしい感性と、若さがはじける疾走感に溢れたエモ全開の1枚。ですが、直線的なスピード感のみというわけではなく、随所にポストロック的な複雑なアプローチや技巧も垣間見えます。

 ただ、やはりこのバンドが全面に押し出しているのは、みずみずしい感性とエヴァーグリーンなメロディーであるのも事実。そして、なんといっても、ところどころ音程のあやしい部分もあるボーカルの声がエモい。

 a-haの「Take On Me」のカバー、『ビバリーヒルズ高校白書』(Beverly Hills, 90210)のテーマ曲「Theme To ‘90210’」も収録されています。

 前述したとおりアンソロジー盤であるので、通常のアルバムのように曲順通りにどうこうという作品ではないのですが、Disc1の1曲目「Little League」から、バンド全体で駆け抜けていくようなスピード感あふれる曲で始まります。

 完全に塊になって進むというより、それぞれがもつれ合いながら走るようなラフさのある1曲。再生時間1:45あたりから、一旦テンションを落として休憩するようなアレンジもコントラストを演出していて、勢いだけではないことを感じさせます。

 Disc1の2曲目「Oh Messy Life」では、絡み合うような、もつれるような2本のクリーントーン・ギターのイントロから、爆音のサビへと展開。6曲目の「Yes, I Am Talking To You」は、轟音と静寂が目まぐるしく循環する、ダイナミズムの大きさとコントラストが鮮烈な1曲。

 前述したとおり13曲目にはa-haのカバー「Take On Me」が収録。有名な曲なので、原曲との差異を認識しやすいと思いますが、80年代の空気満載のあの曲が、エモコアに昇華されています。再生時間1:45あたりから入ってくるピアノもアクセント。

 2枚組で34曲収録というボリュームですが、通しで聴いてみると、リズムには直線的なだけではないフックがあり、サウンド面でも、暴力的な歪みのギターと、はずむようなクリーントーンのギターを適材適所で使いわけるなど、音楽的なアイデアの豊富さと柔軟さを感じさせます。

 だけど、やっぱりこのバンドの一番の聴きどころは、若さが弾けるみずみずしい演奏と、ボーカリゼーションです。極上のエモ作品としても、その後のシカゴ・シーンの源流のひとつとしても、価値ある作品だと思います。

 ただ、このアルバム2018年3月現在の時点では、残念ながらデジタル配信はされていないようです。





Archer Prewitt “Wilderness” / アーチャー・プレヴィット『ウィルダーネス』


Archer Prewitt “Wilderness”

アーチャー・プレヴィット 『ウィルダーネス』
発売: 2005年1月25日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea And Cake)のギタリストとしても知られる、アーチャー・プレヴィット4枚目のソロ作。様々な楽器を導入し、カラフルでにぎやかな音とアンサンブルで溢れていた、前作『Three』。それと比較すると、今作はより歌にフォーカスし、シンプルな音が響きます。

 前作『Three』も、各楽器がナチュラルで混じり気のないサウンドを持っていましたが、今作はアコースティック・ギターを中心に据えて楽器の数を絞った分、さらにオーガニックな印象が増しています。また、アルバム全体が帯びる雰囲気としても、フォーク色が濃くなっています。メロディーも前作より哀愁を感じるものが多く、歌が前景化されています。

 アコースティック・ギターを中心としながら、弾き語りのようなアレンジではなく、ゆるやかにバンド全体が躍動するような、グルーヴ感のある1枚でもあります。

 2曲目「Leaders」では、早速アコギ、ベース、ドラムが、わずかにスウィングする心地いいアンサンブルを展開。ドラムの絶妙なタメと、ボーカルのメロディーとの関係性も、音楽のフックになっています。

 7曲目「Think Again」には、ヴィブラフォンが使用され、アコースティック・ギターとのサウンドの溶け合いが心地いい1曲。

 9曲目「O, Lord」は、アコギを中心にゆったりとしたイントロから始まり、再生時間0:30あたりから突然ドラムが連打で入ってきます。フォーキーなサウンドながら、静と動のコントラストが鮮烈。

 前述したように、前作『Three』はカラフルでポップなアルバムでしたが、今作『Wilderness』はそれと比較すると、よりルーツ・ミュージックの香り漂う作品です。前作が7色のアルバムだとすると、今作はジャケットのデザインに近い、アイヴォリーや薄い茶色のイメージ。

 しかし、今作は地味で退屈なアルバムかというと、そんなことは全くなく、アコースティック・ギターの響きだけでも多彩で、グルーヴ感も持った作品です。歌の強さという意味でも、今作の方が表現に深みがあると思います。あとは好みの問題ですが、僕個人は前作『Three』の方が好きですね。