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CHON “Grow” / チョン『グロウ』


CHON “Grow”

チョン 『グロウ』
発売: 2015年3月23日
レーベル: Sumerian (スメリアン)
プロデュース: Eric Palmquist (エリック・パームクイスト)

 カリフォルニア州オーシャンサイド出身のマスロック・バンド、CHONの1stアルバム。2015年に本作がリリースされるまでに、デモ音源『CHON』と、2枚のEP『Newborn Sun』『Woohoo!』を、いずれもレーベルを通さずにセルフリリースしています。

 本作以前にセルフリリースされた一連の作品と比べると、だいぶ洗練された印象。彼らの演奏テクニックが向上し、レコーディング環境も良くなった結果なのでしょうが、サウンド・プロダクションと演奏の両面で、確かな進化が感じられます。

 ただ、速弾きや変拍子などの分かりやすい変態性は、やや後景化。わかりやすく攻撃的で変な音楽を好む方は、セルフリリース時代の方が良いと感じるかもしれません。

 1曲目「Drift」は、ギターの音が広がっていく、エレクトロニカを思わせるサウンドを持った、30秒ほどの曲。イントロダクションとして、このような曲を収録するあたり、「アルバム1枚でひとつの作品である」という意識が感じられ、期待が高まります。

 2曲目「Story」は、タイトで立体的なリズム隊の間を縫うように、複数のギターが緩急自在にフレーズを繰り出していく、スリリングな1曲。速弾きやパワー・コードを適材適所で織り交ぜ、カラフルな楽曲に仕上げています。

 3曲目「Fall」では、イントロのギターのカッティングから始まり、各楽器ともキレ味鋭く、タイトなアンサンブルが展開。やや高音に寄ったバランスですが、ドラムの低音部はパワフルに響き、全体を引き締めています。

 6曲目「Suda」は、透明感のあるサウンドのメロウなイントロから始まり、徐々に各楽器のフレーズが複雑化。フレーズ同士が有機的に絡み合い、多彩な織物を作り上げるような1曲。

 7曲目「Knot」は、叩きつけるようなドラムを中心に、各楽器が複雑に絡み合い、立体的なアンサンブルを組み上げる1曲。

 9曲目「Splash」は、音がなめらかに滑り落ちていくような疾走感のある1曲。テンポを極限まで速めたハードコア・パンクのような疾走感ではなく、水が上から下に流れていくような感覚です。各楽器ともかなり複雑なことをやっているのに、スムーズに流れていく演奏。

 10曲目「Perfect Pillow」は、前曲とは打って変わって、ハードコア的に前のめりに疾走していく、スピード感に溢れた1曲。メタルを好きな人も気に入りそうな、テクニカルなギタープレイも聴きどころ。

 11曲目「Echo」は、まさかの!と言うべきなのか、ボーカル入りの1曲。しかも、しっかりと歌が前景化された、いわゆる歌モノに仕上がっています。メロディーは流麗で、思いのほか歌が中心に据えられたアレンジ。複雑かつ理路整然としたアンサンブルが展開される本作において、毛色の違うメロウな曲となっています。

 マスロックらしい整然さと複雑さを持ちつつ、小難しい印象を抑え、コンパクトにまとまった1作。聴きやすさの一因は、各楽器は複雑なフレーズを繰り出しながら、丁寧に組み上げられた、なめらかなアンサンブルにあるでしょう。

 また、音作りの面でも、過度なエフェクトは用いず、クリーントーンが基本となり、透明感のあるサウンドを生み出しています。収録されている楽曲も多彩で、これは隠れた名盤です。

 本作でベースを担当しているドリュー・ペリセック(Drew Pelisek)は、2016年にCHONを脱退。2017年からは、ワシントン州ムキルテオ出身のポスト・ハードコアバンド、ザ・フォール・オブ・トロイ(The Fall Of Troy)に、ツアー・メンバーとして参加しています。

 





Lightning Bolt “Fantasy Empire” / ライトニング・ボルト『ファンタジー・エンパイア』


Lightning Bolt “Fantasy Empire”

ライトニング・ボルト 『ファンタジー・エンパイア』
発売: 2015年3月18日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)
プロデュース: Keith Souza (キース・ソウザ), Seth Manchester (セス・マンチェスター)

