Polvo “In Prism”
ポルヴォ 『イン・プリズム』
発売: 2009年9月8日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)
1990年にノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたバンド、ポルヴォ。1997年に4thアルバム『Shapes』発売後、翌年の1998年に友好的に解散します。
しかし、2008年に再結成。本作は2009年にリリースされた、前作から12年ぶりとなる5thアルバムです。再結成の際に、ドラムはブライアン・ウォルズビー(Brian Walsby)から、ブライアン・クアスト(Brian Quast)に交代。
クアストは、バニラ・トレインレック(Vanilla Trainwreck)やチェリー・ヴァレンス(The Cherry Valence)といったバンドにも参加しています。
初期はローファイ色が濃かったポルヴォ。5作目となる本作では、ローファイ要素は無く、ソリッドなサウンド・プロダクションで、タイトなアンサンブルが展開します。前作から12年を経て、再結成して作り上げた作品なので、サウンド面での大幅な変化も、当然と言えば当然なのかもしれません。
これまでとの違いを挙げると、例えばギターの音色はジャンクでアングラ色の濃い、ざらついたり、つぶれたような耳ざわりのサウンドが主力であったのに、本作ではハードロック的な硬質でソリッドなサウンドへと変化。チープでアングラ臭の漂う音質から、ロックのダイナミズムを直線的に感じやすいパワフルな音質になった、とも言い換えられます。
とはいえ、彼らの特徴であった、意外性のあるアレンジは健在。一聴すると、硬派はポスト・ハードコアと呼べる音楽が展開されますが、ねじれたセンスのフレーズやサウンドが随所で聞こえます。
1曲目「Right The Relation」では、イントロから、やや捻れた印象的なギターリフが鳴り響き、それを追いかけるように、地面を揺らすようなドラムが続きます。タイトで立体的なアンサンブルの上に、メロディアスな歌メロが乗り、以前のポルヴォにはあまり感じられなかったバランスの1曲。
2曲目「D.C. Trails」は、ゆったりとしたテンポの中で、各楽器が絡み合ってアンサンブルを構成していく1曲。ゴリゴリにグルーヴするわけではなく、ボーカルも含めて、バンド全体が緩やかに躍動していきます。
3曲目「Beggar’s Bowl」では、地面を揺らすようなパワフルなサウンド・プロダクションで、複数のギターが絡み合う、タイトで複雑なアンサンブルが展開されます。
4曲目「City Birds」は、弦が緩んだようなイントロのギターに導かれ、ミドルテンポに乗せて、ゆるやかにグルーヴするアンサンブルが編み上げられていきます。ボーカルの歌い方とメロディーは、スポークン・ワードのような、呪術的とも言える雰囲気を持っており、ややサイケデリックな1曲。
6曲目「Dream Residue / Work」は、アンビエントなイントロから始まり、各楽器が有機的に絡みながらアンサンブルを構成する、ポストロック色の濃いナンバー。
7曲目「The Pedlar」は、ファニーなフレーズを弾くギターと、硬質なサウンドでハードにリフを繰り返すギターが、対等の立場で向き合い、ハードさとチープさの共存した音楽を作り上げます。途中から導入される柔らかな電子音もアクセント。
12年ぶりのアルバムということで、時代性もあるのでしょうが、前作から比較すると、音圧の面では遥かに向上しています。音楽の内容も、ソリッドなサウンド・プロダクションを活かした、機能的でタイトなアンサンブルが展開。
しかし、かつてのポルヴォの魅力であった、ローファイな音像や、東洋風味のアレンジは後退し、個人的には没個性的なバンドになってしまったな、という感想を持ちました。
とはいえ、作品としてクオリティが低いというわけでは決してなく、ポストロック、マスロックの要素も備えた、複雑なアンサンブルをコンパクトに聞かせる、良作であるとは思います。