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Bear Hands “Burning Bush Supper Club” / ベアー・ハンズ『バーニング・ブッシュ・サパー・クラブ』


Bear Hands “Burning Bush Supper Club”

ベアー・ハンズ 『バーニング・ブッシュ・サパー・クラブ』
発売: 2010年11月2日
レーベル: Cantora (カントラ)
プロデュース: Chuck Brody (チャック・ブロディ)

 2006年にニューヨーク市ブルックリンで結成されたポストパンク・バンド、ベアー・ハンズの1stアルバム。

 ちなみにギター・ボーカルのディラン・ラウ(Dylan Rau)は、ウェズリアン大学在学中に、MGMTの2人とクラスメイトだったとのこと。その縁で、大学キャンパス内でおこなわれたMGMTのライブのオープニングテン・アクトを、ベアー・ハンズが務めたこともあります。

 ギター・サウンドとシンセ・サウンドが共存し、立体的でドタバタしたドラムがリズムを刻む、ポストパンクらしいサウンドを持ったこのバンド。前述のMGMTにも繋がる、シンセをフィーチャーしながら、グルーヴ感のあるアンサンブルを響かせます。また、本作をリリースしているカントラは、MGMTの最初のEP『Time To Pretend』をリリースしたレーベルでもあります。

 1曲目の「Crime Pays」から、ドラムが立体的にレコーディングされた、はずむようなサウンドが飛び出してきます。このドラムの音が、まずかっこいいですね。端正にリズムを刻むピアノと、浮き上がるような裏声を駆使したボーカル。電子音も加わり、カラフルなサウンドを作り上げています。

 2曲目「Belongings」は、ドラムが刻む軽快なリズムに、他の楽器が絡みつくように合わさり、ゆるやかな躍動感と疾走感の生まれる1曲。リズムが直線的に走り抜けるのではなく、スキップするように弾んでいるところも、耳をつかみます。

 3曲目「What A Drag」は、各楽器がレイヤー状に重なりながら、はずむようにリズムを刻み、縦も横も立体的な1曲。

 5曲目「Tablasaurus」は、パーカッションのトライバルなビートから始まり、楽器とボーカルが加わると、アンサンブルが立体的かつカラフルに展開。トライバルな空気と、シンセサイザーの華やかなサウンドが溶け合った1曲。

 6曲目「Julien」は、個人的に、このアルバムのベスト・トラックだと思う1曲。躍動感あふれるドラムに、ギターやボーカルが覆い被さるように重なり、グルーヴィーなアンサンブルを作り上げていきます。再生時間1:51あたりからのパワフルなドラム、再生時間2:11あたりからの開放的なギターなど、シフトを切りかえるように、段階的に盛り上がっていくアレンジも秀逸。

 8曲目「Blood And Treasure」は、イントロからギターがフィーチャーされた、コンパクトにまとまった疾走感あふれるロック・チューン。タイトにリズムを刻むドラムと、図太いサウンドでパワフルにフレーズを弾くベースによるリズム隊が、躍動するアンサンブルを支え、盛り上げます。

 立体的でいきいきとしたアンサンブルと、多様な音が登場するカラフルなサウンド・プロダクションを持ち合わせているところが、このアルバムの最大の魅力だと思います。

 また、単純な8ビートよりも、ハネたリズムの曲が多く、トライバルな雰囲気すら漂うのですが、シンセサイザーをはじめとした音色がカラフルに楽曲を彩り、ポップでダンサブルに仕上げています。トライバルなリズムは、非ロック的なリズムと言い換えてもいいのですが、ワールド・ミュージックからの影響を感じさせるところも、ポストパンクらしいアプローチと言えるでしょう。

 1990年代後半から、ポストパンク・リバイバル(Post-punk revival)という言葉で括られることになる、多くのバンドが登場しました。(こういう言葉やジャンル名で音楽を括ることに、無理があるのは百も承知ですが…)

