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Bluetip “Dischord No. 101” / ブルーチップ『ディスコード・No.101』


Bluetip “Dischord No. 101”

ブルーチップ 『ディスコード・No.101』
発売: 1996年5月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: Ian MacKaye (イアン・マッケイ)

 ワシントンD.C.で結成されたハードコア・バンド、スウィズ(Swiz)解散後に、元メンバーのデイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたバンド、ブルーチップの1stアルバム。

 当初は、オハイオ・ブルー・チップ(The Ohio Blue Tip)というバンド名だったものの、短縮してブルーチップを名乗るようになります。

 1stアルバムとなる本作は、彼らの地元ワシントンD.C.を代表するレーベル、ディスコードからのリリースで、プロデュースを務めるのはイアン・マッケイ。アルバム・タイトルの『Dischord No. 101』は、この作品のカタログ番号です。

 キレ味抜群のギターを筆頭に、硬質でアグレッシヴなサウンド・プロダクションを持った作品で、音楽的にもリフやアレンジに意外性のある捻れた部分があり、実にディスコードらしい質感。スピードよりも、複雑なアンサンブルを重視した、ポスト・ハードコアと呼ぶにふさわしい音楽が展開されます。

 1曲目「Nickelback」は、イントロから堰を切ったように音が押し寄せる、疾走感あふれる1曲。2本のギターが、絡み合いながら疾走していくアンサンブルは、イントロからエンジン全開です。

 3曲目「Precious」は、各楽器がめちゃくちゃに絡み合うような、一体感と疾走感があります。ラフさが音楽のフックになりながら、疾走していくアンサンブルのバランスが秀逸。再生時間1:52あたりで静寂が訪れるところも、コントラストを鮮やかに演出しています。

 4曲目「If I Ever Sleep Again」では、複数のギターが異なるフレーズを弾きながら、有機的に絡み合い、アンサンブルを構成。ハードロックの持つギターリフのかっこよさと、楽器が複雑に絡み合うことで生まれるグルーヴ感が、見事に共存しています。

 6曲目「Sacred Heart Of The Highway」は、スローなテンポに乗せて、スライド・ギターの音が流れに身を任せるように漂うイントロからスタート。音量も音数も抑えた、メローな雰囲気で進行しますが、再生時間2:17あたりで、ドラムの音を合図に、開放的に音量と楽器が増加。コントラストを演出します。

 9曲目「L.M.N.O.P.」は、ミニマルなギターのフレーズと、ベースのロングトーンから始まり、躍動感あふれる幾何学的なアンサンブルが展開。

  ハードコア・パンクの疾走感とハードな音像を持ちながら、立体的なアンサンブルを構築。その音楽性の奥行きの深さが、このアルバムの魅力と言えるでしょう。

 やたらとテンポを上げるのではなく、楽器のフレーズの組み合わせや、リズムの切り替えによって、疾走感やダイナミズムを演出し、情報量の多い音楽を作り上げているバンドだと思います。

 





Polvo “Exploded Drawing” / ポルヴォ『エクスプローデッド・ドローイング』


Polvo “Exploded Drawing”

ポルヴォ 『エクスプローデッド・ドローイング』
発売: 1996年4月30日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、ポルヴォの3rdアルバム。前作までは、彼らの地元チャペルヒルのレーベル、マージからのリリースでしたが、今作からはシカゴのタッチ・アンド・ゴーへ移籍。レコーディング・エンジニアは、前作に引き続きボブ・ウェストンが担当しています。

 ノイズ・ロック・バンドと言われることも多いポルヴォ。前作までの2枚のアルバムも、奇妙なサウンドや複雑なアレンジを、アンサンブルに溶け込ませ、アヴァンギャルドかつポップな音楽を、作り上げていました。

 3作目となる本作でも、これまでに引き続き、アンサンブルを重視した、アヴァンギャルドなロックが展開。前作までとの差異を挙げると、サウンド・プロダクションの面で、ローファイ要素を持っていたこれまでと比較して、サウンドがソリッドに、より輪郭がくっきりしています。

 1曲目「Fast Canoe」は、イントロからギターが奇妙なフレーズを繰り返し、立体感のあるアンサンブルが展開されます。特にドラムの音は生々しいサウンドでレコーディングされており、全体としても空間の広がりが感じられる音作りになっています。

 2曲目「Bridesmaid Blues」は、弦がゆるくチューニングされたようなギターが、足がもつれながら走っていくような、疾走感あふれる1曲。不安定なギターの音程と、タイトなアサンサンブルが、アンバランスなようで、不可分に溶け合い、違和感がありません。

