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Pinegrove “Cardinal” / パイングローヴ『カーディナル』


Pinegrove “Cardinal”

パイングローヴ 『カーディナル』
発売: 2016年2月12日
レーベル: Run For Cover (ラン・フォー・カヴァー)

 ニュージャージー州モントクレア出身のインディー・ロック・バンド、パイングローブの2ndアルバム。

 2012年にリリースされた1stアルバム『Meridian』は、レーベルを通さないセルフ・リリース。4年ぶりとなる本作は、マサチューセッツ州ボストンのインディーズ・レーベル、ラン・フォー・カヴァーからリリースされています。

 共にモントクレア生まれの幼なじみ、エヴァン・スティーブンス・ホール(Evan Stephens Hall)とザック・レヴィーン(Zack Levine)を中心に、2010年に結成されたパイングローヴ。

 松林を意味する「Pinegrove (pine grove)」というバンド名。エヴァン・スティーブンス・ホールが通っていた、オハイオ州のケニオン大学にある自然保護公園、ブラウン・ファミリー環境センター(Brown Family Environmental Center)に由来するとのことです。

 バンド名のとおりと言うべきなのか、楽器のオーガニックな鳴りを活かした、サウンド・プロダクションの1作です。クリーンな音作りの各楽器が組み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開します。

 1曲目の「Old Friends」は、バンジョーやペダル・スティール・ギターが用いられ、カントリー色の濃いサウンドの1曲。リズム隊は、ドスンドスンと縦に揺らめくようにリズムを刻み、ゆるやかな躍動感のあるアンサンブルです。

 2曲目「Cadmium」は、音数を絞った隙間の多いアンサンブルながら、徐々に音が増え、グルーヴィーな演奏へと展開。複数のギターが、それぞれシンプルなフレーズを繰り返し、織物のように音楽が構成されていきます。

 4曲目「Aphasia」。前半はギターと歌のメロディーが中心に据えられた、メロウな演奏。その後、再生時間1:20あたりでドラムが入ってくると、縦に揺れるアンサンブルへと展開します。奥の方から聞こえる、ペダル・スティール・ギターの伸びやかなサウンドがアクセント。

 5曲目「Visiting」は、段階的に楽器が加わり、加速していく、ビートのハッキリした1曲。フォークやカントリーを思わせる音色の多い本作において、最もギターロック的なサウンド。

 8曲目「New Friends」は、軽快なギターの伴奏の上を、ボーカルが高らかにメロディーを重ねていく1曲。思わず体を揺らしてしまう躍動感のある演奏です。

 フォーキーなサウンドを持った、ゆるやかなギターロック、といった佇まいのアルバム。前述のとおり、全体のサウンドは穏やかですが、いきいきとした躍動感を持ち合わせています。

 1曲目が「Old Friends」から始まり、ラストの8曲目が「New Friends」で締めくくられるところも、示唆的。ルーツ・ミュージックに敬意を示しながら、現代的な感性でコンパクトなロックに仕上げている本作を、象徴しているようにも感じられます。

 





Adam Stephens “We Live On Cliffs” / アダム・スティーヴンス『ウィー・リヴ・オン・クリフス』


Adam Stephens “We Live On Cliffs”

アダム・スティーヴンス 『ウィー・リヴ・オン・クリフス』
発売: 2010年9月28日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Joe Chiccarelli (ジョー・チッカレリ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツのメンバーである、アダム・スティーヴンス初のソロ・アルバム。正式には、「アダム・ハワース・スティーヴンス」(Adam Haworth Stephens)名義でリリースされています。

 プロデュースを担当するのは、プロデューサーおよびエンジニアとして1970年代から活動し、グラミー受賞暦もあるジョー・チッカレリ。大御所からインディー系まで、多くの仕事をこなしてきたチッカレリですが、USインディー文脈の仕事だと、ストロークス(The Strokes)やザ・シンズ(The Shins)、ホワイト・ストライプス(The White Stripes)あたりが有名。

 2002年に結成されたトゥー・ギャランツは、フォークやブルースなどのルーツ・ミュージックを下敷きに、ロック的な躍動感や、オルタナやポストロックを思わせるアレンジを合わせた音楽を展開するバンド。本作は、トゥー・ギャランツが2008年から2012年にかけて、活動休止していた期間に制作されたアルバムです。

 2ピース・バンドのメンバーのソロ作ということで、もちろんメインのバンドであるトゥー・ギャランツと共通する要素を、多分に持っています。すなわち、ルーツ・ミュージックを、現代的に解釈した作風だということ。

 しかし、トゥー・ギャランツと全く同じというわけでは、もちろんありません。フォークやブルースを基調に、パンクの攻撃性やロックのグルーヴ感を合わせたトゥー・ギャランツと比較すると、本作はよりカントリー色の濃い、穏やかな音楽となっています。

