「2000年代」タグアーカイブ

Pullman “Viewfinder” / プルマン『ビューファインダー』


Pullman “Viewfinder”

プルマン 『ビューファインダー』
発売: 2001年8月21日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 トータスやガスター・デル・ソルでの活動でも知られるバンディー・K・ブラウン(Bundy K. Brown)。同じくトータスへの参加でも知られるダグ・マッカム(Doug McCombs)。コデインやザ・ニュー・イヤーのクリス・ブロコウ(Chris Brokaw)。そして、ロフタス(Loftus)とRex(レックス)のカーティス・ハーヴェイ(Curtis Harvey)。

 以上、ポストロックとスロウコアでそれぞれキャリアを積んできた4人が結成したバンド、プルマンの2ndアルバムであり、ラスト・アルバム。

 前作『Turnstyles & Junkpiles』は、アコースティック・ギターを中心に据えたオーガニックなサウンドを用いて、ジャンルレスかつ躍動感のあるアンサンブルが展開されるアルバムでした。

 アコースティック・ギターによる流麗なフレーズが有機的に絡み合う前作と比べると、2作目となる本作ではエレキ・ギターの比率が増え、よりポストロック色の濃い音楽性とサウンド・プロダクションを持ったアルバムになっています。

 1曲目「Same Grain With New Wood」は、複数のギターが絡み合い、有機的なアンサンブルを構成していく、前作の延長線上にあると言える1曲。しかし、再生時間2:20あたりからは、立体的で躍動感のあるバンド・アンサンブルとなり、奥の方ではエレキ・ギターや電子的な持続音が鳴っています。これは前作では聞かれなかったアプローチ。

 2曲目「Delta One」は、エレキ・ギターと電子音が広がっていく、宇宙空間を漂うような感覚の1曲。1曲目に続き、やはり牧歌的な空気のあった前作とは、耳ざわりの異なる曲になっています。

 3曲目「Or, Otherwise」は、生楽器のナチュラルな響きと、清潔感のある電子音が、それぞれ細かい音符を奏でながら溶け合い、奥行きのある立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。

 7曲目「Isla Mujeres」は、哀愁の漂うメロディーとサウンド・プロダクションを持った1曲。ここまでは音響を重視したアプローチの楽曲が続いていましたが、この曲ではメロディーが前面に出され、アルバムの流れの中でのコントラストもあり、非常に感情的に響きます。

 13曲目「Street Light」は、エフェクターをかけたギターなのか、シンセサイザーなのか、奇妙なサウンドが行き交う、アンビエントな1曲。

 前述のとおり、本作がプルマンのラスト・アルバムとなります。活動拠点がシカゴ、ニューヨーク、ボストンと、メンバーによって異なり、スタジオのみでの活動を続けてきたプルマン。著名なメンバーの集ったスーパーグループ的な一面もあり、あくまで各メンバーにとってはサイド・プロジェクトであり、長く活動することを想定していなかったのかもしれません。

 プルマンが残した2枚のアルバムはどちらもクオリティが高く、ジャンルレスに音の響きを追求した、まさに「音響派」と呼ぶべきもの。ギターを用いたインスト・ポストロックの、ひとつのお手本と言えるでしょう。

 





Owen “No Good For No One Now” / オーウェン『ノー・グッド・フォー・ノー・ワン・ナウ』


Owen “No Good For No One Now”

オーウェン 『ノー・グッド・フォー・ノー・ワン・ナウ』
発売: 2002年11月19日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)やアメリカン・フットボール(American Football)での活動でも知られる、マイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの2ndアルバム。

 オーウェン名義での1作目となった前作『Owen』に引き続き、アコースティック・ギターを中心にしたオーガニックなサウンド・プロダクションを持ったアルバム。前作から比較すると、アンサンブルがやや躍動的になり、バンド感が増しています。

 また、穏やかなボーカリゼーションも、基本的には前作と共通していますが、本作ではところどころエモーションを爆発させるように、力強く歌う部分があり、より豊かな歌心を感じる作品になっています。

 1曲目「Nobody’s Nothing」では、穏やかな波のようなギターのコード・ストロークが、一定のペースで満ち引きを繰り返します。それを追いかけるように、徐々に他の楽器が加わり、躍動感のあるアンサンブルが展開。