 その中でベアー・ハンズの個性は何かというと、シンセ・ポップ的なカラフルなサウンド・プロダクションと、やや意外性のある非ロック的なリズムを、不可分に融合し、極上のポップスとして成り立たせているところだと思います。

 





The Babies “Our House On The Hill” / ザ・ベイビーズ『アワー・ハウス・オン・ザ・ヒル』


The Babies “Our House On The Hill”

ザ・ベイビーズ 『アワー・ハウス・オン・ザ・ヒル』
発売: 2012年11月13日
レーベル: Woodsist (ウッドシスト)
プロデュース: Rob Barbato (ロブ・バルバート)

 フォーク・ロック・バンド、ウッズのベーシストとしても知られるケヴィン・モービー(Kevin Morby)と、ガールズ・パンク・バンド、ヴィヴィアン・ガールズ(Vivian Girls)のギター・ボーカルとしても知られるキャシー・ラモーン(Cassie Ramone)。

 そんな2人が中心となって結成されたバンド、ザ・ベイビーズの2ndアルバム。前作『The Babies』は、カリフォルニア州のレーベル、Shrimperからのリリースでしたが、本作はウッズのメンバーが設立したレーベル、 Woodsistからのリリース。

 ローファイ風味のロックが展開された1stアルバムの『The Babies』から比較すると、アンサンブルはややタイトに、またコーラスワークとギターの使い方は、時にギターポップを彷彿とさせるほど、ポップでカラフルになっています。

 ただし、ギターのサウンドは、アンプ直結で作り上げていると思われる、チャラチャラとしたシンプルで飾り気のない音作り。音色ではなく、アンサンブルと曲調によって、楽曲ごとに異なるカラーを生み出しています。

 本作では4人のメンバーに加えて、ティム・プレスリー(Tim Presley)がギターとオルガンで数曲に参加。6曲目「Mean」にはサックス、12曲目「Wandering」にはチェロが加わっています。また、プロデューサーを務めたロブ・バルバートも、一部の曲でオルガンを弾いており、人数と楽器の数の面でも、前作より増加。音数が増えたことも、アルバムの多彩さの一助になっていると言えるでしょう。

 3曲目「Mess Me Around」は、2本のギターが絡み合うように疾走していく、コンパクトにまとまったロック・チューン。ケヴィンのクールでややざらついたボーカルからは、ガレージの香りも漂いますが、ギターの音作りは極めてシンプルなクリーン・トーン。若干のアングラ感を持ちながらも、ギターポップのように聴きやすいサウンド・プロダクションとなっています。

 キャシーがメイン・ボーカルを取る5曲目「Baby」は、彼女のアンニュイな声質も相まって、ローファイ風味のドリームポップといった様相の1曲。

 アルバムの最後を飾る12曲目の「Wandering」では、アコースティック・ギターとチェロがフィーチャーされ、ローファイな音質ながら、牧歌的なカントリーと、チェンバー・ミュージックの雰囲気も併せ持つ1曲となっています。

 2018年6月現在、解散は発表していないものの、本作以降にリリースも無く、活動停止状態にあるザ・ベイビーズ。フロントを務めるケヴィン・モービーとキャシー・ラモーンは、それぞれソロで活動しており、両名ともバンドのフロントに立てる優れたミュージシャンです。そんな2人の溶け合う個性が感じられるのも、このアルバムの魅力のひとつ。

 





The Babies “The Babies” / ザ・ベイビーズ『ザ・ベイビーズ』


The Babies “The Babies”

ザ・ベイビーズ 『ザ・ベイビーズ』
発売: 2011年2月14日
レーベル: Shrimper (シュリンパー)
プロデュース: Jarvis Taveniere (ジャービス・タベニエール)

 2009年にニョーヨーク市ブルックリンで結成されたバンド、ザ・ベイビーズの1stスタジオ・アルバム。本作リリースまでに、自主制作のカセットテープを2本リリースしています。