 1曲目「Praises In Your Name」では、クリーン・トーンを主体としたサウンドで、徐々に躍動感が増していくアンサンブルが展開します。再生時間1:07あたりからは、立体的に音が飛び交い、カラフルでグルーヴ感抜群の演奏。

 2曲目「Second Mind」は、各楽器が絡み合うように、ゆるやかなグルーヴ感が育まれていく1曲。柔らかなオルガンの音がアクセントになり、全体のサウンド・プロダクションを、ソフトにまとめています。

 3曲目「With Vengeance Come」では、ギターのアルペジオとボーカルのみから始まり、ピアノも加わって、音の粒が有機的にアンサンブルを組み上げていきます。

 7曲目「Elderwoods」は、静かなギターのフレーズから始まるものの、その後はざらついた歪みのギターが入り、穏やかなパートと、ハードなパートを行き来する1曲。

 9曲目「Everyday I Fall」は、イントロからヴィブラフォンらしき音が響き渡り、空気に浸透していくように、穏やかなサウンドを持っています。アンサンブルは、アコースティック・ギターを主軸に、カントリー色の濃い、いきいきとしたグルーヴ感を伴ったもの。

 オーバー・プロデュースにならず、シンプルなサウンドとアレンジを持ったアルバム。ですが、歌のメロディーのみが前景化されているわけではなく、ゆるやかに躍動するアンサンブルも心地よい1作です。

 また、楽器の種類と用いるサウンドは、それほど多いわけではないのに、カラフルで鮮やかなイメージの作品に仕上がっています。適材適所で、効果的に楽器を使い、シンプルながら音作りにもこだわっているのが、この多彩さの理由でしょう。

 フォークやカントリーの香りを漂わせながら、ギターポップのように爽やかな、耳なじみの良さがあります。

 バンドマンのソロ作は、そのメンバーがどのような音楽性を、バンドに持ち込んでいるのかが垣間見えるところも、面白いですね。

 





Two Gallants “We Are Undone” / トゥー・ギャランツ『ウィー・アー・アンダン』


Two Gallants “We Are Undone”

トゥー・ギャランツ 『ウィー・アー・アンダン』
発売: 2015年2月2日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: Karl Derfler (カール・ダーフラー)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの通算5枚目のスタジオ・アルバム。前作に引き続き、ニューヨーク拠点のインディー・レーベル、ATOからのリリース。

 トゥー・ギャランツの音楽性をざっくりと説明するならば、フォークやブルースなどのルーツ・ミュージックを、パンクやオルタナティヴ・ロックと融合し、現代性を持たせた、ということになるでしょう。しかし、一口にそうは言っても、アルバムごとに質は変化しています。

 1stアルバム『The Throes』から、3rdアルバム『Two Gallants』までは、アコースティック楽器を中心に据えたフォーキーなサウンドで、ロック的なグルーヴ感やダイナミズムを実現した作風となっていました。

 その後、4年間の活動休止期間を挟み、レーベルもサドル・クリークからATOへと移籍してリリースされた前作『The Bloom And The Blight』は、エレキ・ギターを多用し、ルーツ・ミュージックを下敷きにしたオルタナティヴ・ロック、とでも呼ぶべき質を持っています。

 3年ぶりにリリースされる本作『We Are Undone』でも、前作の音楽性を引き継ぎ、ブルースやフォークを思わせる要素が、エレキ・ギターを用いたオルタナティヴ・ロック的なサウンド・プロダクションとアレンジに融合。ルーツ・ミュージックを現代的に解釈した音楽が、展開しています。

 1曲目「We Are Undone」は、粘っこいギターのフレーズと、ほどよく枯れたボーカルが、ブルージーな香りを振りまく1曲。しかし、倍音たっぷりの歪んだギター、立体的でパワフルなドラムの音作りは現代的。ルーツと現代性が融合した、トゥー・ギャランツらしいサウンドが、早速鳴らされています。

 2曲目「Incidental」は、エフェクターを多用した、厚みのあるギター・サウンドが主軸になった、疾走感あふれるブルース・ロック。再生時間1:29あたりからのギターソロは、糸を引くようなフレーズを、ジャンクな音作りがさらに際立たせています。

 3曲目「Fools Like Us」は、ギターとドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいく、タイトなアンサンブルが展開する1曲。

 4曲目「Invitation To A Funeral」は、ピアノがフィーチャーされ、「葬儀への招待」という曲名のとおり、メロウで寂しげな1曲。しかし、ドラムはパワフルかつ立体的に響き、躍動感も併せ持った楽曲です。

 5曲目「Some Trouble」は、滑らかに振り下ろすようなドラムのイントロから始まり、そのドラムに絡みつくように、ブルージーで引きずるようなギター・プレイが繰り広げられます。音符が糸を引くような、粘っこいグルーヴ感を持った、ミドルテンポの1曲。