 3曲目「Feather Of Forgiveness」も、ギターの音色とフレーズが印象的。まるで、壊れた機械か何かのような、鋭くジャンクなサウンドを響かせます。アームを使っているのか、ところどころで聞こえる揺らめく音程も、単なる飛び道具ではなく、効果的に楽曲の深みを増しています。

 4曲目「Passive Attack」は、リズムもサウンドも、民族音楽を感じせるインタールード的な役割の1曲。アメリカーナではなく、民族音楽です。無国籍性を感じるところも、このバンドの魅力。

 7曲目「Street Knowledge」は、シタールらしき音色のイントロから、下品に歪んだギターが唸る、ジャンクなアンサンブルが展開。ノイジーなサウンドと、エスニックな雰囲気が溶け合い、独特のサイケデリアを醸し出します。

 8曲目「High-Wire Moves」は、イントロから激しく歪んだギターが煽動的に響き、前のめりに疾走するガレージ・ロック。ですが、再生時間0:35あたりからテンポを落とし、今度はロングトーンをいかしたアレンジへ。その後もテンポを切り替え、1曲の中でのコントラストが鮮烈。

 13曲目「The Purple Bear」は、かすれた歪みのギターと、うねるような奇妙な音色のギターが絡み合う1曲。

 ギターの音作りを筆頭に、耳につく奇妙なサウンドが随所に用いられていますが、アンサンブルにはメリハリと躍動感があり、一般的なロックが持っているダイナミックなかっこよさも、十分に感じられるアルバムです。

 ポルヴォは、アヴァンギャルドな要素と、わかりやすくかっこいい要素の組み合わせ方が、本当に秀逸。ボブ・ウェストンによるレコーディングも、バンドのサウンドを生々しく閉じ込めていると思います。





Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars” / ガイデッド・バイ・ヴォイシズ『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』


Guided By Voices “Under The Bushes Under The Stars”

ガイデッド・バイ・ヴォイシズ 『アンダー・ザ・ブッシュズ・アンダー・ザ・スターズ』
発売: 1996年3月26日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Kim Deal (キム・ディール)

 ロバート・ポラード(Robert Pollard)を中心に1983年に結成された、オハイオ州デイトン出身のバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの9枚目のスタジオ・アルバム。前作から、アメリカを代表する名門インディー・レーベルであるマタドールと契約し、本作がマタドールからリリースされる2枚目のアルバムです。

 プロデュースは、全曲ではありませんが、ピクシーズ(Pixies)とブリーダーズ(The Breeders)の活動で知られるキム・ディールが担当。

 1983年に結成され、他の仕事をしながら、地元で地道な活動を続けてきたガイデッド・バイ・ヴォイシズ。8作目のアルバムとなる前作『Alien Lanes』から、前述のとおりマタドールと契約し、メンバーも音楽活動に専念するため、仕事を辞めています。

 これまでの彼らの作品は、限られた機材でレコーディングされた、チープでローファイな音質が特徴となっていましたが、本作は全編をスタジオで、24トラックでレコーディング。前作までとは一変して、ローファイ感は薄れ、プロフェッショナルなサウンドで録音されています。

 また、今作を最後に5人のメンバー中、ボーカルのロバート・ポラードと、ベースのグレッグ・デモ(Greg Demos)を除いた3人が脱退。レコーディング機材および音質の変化、メンバーの交代を迎える、転換期の作品とも言えます。

 これまでのガイデッド・バイ・ヴォイシズは、ローファイな音質により、ソング・ライティングとアンサンブルのコアな部分が相対的に強調され、音楽のむき出しの魅力が感じられるところが特徴でした。本作では、ローファイな音像から、くっきりとしたサウンド・プロダクションへと変化し、アンサンブルがよりタイトに感じられます。

 前作までのチープで暖かみのある耳ざわりを好む人には、必ずしも向上とは言い切れない音質の変化ですが、各楽器は今までよりもはっきりと聴き分けることができ、一般的には向上と言ってよいでしょう。

 1曲目の「Man Called Aerodynamics」から、歪んだギターの音色は鋭く、リズム隊はタイトで、気だるいボーカルもエフェクト処理されているようで、前作までにはなかった凝ったサウンドであることがわかります。

 2曲目「Rhine Jive Click」は、各楽器とコーラスワークを分離して聞き取ることができる、立体感のあるサウンドが特徴の1曲。イントロから鳴り響く、カウベルらしき音もアクセント。

