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Circuit Des Yeux “In Plain Speech” / シルキュイ・デ・ジュー『イン・プレイン・スピーチ』


Circuit Des Yeux “In Plain Speech”

シルキュイ・デ・ジュー 『イン・プレイン・スピーチ』
発売: 2015年5月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 ペンシルベニア州インディアナ出身の女性ミュージシャン、ヘイリー・フォール(Haley Fohr)のソロ・プロジェクト、シルキュイ・デ・ジューの5枚目のアルバム。彼女は、ジャッキー・リン(Jackie Lynn)の名義でも作品を発表しています。

 「エクスペリメンタル・フォーク」というジャンルにカテゴライズされることもある、シルキュイ・デ・ジュー。このアルバムも、フォーク的なオーガニックな楽器の響きと、アンビエントな電子音が共存した1作です。

 電子音を用いたエレクトロニカ的なサウンド・プロダクションと、繊細かつヴィブラートのかかった叙情的なボーカルが溶け合い、ソング・ライティングを引き立てる楽曲と、アンビエント色が濃く音響が前景化する楽曲が混在し、音楽性の幅の広いアルバムでもあります。

 2曲目の「Do The Dishes」は、回転するようなキーボードのフレーズの上に、叙情的なボーカルが乗る構造。ボーカル無しであったら、エレクトロニカのように聞こえる1曲です。再生時間1:51あたりからはストリングスが入り、曲に壮大さを加えています。再生時間2:16あたりからは、音数が絞られ、ミニマルでアンビエントな雰囲気に。

 3曲目「Ride Blind」は、2曲目からビートがシームレスに繋がり、イントロからしばらくはリズム隊とボーカルのみのシンプルなアンサンブル。その後、ストリングスが入ってくると、曲に奥行きが広がっていきます。再生時間2:15あたりからの展開も、曲に緊張感とスケール感をプラス。

 4曲目「Dream Of TV」は、イントロからフィールド・レコーディングと思しき音がバックに流れ、ミュート奏法によるアコースティック・ギターがリズムを刻む、ミニマルな展開。徐々に音が増加していき、サウンドスケープが広がっていきます。7分以上ある曲だけど、ボーカルが入っている部分はほんの僅か。しかも、いわゆる歌メロではなく「声を楽器として使った」と言った方が適切な1曲です。

 5曲目「Guitar Knife」は、はっきりとしたメロディーやビートは存在せず、音響が前景化したアンビエントな1曲。歌なしのインストで、エレクトロニカ的なアプローチです。

 6曲目「Fantasize The Scene」は、ギターのアルペジオと、高音域のボーカルが、幻想的な雰囲気を作り上げる1曲。

 7曲目「A Story Of This World」。アコースティック・ギターとストリングスの穏やかでオーガニックな響きに合わせ、ボーカルもヴィブラートをたっぷりかけ叙情的にメロディーを歌い上げます。

 アコースティック・ギターやストリングスなど生楽器の響きと、時に繊細な時にノイジーな電子音が溶け合い、幻想的でサイケデリックな雰囲気に包まれた1枚です。幽玄な空気を持ったボーカルも、サウンドと溶け合い、アルバムの世界観を作り上げています。

 実験性を色濃く持ちながら、ソング・ライティングが際立つ楽曲もあり、奥行きのある作品だと思います。

 





No Joy “More Faithful” / ノー・ジョイ『モア・フェイスフル』


No Joy “More Faithful”

ノー・ジョイ 『モア・フェイスフル』
発売: 2015年6月8日
レーベル: Mexican Summer (メキシカン・サマー)
プロデュース: Jorge Elbrecht (ホルヘ・エルブレヒト)

 カナダのモントリオール出身のシューゲイザー・バンド、ノー・ジョイの3rdアルバムです。

 浮遊感のある耽美なボーカルは、マイブラを彷彿とさせます。ですが、圧倒的な轟音ギターで押し流すわけではなく、ドラムのビートもはっきりしていて、バンド全体のアンサンブルもしっかりしたアルバムに仕上がっています。