 6曲目「My Man Go」は、全体的にリヴァーブがかかったような、反響音たっぷりのサウンド・プロダクション。ゆったりとしたリズムに乗せて、前述の空間を感じるサウンドと共に、メロディーが紡がれていきます。

 8曲目「Heartbreakdown」は、イントロからパーカッションが立体的なサウンドでレコーディングされ、飛び道具的なサウンドと、透明感のあるサウンドが溶け合った、アヴァンギャルドかつポップな1曲。実験性とポップさのバランスが絶妙で、個人的に大好きな曲です。

 10曲目「The Strange Is Gone」は、音数を絞ったシンプルなピアノと、コーラスワークが前面に出たバラード。楽器の数は多くないものの、アンサンブルには躍動感があります。

 ギターやボーカルのフレーズには、ブルースやフォークの要素が強いのですが、音作りとアレンジには、オリタナティヴ・ロックや音響系ポストロック的な色が濃く出たアルバムです。

 単純化して言うならば、ルーツ・ミュージックのパーツを、現代的な手法で再構築したインディー・ロック。アメリカが持つルーツ・ミュージックの歴史と、実験精神が溶け合っているようでもあり、実にアメリカらしい1作であるとも思います。

 





Two Gallants “The Bloom And The Blight” / トゥー・ギャランツ『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』


Two Gallants “The Bloom And The Blight”

トゥー・ギャランツ 『ザ・ブルーム・アンド・ザ・ブライト』
発売: 2012年9月4日
レーベル: ATO (エー・ティー・オー)
プロデュース: John Congleton (ジョン・コングルトン)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの前作から5年ぶりとなる4thアルバム。

 前作『Two Gallants』を2007年にリリースしたのち、バンドは2008年から2012年まで活動休止。この間、アダム・スティーヴンス(Adam Stephens)はソロ・アルバムを制作、タイソン・ヴォーゲル(Tyson Vogel)はディボーショナルズ(Devotionals)というバンドを結成してアルバムを制作するなど、メンバーはそれぞれ音楽活動を重ねていました。

 そして、前述のとおり5年の月日を経て、レーベルをサドル・クリークからATOへと移籍し、リリースされたのが本作『The Bloom And The Blight』。

 トゥー・ギャランツの魅力を端的に表すなら、ブルースやフォークなどルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、パンキッシュな攻撃性を持ち合わせているところ。アコースティック楽器を主軸にした、フォーキーなサウンドを持ちながら、ロックやパンクに負けないダイナミズムを持っています。

 前作『Two Gallants』では、ややダイナミックなサウンドは抑えめに、アンサンブルを重視した音楽を志向していましたが、5年ぶりのアルバムとなる本作では、再び尖ったサウンドが戻ってきています。

 1曲目の「Halcyon Days」は、メロウなギターのイントロから始まりますが、再生時間0:26あたりから、早速ダイナミックな音の波が押し寄せます。感情を絞り出すようなボーカリゼーションは、パンキッシュともブルージーとも呼びたくなるもの。タメをたっぷりと取ったミドルテンポに乗せて、立体的なアンサンブルが展開します。

 2曲目「Song Of Songs」は、ギターの流れるようなフレーズと、メロウなボーカルから始まり、フルバンドになると激しいサウンドへと一変します。リズムが伸縮するように躍動する1曲。

 3曲目「My Love Won’t Wait」は、大地を踏みしめるような雄大なリズムと、ざらついた歪みのギターが重なる、ミドルテンポの1曲。

 4曲目「Broken Eyes」は、アコースティック・ギターとハーモニカ、パーカッション、歌のみで構成された、オーガニックな響きを持った1曲。牧歌的で親しみやすい雰囲気と、歌の魅力が、前面に出ています。

 6曲目「Decay」の前半は、アコースティック・ギターとボーカル、ストリングスが、ヴェールのような音の壁を作り上げていきます。再生時間2:17あたりでドラムが加わると、立体感も伴い、穏やかながらパワフルな音像へ。荘厳な雰囲気と、ダイナミズムを併せ持ったアレンジ。

 9曲目「Cradle Pyre」は、チクタクチクタクと、各楽器が有機的に噛み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開する1曲。疾走感の溢れるビートや、ゆったりとタメを作ったリズムが、次々と入れ替わり、色彩豊か。

 以前は、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドでありながら、ハードロックにも劣らないダイナミズムを持っていたのが特徴だったのですが、本作ではエレキ・ギターが多用され、よりオルタナティヴ・ロックやガレージ・ロックに近い音像となっています。