 ロードアイランド州プロヴィデンス出身の2ピース・バンド、ライトニング・ボルトのおよそ5年半ぶりとなる6thアルバム。

 1stアルバム『Lightning Bolt』から、前作『Earthly Delights』までは、彼らの地元プロヴィデンスを拠点にする、ノイズやエクスペリメンタル系に強いレーベル、ロード(Load)からのリリースでしたが、本作からシカゴの名門スリル・ジョッキーへ移籍。

 また、これまでの作品は2トラックのDATを用いるなど、シンプルな方法でレコーディングされてきましたが、本作では初の本格的なスタジオ・レコーディングを実施。サウンドの輪郭がハッキリとして、一般的な意味では音質は向上したと言っていいでしょう。しかし、今までの塊感のある音質の方が好き、という方も少なからずいるのではないかと思います。

 収録される楽曲群も、これまでのアルバムの中で最もカラフルと言って良いほど、各曲が異なった色彩を放っています。恐ろしいまでのテンションで、カオティックに疾走するのが、このバンドの特徴と言えますが、本作ではサウンド・プロダクションの鮮明化と比例して、アンサンブルとメロディーが前景化。サウンドとアンサンブルが渾然一体となったこれまでの作品に対し、より楽曲の構造が前に出てきた作品と言えます。

 そのため、今までのライトニング・ボルトはノイズが強すぎて苦手という方にも聴きやすい、入門にも最適な1枚。同時に、とにかくノイジーに暴れまわるライトニング・ボルトが好き!という方には、サウンドも楽曲もキレイにまとまりすぎて物足りない、と感じられるかもしれません。いずれにしても、一般的なロック・バンドと比べれば、十分ノイジーでカオティックなことには違いありません。

 1曲目の「The Metal East」から、エンジン全開。ビートの強い、躍動感あふれる演奏が展開します。ボーカルのメロディーは、これまでのアルバムの音質と比較すると、格段に聴き取りやすいです。

 2曲目「Over The River And Through The Woods」は、ベースのフレーズと、前のめりのドラムのリズムが絡み合い、疾走していく1曲。

 4曲目「King Of My World」は、うねるような音質のベースが、地を這うようなフレーズを弾き、ドラムはシンプルかつタイトにリズムを刻む、アンサンブル志向の1曲。ボーカルもメロディアスで、各楽器の音も分離して聞こえ、塊感のあるノイズ・ロックが苦手な人にも、聴きやすいサウンドを持った曲です。

 5曲目「Mythmaster」は、パワフルに立体的にリズムを刻むドラムに、電子ノイズのような音色のベースが絡む1曲。リズムとサウンドが不可分に一体となり、個人的には大好きなサウンド。

 6曲目「Runaway Train」は、ベースとドラムが共に、回転するようなリズムを繰り出す、躍動感と一体感のある1曲。ロック的なグルーヴ感を、多分に持っています。

 7曲目「Leave The Lantern Lit」は、高音域を多用し、不安定に滑っていく音程が、サイケデリックな空気を醸し出す1曲。

 8曲目「Dream Genie」は、従来のライトニング・ボルトらしく、野太く下品に歪んだベースと、パワフルに大地を揺るがすようなドラムが、絡み合いながら、演奏を繰り広げる1曲。

 9曲目の「Snow White (& The 7 Dwarves Fans)」は、11分を超える大曲。ですが、じわじわとシフトと表情を変えながら進み、ハッキリとしたAメロからサビへの進行があるわけではありませんが、聴き入ってしまいます。

 これまでのライトニング・ボルトのアルバムの中で、最も曲の構造がハッキリとしたアルバムです。その理由は、前述したとおりレーベルの移籍と、それに伴うレコーディング環境の変化が、大きく影響しているのでしょう。

 スリル・ジョッキーというと、トータス(Tortoise)をはじめシカゴのポストロックの総本山という一面もあります。本作も、これまでのライトニング・ボルトのノイズ色が薄まり、演奏の複雑性が前に出て、マスロックやポストロック色の濃くなった1作とも言えます。

 ハイテンションで突き進む、これまでのライトニング・ボルトも大好きですが、本作も間口が広く、完成度の高い1作です。

 





Ryley Walker “Primrose Green” / ライリー・ウォーカー『プリムローズ・グリーン』


Ryley Walker “Primrose Green”

ライリー・ウォーカー 『プリムローズ・グリーン』
発売: 2015年3月31日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