 2曲目「Everyone Feels Like You」は、無駄を削ぎ落としたシンプルなアコースティック・ギターと歌のイントロから始まり、エレキ・ギターの唸りをあげるようなソロを皮切りに、ゆったりとしたテンポの中で、たっぷりとタメを作った立体的なアンサンブルが展開される1曲。2本のアコースティック・ギターが、折り重なるようにお互いを噛み合うアレンジも、楽曲に奥行きを加えています。

 3曲目「Poor Souls」は、複数のギターがそれぞれ細かく音を紡ぎ出し、優しく降り注ぐ雨粒のように、その場を埋めていく1曲。まるでタペストリーのように、各楽器が有機的に融合してひとつの模様を作り上げていくアンサンブルは、音楽が「織り込まれる」と表現したくなります。

 4曲目「The Ghost Of What Should’ve Been」は、各楽器とも手数は少なく、フレーズもシンプルなのに、穏やかな躍動感のある曲。

 7曲目「Take Care Of Yourself」は、ヴェールのように全てを包みこむ柔らかな電子音と、アコースティック・ギターの暖かな響きが溶け合う、優しいサウンド・プロダクションの1曲。再生時間1:13あたりからの、目の前が一気に広がるようなアレンジなど、遅めのテンポと穏やかなサウンドを持ちながら、1曲の中でのダイナミズムが大きく、コントラストが鮮やか。

 前作に引き続き、電子音と生楽器のバランスが秀逸で、フォークやカントリーを前面に出さずに、アコースティック・ギターの魅力を引き出したアルバム。

 もはやエモの伝説となった感もあるキャップン・ジャズ。穏やかなサウンドを持ちながら、各楽器が時に複雑に絡み合い、ポストロック的アプローチへと踏み出したアメリカン・フットボール。それらのバンドを経て、オーウェン名義で活動を始めたマイク・キンセラ。

 オーウェンはソロ・プロジェクトということもあり、彼のメロディーやアレンジメントの素の部分が見えるプロジェクトだと思います。2作目となる本作でも、生楽器と電子音を巧みにブレンドし、歌心も引き立つ、絶妙なバランスを持った音楽が展開されています。

 





Owen “Owen” / オーウェン『オーウェン』


Owen “Owen”

オーウェン 『オーウェン』
発売: 2001年9月18日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)、アメリカン・フットボール(American Football)での活動を経て、2001年から始動したマイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの1stアルバム。

 今やエモの伝説となったキャップン・ジャズ。穏やかなボーカルと、歌心のある各楽器のフレーズが、有機的なアンサンブルを織りなすアメリカン・フットボール。その後に続く、オーウェンの1stアルバムは、アコースティック・ギターと、柔らかな電子音を中心に、穏やかなサウンド・プロダクションを持った作品となっています。

 ゆるやかに各楽器が絡み合うアンサンブルは、アメリカン・フットボールの延長線上と言える部分もありますが、本作の方がより音数を絞り込み、音響が前景化。サウンドの面でもアンサンブルの面でも、より楽器の音やメロディー自体にスポットを当てたアルバムと言えるでしょう。

 1曲目「That Which Wasn’t Said」は、アコースティック・ギターと電子音が溶け合い、全てを包みこむヴェールのような音像を作り上げるインスト曲。

 2曲目「Most Days And」は、アコースティック・ギターのナチュラルな響きと、穏やかなボーカル、エフェクトのかかった弾むような電子音がリズムを刻んでいく1曲。電子音と生楽器が溶け合い、穏やかなサウンドを作り上げていきます。再生時間2:33あたりからドラムが入ってくると、立体的でソリッドなアンサンブルへと展開。

 3曲目「Most Nights」は、ゆっくりと流れる川のように、静かに波打つバンド・アンサンブルが展開される1曲。アコースティック・ギターを中心に据えながら、随所に用いられる電子音がアクセント。

 4曲目「Accidentally」は、アコースティック・ギターの紡ぎ出すフレーズと、鼓動のように低音で響くリズムが絡み合うインスト曲。徐々に楽器と音数が増え、多層的なサウンドへと展開。