 しかし、歌のメロディーやギターのフレーズには、ブルースやカントリーの要素が、以前と変わらず色濃くにじみ、ルーツ・ミュージックと現代性が融合した音楽となっています。4曲目「Broken Eyes」や、10曲目「Sunday Souvenirs」のように、アコースティック楽器が、主軸に据えられた楽曲も健在です。

 僕はトゥー・ギャランツが大好きなのですが、こういう音楽を聴くと、アメリカという国の懐の深さを感じますね。豊かなルーツ・ミュージックの文化と、巨大な社会システムが融合した、力強さに溢れています。

 2018年10月現在、AmazonとSpotifyでは配信されていますが、Appleでは未配信です。





Kinski “7 (Or 8)” / キンスキー『セブン (オア・エイト)』


Kinski “7 (Or 8)”

キンスキー 『セブン (オア・エイト)』
発売: 2015年6月2日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Phil Manley (フィル・マンリー)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、キンスキーの通算8枚目のスタジオ・アルバム。

 アルバムのタイトルは、おそらく本作が7作目、あるいは8作目となるため、付けられたのでしょう。自主リリースだった1stアルバムを含めると8作目、除くと7作目ということではないかと思います。

 アルバムごとに音楽性を、少しずつ変化させるキンスキー。サブ・ポップに残した3枚のアルバムは、いずれもポストロック色の強い作品でしたが、キル・ロック・スターズへレーベルを移籍してリリースした前作『Cosy Moments』は、ボーカル入りの曲が増え、取っつきやすい歌モノの一面も持ったアルバムでした。

 キル・ロック・スターズ移籍後、2作目となる本作。キンスキー史上、最もハードなサウンド・プロダクションの1作となっています。

 収録される7曲中、ボーカルが入るのは、2曲目「Flight Risk」と、6曲目「Operation Negligee」のみ。その2曲に関しても、歌のメロディーが前景化されているわけではなく、バンドのアンサンブルに埋もれるようなバランスで、レコーディングされています。

 1曲目「Detroit Trickle Down」では、アームを使っているのか、エフェクターで音を動かしているのか、イントロから音程が上下に動くギターが用いられています。激しく歪んだギターを筆頭に、全ての楽器は生々しく、タイトに引き締まった音質でレコーディングされています。各楽器が組み合い、パワフルで一体感のある演奏が展開。唸りをあげるギターソロが、楽曲にラフな魅力を加えています。

 2曲目「Flight Risk」は、ざらついた歪みのギターを中心に、各楽器が複雑にもつれ合うアンサンブルの間を、ボーカルがすり抜けるようにメロディーを紡いでいく1曲。ボーカル入りではありますが、音量的にはギターの厚みのあるサウンドが、前面に出てくるバランスです。

 3曲目「I Fell Like A Fucking Flower」は、跳ねたリズムのドラムに、ギターが絡みつき、徐々に音数が増え、アンサンブルが厚みを増していく1曲。リズムやフレーズはシンプルで、ループ・ミュージックの要素も持った楽曲です。

 4曲目「Powder」では、各楽器が絡み合いながら進行していく、グルーヴ感に溢れた演奏が繰り広げられます。この曲でも、シンプルなリズムをひたすら繰り返しながら、徐々に変化があらわれるループ・ミュージック的な手法が垣間見えます。ワウのかかったギターも、楽曲をカラフルに彩るアクセント。

 5曲目「Drink Up And Be Somebody」は、溜め込んだエネルギーが暴発するように、前のめりに音が飛び出していく1曲。タイトかつパワフルなリズム隊に、激しく歪んだ複数のギターが絡みつき、一体感と疾走感があふれる演奏が繰り広げられます。

 6曲目「Operation Negligee」は、ボーカル入りの曲ですが、各楽器の音に埋もれるように、ボーカルが奥の方から聞こえてきます。それぞれ音作りの異なる複数のギターが用いられ、ギターを中心に厚みのあるアンサンブルが展開。

 7曲目「Bulletin Of The International String Figure Association」は、12分近くに及ぶ大曲。音数を極限まで絞ったミニマルな前半部から、再生時間2:32あたりでギターが入り、徐々に音と楽器が増え、丁寧に織物を作り上げるようなアンサンブルを展開します。ドラムが複雑にリズムを刻み、立体感も伴ったアレンジ。

 アルバム全体を通して、激しく歪んだギターを主軸にしたアンサンブルが展開。ハードな音像を持った1作です。

 過去2作は、ボーカル入りの曲を増やし、分かりやすいポップ・ミュージックの枠組みに寄り添った音楽へ移行するのかと思いきや、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 歌モノはダメで、激しいやつ、実験的なやつの方が良い!と、言いたいわけではありません。ただ、キンスキーというバンドの魅力は、やはりその壮大なアンサンブルと実験精神にあると思うんですよね。

 キャリアを重ねてきて、このようなアグレッシヴな作品を作り上げる彼らが好きです。