 イリノイ州ロックフォード出身のシンガーソングライターでありギタリスト、ライリー・ウォーカーの2ndアルバム。

 前作『All Kinds Of You』は、フィンガースタイル・ギターなどを扱うレーベル、トンプキンス・スクエア(Tompkins Square)からのリリースでしたが、本作はインディアナ州ブルーミントンを拠点とするレーベル、デッド・オーシャンズからのリリース。

 前述したとおり、トンプキンス・スクエアからリリースされた前作は、ライリー・ウォーカーのフィンガースタイル・ギターが前面に出た、同レーベルの色にもぴったりのアルバムでした。よりインディー・ロック色の濃いデッド・オーシャンズへと、レーベルを移籍してリリースされた本作。ライリー自身のギターが中心にあるのは前作と共通していますが、多くのミュージシャンを迎え、多彩なアンサンブルが展開される1作となっています。

 1曲目の「Primrose Green」では、流れるようなアコースティック・ギターのイントロに導かれ、そこに絡みついていくようにピアノやドラムが加わり、ゆるやかに躍動する演奏が展開。再生時間2:43あたりからの間奏では、ギターとピアノが高度なコミュニケーションを楽しむように、ダイナミックで、いきいきとしたアンサンブルを繰り広げます。

 2曲目「Summer Dress」は、ジャズを思わせるポリリズミックなドラムを中心に、スウィング感の溢れる演奏が展開する1曲。リズム隊とヴィブラフォンはリズムも音色もジャズ的ですが、ギターとボーカルはカントリー的。牧歌的なのに、同時にスリリングな躍動感と緊張感を、持ち合わせています。

 5曲目「Love Can Be Cruel」は、イントロから各楽器のリズムが立体的に絡み合い、グルーヴ感を生んでいく、有機的で肉体的なアンサンブルの1曲。エレクトリック・マイルスの香りも漂います。

 6曲目「On The Banks Of The Old Kishwaukee」は、ゆったりと散歩をするようなリズムとテンポが心地いい、牧歌的なカントリー・ソング。

 7曲目「Sweet Satisfaction」は、アコースティック・ギターをはじめとしたフォーキーな音色に、エレキ・ギターのオルタナティヴなサウンドが溶け合う1曲。イントロから、カントリー色の濃いサウンドで、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開。しかし、再生時間1:43あたりから入ってくる、ざらついた歪みのギターなど、徐々にオルタナティヴなサウンドやアレンジが加わっていきます。再生時間4:20あたりからの、疾走感に溢れた展開も秀逸。エモーショナルなボーカルも、カントリーとオルタナティヴ・ロックの要素を併せ持ち、楽曲を多彩にしています。

 ライリー・ウォーカーのギターを中心とした、有機的で躍動感の溢れるアンサンブルが堪能できるアルバムです。カントリーやフォークが下敷きにあるのは事実ですが、エレキ・ギターの過激な音色や、ピアノのフリーな演奏などが随所に散りばめられ、現代的な空気も持ち合わせています。

 また、楽曲によっては、ジャズの要素も色濃く出ています。クレジットを確認すると、チェロのフレッド・ロンバーグ・ホルム(Fredrick Lonberg-Holm)、ベースのアントン・ハトウィッチ(Anton Hatwich)、ドラムのフランク・ロザリー(Frank Rosaly)ら、シカゴを拠点にするジャズ・ミュージシャンが複数参加。彼らのプレイが、このアルバムにジャズ色と、さらなる奥行きを加えているのでしょう。

 前作と比較すると、バンド感とインディー・ロック感の強まった1作、と言っていいでしょう。前述したとおり、トンプキンス・スクエアからデッド・オーシャンズへとレーベルを移籍していますが、それぞれのレーベルのイメージが、それぞれのアルバムにそのまま反映されていると言っても、良いかと思います。

 





Father John Misty “I Love You, Honeybear” / ファーザー・ジョン・ミスティ『アイ・ラヴ・ユー、ハニーベア』


Father John Misty “I Love You, Honeybear”

ファーザー・ジョン・ミスティ 『アイ・ラヴ・ユー、ハニーベア』
発売: 2015年2月9日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jonathan Wilson (ジョナサン・ウィルソン)