 テキサス州生まれ、カンザスシティ育ち。地元カンザスのブルー・ヴァレー・ノースウェスト高校(Blue Valley Northwest High School)を中退後の2006年、18歳でニューヨークにやってくるケヴィン・モービー(Kevin Morby)。

 ニュージャージーで生まれ育ち、2004年、18歳の時にプラット・インスティテュート(Pratt Institute=ニューヨークにある非営利高等教育機関)で学ぶため、ニューヨークに引っ越してくるキャシー・ラモーン(Cassie Ramone)。

 そんな2人が2008年に、ブルックリンでルームメイトとして出会い、翌2009年に結成されたのがザ・ベイビーズです。当時、キャシー・ラモーンは、ブルックリンを拠点にするパンク・バンド、ヴィヴィアン・ガールズ(Vivian Girls)としても活動。ケヴィン・モービーは、ベーシストとしてフォークロック・バンド、ウッズに参加するところでした。ちなみに本作のプロデュースを担当しているのは、ウッズのメンバー、ジャービス・タベニエール。

 ヴィヴィアン・ガールズとウッズ。音楽性は異なるものの、ローファイ気味のサウンドを持っている点では、共通している両者。メンバーが所属しているバンドの音楽性を元に、ザ・ベイビーズの音楽を評価するというのは、もちろん単純化が過ぎますが、共通している部分があるのも事実です。

 キャシーとケヴィンが、ツイン・ボーカルおよびツイン・ギターを担うザ・ベイビーズ。ローファイな音質に乗せて、コンパクトにまとまったパンキッシュなロックが展開されます。

 スピード重視で音圧の高いパンク・ロックではなく、あくまで音楽的にも音質的にも、ローファイで緩やかな空気を持ったアルバムで、アンサンブルもきっちりタイトなわけではなく、ドタバタ感があります。テクニックや高度なアンサンブルよりも、キャシーとケヴィンのクリエイティヴィティが前景化した作品と言えるでしょう。

 ローファイの魅力というのは、メロディーやグルーヴの最もコアな部分が、むき出しになるところにあると思うのですが、本作もメロディーやアンサンブルが持つ、シンプルな魅力に溢れています。

 ザ・ベイビーズは本作に続き、2012年に2ndアルバム『Our House On The Hill』をリリース。しかし、その後はキャシーとケヴィンのソロ活動が活発になり、2018年6月現在、解散はしていないものの、実質的に活動停止状態となっています。

 





They Might Be Giants “Lincoln” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『リンカーン』


They Might Be Giants “Lincoln”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『リンカーン』
発売: 1988年9月25日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 1982年に結成され、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの2ndアルバム。タイトルの「リンカーン」とは、彼らが育ち出会った、マサチューセッツ州の街の名前です。

 前作『They Might Be Giants』では、2人のメンバーが多重録音と打ち込みを駆使して、ほぼ全ての楽器を演奏していましたが、2作目となる本作でもその方針は変わりません。

 主な担当楽器は、ジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)が、ギター、トランペット、グロッケンシュピール、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)。ジョン・リネル(John Linnell)が、アコーディオン、キーボード、オートハープ、サックス、クラリネット。ボーカル、作曲、打ち込みのプログラミングは、2人とも務めます。唯一のサポート・ミュージシャンは、3曲目の「Lie Still, Little Bottle」でドラムを担当するケネス・ノーラン(Dr. Kenneth Nolan)。

 ややローファイなサウンドで、ギターポップ色が強く、カラフルで親しみやすい音楽を作り上げた前作。本作では、カラフルで雑多な部分が引き継ぎつつ、アンサンブルはよりタイトに、深みと精度を増しています。

 先ほど挙げたとおり、アコーディオンやメロディカなど、一般的なロック・バンドがあまり使わない楽器を用いて、実験性とポップさを持ち合わせた、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げます。