 ギター・サウンドも量感で圧倒するような轟音の一辺倒ではなく、曲によって適材適所で音作りがなされており、通しで聴くと多彩な印象が残る作品だと思います。

 1曲目の「Remember Nothing」は、冒頭の1曲らしく、前のめりになった疾走感が溢れる曲です。リズム隊がしっかりと土台を支え、その上にノイジーなギターと流れるような歌メロが乗る構造。硬い音質のベースも大活躍。

 2曲目「Everything New」は、各楽器が絡み合うように立体的なアンサンブルを形成します。ギターはエフェクト控えめで、各楽器を分離して聞き取りやすい1曲。

 5曲目「Burial In Twos」は、トレモロのかかったギター(もしかしたらキーボードかも)が印象的。それ以外にも複数の異なるサウンドのギターが重なっていき、多層的なアンサンブルを形成していく1曲。

 6曲目「Corpo Daemon」は、ガレージ風のギターが唸りをあげ、バンド全体も疾走していくロックな1曲。ボーカルにもエフェクトがかけられ、シューゲイザーとガレージが融合した曲、といった感じです。

 10曲目「I Am An Eye Machine」は、空間系エフェクターをかけられ、揺れるギター・サウンドが空間に浸透していくような1曲。轟音で押し流すのではなく、ゆっくりと音が空間を埋めていくような1曲です。

 歌メロよりも、楽器の音が前景化されるという意味では、シューゲイザー的な作品。言い換えれば、歌メロも楽器の一種かのように、バンドのアンサンブルに溶け込んでいます。

 前述したとおり、曲によってエフェクターを使い分け多種多様なギター・サウンドを響かせています。さらに、そのサウンドを用いて、音響が前面に出たアプローチだけでなく、バンドらしいアンサンブルも構成されるアルバムだと言えます。

 シューゲイザーが好きな方にも、もう少し音像のくっきりしたインディー・ロックが好きな方にも受け入れられやすい、間口の広い作品であると思います。

 





Wilco “Star Wars” / ウィルコ『スター・ウォーズ』


Wilco “Star Wars”

ウィルコ 『スター・ウォーズ』
発売: 2015年7月16日
レーベル: ANTI- (アンタイ), dBpm

 イリノイ州シカゴを拠点に活動するバンド、ウィルコの9枚目のスタジオ・アルバムです。彼ら自身が設立したレーベルdBpmと、エピタフの姉妹レーベルANTI-より発売。

 オルタナ・カントリーを代表するバンド、ウィルコ。本作『Star Wars』は、随所にディストーション・ギターが響きわたる、オルタナ色の濃い1枚です。しかし、カントリーへのリスペクト溢れる、緩やかなグルーヴ感や、親しみやすいメロディーも健在。このバランス感覚が抜群で、さすがウィルコ!と思わせる1枚です。

 1曲目の「EKG」は、複数のノイジーなエレキ・ギターが絡み合い、実験的な空気から始まります。1分あまりの長さで、ボーカル無しのイントロダクション的な曲ですが、めちゃくちゃかっこいいです、これ。

 2曲目「More…」は、アコースティック・ギターのゆったりしたコード・ストロークに、エレキ・ギターが絡み合うようなイントロ。カントリーとオルタナ性が溶け合った、ウィルコらしい1曲。

 3曲目「Random Name Generator」は、野太く歪んだギターに、パワフルなドラム。ギターのフレーズはカントリーの香りを振りまき、全体のアンサンブルには古き良きロックンロールの香り立つ1曲。しかし、ルーツくさくなり過ぎず、現代的でオルタナティヴな雰囲気にまとめるのが、彼らの魅力。再生時間2:13あたりからのアレンジなど、オルタナティヴなアレンジがアクセント。

