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Portastatic “The Summer Of The Shark” / ポータスタティック『ザ・サマー・オブ・ザ・シャーク』


Portastatic “The Summer Of The Shark”

ポータスタティック 『ザ・サマー・オブ・ザ・シャーク』
発売: 2003年4月8日
レーベル: Merge (マージ)

 スーパーチャンク(Superchunk)のマック・マッコーン(Mac McCaughan)のソロ・プロジェクト、ポータスタティックの4thアルバム。1997年にリリースされた前作『The Nature Of Sap』から、6年ぶりとなるリリース。

 過去3作は、マック・マッコーン1人によるオーバーダビングを基本に、曲によってサポート・メンバーを迎えていたポータスタティック。4作目となる本作でも、マック・マッコーン1人による曲と、サポート・メンバーを加えた曲が混在しています。

 今作には、スリーター・キニー(Sleater-Kinney)のジャネット・ウェイス(Janet Weiss)や、マックの弟でもあるボン・イヴェール(Bon Iver)のマシュー・マックコーギャン(マッコーン)(Matthew McCaughan)などが参加。

 これまでのポータスタティックの作品は、ソロ・プロジェクトらしい一貫した音楽性とリラックスした空気が魅力でしたが、本作にもその魅力は多分に引き継がれています。マック個人によるレコーディングも多いのですが、作品を重ねるごとにバンドとしての躍動感と、音楽性の幅が範囲を広げており、本作でも様々な音楽を消化しつつ、グルーヴ感を持った音楽が展開されます。

 1曲目「Oh Come Down」には、ボーカルにジャネット・ウェイス、ドラムにシュー・マックコーギャン、バイオリンとヴィオラには2009年からヴァーサス(Versus)でも活動するマーガレット・ホワイト(Margaret White)が参加。男女混声のコーラスワークに、各楽器が絡み合い、ゆるやかに躍動する、有機的なアンサンブルを織り上げていきます。

 2曲目「In The Lines」は、アコースティック・ギターのシンプルなコード・ストロークと、ややアクのあるボーカル、エレクトロニックな持続音が溶け合う1曲。歌心と電子的音響が分離することなく心地よく響きます。ポータスタティックは、このあたりのバランス感覚が、いつも秀逸。

 3曲目「Windy Village」は、つぶれたように下品に歪んだギターが楽曲を先導する、疾走感のあるガレージ・ロック。ところどころ、リズムをためるような、もたつくようなドラムも、効果的に音楽のフックを生み出しています。

 4曲目「Through A Rainy Lens」は、イントロから電子音がフィーチャーされ、エレクトロニカ的なサウンド・プロダクションを持った1曲。しかし、ギターの音色とフレーズはブルージーで、ルーツ・ミュージックの香りも立つ1曲。

 6曲目「Swimming Through Tires」は、金属的な響きの音と、ピアノの音が重なる、先鋭的な雰囲気のサウンドに、ささやき系の穏やかなボーカルと、トロンボーンの暖かみのある音が溶け合う1曲。前半は音響が前景化したアレンジですが、再生時間1:39あたりからドラムが入り、躍動感がプラスされ、さらに多層的なアンサンブルが構成されます。

 7曲目「Chesapeake」は、リズムもサウンドも輪郭のくっきりした、カラフルでポップな1曲。コーラスワークのハーモニーも心地よく、さわやかなギターポップのような耳ざわりです。

 8曲目「Noisy Night」は、曲目とは違い、アコギを中心にした、穏やかな雰囲気のミドルテンポの1曲。この曲でもヴァイオリンが使用されており、楽曲に奥行きと厳かな空気をもたらしています。

 11曲目「Paratrooper」は、アコースティック・ギターのナチュラルな音色と、鼓動のように一定のリズムで揺れる電子音が溶け合う1曲。穏やかな歌モノですが、電子音の使用により、エレクトロニカ的な音響も持ち合わせています。

 ソロ・プロジェクトらしい、個人のアイデアがそのまま表出し、密室で組み上げられたような宅録感がありますが、多種多様なサウンドと音楽ジャンルが聞こえる、多彩なアルバムでもあります。しかし、ポータスタティックの全般に言えることですが、雑多な印象は無く、一貫性のあるアルバムです。

 曲によってサポートメンバーを加えながらも、あくまでマック・マッコーンの志向する音楽を実現するためのソロ・プロジェクトであること、そこにブレが無いことが、この一貫性に繋がっているのではないかと思います。過去3作と比較すると、やや実験性を増したアルバムですが、どの曲もコンパクトなインディーロックの枠組みにうまく仕上げられていて、聴きやすい作品です。

 