 8曲目「Places To Go」は、ギターの軽快なコード・ストロークに主導される、ゆるやかな躍動感のあるギターポップ。

 9曲目「Think About It」は、アルバムのラストにして、個人的にはベスト・トラックだと思う1曲。轟音ギターで全てを押し流すシューゲイザーとは全く異なるサウンドながら、アコースティック・ギターとクリーン系の音作りのエレキ・ギターが幾重にも重ねられ、厚みのある音の壁を構築しています。

 前述したとおり、生楽器と電子音が共存した、穏やかなサウンド・プロダクションが本作の特徴。多くの曲でアコースティック・ギターが中心的な役割を担っていますが、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージック色は薄く、現代的な耳ざわりに仕上がっています。

 その理由は、電子音を効果的に融合させていることに加えて、フレーズの面でも意外性のある音の動きが、ほのかにアヴァンギャルドな空気を漂わせているからでしょう。

 





Pele “Enemies” / ペレ『エネミーズ』


Pele “Enemies”

ペレ 『エネミーズ』
発売: 2002年10月15日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの5thアルバム。本作リリースから2年後の2004年に解散するため、現在のところ最後のアルバムとなります。

 2009年には、B面の曲などを収録したコンピレーション・アルバムを発売。2014年には再結成も果たしていますが、2018年6月現在、本作以降に新たな音源のリリースはありません。

 解散前のラスト・アルバムとなる本作では、清涼感あふれるクリーントーンのギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合い、躍動するアンサンブルが繰り広げられます。ポストロックにカテゴライズされることの多いペレ。複雑なリズムの切り替えや変拍子を随所に混じえ、時にぎこちなさを感じさせるアンサンブルは、ポストロック的と言えるでしょう。

 また、ジャズからの影響もたびたび指摘されるペレ。前作『The Nudes』は、スムースジャズを彷彿とさせる、ゆるやかなスウィング感と、爽やかなサウンド・プロダクションを持ち合わせていましたが、本作では分かりやすいジャズ色は薄れ、よりジャンルレスで実験的な色が濃くなっています。

 1曲目「Crisis Win」では、小節線をはみ出すように、前のめりなリズムのドラムとハンド・クラップによるイントロから、各楽器とも前のめりに疾走していく1曲。各楽器ともタイトで、キレのある演奏。

 2曲目「Safe Dolphin」は、電子音やノイズ的な音が飛び交うイントロから始まり、ベースを中心にした躍動感の溢れるパートと、音数を絞ったアンビエントなパートが、交互に訪れる1曲。

 3曲目「Hooves」は、ギターと電子音を用いて、音響を前景化させたアンビエントな1曲。

 4曲目「Hospital Sports」は、手数は少ないながら立体的なドラム、メロディアスに動くベース、クリーントーンの複数のギターが絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルを繰り広げる1曲。激しく歪んだギターと電子音もアクセントになり、楽曲の奥行きを増しています。

 5曲目「Hummingbirds Eat」は、ギターとベース、手数を絞ったタイトなドラムが、絡みながら疾走していく1曲。同じ型のリズムをピッタリと合わせるのではなく、各学区がリズムを噛み合うように構成されるアンサンブルは、全員一致で8ビートを刻むよりも、疾走感と躍動感を生んでいます。

 6曲目「Super Hate」は、柔らかな電子音で作り上げれらた、ミニマルでアンビエントな1曲。

 7曲目「Sepit」は、穏やかでナチュラルなギターのサウンドと、キレ味の鋭いドラム、上下に動き回るベースが、グルーヴ感溢れるアンサンブルを展開する1曲。

 8曲目「Cooking Light」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが構成される1曲。ドラムは余裕を持って変幻自在にリズムを刻み、ベースはアンサンブルの隙間を自由に泳ぐようにフレーズを弾き、ギターは細かい音符の早弾きからコード弾きまで、多様なプレイを聴かせています。

 清涼感のあるサウンドを用いたアンサンブルを中心にしながら、一部の楽曲では音響を前景化し、エレクトロニカのような音像を作りあげています。

 前述したとおり、本作を最後に一旦解散するペレ。ラスト・アルバムということもあるのか、ここまでの5作のアルバムの中で、最も音楽的な語彙の豊富さを感じる作品になっています。