 1曲目「Ana Ng」は、ギターとドラムがタイトにリズムを刻んでいく1曲。イントロはストイックに音数が絞られていますが、再生時間0:36あたりから軽快に疾走するところや、アクセントのように絶妙に差し込まれるアコーディオンなど、1曲目から彼らの音楽の深さが十分に感じられます。

 2曲目「Cowtown」は、イントロからサックスが鳴り響き、アヴァンギャルドな雰囲気を持った1曲。しかし、難しい曲というわけではなく、ジャンクなパートと、カラフルに緩やかにグルーヴするパートが交互の訪れ、全体の耳ざわりは非常にポップです。

 3曲目「Lie Still, Little Bottle」では、前述のとおりサポート・メンバーがドラムを担当。ドラムの立体的なリズムを筆頭に、歩き回るようなベース・ライン、アクセント的に挿入されるトランペットとサックスなど、ジャズの香りが漂う1曲です。

 4曲目「Purple Toupee」は、ほどよく歪んだギターとシンセサイザーが前面に出た、疾走感あふれるギターポップ。

 5曲目「Cage & Aquarium」は、下の方からパワフルに響くフロアタムと、ファニーな音色のギター、カラフルなコーラスワークが重なる、1分ほどの曲。

 8曲目「Mr. Me」は、様々な音が飛び交うカラフルでポップな1曲。アコーディオンや口笛のような音など、一般的なロックでは使用されない音が、楽曲を親しみやすく、鮮やかにしています。

 9曲目「Pencil Rain」は、行進曲のようなリズムに乗せて、ボーカルがダンディーにメロディーを歌い、まわりではポップかつアヴァンギャルドな音が飛び交う1曲。再生時間1:21あたりから信号音のように聞こえるキーボードらしき音など、実験的な要素も含んでいるのに、全体としては非常にポップな仕上がりなのは、彼らならではのバランス感覚。

 10曲目「The World’s Address」は、ピアノがフィーチャーされ、ラテンの香り漂う1曲。しかし、再生時間1:30あたりからのギター・ソロからは、ジャンクでローファイな空気も漂い、ただジャンルを借りてくるだけではありません。サックスの音色もアクセントになっていて、楽曲を多彩にしています。

 15曲目「Shoehorn With Teeth」は、サックスとアコーディオン、ボーカルがいきいきとしたアンサンブルを繰り広げる、民謡的な耳ざわりの1曲。

 16曲目「Stand On Your Own Head」は、オートハープと思われるサウンドが弾むように鳴り響く、ブルーグラスを彷彿とさせる1曲。躍動感と疾走感もあり、ポップで楽しい空気に溢れています。

 18曲目「Kiss Me, Son Of God」は、ストリングスが導入され、ボーカルと共に、厚みのあるハーモニーを作り上げる1曲。クラシック寄りの荘厳な雰囲気にはならず、ほどよくポップで軽さを持った、曲に仕上がっています。

 多種多様な楽器と音楽ジャンルを参照しながら、オリジナリティを失わず、極上のポップスを聴かせてくれるのが、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツです。2作目となる本作では、前作以上に多くの音楽ジャンルの要素を感じさせながら、カラフルで親しみやすい、そして一貫性のあるアルバムを作り上げています。そのポップ・センス、バランス感覚が、本当に素晴らしいバンドです。





They Might Be Giants “They Might Be Giants” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』


They Might Be Giants “They Might Be Giants”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』
発売: 1986年11月4日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 マサチューセッツ州リンカーンで出会い、10代の頃から仲が良かったジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)とジョン・リネル(John Linnell)により結成された2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ。本作は彼らの1stアルバムで、通称「ピンク・アルバム」(The Pink Album)とも呼ばれます。

 また、ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneが契約した2つ目のバンドであり、同レーベル2枚目のアルバムでもあります。(1枚目は、レイジ・トゥ・リブ(Rage To Live)の1stアルバム『Rage To Live』)