The Postal Service “Give Up” / ザ・ポスタル・サーヴィス『ギヴ・アップ』


The Postal Service “Give Up”

ザ・ポスタル・サーヴィス 『ギヴ・アップ』
発売: 2003年2月19日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 シアトルを拠点にする活動するバンド、デス・キャブ・フォー・キューティー(Death Cab for Cutie)のベン・ギバード(Ben Gibbard)と、ディンテル(Dntel)名義でも活動するジミー・タンボレロ(Jimmy Tamborello)、バッキング・ボーカルを務めるジェニー・ルイス(Jenny Lewis)からなるバンド、ザ・ポスタル・サーヴィス。

 主にジミー・タンボレロがトラック制作、ベン・ギバードが歌とメロディーを担当。ジェニー・ルイスもボーカルとしてレコーディングに参加するうち、メンバーとなったとのことです。バンド名は、ロサンゼルス拠点のジミーと、シアトル拠点のベンが、お互いの音源を郵便でやりとりしていたことに由来。

 そんな彼らの1stアルバムであり、唯一のアルバムが本作『Give Up』。電子的なサウンドと、ベンの紡ぎ出す親しみやすいメロディー・ライン、ベンとジェニーによる暖かみに溢れたボーカルが、分離することなく融合する1作。知的でクールな電子音主体のサウンドと、ポップな歌モノの魅力が、高次に実現されています。

 1曲目「The District Sleeps Alone Tonight」は、立体的でクールな耳ざわりのビートに、穏やかなボーカルが重なる1曲。歌のメロディーが前面に出るわけでも、サウンドが前景化されるわけでもない、絶妙なバランス。再生時間2:42あたりからのギターのフレーズ、3:08あたりからのドラムの音数の増加が、加速感を演出し、電子音主体ながらグルーヴが感じられるアレンジ。

 2曲目「Such Great Heights」は、イントロから清潔感のある電子音が鳴り響き、ゆるやかに躍動していく1曲。

 3曲目「Sleeping In」は、フィールド・レコーディングされたと思しき川のせせらぎと電子音が溶け合う、柔らかいサウンド・プロダクションの1曲。電子音主体ながら、機械的な冷たさよりも、音楽のいきいきとした躍動と暖かさが前面に出た1曲。

 5曲目「Recycled Air」は、柔らかな電子音がヴェールのように全体を包む、エレクトロニカ色の強い1曲。電子的な持続音がレイヤー状に重なり、ボーカルとも溶け合い、厚みのあるサウンドを構築。

 6曲目「Clark Gable」は、ビートが強く、電子音主体のサウンドながら、ロック的な疾走感のある1曲。

 7曲目「We Will Become Silhouettes」は、シンセサイザー1台で出しているのかもしれませんが、鍵盤で出していると思われる複数のサウンドが折り重なり、シンフォニックな音空間を作り出します。ピコピコした電子音らしい電子音もアクセントになり、ビートも打ち込み感の強いサウンドですが、ダンス・ミュージック色よりも幻想的な雰囲気が色濃く出た1曲。

 8曲目「This Place Is A Prison」は、倍音たっぷりの押しつぶされたような電子音と、空間に滲んでいくヴィブラフォンのような音が共存する、ダークな音像の1曲。

 9曲目「Brand New Colony」は、テクノ・ポップを思わせるピコピコ系の電子音がイントロから鳴り響く、立体的でポップな1曲。テクノ的なサウンドと立体的アンサンブル、男女混声の美しいコーラスワークが、無理なく融合しています。

 10曲目「Natural Anthem」は、性急なビートと、電子的サウンドのロングトーンが絡み合い、ダンス・ミュージックのビート感と、エレクトロニカの音響的アプローチを併せ持つ1曲。中盤以降は、ノイジーでアグレッシブな電子音が飛び交いますが、ビートと溶け合い、加速感を演出しています。後半までは歌なしで進行しますが、やがてボーカルも入り、歌モノの魅力まで共生。

 電子音を主体にしたサウンド・プロダクションを持ったアルバムですが、その電子音もピコピコした親しみやすいものから、ノイズ的な尖ったサウンドまで併せ持った、レンジの広い作品です。

 サウンドを前景化させたエレクトロニカ的アプローチ、電子楽器と生楽器で有機的なアンサンブルを構成するポストロック的アプローチ、ビートの強いテクノ的アプローチを、曲によってさじ加減を変え、さらに流れるような歌のメロディーも溶け込ませた、抜群のバランス感覚で成り立っています。2003年の発売から、2013年までの100万枚を超えるセールスを記録したのも、納得のクオリティ。





All Girl Summer Fun Band “2” / オール・ガール・サマー・ファン・バンド『2』


All Girl Summer Fun Band “2”