 4曲目「The Joke Explained」。こちらもカントリーな雰囲気と、オルタナティヴな空気が共存する1曲。ギターの音色とフレーズが、実験的な雰囲気をプラスし、全体の立体的なアンサンブルも鮮やか。

 9曲目の「Cold Slope」は、複数のギターが絡み合う、ジャンクな耳ざわりのイントロから、タイトなアンサンブルが始まる1曲。テンポ抑え目、ボーカルも感情を排したような淡々とした歌い方。だけど、再生時間0:36からのエレキ・ギターの登場とコードの響きなど、ほのかに違和感があるところがウィルコらしい。再生時間1:00あたりからは、ギターが増え、緩やかにオルタナティヴな雰囲気へ。

 カントリーを下敷きに、激しく歪んだギターや、実験的なアレンジが融合した1枚です。オルタナ・カントリーというと、折衷的な音楽であるかのようなイメージもありますが、ウィルコの音楽はカントリー、オルタナティヴ、どちらの要素も地に足が着いていて、両面において理解度の高さをうかがわせます。

 相反すると思われるふたつのジャンルを、違和感や借り物感なくまとめあげるセンスは、やっぱり抜群!

 





Beach House “Thank Your Lucky Stars” / ビーチ・ハウス『サンク・ユア・ラッキー・スターズ』


Beach House “Thank Your Lucky Stars”

ビーチ・ハウス 『サンク・ユア・ラッキー・スターズ』
発売: 2015年10月16日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Chris Coady (クリス・コーディ)

 フランス出身のヴィクトリア・ルグランと、メリーランド州ボルチモア出身のアレックス・スカリーからなる2ピース・バンド、ビーチ・ハウスの6枚目のアルバム。

 柔らかなウィスパーボイスのボーカルを筆頭に、全体のサウンド・プロダクションもソフトで幻想的。音響を前景化させた…というより、ボーカルと全ての楽器が溶け合って、心地よいひとつのハーモニーになったような作品です。

 かといって、全ての曲が類似した金太郎飴的なアルバムかといえば、そうではありません。楽曲ごとに異なる響きを持っていますが、共通した空気がアルバム全体に充満しているということ。

 アンサンブルもビートも認識できるのですが、それ以上に音の響き自体が心地よく、自分も音楽のなかを漂っているような気分になります。

 2曲目「She’s So Lovely」は、ミニマルなドラムのリズムと、アンサンブルの隙間を埋め尽くす、種々のエレクトリックな持続音が心地よい1曲。そのなかに溶け込むように、メロディーを紡ぐ耽美なボーカルは、幻想的かつサイケデリック。

 3曲目の「All Your Yeahs」は、淡々と8分音符を刻むギターとドラムの上で、ボーカルがゆったりとしたテンポで漂う1曲。ドラムとギターが一定のテンポを守り続けていて、トリップ感覚もあります。そのコントラストのためか、再生時間2:37あたりからのシンセと思われるソロが、ひときわメロディアスに感じられます。

 4曲目「One Thing」は、ギターとドラムの音がソリッドで、ビートも強く感じる1曲。ギターをフィーチャーしつつ、エレクトリックな持続音も加えて空間を満たすところは、シューゲイザーのようにも聞こえます。

 7曲目「Elegy To The Void」は、柔らかな音の波が上下に揺れる1曲。ボーカルもその波に乗るように、流れるようなメロディーを歌っています。音響とバンドのアンサンブルが、不可分なほど一体化していて、この演奏にはこのサウンドしかない、という絶妙なバランス。

 ビーチ・ハウスは、ジャンルとしてはドリーム・ポップのフォルダに入れられることが多いのですが、本作もドリーミーなサウンドで満たされたアルバムであると言えます。

 では、本作の「ドリーミーなサウンド」とは、具体的にどのような音が鳴っているのかと言えば、まず輪郭がぼやけた、非常にソフトなサウンド・プロダクションを持っています。その柔らかなサウンドによって、リズムやメロディーよりも、音響が前景化され、音楽の響きに身を委ねる気持ち良さに溢れたアルバムです。