 





Pele “The Nudes” / ペレ『ザ・ヌーズ』


Pele “The Nudes”

ペレ 『ザ・ヌーズ』
発売: 2000年9月19日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの4thアルバム。前作『Emergency Room Egg』は、CD-Rでのリリースとなったリミックス・アルバムなので、純粋なスタジオ・アルバムとしては3作目。

 「ポストロック」と一口に言っても、言葉の射程が広すぎて、音楽性が掴みにくいのがこのジャンル。(ポストロックに限ったことでもありませんが…)

 ペレの4作目となる本作では、清涼感のあるクリーントーンのギターを中心に、随所に変拍子を取り入れたポストロックらしい一面を持ちながら、同時に流れるように爽やかで、耳馴染みのいいアンサンブルが展開されています。

 ジャズからの影響も指摘されるペレ。本作でも確かに、サウンド・プロダクションの面ではスムースジャズを思わせる清潔感があり、アンサンブルには即興演奏で徐々に加速して行くような感覚があります。ジャズの文法もある程度取り込みながら、ロック的な躍動感や疾走感を目指したアルバム、とも言えるのではないかと思います。

 1曲目「Nude Beach. Pin Hole Camera」では、各楽器のポツリポツリとした音が有機的に絡み合い、徐々に躍動感が増していく1曲。その感覚は、音を「紡ぎ出す」という表現がぴったり。タイトに小気味よくリズムを刻むドラムは、表情豊かで、ドラムを追っているだけでも十分に楽しめるアンサンブルが展開されます。

 2曲目「The Mind Of Minolta」は、各楽器ともタイトでキレが良く、軽快なアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 3曲目「Therapists」は、ゆったりとしたリラクシングなイントロから始まり、ドラム、続いてベースが入ると、立体感と躍動感が増していきます。各楽器がリズムをわずかに追い越し合うように、ゆるやかな疾走感のある1曲。

 4曲目「Visit Pumpy」は、ギターとベースのフレーズ、ドラムのリズム共に、幾何学的というべきなのか、ひとまとまりの練習フレーズのような各パートが折り重なり、アンサンブルを構成。正確かつ複雑なフレーズが絡み合い、通常のロックとは異なる躍動感を生んでいく演奏は、マスロック的と言ってもいいでしょう。

 5曲目「Total Hut」が、個人的にはこのアルバムのベスト・トラック。アコースティック・ギターによるイントロから、断片的なピアノのフレーズが両チャンネルから飛び交い、ドラムとヴィブラフォンらしき鉄琴が、ミニマルかつタイトなリズムを刻んでいきます。

 生楽器の音色をいかしたオーガニックなサウンド・プロダクションと、アヴァンギャルドなリズムとフレーズの組み合わせが、未来の音楽を感じさせます。言い換えれば、聴いたことがある音を使って、聴いたことがない音楽を作り上げているということ。僕が「ポストロック」にカテゴライズされる音楽を聴き続ける理由は、このような音楽に出会えるからです。

 6曲目「Black Socks」は、流れるようなギターのフレーズと、立体的に絡み合うリズム隊が、穏やかな波のように、段階的にじわじわと押し引きを繰り返す1曲。

 7曲目「Gugi」は、ややテンポが速く、激しく動きまわるベース、タイトに鋭くリズムを刻むドラムが、疾走感を生んでいく曲。

 8曲目「Monkey Monkey Las Vegas」は、細かく刻まれた各楽器の音符が、ひとつの生命体を形づくるように一体となり、躍動していく1曲。各楽器をそれぞれ別に聴いていくと、バラバラとズレる部分と、ぴったりと合わさる部分があり、ズレる部分が音楽のフックとなり、同時に躍動感と進行感を生んでいます。

 アルバム全体を通して、昼下がりのカフェで流れていそうな清涼感のあるサウンドを持ちながら、さらりと複雑なアンサンブルを聴かせてしまうアルバムです。

 ポストロックと呼ばれる音楽の一部は、この手の音楽を聴かない人には正直ハードルが高いものもありますが、本作はロック的な躍動感、ジャズ的なグルーヴ感も持ち合わせており、間口の広い作品に仕上がっていると思います。