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Akron/Family “Akron/Family” / アクロン/ファミリー『アクロン/ファミリー』


Akron/Family “Akron/Family”

アクロン/ファミリー 『アクロン/ファミリー』
発売: 2005年3月22日
レーベル: Young God (ヤング・ゴッド)
プロデュース: Michael Gira (マイケル・ジラ)

 「フリーク・フォーク」の文脈で扱われることの多いアクロン/ファミリーの1stアルバムです。フリーク・フォークってなに?という方もいらっしゃるかもしれませんが、サイケデリックな要素を持ったフォーク、と言ったところでしょうか。実際、今回紹介する1stアルバムも、フォーキーなサウンドと、サイケデリックな実験性が融合した1枚です。

 このアルバムをリリースしたのは、スワンズ(Swans)のマイケル・ジラ(Michael Gira)が設立したヤング・ゴッドというレーベルですが、アルバムのプロデューサーもマイケル・ジラが務めています。

 前述したようにフォークやカントリーに近い耳触りのアルバムなのですが、どの曲も少しずつ変な部分を持っていて、聴いているうちに違和感がクセになっていくアルバム。一聴するとカントリーなのに、随所に変な音が入っているアルバムです。

 例えば1曲目「Before And Again」のイントロは、アコースティック・ギターとハミングのようなボーカルで、まさにフォークかカントリーか、という幕開け。でも、再生時間1:10あたりから入ってくる電子音のピポピポしたサウンド。さらに1:36あたりから左チャンネルに入ってくる「ピン」という感じの金属音のようなもの。それらの音が耳に残りつつ、音程的にもサウンド的にも、絶妙にアコースティック・ギターと溶け合ってくるんです。

 2曲目「Suchness」も、イントロからアコギの弾き語りのような演奏。だけど、再生時間0:30あたりから、突然こわれたオモチャみたいな、調子っぱずれのジャンクなサウンドに一変します。このコントラストがたまらない。美しさと違和感が同居したまま進行して、1:51あたりからエレキギターが入ってくると、今度は少し壮大な雰囲気へ。こういう先が読めない展開も、このアルバム及びこのバンドの魅力。

 4曲目「Italy」も、クリーンな音のエレキ・ギターとアコースティック・ギターによるアンサンブルから始まりますが、古い機械のネジを巻くようなギジギジした音も同時に鳴っているし、このままただでは終わらないんだろうなぁ、という期待感を伴って曲が進行します。

 6曲目「Running, Returning」はイントロから、各楽器と音素材をサンプリングして再構築したような奇妙な音像。ポスト・プロダクションを感じさせつつ、音には生楽器感が溢れています。この生楽器を使った臨場感と、ストレンジな編集のバランスが秀逸。再生時間2:33あたりからも、ボーカルが裏声を使ってエモーショナルに旋律を歌うなか、まわりで様々な音が飛び交っています。

 11曲目「Lumen」は、イントロから、バンド感の無い音響的なパートと、アコースティック・ギターの弾き語りによるパートが交互に訪れ、やがて溶け合う1曲。

 フォークやカントリーを基本にしながら、実験性を併せ持った1枚。言い換えれば、カントリーっぽい曲に変な音がいっぱい入った1枚です。

 しかしながら、過激とも言える実験的な音やアレンジが入っているのは事実なのに、全体としては非常に色鮮やかでポップな印象に仕上がっているのも、このアルバムの凄いところ。きっと、実験のための実験に陥るのではなく、あくまでより良い音楽を追い求めた結果だからでしょう。

 





Ida “Lovers Prayers” / アイダ『ラヴァーズ・プレイヤーズ』


Ida “Lovers Prayers”

アイダ 『ラヴァーズ・プレイヤーズ』
発売: 2008年1月29日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Warren Defever (ウォーレン・デフィーヴァー)

 ニューヨーク州ブルックリン出身のバンド、アイダの通算7枚目のアルバム。フォークとギターポップが融合したようなサウンドと、緩やかにグルーヴしていくアンサンブル、繊細で絶妙なバランスの男女混声コーラスワークが美しい1枚。プロデュースは、ミシガン出身のエクスペリメンタル・ロックバンドHis Name Is Aliveのウォーレン・デフィーヴァー。

 音楽を形づくるパーツは比較的シンプルなのに、無限に広がっていくような開放感を感じるアレンジが秀逸。このアルバムを風景に例えるなら、いたるところに花が咲き、小川がせせらぐ森の中。ナチュラルで暖かみのある音像を持った作品です。