 前述したとおり、2人組のバンドであり、レコーディングやライブではサポート・メンバーを迎えることもあるものの、本作ではほとんど全ての楽器を2人で演奏しています。例外は、13曲目の「Boat Of Car」で、マーガレット・セイラー(Margaret Seiler)がリード・ボーカルを、14曲目の「Absolutely Bill’s Mood」では、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーン(Eugene Chadbourne)
がギターを務めています。

 それ以外は、メンバー2人で全ての楽器を担当。本作での主な担当楽器は、フランズバーグが、ギター、ベース、ハーモニカ。リネルが、アコーディオン、キーボード、シンセベース、サックス。作曲とボーカルは2人とも担当し、ドラムとベースは打ち込みも使用されています。

 そんな2人が鳴らすのは、様々な音が散りばめられた、カラフルでポップな音楽。アコーディオンや電子音など、ギター以外の音色が重用され、ややローファイ風味の親しみやすいサウンド・プロダクションも欠点ではなく、魅力に転化してします。

 1曲目「Everything Right Is Wrong Again」から、歪んだギターと、チェンバロのような倍音たっぷりの音色のキーボードが、軽快に疾走する1曲。再生時間0:58あたりからはテンポを落とし、空間系エフェクターのかかったギターがサイケデリックな空気を振りまきます。さらに、再生時間1:40あたりから元のテンポに戻ると、ピコピコ系の電子音が加わって、おもちゃのようなサウンドになり、色鮮やかな展開。

 2曲目「Put Your Hand Inside The Puppet Head」は、ドラムマシーンが刻むタイトなリズムに、テクノポップ的な電子音が絡み合う1曲。軽さを持ったボーカルも、バックのサウンドとマッチしていて、ポップな世界観を作り上げます。

 3曲目「Number Three」は、厚みのあるコーラスワークと、アコースティック・ギターのリズムから、カントリーが感じられる1曲。しかし、良い意味でカントリー色が薄く、ポップ色が色濃く出ています。

 5曲目「Hide Away Folk Family」は、イントロからクリーントーンのギターと、口笛のようなサウンドが響き、ボーカルも穏やかで、牧歌的な雰囲気の1曲。ですが、歌詞をじっくり聞いてみると、「隠れて! さもないと捕まっちゃうよ!」というようなことを歌っていて、ちょっとホラーな内容です。再生時間1:58あたりからハードに歪んだギターが入ってくる部分も象徴的ですが、サウンド的にも歌詞的にも、ちょっとねじれたところがあるのが、このバンドの魅力だと思います。

 8曲目「Rabid Child」は、揺らぎのあるキーボードと、シンセベースと思われる野太いサウンドが、独特の浮遊感あるアンサンブルを構成する1曲。ドラムはイントロからしばらくはシンプルですが、再生時間0:52あたりから立体的にリズムを刻み、アクセントになっています。

 9曲目「Nothing’s Gonna Change My Clothes」は、小刻みにリズムを刻むドラムに、キーボードやギター、ボーカルが立体的に重なり、アンサンブルを作り上げていきます。随所で聞こえるファニーなサウンドも、曲をカラフルに彩っています。

 13曲目「Boat Of Car」には、マーガレット・セイラーがゲスト・ボーカルとして参加。1分ちょっとの短い曲ですが、やや倍音多めのチープなキーボードの音色と、彼女のシリアスなボーカルが、絶妙なバランスで溶け合った1曲です。

 14曲目「Absolutely Bill’s Mood」には、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーンが参加。演劇じみたボーカルに、チャドボーンのフリーなギターが絡み合い、ノー・ウェーブなど、ニューヨークのアンダーグラウンドを思わせる1曲です。

 打ち込みと多重録音を駆使した、2ピースの手作り感あふれる作品です。限られた機材で、一般的な3ピースや4ピース・バンドとは一線を画した、独自のポップな世界観を構築しています。彼らの溢れるクリエイティヴィティが感じられる1作。

 また、ポップなだけではなく、実験性も随所に隠し味のように含まれていて、音楽に深みがあるところも、彼らの魅力だと思います。