オール・ガール・サマー・ファン・バンド 『2』
発売: 2003年4月22日
レーベル: K Records (Kレコーズ)

 オレゴン州ポートランドで結成されたバンド、オール・ガール・サマー・ファン・バンドの2ndアルバム。

 1stアルバム『All Girl Summer Fun Band』は、ソフトなサウンド・プロダクションを持った、ややローファイの香りも漂う作品でした。それと比較すると、サウンド・プロダクションが遥かにソリッドになった本作。

 ギターも歪んだサウンドが増え、各楽器ともパワフルな音。輪郭がはっきりして、各楽器のプレイが認識しやすくなったということもありますが、アンサンブルもタイトに感じられます。

 しかし、彼女たちのオシャレでキュートな雰囲気と、素晴らしいコーラスワークは健在。音はハードになりましたが、長所は損なわれていません。

 2曲目「Down South, 10 Hours, 1-5」は、縦の揃ったリズム隊と、リード・ギターの絡みが心地よい、ゆるやかな疾走感のある曲。リズム・ギターとリード・ギターの役割分担もはっきりしていて良いです。

 4曲目「Jason Lee」は、コーラスワークもアンサンブルも立体的で凝ったアレンジの1曲。再生時間0:16あたりで、バンド全体がシフトを切り替えるようなアレンジも、コントラストを鮮やかに演出。

7曲目「Daydreaming」は、タイトルのとおりドリーミーで、音響的な1曲。ボーカルも幻想的な雰囲気をプラスしていて、前作よりも音楽性の引き出しが増えたことを感じさせます。

 8曲目「Video Game Heart」は、シンセと思しきサウンドがうねる1曲。うねるシンセとリード・ギターが絡み合うイントロは、サイケデリックな空気が漂います。その後も疾走感のある展開。芯の強い声で歌うボーカル、コーラスワークも素晴らしい。

 前作は全体的にオシャレでポップな空気が充満したアルバムでしたが、前述したとおり、今作は音がハードになり、ロック色の強まった1作です。

 とはいえ、ギターポップの範疇に入る耳なじみの良さと、さわやかで時に複雑なコーラスワークは健在で、ポップでカラフルなアルバムだと思います。

 この作品もぜひともオススメしたいのですが、残念ながら今のところデジタル配信はされていないようです…。





Animal Collective “Campfire Songs” / アニマル・コレクティヴ『キャンプファイア・ソングス』


Animal Collective “Campfire Songs”

アニマル・コレクティヴ 『キャンプファイア・ソングス』
発売: 2003年3月
レーベル: Catsup Plate (ケチャップ・プレート), Paw Tracks (ポウ・トラックス)

 一般的に、アニマル・コレクティヴの作品と見なされていますが、実際はアルバム・タイトルと同じ「Campfire Songs」というバンド名で発表された作品です。

 2003年にCatsup Plateというレーベルからリリースされ、その後2010年にPaw Tracksから再発されています。

 「Campfire Songs」という示唆的なアルバム・タイトルのとおり、フィールド・レコーディングされた音源と、アコースティック・ギターを中心に据えた、ミニマルなアンサンブルが溶け合う1作。本当に「溶け合う」という表現がぴったりだと思います。

 電子的なドローンと小刻みなビートが溶け合う、あるいはエレクトリックなサウンドと生楽器のサウンドが溶け合う、という音楽もありますが、本作はフィールド・レコーディングされた自然の音と、演奏される人工的な音楽が、共存した作品です。川や風の音、動物の鳴き声が、人工的な音と混じり合い、共に音楽を作り上げています。

 奏でられる音楽が、フィールド・レコーディングをかき消すことのない音量バランスで、重ねられています。そのため、楽器の音が小さいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

 1曲目の「Queen In My Pictures」では、フィールド・レコーディングされた風と虫の音に、さらにそよ風が吹き抜けるようにアコースティック・ギターが響きます。徐々にギターの音量が上がってくると、アコギとまわりの音が完全に一体化。自然の音なのか、それとも後から重ねられたパーカッションの音なのか、わからなくなってきます。

 「音」と「音楽」の境界が曖昧になり、音楽とは何かを考えさせられる1曲…と書くと敷居が高そうですが、人工音と自然音を公平にあつかい、耳に心地よいサウンドの詰まった1曲です。アンディ・ウォーホルがアートにおいて示したように、ある音に意識を向けさせることで、音を音楽に転化させている面もある曲だと思います。

 2曲目の「Doggy」は、イントロからアコギのコード・ストロークが響きわたる、いきいきとしたリズムを持つ1曲。フィールド・レコーディングの音は、かき消されてしまったかのように感じますが、後景化しただけで奥の方で鳴り続け、サウンドに奥行きをもたらしています。