 メリーランド州ロックヴィル出身のミュージシャン、ジョシュ・ティルマン(Josh Tillman)が、2012年リリースの『Fear Fun』に続き、ファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースする2作目のスタジオ・アルバム。ミキシングは、バンド・オブ・ホーセズ(Band of Horses)やフリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)なども手がける、フィル・エク(Phil Ek)が担当。

 ファーザー・ジョン・ミスティを名乗る前から、J.ティルマン(J. Tillman)名義で、8枚のソロ・アルバムを発表。また、2008年から2012年1月まで、フリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)にドラマーとして参加しています。

 J.ティルマン時代のアルバムは、総じてアコースティックなサウンドを持っていました。しかし、フリート・フォクシーズを経て、ファーザー・ジョン・ミスティ名義でリリースされた前作では、電子楽器が効果的に用いられ、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、それだけにとどまらないモダンなサウンド・プロダクションへと変化。

 今作でも、前作の音楽性を引き継ぎ、フォークを根底に持ちながら、随所にオルタナティヴな音とアレンジが散りばめられ、牧歌的で穏やかな空気と、サイケデリックな空気が共存したアルバムに仕上がっています。

 アルバム表題曲でもある1曲目の「I Love You, Honeybear」では、ストリングスを中心に、多彩な楽器とコーラスワークが絡み合い、壮大なアンサンブルが展開。

 2曲目「Chateau Lobby #4 (in C for Two Virgins)」は、バウンドするように躍動感のある1曲。アコースティック・ギターやパーカッション、ストリングスが、暖かくオーガニックなサウンドを作り上げます。

 3曲目「True Affection」は、増殖するように広がっていく電子音から始まり、タイトなアンサンブルが作り上げられる1曲。電子音が多用され、一聴するとテクノ色の濃いサウンド・プロダクションですが、ストリングスも用いられ、バンドの温度感も感じられます。

 4曲目「The Night Josh Tillman Came To Our Apt.」は、粒の立った印象的なギターのイントロに導かれ、各楽器が有機的に絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが構成されていきます。

 8曲目「The Ideal Husband」は、リズム隊を中心に、ビートが強く、躍動感に溢れた1曲。しかし、ただ躍動するだけではなく、ストリングスによるロングトーンが、音響的な厚みをもたらしています。終盤に出てくるノイジーなエレキ・ギターもアクセント。

 9曲目「Bored In The USA」は、ピアノをフィーチャーした、メローな1曲。タイトルからして示唆的なとおり、アメリカの現状を冷めた視点で語っていきます。歌詞には「彼らが与えてくれたのは、役立たずの教育とサブプライムローン」という一節もあり、楽曲の途中では笑い声がサンプリングされ、音楽的にはエレガントなテクスチャーを持ちながら、なんとも嘲笑的な空気も持ち合わせています。

 10曲目「Holy Shit」は、アコースティック・ギターと歌を主軸にした曲。前半は弾き語りに近いシンプルなサウンドで進行し、再生時間2:18あたりから入ってくる壮大なストリングスを合図に、躍動感と音数の増した後編へ。

 フォークを基本としながら、ほのかにサイケデリックな空気が漂う前作と比較すると、本作はサウンド的には多彩さを増し、サイケデリアは後退した1作と言えます。

 前作も、実験性やサイケデリックな要素を前面に押し出した作品ではなく、さりげなくサイケデリックな空気を持ったアルバムでした。本作のアプローチもその延長線上にあり、アメリカーナな雰囲気と、オルタナティヴな空気が、同居した、懐かしくもモダンな音像を持ったアルバムに仕上がっています。

 





Born Ruffians “Ruff” / ボーン・ラフィアンズ『ラフ』


Born Ruffians “Ruff”

ボーン・ラフィアンズ 『ラフ』
発売: 2015年10月2日
レーベル: Yep Roc (イェップ・ロック), Paper Bag (ペーパー・バッグ)

 カナダ、オンタリオ州ミッドランド出身のバンド、ボーン・ラフィアンズの4枚目のアルバム。

 1stアルバムと2ndアルバムは、電子音楽を得意とするイギリスのワープ・レコーズ(Warp Records)からのリリースでしたが、3rdアルバムからは、アメリカ・ノースカロライナ州のインディーレーベル、イェップ・ロック(Yep Roc)と、カナダ・オンタリオ州のインディーレーベル、ペーパー・バッグ(Paper Bag)からリリース。