 1曲目は表題曲の「Lovers Prayer」。ピアノとドラムが波のように折り重なり、いきいきとした躍動感あるアンサンブルを構成しています。極上の歌モノでありながら、アンサンブルのクオリティが高いところも、本作の魅力。

 3曲目「The Love Below」は、持続する電子音と、ギターのミニマルなコード・ストローク、シェイカーと思われる音が、レイヤー状に重なるような1曲。5曲目「Worried Mind Blues」は、シンプルなリズムから、徐々に躍動感が生まれていきます。

 6曲目「Gravity」は、音数を絞ったミニマルな伴奏なのに、カラッポ感は無く、音楽が優しく部屋を満たしていくような1曲。そんなバンドの演奏と相まって、ボーカルのメロディーの美しさが際立ちます。

 7曲目は「For Shame Of Doing Wrong」。波のように打ち寄せるアコースティックギターのコード・ストローク、絶妙な声色のバランスのコーラスワーク、奥で鳴り続ける持続音。全ての音が優しく空間を包み込みような1曲。声質もハーモニーの面でも、コーラスが本当に素晴らしい。

 10曲目「Surely Gone」は、電子音と声のみのアンビエントなイントロから、ピアノが入ってリズムや和声進行がはっきりとしてくる展開には、ゆっくりと休んでいた音楽が、立ち上がってくるような感覚があります。この曲はユニゾンによるコーラスも聴きどころ。それぞれの声の差違が、サウンドに厚みをもたらしています。

 当たり前の話ですが、普通はドラムを中心にリズムがキープされるものです。しかし、本作には、アコースティック・ギターやピアノが、ときには伸縮して躍動しながら、いきいきとリズムをキープしていくような曲が多くあります。

 間違いなく歌を中心にした作品で、サウンド・プロダクションもフォークやカントリーを下地にしつつ、わずかに隠し味のように忍ばせられる電子音が、モダンな質感をもたらしていると思います。緩やかなグルーヴ感とコーラスワークが心地よく、ボーカルも含めた生楽器と電子音のバランスも絶妙な1枚です。

 





Bon Iver “For Emma, Forever Ago” / ボン・イヴェール『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』


Bon Iver “For Emma, Forever Ago”

ボン・イヴェール 『フォー・エマ・フォーエヴァー・アゴー』
発売: 2007年7月8日(自主リリース), 2008年2月19日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 ジャスティン・バーノン(Justin Vernon)を中心に2006年に結成されたフォークロック・バンド、ボン・イヴェールの1stアルバム。2007年に自主リリースされたあと、翌年にはインディアナ州ブルーミントンのインディペンデント・レーベル、ジャグジャグウォー(Jagjaguwar)より発売されています。

 こういうエピソードと音楽を聴くと、アメリカは自主リリースレベルで、ぽっとこんな優れた作品が出てくるという事実に驚きます。歴史的に見れば新しい国ながら、移民が作ってきたという特殊な事情も作用しているのでしょうが、音楽の豊潤さを感じますね。

 ちなみにバンド名のカタカナ表記は、以前は「ボン・イヴェア」という表記も散見されましたが、最近は「ボン・イヴェール」に統一されたようです。

 今作は、アコースティックギターの弾き語りを基本にしたフォーキーなサウンドに、オルタナティヴなアレンジが加えられた1枚。歌とアコースティック・ギターだけのシンプルで綺麗な曲だなぁ…と思って聴いていると、突如として異物的な音が入ってきて、驚くこともしばしば。しかし、「異物的」とは書きましたが、フォーキーな歌とギターに見事に溶け合ったかたちで、多種多様なサウンドやアレンジが加えられています。

 もっとフランクな言葉で言い換えると、変な音が音楽のフックになっているということ。例えば1曲目「Flume」の奥で持続して流れている電子的な音や、ジリジリした鐘のような音だとか、違和感がありそうなのに、むしろ心地よく感じるほどにメインの音楽と溶け合っています。

 2曲目の「Lump Sum」は、ギターのフレットを移動するときの弦をこする音まで拾った生々しいサウンドの曲ですが、パタパタとはためくようなリズムが、ギターの邪魔をせず入ってきます。

 4曲目「The Wolves (Act I And II)」もアコギの弾き語りのような曲なのに、再生時間3:55あたりから徐々にサンプラーで加工されたような音が入り始め、音楽が増殖していくような感覚があります。