 4曲目「Moo Rah Rah Rain」は、自然の音と、アコースティック・ギターと歌が、有機的にアンサンブルを形成しているように感じられる1曲。音響を前景化させた曲にも聞こえます。

 5曲目「De Soto De Son」は、自然の音がリズムの一部になり、アンサンブルに参加するかのように、アコースティック・ギターの奏でる音と絡み合う1曲。

 実験的でありながら、同時にポップであることは可能だと示した1作だと思います。「フィールド・レコーディングと演奏の融合」というと敷居が高い、少なくとも、いわゆるポップ・ミュージックとは異なる楽曲である印象を受けます。

 確かに、本作に収録された楽曲は、一般的なポップスとは異なった質を持っています。しかし、全く楽しめない、難解な音楽かというとそうではなく、穏やかな自然の音の延長線上に音楽が鳴っていて、聴いていて非常に心地いいサウンドに仕上がっています。

 正直、僕は初めてこのアルバムを聴いたとき、ピンと来なかったのですが、しばらく時間が経って、ふとしたときに聴いてみたら、ものすごく美しい音楽に聴こえてきたのです。

 実験的な作品であるのは事実で、誰にでも自信を持ってオススメできるかと問われると、そうではないのですが、気になった方には、ぜひとも聴いてほしい作品です。

 





Animal Collective “Here Comes The Indian” / アニマル・コレクティヴ『ヒア・カムズ・ジ・インディアン』


Animal Collective “Here Comes The Indian”

アニマル・コレクティヴ 『ヒア・カムズ・ジ・インディアン』
発売: 2003年6月17日
レーベル: Paw Tracks (ポウ・トラックス)

 メリーランド州ボルティモアで結成されたバンド、アニマル・コレクティヴの1stアルバム。これ以前にも、別名義で3枚のアルバムを発表しているため、実質的に4枚目と数えることもあります。

 また、メンバーのエイヴィ・テア(Avey Tare)が設立したレーベル、Paw Tracksの記念すべきカタログ・ナンバー1番(PAW1)の作品でもあります。

 実験的なサウンドとアレンジを多分に含みながら、カラフルでポップな作品を作り上げるアニマル・コレクティヴ。前述したとおり、本作『Here Comes The Indian』は、アニマル・コレクティヴ名義としては1枚目のアルバムです。

 ノイズとしか思えない音や、アヴァンギャルドな展開も含みながら、全体としてはポップな作品に仕立て上げる、抜群のセンスとバランス感覚を持ったバンドです。本作も、アヴァンギャルドな香りを振りまきながら、騒がしくも楽しい、いきいきとした音楽を鳴らしています。

 1曲目「Native Belle」は、冒頭から雑多な音が飛び交うなか、再生時間1:07あたりから突然バンドの演奏がスタート。ノイズやシャウトなど、ポップとは思えぬ音が四方八方から飛んできますが、そんなことは気にならないぐらいの、圧倒的な躍動感にあふれたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「Hey Light」は、展開が目まぐるしい1曲。イントロから叩きつけるようなパワフルなドラムが、定期的に躍動感を響かせ、電子音やギターや声が、次々に重なっていく展開。かなり音が込み入っていますし、ノイズとしか思えないサウンドも入っていますが、それをねじ伏せるほどにアンサンブルの躍動感が圧倒的。

 再生時間3:14あたりからは、ハンドクラップと儀式で歌われるような合唱が始まり、トライバルな雰囲気へ。キャンプファイヤー…というより開拓時代の野外で、焚き火を囲んで歌う曲のようにも聞こえます。ただ、こうした展開に無理やり感が全くなく、「ちょっと変わったポップ・ソング」ぐらいのノリで聴かせてしまうのが、アニマル・コレクティヴの特異なところ。

 4曲目の「Panic」は、声と様々な持続音、打ちつけるドラムの音が重なる、音響的なアプローチの1曲。

 7曲目「Too Soon」は、打ちつける激しいドラム、エフェクトのかかった声、種々の電子音やノイズが飛びかい、絡み合う、アヴァンギャルドな1曲。再生時間1:50から始まる、激しいドラミングが鮮烈。

 アルバムを通して、かなり実験的なアプローチが目立つ作品なのですが、不思議と敷居が高い印象を与えません。それは、ノイジーなサウンドや、複雑怪奇なアレンジを上回るほどの、躍動感や全体の調和といった、音楽の魅力が前景化しているためだと思います。

 アルバムによって作風が異なり、各メンバーのソロ活動にも積極的なアニマル・コレクティヴですが、本作も彼らの音楽的語彙の豊富さ、ポップ・センスの高さを見せつけられる1作です。