 5曲目「The Official Ironmen Rally Song」は、ミドルテンポに乗せて、各楽器が絡み合うアンサンブルが展開される1曲。空間の奥行きを感じるサウンド・プロダクションに仕上げっています。再生時間1:22あたりからのギターからは、ざらついたローファイの魅力もたっぷり。

 10曲目「Your Name Is Wild」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、随所のフックのあるシンプルなリズムが、疾走感を演出する1曲。歪みだけでなく、空間系エフェクターも使用されたギターの分厚いサウンドが、楽曲に奥行きをプラスしています。

 17曲目「Don’t Stop Now」にはストリングスが導入され、コーラスワークも美しい1曲。ストリングスの持つオーガニックな響きと、ディストーション・ギターの厚み、爽やかなコーラスが溶け合い、前作と比較して、バンドの音楽性の広がりを感じさせます。

 前述したとおり、前作までのローファイなサウンドから、ソリッドで輪郭のはっきりしたサウンドに一変した本作。しかし、バンドの機能的で躍動感あるアンサンブルや、バラエティに富んだメロディーなど、これまでの魅力も多分に含んだ1作です。

 





Scud Mountain Boys “Massachusetts” / スカッド・マウンテン・ボーイズ『マサチューセッツ』


Scud Mountain Boys “Massachusetts”

スカッド・マウンテン・ボーイズ 『マサチューセッツ』
発売: 1996年4月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mike Deming (マイク・デミング), Thom Monahan (トム・モナハン)

 マサチューセッツ州ノーサンプトンで結成されたオルタナティヴ・カントリー・バンド、スカッド・マウンテン・ボーイズの3rdアルバム。1st『Dance The Night Away』と2nd『Pine Box』は、共にチャンク・レコード(Chunk Records)というインディー・レーベルからのリリースでしたが、3枚目となる本作はシアトルの名門レーベル、サブ・ポップからリリース。

 ちなみにチャンク・レコードは、スカッド・マウンテン・ボーイズの地元ノーサンプトンで活動するバンド、ザ・マラリアンズ(The Malarians)のフロントマン、JMドビーズ(JM Dobies)が運営していたレーベルで、1986年から2000年まで活動していたようです。

 1991年結成のスカッド・マウンテン・ボーイズは、世代的にはオルタナ・カントリーの第一世代と言っていいバンドです。しかし、多くのバンドも拒絶するように、ジャンル名やムーヴメントで音楽性にレッテルを貼るのは、そのバンドの魅力を捉え損ねることに繋がりかねません。

 では、実際に本作では、どのような音楽が鳴らされているのか。アコースティック・ギター、スティール・ギター、さらにマンドリンも使用され、オーガニックな楽器の響きを用いて構成されるアンサンブルは、まさにカントリー的。同時に、サウンド・プロダクションの面でも、アレンジの面でも、オルタナティヴな要素は薄いと言えます。

 ボーカルのジョー・パーニスの穏やかな声とメロディー・センスも相まって、カントリーだけにとどまらない様々なジャンルの香りを感じる、より広い意味でアメリカーナな作品となっています。

 一般的なオルタナ・カントリーというと、カントリー色の濃い音楽に、ノイジーなギターや実験的なアレンジを織り交ぜる、というのが主流ですが、本作はそのような方法論は取らず、多様なルーツ・ミュージックを、借り物では無い自分のセンスでまとめ上げています。その点では現代的であり、オルタナティヴであるとも言えるでしょう。

 前述したように、生楽器のオーガニックなサウンドを活かしたアルバムであり、カントリーに近いサウンド・プロダクションを持っていのも事実ですが、随所で使用されるエレキ・ギターがカントリー色を薄め、現代的な空気を取り込んでいます。

 1曲目「In A Ditch」から、きわめて穏やかなサウンドとメロディーを持った音楽が展開。複数のギターが心地よく絡み合うアンサンブルが繰り広げられます。

 4曲目「Grudge ****」は、ゆったりとしたテンポの穏やかな曲ですが、随所に差し込まれるエレキ・ギターやピアノの音色が、オルタナティヴな空気を吹き込みます。例えば、再生時間2:19あたりからの伸びやかなソロは、楽曲を俄然カラフルにしていると言っていいでしょう。ちなみにタイトルの「****」には、Fワードが入ります。