 まさに夢の世界を漂うような音を持った作品だと思います。僕はこのアルバムに没頭すると、トリップしそうにもなりますが(笑)





The Dodos “Individ” / ザ・ドードース『インディヴィッド』


The Dodos “Individ”

ザ・ドードース (ドードーズ) 『インディヴィッド』
発売: 2015年1月25日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のバンド、The Dodosの6thアルバム。前作に引き続き、イリノイ州シャンペーンのレーベルPolyvinylよりリリース。

 1stアルバム『Beware Of The Maniacs』では、アコースティック・ギターとドラムを中心にしたフォーキーなサウンドで、ロック的な躍動感とダイナミズムを実現させたドードーズ。その後、作品を重ねるごとに、音楽性とサウンド・プロダクションの幅を広げていきました。

 前述したように初期の作品ではオーガニックな耳ざわりの生楽器を、アンサンブルの中心に据えていた彼らですが、徐々にエレキ・ギターなどの使用も増え、前作『Carrier』も、様々なサウンドを効果的に融合し、アンサンブルを作り上げていました。

 今作『Individ』も、ルーツ・ミュージックの香りも漂いつつ、オルタナティヴで現代的なサウンドを持った作品に仕上がっています。

 1曲目「Precipitation」では、イントロからエレキ・ギターの音なのか、アンビエントなサウンドが鳴り響きます。そのまま、エレクトロニカのような音像を持ったサウンドが50秒ほど続きますが、躍動感あふれるドラムが加わり、流れるような美しいメロディーを歌うボーカルが入ってくると、音楽が途端に表情豊かになります。

 歌が中心にあるポップな曲ではあるのですが、まわりでは多種多様な音が鳴っており、しかもノイズに近いジャンクなサウンドも含まれているのですが、全ての音がタペストリーのように折り重なり、不思議と心地よい音楽になっています。(もし聴いてみて「うるさい」「気持ち悪い」と感じる方がいらっしゃったら、すいません…)

 3曲目「Bubble」は、空間系のエフェクターのかかったギターと、ラフに打ちつけるようなサウンドのドラムが、お互いにかみ合うようにリズムを形成する1色。こちらも、サウンドといいリズムといい、サイケデリックな空気が漂いますが、ボーカルのメロディーをはじめ、全体としてはポップな印象。

 4曲目「Competition」は、イントロから、もつれるようなドラムのリズムが、耳に引っかかります。ギターのサウンドにもローファイ感がありますが、聴いているうちに最初は違和感だったものが、音楽のフックへと転化していくのがわかる1曲。

 9曲目「Pattern / Shadow」は、7分を超える大曲。イントロから、毛羽立ったように歪んだサウンドをはじめ、複数の音色の異なるギターが交じり合い、複雑なアンサンブルを構成します。単純に静寂と轟音、ヴァースとコーラスを循環するのではなく、次々に展開のある曲です。再生時間3:25あたりから雰囲気が一変するので、これより前が「Pattern」、これ以降が「Shadow」ということなのでしょう。

 前述したように、初期ドードーズの特徴のひとつは、アコースティック楽器を用いながら、圧倒的な躍動感を響かせていたところですが、今作ではサウンドの実験性が格段に増しています。しかし、彼らの美しいメロディーとコーラス・ワーク、グルーヴ感あふれるアンサンブルも健在。

 また、実験的で違和感を覚えるようなサウンドやアレンジを使いながらも、それらを音楽的なフックに転化し、ポップ・ミュージックに仕立てるセンスにも、舌を巻きます。

 個人的には1stアルバム時の、カントリー色の強いサウンドなのに演奏はパワフル、というのも好きですが、今作も非常に好きなアルバムです。