 スコットランドを代表するポストパンク・リバイバル・バンド、フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)とのツアー経験もあり、あまり偏見を持って音楽に接するべきではありませんが、ボーン・ラフィアンズの音楽も、ギターをフィーチャーしたポストパンク的なサウンドを持っています。

 ヴィブラートをかける高音ボーカルは、ほどよい軽さを持っており、ポストパンク的なサウンドとも相まって、パーティー感のある耳ざわり。しかし、それ以上にバンドに躍動感があり、アンサンブルもしっかりと楽しめるアルバムです。

 収録される楽曲群とアレンジも多種多様。アンサンブルは、アヴァンギャルドだけどポップ。そして、親しみやすいメロディーが、アレンジの実験性を中和して、カラフルでポップな印象を強めているなと思います。実験性と大衆性のバランスが絶妙です。

 1曲目「Don’t Live Up」は、音が弾んでいくような、軽やかでいきいきとした1曲。裏声を用いたボーカルも耳に残ります。再生時間0:27あたりのギターの速弾きがアクセント。

 2曲目「 Stupid Dream」は、イントロ部で左チャンネルから聞こえる、打ちつけるようなドラム(エフェクトのかかったタム?)が立体的に響きます。ギターの小気味よいリズムと、軽い感じの裏声を使ったボーカルが、楽曲をよりカラフルに。

 3曲目「Yawn Tears」は、ギター、ベース、ドラムが立体的に絡まる有機的なアンサンブル。ゆったりと、しかし随所にフックを置いた演奏が展開していきますが、再生時間1:04あたりからはシフトが切り替わり、流れるようなアンサンブルに。

 5曲目「When Things Get Pointless I Roll Away」は、厚みのあるアコースティック・ギターの響きに、開放的なコーラスワークが合わさる1曲。全体としてはカラフルでかろやな印象の曲ですが、低音の効いたリズム隊が奥行きをプラスしています。

 6曲目の「& On & On & On」は、伸びやかなボーカルと、緩やかに前進していくアンサンブルが心地よい1曲。タイトルのとおり「On」を繰り返す歌詞も耳に残ります。この曲が、個人的にはこのアルバムのベスト・トラック。ギターとボーカル、リズム隊が追いかけっこのように、多層的に折り重なって、なおかつグルーヴ感にも溢れ、音楽のフックがいくつもあり、聴いていて本当に楽しい曲です。

 8曲目「 (Eat Shit) We Did It」は、ファルセットを多用するボーカルが、この曲では低音域を効果的に用いています。緩やかかなグルーヴ感を持ち、コンパクトにまとまったギターロック的なアンサンブルも心地よい。再生時間0:48あたりの右チャンネルから聞こえるハンド・クラップのような音であるとか、この曲に限らず、アルバムを通して立体的なサウンドを構築しています。

 10曲目「Let Me Get It Out」は、エフェクトがかけられファニーな音色のギターとベースをバックに、やや軽くポップなボーカルがメロディーを歌い上げていきます。再生時間1:18あたりからの部分など、演奏の盛り上がりと比例して、ボーカルも感情的に声を絞り出し、メリハリと躍動感のある1曲。

 11曲目「Shade To Shade」は、ゆったりしたテンポに乗せて、エフェクトをかけられ震えるようなギターの上に、高音ボーカルがエモーショナルにメロディーを紡いでいく1曲。空間系エフェクターを使用したギターのサウンドから、サイケデリックな雰囲気も漂います。

 ボーカルとギターの音をはじめとして、全体のサウンド・プロダクションとしては、いわゆるポストパンク・リバイバルやダンス・パンクの範疇に入ると言っていいでしょう。しかし、ダンス要素もありつつ、直線的なビートだけでなく、アンサンブルにも聞きどころが非常に多い1枚です。

 ちなみに当初は11曲収録でしたが、配信で販売されている「Deluxe Version」にはボーナス・トラックが4曲追加され、15曲収録となっています。

 一般的には、1stアルバムの評価が高く、その後のアルバムはあまり評価されない傾向にあるようですが、個人的にはとても優れたアルバムを作り続けているバンドだと思ってます。あえて悪いところを挙げるなら、1stからあまり音楽性の変化や上積みがないです。しかし、常に一定以上のクオリティを保っているのは確かですよ!