 5曲目「Blindsided」はポスト・プロダクションを感じさせながら、音数は少ないものの各楽器が絡み合うようなアンサンブルが秀逸。

 7曲目「Team」はドラムとエレキギターの入った、ボーカルレスの1曲。2分弱の曲ですが、ミニマルなドラムのリズムに、ギターが折り重なるように乗っていくのが心地よい1曲。

 8曲目は「For Emma」。個人的にアルバムの中で1番好きな1曲。わずかに濁りを感じさせるコード、アコースティックギターの刻むリズム、バンド全体のアンサンブル、全てが良いです。

 基本的には、フォークやカントリーに近い、アコースティックギターの弾き語りを中心に据えたアレンジと音作り。そこに、わずかにエッセンス程度に実験性を忍ばせていて、クセになる1枚です。こういうルーツと現代性が融合した音楽に出会えるところも、アメリカのインディー・シーンの魅力。

 





Adrian Orange & Her Band “Adrian Orange & Her Band” / エイドリアン・オレンジ&ハー・バンド『エイドリアン・オレンジ&ハー・バンド』


Adrian Orange & Her Band “Adrian Orange & Her Band”

エイドリアン・オレンジ&ハー・バンド 『エイドリアン・オレンジ&ハー・バンド』
発売: 2007年9月11日
レーベル: K Records (Kレコーズ)

 オレゴン州ポートランド出身のシンガーソングライター、エイドリアン・オレンジが2006年に結成したバンドが残した唯一のアルバム。

 エイドリアン・オレンジ&ハー・バンド名義としては、このアルバムだけですが、2006年にエイドリアン・オレンジ名義でリリースされた「Bitches Is Lord」という作品も、このアルバムと同じ9人のメンバーでレコーディングされています。

 フォークやカントリーなどアメリカのルーツ・ミュージックを感じさせながら、ホーンも入り、カラフルなサウンド・プロダクションの1枚。カントリーを現代的に解釈した1枚というより、ルーツ臭さを強く残して現代に蘇らせた1枚、と言った方が適切です。

 しかし、サウンドは茶色一色かと言うとそうではなく、色鮮やかに感じられるバランスに仕上がっているところが魅力。その理由は、楽器の数が多いことと、ホーンの導入によるところが大きいのかなと思います。前述したように9人編成のバンドです。

 1曲目の「Window (Mirror) Shadow」から、ホーンが導入されていることもありますが、大所帯のバンドなんだろうなぁ、という奥行きを感じるアンサンブルが展開されます。緩やかにグルーヴしていく感覚が気持ちいい1曲。

 このアルバムは音も非常に良く、立体的なサウンドで録音されています。1曲目「Window (Mirror) Shadow」を例に出すと、イントロのドラムの時点で空間の広さが感じられますし、その後に入ってくるベースも下から響いてくるような臨場感があり、音域のレンジの広さもあります。

 4曲目「Then We Play」はイントロから大々的にホーン・セクションがフィーチャーされ、ジャズのビッグバンドのような雰囲気。ですが、ジャズのマナーに完全にのっとった演奏というわけではなく、カントリー色も濃く出ています。ダンス・ミュージックとしても機能しそうなグルーヴのある1曲。

 5曲目「You’re My Home」も、イントロのポリリズミックなドラムに続いて、ホーンが厚みのあるアンサンブルを構成。ボーカルが入ってくるタイミングで、ホーンが一斉に引き上げ、タイトなバンドのアンサンブルへ。1曲の中でのコントラストが、盛り上がりをますます演出しています。

 アルバムを通して、ルーツ・ミュージックへのリスペクトが溢れ、立体的なサウンドとアンサンブルが満載の1枚。語りのようなダンディーなボーカルも特徴。エイドリアン・オレンジは当時21歳のはずですが、その若さでルーツ・ミュージックを下敷きに、自分なりの音楽を作り上げるセンスには脱帽します。

 同時に、アメリカには豊潤なルーツ・ミュージックの歴史があり、それが現在のポップ・ミュージックまで地続きであることも感じられるアルバムです。こういう作品に出合うと、アメリカの広大さと奥深さを感じます。

 ちなみにピッチフォーク(Pitchfork)のレビューでは、この作品が10点満点で3.8という非常に低い評価となっております。僕は、カントリーとジャズが現代的な音で融合された、素晴らしいアルバムだと思うんですけどね。