 7曲目「Lift Me Up」は、ほどよく歪んだエレキ・ギターのサウンドから、フォークやカントリーというよりも、古き良きアメリカン・ロックの空気が溢れる1曲。

 スカッド・マウンテン・ボーイズは、本作がリリースされた翌年の1997年に解散。しかし、2012年に再結成し、2013年には本作から17年ぶりとなる4thアルバム『Do You Love The Sun』をリリースしています。ちなみのこちらのアルバムは、2000年にフロントマンのジョー・パーニス(Joe Pernice)が立ち上げたレーベル、アッシュモント・レコード(Ashmont Records)からのリリース。

 ジョー・パーニスはスカッド・マウンテン・ボーイズ解散後に、パーニス・ブラザーズ(Pernice Brothers)を結成しますが、このバンドはスカッド・マウンテン・ボーイズよりもインディーロック色の強い音楽を志向しています。ジョー・パーニスは、当初からもう少しカントリー色を薄めた音楽をやりたかったのでは、と考えると、本作の絶妙なバランスの理由が、より強く感じられるのではないでしょうか。





Silkworm “Firewater” / シルクワーム『ファイアウォーター』


Silkworm “Firewater”

シルクワーム 『ファイアウォーター』
発売: 1996年2月13日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 モンタナ州ミズーラで結成され、シアトルとシカゴを拠点に活動したバンド、シルクワームの4thアルバム。他の多数のアルバムと同じく、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを担当しています。

 3rdアルバム『Libertine』の後に、ギタリストのジョエル・R・L・フェルプス(Joel R.L. Phelps)が脱退。今作は、彼の脱退後、初のアルバムです。3ピース体制となった本作ですが、4ピースだった前作『Libertine』と比べて、音が薄くなったという印象は無く、むしろサウンド的には厚みを増しています。

 ギタリストが1人になった分、自由が増えたということなのか、ギターのフレーズがこれまでのアルバムよりも前景化されていると、随所に感じます。予期せぬところにギターのフレーズが差し込まれ、音楽のフックとして機能。全体としては、ねじれるようなギターを中心に、3ピースならではのコンパクトかつ荒々しいアンサンブルが展開されます。

 サウンド・プロダクションとしては、90年代のオルタナ・グランジ色も感じますが、アルビニ特有の生々しい耳ざわりも、アルバムの大きな魅力になっています。

 1曲目「Nerves」は、ざらついた歪みのギターが唸りをあげながら、ベース、ドラムと共に塊感のあるグルーヴを繰り広げる1曲。投げやりで、ぶっきらぼうなボーカルも、ざらついた雰囲気を演出しています。再生時間1:27あたりからの、歌メロ以上に歌っているエモーショナルなギターソロがアクセント。

 2曲目「Drunk」は、3者がタイトに絡み合う機能的なアンサンブルが展開。シンプルにリズムをキープするベースとドラムに対して、ギターは自由にフレーズを紡いでいきます。

 3曲目「Wet Firecracker」は、金属的な歪みのギターが全体を先導していく、疾走感あふれる1曲。ギターは、音のストップとゴーがはっきりしていて、メリハリがあります。

 4曲目「Slow Hands」は、ゆったりとしたテンポで、轟音と静寂を行き来するコントラストが鮮やかな1曲。ギターは、無理やり押しつぶされたような、独特の厚みのある、凝縮されたサウンドを響かせます。

 7曲目「Quicksand」は、イントロから鋭く歪んだギターが、時空を切り裂くようにフレーズを繰り出す1曲。正確かつ、随所にタメを作るドラム、メロディアスに動くベースと共に、この曲も3者のアンサンブルが素晴らしい。

 8曲目「Ticket Tulane」は、テンポを落とし、ゆるやかなグルーヴ感のある曲です。ギターの音色も、唸りをあげるディストーション・サウンドではなく、歪みを抑えたクランチ気味のもの。

 10曲目「Severance Pay」は、激しく歪み、分厚いサウンドのギターが支配的な1曲。ドラムは淡々とリズムを刻み、ベースはギターを下から支えるように、長めの音符を多用して、低音域を埋めていきます。

 16曲目「Don’t Make Plans This Friday」は、イントロのドラムから、演奏もサウンドも立体的。アルビニらしいサウンドを持った1曲であると言えます。テンポは遅めで、タメをたっぷりと作って、グルーヴ感を生み出していきます。

 自由なギターを中心に据えながら、タイトなリズム隊がギターを支え、3者で機能的なアンサンブルを構成していくアルバム。3ピースの魅力が詰まった作品です。音楽的には、オルタナやグランジの延長線上にあると言えますが、ギターの音作りと、バンドの作り上げるアンサンブルは、非常に練り込まれていて、借り物でない音楽的志向をはっきりと持ったバンドであると感じます。